チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい?   作:茶鹿秀太

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最近コーン茶にハマってます。いいよねコーン茶。



【神話生物】事件 後編 下

side 須藤与一

 

 

境界斬りの攻略方法がない。

 

全てを切断するあの悪夢のような技を攻略しなければ、何も始まらない。

 

「ひとみ! どうだ!」

 

「『過分に呪詛は吸い取っているはずですわ旦那様! ですが、今のところ何も変化はありません! 流石と言わざるを得ません』」

 

俺と距離をとりながら、骸骨の行進を何度も行い呪詛を流し込んでいるひとみ。餓者髑髏にダメージが入る以上、深追いはしていなかった。

 

「いろは!」

 

「幻覚は効いています。でも、あの技が裏世界まで効くなら不用意な幻覚は犠牲者が……」

 

「ちっ」

 

いろはは声だけが聞こえる。

 

俺は一切その姿を視界に入れていない。だが、なんとなく場所は分かっていた。

 

「……銀子さんは?」

 

「『急にテンション下がるのやめてください!!! 私はとても喜びに満ちています!!! ただ、私からは……。嫌がらせはできても命には届かないでしょう。痛覚共有も通信も、結界斬りによって断ち切られました。ここからはお互い消耗戦。崩れた方が負け。不利はこちらです』」

 

「? なんでだ? 数は有利だろ?」

 

「『だって、与一様が死んだら私たちが崩れる。私たちが死んだら、与一様が崩れる。一人も欠けてはいけません。対して向こうは不定形。疲労とは無縁の可能性がありましょう』」

 

「えっぐ」

 

銀子さん。仕事は出来るんだよな……。

 

でも確かに、誰か一人が崩れたら俺たちは絶対に崩れる自信がある。

 

……ちっ。殺されてたまるかよ。

 

宙を飛び交う銀子さんを尻目に、俺はぬらりひょんを観察する。

 

刀を振る。

 

骨が飛び散る。

 

刀を振る。

 

五行の術が吹き飛ばされる。

 

……その繰り返しだ。

 

鞭のようにしなる腕は、リーチを完全に誤認してしまう。

 

人に不可能な体勢からですら刀が振られる。

 

ただの剣道技では、攻略不可能だ。

 

「勝てる、勝てるぞ、貴様ら全員、技に追い付かないのぅ!!! さらばだ式神ども! さらばだ、須藤与一!!! これで終わーーー」

 

ぶしゃり、と血が噴き出る。

 

それは黒く、腐臭にみちた液体だった。

 

「何ーーーーーッ」

 

ぬらりひょんの肩に、斬り傷ができている。

 

「なんだ、今何を……須藤与一、いや違う、いや、なんだ、なにをされ」

 

ぶしゃり、再び足元から血が噴き出る。

 

「な、なんだとぉ!?!?!?」

 

「好機!!!」

 

俺は一気に駆け上がって思いっきり刀を振った。

 

「!? くっ、殺ァアアアアアアアアア!!!」

 

響き渡る金属音。

 

鍔迫り合いによる火花を散らしながら、再びぬらりひょんに斬り傷が増える。

 

「ちっ、なんの策だ此れは……儂を斬っているのは、なんだ!?」

 

「俺が知ったこっちゃねぇ! お前の古傷でも開いてるんじゃねぇか!!」

 

「そんなわけがッ!! ……。…………、まさかッ!!!!」

 

ぬらりひょんが突然後方に飛び上がる。

 

その瞬間、ぬらりひょんが今まで居た地面に長い切れ込みが作られた。

 

……この、傷のリーチ。日本刀のものではない。

 

「……、薙刀?」

 

ぞっとした。

 

まさか。

 

そんなことがあるのか?

 

まさか、嘘だろ???

 

幼馴染ちゃんが、やってるのか……?

 

裏世界から表世界へ斬っていたぬらりひょん。

 

その、逆を……、今、幼馴染ちゃんがやっている?

 

「あ、あり得ない……、見えてないはず。なのに、どうして……」

 

「まさか、表の世界から斬撃を飛ばしているのか!? 一体どうや、……、いや、待て……、違うのか? ニャルラトホテプ様は仰った。天才どもに多くの技を見せるなと。容易に真似されてしまうからと。まさか、儂の……儂の境界斬りは、表世界に干渉していた? それを、斬撃痕だけ見て……真似られたのか……?」

 

「っ」

 

こ、こいつ。自覚無かったのか!?

 

「そうかっ、表世界のこやつは……裏世界からの斬撃を受けて、儂の動きを読み取り攻撃を当てているというのか!!!!?」

 

ぬらりひょんが叫ぶ。そうか、幼馴染ちゃんはなんらかの方法で裏世界の攻撃を受けて、読み取ったのか。敵の情報を、その動きを!

 

ぬらりひょんが息を飲む。

 

「っ、なるほどのう……不用意に境界斬りを連発するとこのような不可思議な状況も発生するのか。これができそうな人間は一人だろうに……蘆屋の娘子、本物の天才かっ!!!!!」

 

ぬらりひょんが再度境界斬りを乱発する。

 

それは、俺たち全員を狙ったものだった。

 

直後、”俺に向けられた”境界斬りの斬撃が、打ち消される。

 

「『なっ!? ちぃ!!!』」

 

「『露骨すぎますっ!!?』」

 

ひとみと銀子さんは各自で回避行動を行う。

 

ーーまさか。俺の動きも把握してるのか?

 

それこそ無理だ……。

 

俺は、表世界へ影響の出ることなんて一つもしていない!!?

 

なのに、なんで……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「わかるよー。与一くん」

 

蘆屋が笑う。

 

ステージ上に一人きり、切り刻まれていく会場の中で、微笑んでいた。

 

「だって、私与一くんの幼馴染なんだもん。目を瞑ってたって分かるよー。今どこにいて、どんな姿勢で構えてて、どんな顔をしていて、今何歩動いて、今何回呼吸して、今何を考えて、何をしようとしているのか、全部わかるよ。大丈夫、大丈夫だよ与一くん」

 

その微笑みは、神があまねく光を照らさんとしているような神々しさがあった。

 

「私が助けるからねー。終わったら一緒に、デートしようね」

 

それは、見えない須藤与一と背中合わせをしている立ち姿。

 

裏世界で立ちすくむ彼を守る為に、背中は、彼女が守らんと力を込めて。

 

そして、再び薙刀を振りぬこうとして。

 

「--与一くん?」

 

少し怯えたように、見えない男の顔を窺った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

何故か。

 

俺は。

 

心にささくれのようなものが出来ていた。

 

いや、違う。

 

俺は、苛立っていた。

 

なんだそれ。

 

いや、そうだろうな。

 

蘆屋緋恋なら、それができるんだ。

 

できるんだから、対処もできる。

 

はは、ははは。

 

ふざけるな。

 

ふざけるなよ。

 

何勝手に混ざって戦おうとしてんだよ。

 

何勝手に、俺たちの戦いにちょっかいかけて勝とうとしてるんだよ。

 

分かってる。

 

合理的に考えるなら勝てる最善を尽くした方がいいのは分かってる。

 

だが、なんだ。

 

嫌だ。

 

全てが気に食わない。

 

ーーなんだろうな。

 

ぬらりひょんを見た。

 

こいつは、強いなぁ。

 

でも、ただ強いだけじゃない。

 

滅茶苦茶、剣を振ってきたんだろうなぁ。

 

分かるよ。お前多分弱かったんだろ。

 

だってその剣、努力の剣だ。

 

人間の技を真剣に学んで、自分の体に合わせて今生き生きと動いてる。

 

ーー【獅子王】が震える。

 

ごめんな。俺が使いこなせなくて。

 

あぁ、コンプレックスが止まらない。

 

そうか。

 

ぬらりひょん。

 

俺お前のこと好きかもしれない。

 

俺みたいにさ、途中で陰陽師の世界から抜けちまって戦うことをやめた人間と違う。

 

剣に一途に、お前なりに挑んだんだろう。

 

だから、俺は俺の戦いで、【陰陽師】として答えたかったんだろうな。

 

そうだ。

 

ついでに思い出した。

 

そうだよな。

 

俺の目的。すっかり忘れてたわ。

 

ニャルラトホテプのせいだ。

 

俺が本当にやりたかったこと、あるんだよ。

 

 

 

 

ーーそれは。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

回想

 

 

「俺さ」

 

「はい」

 

俺は、【陰陽王子】に背を向けて、彼女の眼を見た。

 

とても、綺麗だった。

 

「陰陽師になりたかった」

 

「……」

 

「才能は無かった。最初の願いは、こんな妖怪とか怪異とかがありふれた世界で、死にたくなかっただけなんだ。……でも、頑張ってみたかった。諦めきれずに刀を振ってはいた。……中学卒業して、普通の学校に行くことになった。もう、陰陽師になるなと言われた。言われたんだよ。……俺さぁ、良いのか悪いのか分かんなかった。あぁ、やっと夢に踏ん切りがつけれるとも思った。幼馴染ちゃんは抗議してくれたけど、なんかさ、もういいんじゃないかってなった。なったんだよ」

 

「はい」

 

「……才能無いって、分かってるくせにさぁ。こういう舞台に立つと、一瞬でも思っちまうんだよ。【俺に、チートが目覚める時がくるんじゃないか】って! 自分が特別な存在な気がして、たった、たった1秒でも天才を上回るような飛び級の才能があるような気がしてっ、だから、だから余計つらいんだよな! そんなことないって分かってんのに!」

 

「……はい」

 

「ーーお前らと出会って。お前らと戦って。お前らと……一緒に過ごしてさ。もしかしたらって、なんか、一個だけ、本当に一個だけ……お前らと叶えたい欲望が、一個だけあったんだ」

 

「……その欲望とは?」

 

「……」

 

ずっと。

 

ずっと、追いかけられ回されて。

 

馬鹿にされたこともあって。

 

でも、それが嫌で。

 

だから。

 

ーーこの瞬間だけでも、俺から、追いかけたかった。

 

「幼馴染ちゃんを、一度でいいからボコボコにしたい……」

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、そうか。

 

俺、ずっと負けっぱなしだったの、悔しかったんだ。

 

だから、トーナメント出てもいいみたいな気持ちになったのか。

 

だから、一方的に終わった陰陽師の道に戻すような訓練も、やってみようと思ったのか。

 

そっか。

 

俺、やっぱ負けたくないんだ。

 

ずっと近くにいた、幼馴染。

 

天才で、誰も勝てない、すごいやつと俺は仲が良かった。

 

だけど、悔しかったんだ。

 

俺、……悔しかったんだな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……【獅子王】」

 

刀を強く握りしめる。

 

その力に、刀も振るえるように答えた気がした。

 

「ひとみ、いろは、銀子さん」

 

俺は、(背中になにかいるようなものをかき消すように)刀を振った。

 

「頼む。俺を、勝たせてくれ。陰陽師として、ぬらりひょんに、--あの、天才にっ!!! 俺も、プライドを捨てるぞッ!!! ぬらりひょんッ!!!!」

 

捨ててやる。

 

そして全部ぶっ倒してやる。

 

なにがぬらりひょんだ。なにが蘆屋緋恋だ。

 

それを越えられるのなら。

 

今までの刀の振り方を、全部捨ててやる。

 

分かっていた。

 

分かっていたんだ。

 

今のままでは勝てないんだ。

 

全部使うんだ。

 

俺が嫌がってるものも、俺が本当にしたいと願っていることも。

 

全部全部、今、この瞬間の為にーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

その構えは、今までのような正中線に構える刀の持ち方ではなかった。

 

だらりと、刀を持って、手を下げている。

 

刀の鞘と、【獅子王】を両手に握る。

 

ーーその構えは、まるで。

 

かつて見た、日本画のような。

 

 

 

 

ぬらりひょんが、呟いた。

 

「----むさし?」

 

 

 

 

 

どしん、と地が揺れた。

 

俺の足から地面が揺れた。

 

あぁ、全部他人事だ。

 

合理性を、術理を、全部捨てる。

 

「!? なんっ」

 

ぬらりひょんの刀が目の前に来る。

 

俺の一歩は、気付けばかなりの距離を飛ばしてくれていて。

 

ぬらりひょんの懐に入っていた。

 

そうだよ。あの技は、食らってるんだから、憶えてる。

 

「----永弓」

 

「馬鹿なッ!?!!??!」

 

ぬらりひょんの刀を、鞘で弾き。

 

「永弓・二連(ボン・アヴァン・ツヴァイ)」

 

【獅子王】が、ぬらりひょんの体を袈裟に斬った。

 

ぬらりひょんが必死に体を引く。

 

あぁ。あぁ。

 

長かった。

 

ようやく、薄皮一枚斬ってやったぞ。

 

「なんだその動き、まるで……、まるでッ」

 

「『よそ見厳禁ですわ』」

 

「っ!?」

 

骸がぬらりひょんの体にまとわりつく。

 

「ッ、なぁめるなぁよぉ、ガキども!!!!」

 

白骨が吹き飛ばされる。

 

俺は鞘と刀を握り、下から上に振り翳す。

 

ぬらりひょんも反応して、防ごうと刀を振るう。

 

そのまま。

 

俺は。

 

”鞘と刀を宙に投げた”。

 

「--は?」

 

「我が肉体は爆発する」

 

徒手に気力を込めて、胸元に手を添える。

 

「【零断ち】」

 

「ぎゃっ!??!?!?!」

 

不定形の体があらわになるほど、体が波を打つ。

 

吹き飛ぶぬらりひょん。

 

「『夜長の暇、鈴虫の鳴動、夏の殺意の余韻が玉響に。』

 

 『第72幕、乙女心中』」

 

月下美人が、揺れていく。

 

「『水面に反響、月に鐘』」

 

ぬらりひょんが、突然逆再生のように元の場所に戻り、再び【零断ち】を食らったように吹っ飛んだ。

 

受けた痛みの再現が、「水面に反響、月に鐘」の能力だ。

 

ぬらりひょんはこれで二度【零断ち】のダメージを受けた。

 

「ガッ、ぁ、ぁあ!? なん、その、わz、ご、が、ぁあああ!?」

 

「ぬらりひょん」

 

俺は宙から落ちてきた鞘と刀を手に取る。

 

「笑ってくれよ。俺は、本当に愚かなやつなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それは。

 

準決勝前日のことだった。

 

「須藤与一さん。おそらくなんですが、小さいとき、例えば中学生くらいから剣が弱くなってませんか?」

 

「えっ」

 

【寺生まれのG】東 呉十郎が真剣な表情で、俺に語り掛けた。

 

「なん、その。いや……」

 

「……」

 

「ぁ、あぁ。そう、だな。いや、でもそれは、周りが上手くなって……」

 

「なるほど! 与一さん。貴方はどうも認識が歪んでいるようです!」

 

「えっ」

 

デリカシーがない発言だと思ったが、東は本気で俺の事を思って指導してくれていたらしい。

 

「はっきり言いましょう。おそらくこれからも剣は弱くなるでしょう! 周囲は気付かない弱点です。ですが、僕が教えれば戦闘力は跳ね上がる。それだけは断言しておきましょう!」

 

「なっ、なん、え? ど、どういうこった?」

 

「その為に与一さん。僕と徒手にて組手を行いましょう!」

 

「え、剣とはそれは関係なーー」

 

「破ッ!!!!」

 

不意を衝かれた一撃。必死に躱して怒鳴り散らした。

 

「おい、何すんだ!!!!」

 

「もうわかったんじゃないですか?」

 

「……え?」

 

「なるほど。では木刀を持ってください」

 

「……?」

 

「破ッ!!!!」

 

再び素早い拳が飛んできた。

 

俺は木刀で捌こうとして……。

 

「痛っ!?」

 

普通に、殴られた。

 

「いぃいっ、痛ぁ……、なに、すんだ……親父にもぶん殴られたことな、あるわごめん……」

 

「与一さん。なぜ貴方がフィジカルギフテッドであるのに弱いのか。それは、刀が原因です。いえ、今まで学んできた剣術が原因です!」

 

「--、え?」

 

「理由はなんとなく分かりました。おそらく蘆屋緋恋さんです。天才を倒すために努力を重ねたと思います。ですが、適切な練習相手にならなかったんです。貴方の動きは逃げ腰で、強すぎる相手と戦い続けた人間の動き。勝ち癖がない。そのくせ、剣に対するこだわりが強すぎます。体で避ければいい攻撃も、剣でなんとかしたいという欲望が強い。それをやめるだけで、貴方はもっと強くなるのに」

 

「……」

 

「剣術には型があります。型が無ければ型無しになる。なので型を学び、守り、破り、離れる。それが理想です。ですが、貴方は不安から破れない。初心者のミスです。脳みそが「その動きはこの場面の正解だが正しい動きではないからやらない」と拒否して、体が「もっとこんな動きができるのに、刀でなんとかしないといけないから」と余計なノイズが入って反応も動きもワンテンポ遅れているんです。試合形式の練習や実践で「自らの体に合わせた剣術」に変わっていくはずですが、……それができていないんです。蘆屋緋恋さんのような強敵ばかり相手にしているとそうなります」

 

「な、なん」

 

「おそらくですが、純粋に何も考えず剣を振っていた、7歳くらいが一番強かったのではないでしょうか。大人になってくる過程で、知識や知恵が貴方の邪魔になっていたような気がします」

 

「……」

 

確かに。

 

そんな、気がしてきた。

 

俺はいつも、幼馴染ちゃんと練習していた。

 

でもそれは、いつも追い掛け回されて、鬼ごっこみたいになって。

 

その、剣術が。

 

俺の成長の妨げになっていた……?

 

で、でも。

 

でもさ!!

 

俺の剣術は……。

 

原作主人公の、最強の……剣を真似して……。

 

「その剣技は貴方の為の技ではないです。体に身をゆだねてください。体が望む動きをしましょう。今まで刀を振ってきた基礎力が高いならば、剣術は補助してくれる道具。刀を使うのではなく、体の一部として刀を振るってください。さぁ! それでは実戦です! 本気で行くので頑張ってください!」

 

俺は。

 

ーー俺は。

 

剣術を振るえば、ボコボコにされて。

 

体に身をゆだねて剣を振ったら……。

 

「……お見事です」

 

東にも、勝てるようになってきた。

 

 

 

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こだわっていたのだ。

 

原作主人公への憧れ。

 

あんな風になりたいという思い。

 

ーー転生者だからこそ、原作のゲームがあるからこそ、あんな風に強く在りたいという、願い。

 

あるよな。

 

原作主人公の隣で戦いたいとか。

 

そいつよりも上に立って立ちふさがる壁になりたいとか。

 

ーーあぁ、すごいなぁ。

 

強いなぁ。かっこいいなぁ。

 

あの剣を、あの剣が振れたなら……。

 

陰陽師の才能が、少しでもあったらなぁ。

 

ずっとそう思ってた。

 

でも、残念だけど。

 

俺にその才能は、無かったらしい。

 

体に委ねる。

 

今まで見て、感じて、味わった技も、今の俺なら雑に再現できる。

 

ーーさようなら、【最強】の剣。

 

ここから先は、

 

俺の剣だ。

 

「--それだ」

 

ぬらりひょんが悦に浸る。

 

「それだ、その剣だ。その剣だッ!!!!!! 儂が強く脳に焼き付いて焦がれた、恐ろしい剣はッ!!! その剣を見て儂も狂ったッ!!!!! あのように自由に動けたらと、儂にアイデアを振らせた!!!! ーーその剣を、見たかったぞッ!!! 須藤与一ぃいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

「ぬらりひょおおおおおおおおおんッ!!!!!!」

 

 

ぬらりひょんが境界斬りを俺に放つ。

 

俺は自然と膝を曲げ、跳躍する。

 

地面と平行になる体。

 

数回回転しながら、刀がぬらりひょんに向かっていく。

 

しかし切り返すように、二度目の境界斬りが俺を襲う。

 

「ーー燕返しッ!!!!」

 

ぬらりひょんがそのまま剣を五芒星を描くように振る。

 

「5連ッ!!!!」

 

地面にたどり着けない。だが、それでもいい、

 

剣の鞘を、地面に立てるように突き出して、それを軸に片手で逆立ちになり、鞘と握る手を、膝のように折り曲げて全て躱す。

 

その境界斬りに反応したように、地面が再び傷ついていく。

 

幼馴染ちゃんだ。

 

ーーだが、理由は分からないが。

 

俺も、斬られた。

 

なるほど。あいつはきっと、ぬらりひょんの剣をイメージして俺がどう動いてるか予想しているんだ。

 

つまり、斬られたということは。

 

今俺は、幼馴染の予想を超えた動きをしているという証拠。

 

滾る。

 

血が、滾る。

 

目が、視界が徐々に加速していく。

 

息が、乱れる。

 

幼馴染ちゃんに鼻先を斬られた。

 

ぬらりひょんに腕を裂かれた。

 

ごめん幼馴染ちゃん。

 

おそらくぬらりひょんを斬ってるつもりなんだろうな。

 

俺のレベルが上がれば上がるほど、ぬらりひょんに斬ったつもりの斬撃が俺に当たっていく。

 

味方じゃない。

 

敵か、ステージギミック。

 

ぬらりひょんにやられるか、幼馴染ちゃんにやられるか。

 

どちらも違えど神の使い。

 

超える。

 

何でもいい。

 

僅か一歩でも前に出るだけでもいい。

 

何か一つでも優れたところをぶつければいい。

 

ーー限界を超えろ。一瞬で良い。

 

あの剣豪と天才を、みんなと一緒に超えてやるッ!!!!

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

陰陽の術の才能がなかった。

 

周りには天才がいた。

 

気合と根性でついていって、それでも道は閉ざされた。

 

「『旦那様ッ』」

 

ひとみの声が聴こえる。

 

あぁ、彼女のお陰で、俺の道は再び陰陽師に戻ることができた。

 

ありがとう。

 

「与一さん!」

 

いろはの声が聴こえる。

 

彼女のお陰で、俺は家族が増えた。

 

ありがとう。

 

「『与一様!!!』」

 

銀子さんの声が聴こえる。

 

ーーきっと、直接は言わなかったけど。

 

へへ、初恋だったんだぜ。きっと。

 

 

 

 

 

 

なぁ。ぬらりひょん。

 

お前ならどうする?

 

俺は、チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい?

 

お前なら、どうするんだ?

 

俺は天才じゃない。チートも無ければ負けばかり。

 

そんな俺が、こんな世界で生きるには。

 

どうすればいい?

 

分かってる。

 

お前は答えない。

 

ーーその剣が、お前の答えなんだから。

 

幼馴染ちゃんの薙刀の斬撃が、飛ぶ。

 

俺は、なんだろう。

 

その斬撃が、なんでだろうか。少しずつ。

 

視えるようになってきた。

 

「ふざけろ……須藤与一ッ!!」

 

怒りに震える、ぬらりひょん。

 

「まだ完全に剣で攻めようとしていないッ!!! 何故だ!!! ……儂では、足らぬと申すか!!!」

 

「……」

 

すげぇな。お前は。

 

分かってたのか。

 

「悪いなぬらりひょん。これは剣豪vs剣豪じゃない。剣豪vs陰陽師なんだ。俺は、バカみたいで、あほくさくて、どうでもいいようなハッピーエンド狙いなんだよッ!!!!!」

 

「ぬかせ!!! 何がハッピーエンドだ!!! そんなもの、斬って捨てて」

 

 

ぼとり、と。

 

ぬらりひょんの右腕が液状化して落ちた。

 

「--やっと、罹った」

 

長かった。

 

ようやく、待ちわびた瞬間が来た。

 

「これは、一体……」

 

「『素晴らしいです。後でほめてあげましょう、いろは』」

 

ひとみが、骨で出来た白無垢を身にまといながら、妖艶に笑った。

 

「なにが、く、これは……、何をした?」

 

「『教えて差し上げましょう。私の力』」

 

【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】。

 

それが彼女の能力である。

 

その能力は、餓者髑髏を中心に、彼岸が咲き誇る丘が形成され、その周囲を、呪力で構成された液体を流し続けること。

 

液体は怨念がこめられ、触れるもの皆殺す毒になる。

 

そう。

 

ここに丘は見えない。

 

彼岸花が、ただ咲くばかり。

 

それはあり得ないことだった。

 

彼岸花を踏みつぶせば呪詛が振りまかれる。

 

ここら一帯がすべて、呪詛まみれになるはずだった。

 

「だから幻覚の力をフル活用しました。もうここは異界です。」

 

いろはの笑い声が響く。

 

銀子が、俺の隣に立つ。

 

「『見るがいいぬらりひょん。ここら一帯は、花の丘である』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬらりひょんの目が覚めた。

 

別に寝ていたわけではない。

 

ただ永遠に、意識をそらされ続けたのだ。

 

対等な戦場だったはずだ。

 

平らでお互いに同じ条件の、ステージ上だったはずだ。

 

今、ここは。

 

ステージ上から裏世界の現実を塗り替えた異界。

 

「『【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】。及び』」

 

空には穴が開き、赤くおぞまじい液体が、会場内に零れ続ける。

 

丘の上に立つぬらりひょんの足元は、彼岸花にまみれており、今ようやく痛みに気が付いた。

 

死穢れが、ショゴスという肉体を遂に満たしたのだ。

 

ーー神話生物の狂気を、超える呪いを。

 

「だ、だが。儂は……神話生物。並の呪詛では、わが身は侵されることすら」

 

「『及びと言ったではありませんか』」

 

ひとみが視線を向ける。

 

そこに立つのは、巫女服を纏う金色の耳と九の尾を揺らす女。

 

彼岸花に紛れるように、或いは塗りつぶすように、月下美人が咲き誇る。

 

それはどこか、お互いの花の自己主張の戦争のようだった。

 

どちらも美しいが、主張しすぎて下品なまでに。

 

「『ご覧くださいまし。こちらが私の能力。【禊精霊蝶よ花よ勺惚ゆらり】。与一様と咲かせた月下美人の花は、とても私向きの力でございました。私の戦闘能力は、五行の術の全て。禁術。自らの半生を具現化させ独自のルールで押し付ける傾国御伽噺。それらすべてーーーー、無限に、無制限に、デメリットを全て消し、敵の耐性を無効にさせながら押し付けることができる能力です。特に気に入っているのは……、はい。相手が無条件で全てを受け入れてくれる、愛の呪い。貴方も無残に受け入れてしまっていたんですよ、ぬらりひょん』」

 

「----」

 

ぬらりひょんの口から無茶苦茶だ、という言葉が出かかったような印象を受ける。

 

「俺たちが考えた作戦はこうだ。プランAは銀子なしパターン。幻覚の俺と戦わせて永遠に呪詛の嵌め技で倒すこと。プランBは銀子ありパターン。俺が真正面で戦いおとりになってる間に、ひとみが呪詛を展開。銀子さんが敵の耐性をゼロにする。しかしそれには条件があった。いろはだ」

 

いろはの姿は、見えることはない。

 

「いろはの幻覚の力は、人間には有効だが妖怪には耐性がある。特に呪力が同等の存在には効きづらい。お前は効きづらく、なおかつ銀子さんの能力で効いていても、……呪詛が溜まったことや、異界について見破ってくる。だから違和感を感じさせないように、近くで、違和感の芽を幻覚で全て潰す戦法をしなくちゃいけなかった。しかも、俺も同じ幻覚を見てるからな。お前が俺にこだわってるってネタバレ見たからな。俺と同じものを見ていれば、幻覚の違和感は消える。条件はフェアに、死ぬ可能性は全然あった。だが俺以上にいろはは、命を懸けていた」

 

なにせ、いろははずっと俺の後ろにいたんだから。

 

「……、お主の、動きが100%の攻めに転じなかったのは……」

 

「あぁ。そうだ。俺はずっと守る戦いをしてたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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準決勝前夜。

 

【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人が見たものは、倒れている東と、息を乱しながら水を飲む須藤与一、冷やし濡らしたタオルを差し出す銀子だった。

 

「おう、悪い。1時間で教えるって話だったんだが熱入ったっぽいか? 今何時? 遅くなった?」

 

「……。いえ。まだ55分と記憶しています。いや、もう業務ではないか。砕けた口調でもいいか?」

 

「お? いいぜ」

 

常盤が月を見上げる。今日は一段と綺麗な月だった。

 

常盤 夢人が出したのは特殊警棒。

 

これが彼の武器だ。

 

「それが武器?」

 

「いや。これ以外も使う。俺の本懐は警備だ。要人も民衆も守る為に手段は多ければ多いほどいい」

 

「警備かぁ。すげーよな。若いのにもう働いてて」

 

「……。俺はむしろ君に敬意を覚えている。無才ながらこの舞台で結果を残している。それは、とてつもないものの積み重ねだろう。俺からは一つ、提案したい戦い方がある。聞いてくれないか?」

 

「それも、あれか? 安倍怜音が命令した奴か?」

 

「必死だった。だから乗った。……むしろ、知っていたのか?」

 

「あぁ。実は……」

 

与一は、なんとなくこの男は信用できると思い、全てを伝えた。

 

ニャルラトホテプについて。

 

俺が情報得る為に、行ったことについて。

 

「君は……。バカなのか? そこまでする必要は、あったのか?」

 

「いや、でも結構いい手だったと思うんだよ。実際これで情報めっちゃ集まったしさ」

 

「……自分を未来に奉げ過ぎだ。須藤与一。俺たちは恩を返したい。体を張って未来を作ったお前に報いよう。何か一つでも、お前に与えたい。須藤いろはを呼んではくれまいか」

 

 

 

 

 

 

「護衛?」

 

いろはの素っ頓狂な声を肯定するように常盤はうなずいた。

 

「うむ。須藤与一の後ろでちょろちょろしすぎている動きが試合で良く見られていた。おそらく動きについてリハーサルが済んでいないのだろう。あの場に立っているということは役割があるということは察して余りある。なので、須藤与一を護衛、須藤いろはを要人と仮定し、要人警護の戦闘スタイルを意識するのがいいと考える。守る、守られるというのは技術だ。これで戦闘の幅は大きく変わると考える」

 

「でもよぉ、それだと俺が積極的に動けないんじゃ」

 

須藤与一の言葉に、常盤は首を横に振った。

 

「単独行動は、各個撃破の的だ。俺なら積極的に浮いた駒を狙う。だから、守れ。彼女を守る意識があることで、冷静さを手に入れられる。常に戦場全体を見渡し、合理的に今何をすべきかが明確になる。最善に立てばたつほど、戦闘に夢中になる。だが個人戦で勝てても作戦が失敗することは多々ある。そして式神使いの君ならば、式神と自分の役割を明確にすることで、誰がどう動くか頭に入っていることで、誰よりも自由に戦える。そんなスタイルだが、学ぶ価値はあるだろうか?」

 

須藤与一と須藤いろははお互いに顔を見合わせて。

 

「やろう!」

「やりましょう!」

 

大きな声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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蘆屋緋恋が違和感に気が付いたのは、ついさっきだった。

 

ぬらりひょんの剣戟のパターンが変わってきているのだ。

 

さっきまでの試合は理解できる。

 

ぬらりひょんが何度も裏世界から斬撃を飛ばしてきた。

 

だからこそ位置も特定できたし、須藤与一の行動パターンが読めた。

 

だが、徐々に。

 

理解のできない、目的のある攻撃が増えた。

 

まるで追い詰められた獣のような攻撃だった。

 

追い詰めている人間がいる。

 

小笠原ひとみ?

 

いや、彼女の行動パターンではない。

 

銀子?

 

いや、ならばもっと荒々しい。

 

……須藤、与一?

 

一度、見に回る。

 

すると、ぬらりひょんの攻撃から見える須藤与一が、明らかに……。

 

常軌を逸した攻撃パターンに、変化してきている。

 

「----うそ、そんな攻撃、……できるんだ?」

 

蘆屋緋恋の力が、大地を震わせ、大気を軋ませる。

 

「あ、あは。あははー、あははははー、うそ、信じられない、私が本気出してるのに、それを……上回った行動してる。ごめんね与一くん、多分何回か斬っちゃったよね。あとで謝るね。でも、でも与一くん」

 

涙が、零れる。

 

蘆屋緋恋の、涙が。

 

「やっぱり与一くんしかいないんだよ。私は、見ただけで相手の力が大体わかっちゃう。戦いの予想も大体ついちゃう。こうすればケガさせないとか分かる。油断しなければ、誰にも負けない。でも、でもね? 私が本気で挑んでも、その想像を上回ってくれるのは、与一くんだけなんだ。与一くんだけが、まるで未来が全部決まっているような錯覚を、私の運命を少しでも変えてくれる予感をさせてくれる。すごい、すごいよ与一くん。ありがとう、ありがとうーーーでもね」

 

再び、蘆屋緋恋が宙を斬った。

 

「--私から逃げようとしてるよね。だめ、絶対逃がさない。私の、与一くん。逃げないで。ずっと隣にいて。これ以上は私の想像を超えないで。遠くに行かないで。だから……。先に、私がぬらりひょんを斬るね」

 

薙刀を突き出す。

 

これで、おそらく終わるはずだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がきんっ。

 

 

 

 

「えっ」

 

蘆屋緋恋の攻撃が、何故か、弾かれたような感覚。

 

「うそ。”どっち”?」

 

ぬらりひょんか、須藤与一か。

 

どちらかが、薙刀を弾いた。

 

 

 

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「ごふっ、ごふっ……。不思議じゃのう。須藤与一……。」

 

「……」

 

なんだと。

 

ぬらりひょんのやつ。

 

急に剣を振ったかと思えば、金属音が鳴った。

 

まさか、そんな。

 

俺も見るのが精いっぱいな、幼馴染ちゃんの攻撃を……。

 

弾いたのか?

 

至ったのか。武の高みに。

 

「はぁ……はぁ……。死にかけで、ようやく……至るのは……。がはっ……。むなしい、のぉ。……命は、残すところ10分といったところか。くっ、くくっ、短い、人生じゃったのぅ。剣に捧げた人生で。これで、終わりか。思えば、……あぁ、あの老人も、戦い敗れ、敵の弟子が……殺したか。運命か。同じような、状況だ……」

 

「……」

 

「じゃが、まだ動けそうじゃな。ならば。であるなばっ!!!!!」

 

 

ぬらりひょんは。

 

 

 

仕込み刀を。

 

 

 

 

飲み込んだ。

 

 

 

「!?」

 

理解のできない行動。

 

やってることはテレビで見かけるマジシャンみたいなもんだ。

 

喉にまで剣が入っていく。

 

いや、なんだ。

 

捕食している、のか?

 

「が、ん、ぐふ、……。ふぅ。……これで、儂の体に、核が埋め込まれた」

 

「……」

 

「なぁに、安心せよ。儂は……貴様らの策で死ぬ。無様に死ぬのだ。……じゃが、じゃがのう。儂は、この命10分もいらぬ。さぁ、核は我が身にあるぞ。儂の核を砕けば、殺せるようになった。あの時と同じように。そうじゃろう? 狐、須藤与一」

 

 

あの日、俺が木刀で砕いたような、あの感触。

 

やけに鮮明に、思い出してきた。

 

 

「儂は、ニセモノの人生を歩んだ。佐々木小次郎という老人は、おそらく佐々木小次郎という名前ではないそうだ。後世の人間が作った名前という。その姿を真似て、ニセモノの名前を呼び、しまいにはぬらりひょんという違う存在としてあの牢に入り続けた。別に牢に入るつもりはなかった。ニャルラトホテプ様が、入り続けろという指令を出さなければ逃げていた。無様に、生きてきた。だが、ーーーーー」

 

一歩、ぬらりひょんが進む。

 

「此度の闘争、誠に、幸せじゃった」

 

「……ぬらりひょん」

 

「じゃから、最後じゃ」

 

「最後?」

 

「あぁ。すまんな、式神の嬢ちゃんたちも。だが、最後まで、付き合ってもらうぞ。儂は今から、この姿すら捨てる」

 

「!?」

 

「ぬらりひょんという姿はもう、使えそうにない。故にショゴスとして貴様らに挑む。激しく動けば、1分で死ぬじゃろう。だが、1分でいい。この1分で、儂はーー、本物として」

 

「……分かった」

 

俺は刀を構える。

 

「なぁぬらりひょん。本名はあんのか? その名前、覚えておく」

 

「--てけり・り」

 

「? てけり・り?」

 

「はは。分からんよなぁ。人間には。……人間には、発音できん。聞き取れもせん。じゃから、名前は不要。姿かたちも覚えずともよい」

 

 

 

 

 

 

右手が、刃になっていく。

 

体が、黒くどろどろとした不定形になっていく。

 

伸びた触手全てが、刀になっていく。

 

「一つだけ、須藤与一。憶えてほしいことがある」

 

「……、なんだよ」

 

全身が、既にスライムのようになり。

 

顔だけが、頭の長い老人の顔をしていた。

 

どこか、蛸のような見た目だった。

 

しかし。その目は既に、殺意は無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「境界斬りで、とどめを刺せ」

 

「!? な、なにを!!!!?」

 

「儂の技じゃ。これしか知らん。じゃから、憶えておくれ。この一分で。良いじゃろ別に。……境界斬りくらい、真似てくれ。そして儂の屍を超えていけ。儂を殺した……【陰陽師】須藤与一」

 

 

 

その言葉は、とても重かった。

 

 

 

 

 

 

 

「--、……。っ……。……、……。っ、ふぅ……。分かった。一分だな」

 

「--それでこそ、我が好敵手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、俺の名前は須藤与一っ!!!!! そして式神には、小笠原ひとみ、須藤いろは、銀子!!!! 陰陽師として、一人の剣豪に勝負を挑む!!」

 

「良いだろう須藤与一!!! 儂は巌流島より産まれ、名前もなく、親もなく、友もなく、島に流れ着いた剣客に焦がれ、剣を振るった名無しのショゴス!!!!! 生命幾ばくもなく、何の証も残せぬ流浪の剣!!!! されどこの一戦に我が人生の全てを賭け、彼岸の彼方の肴とする!!! 生きててよかった!!!! まことに、良かったのだ!!!!!!  いざ、尋常にッ!!!!!!!!!」

 

「勝負ッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り、1分。

 

時間がない。

 

ごめんみんな。

 

手伝ってくれ。

 

畜生。畜生。

 

何でこいつに俺は、こんなにも思いを馳せてしまうんだ。

 

憧れるよ、お前の背中。

 

分かった。分かったよ。

 

1分で追いつく。

 

お前の世界に、追いつくからっ。

 

「行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「殺ぁああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

躱す、躱す、振るう、躱す。

 

敵は既に人間体にあらず。

 

ショゴスとして、全ての触手を刃に変えて、体はボールが弾むように動く。

 

だが、それでもその剣技は衰えない。

 

「境界斬り×20」

 

同時に20の境界斬り。

 

視える。視えてくる。

 

だから、躱せる。躱せる。

 

そうか。俺は強力な攻撃に、とんでもない力が必要なんだと考えていた。

 

違う、あいつはそんなことをしていない。

 

体の使い方と、呪力の使い方が、尋常じゃなく上手いんだ。

 

そして、幼馴染ちゃんも境界斬りが使える。

 

なら、人間に使える技なんだ。

 

俺のスペックじゃ、足りないかもしれない。

 

陰陽師としての才能が、ないんだから。

 

でも。

 

だけど。

 

【獅子王】!!! お前、やれるって感じのオーラ出してくれるじゃねぇか。

 

お前なら出来るのか?

 

俺だけじゃダメだけど、準国宝。お前なら、届くのかッ!!!!

 

「プランCぃいいいいいいいいい!!!!!」

 

俺の声に、式神たちが動き始める。

 

「『私の呪詛は死穢れ、その触手を再び転す!!!』」

 

ショゴスの触手が全て腐り落ちる!

 

しかし残った体の部位で再構成され、再び触手が増えていく。

 

半分は解け堕ちて、半分は刀になって振られていく。

 

また別の半分が落ちて、反対側が蘇る。

 

こいつはもう、ボロボロだった。

 

「『与一様!! ここが正念場です!! 道は、私たちが作りましょう!!だから!!!』」

 

五行の術が、1000を超える術式が雨のように、追尾してショゴスを襲う。

 

しかし僅かな隙間。それを縫うようにショゴスは全てを躱しきる。

 

「くっ、いろはぁ!!!」

 

「大丈夫です!! 私はお姉さまのところへ!!! プランC、「全員でたこ殴り作戦」開始です!!!」

 

いろは、--最後まで人間として戦おうとしてるお前を尊敬する!

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

足りない。足りない。

 

全てが足りない。

 

自分の欠片もない才能が叫んでいる。

 

無理だ。不可能だ。

 

黙れ、黙れよ俺。

 

足りないなら補え。

 

超えろ。目の前のあいつを。

 

剣豪を。

 

尊敬に値する、あのサムライを!!!!!

 

色もいらない。敵さえ視えればいい。

 

音もいらない。この刀の嘶きだけ聞こえればいい。

 

味も、感触もいらない。

 

五感の全てを目の前のあいつを斬ることだけに捧げろ。

 

あいつは10分を1分に縮めた。

 

俺はこの1分を、加速させる。

 

行け。行け。時間がない。

 

あいつには、時間が無いんだ。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

!?

 

な、なんだ?

 

これ。

 

時間が、遅く感じて……。

 

あ。

 

この感覚……は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回投与した薬は、極限の集中力を手に入れる薬です。今の貴方は、1秒が100秒に感じられるほど集中することができると思います。ですので、頑張れ頑張れ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の、感覚ーーーーー。

 

別に今、薬は飲んでない。

 

体が、憶えてるんだ。

 

あの時の、挑戦を。

 

あの瞬間の、覚悟を。

 

あぁ、あぁっ……。

 

無駄じゃなかった。

 

俺の全ては、俺の行動は、俺の進んだ道は。

 

全部、無駄じゃなかった……ッ!!!!!

 

「ショゴスぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!」

 

「『行きなさい旦那様ぁ!!!!』」

 

ひとみが呪詛と骸骨たちを使い、ショゴスの動きを狭める。

 

「殺あああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

そこから抜け出したショゴスの攻撃が、俺の命を刈り取ろうとする。

 

「ちゅんちゅん!!!!!!!」

 

しかし、偶然にも(?)刀の間合いがズレて、俺が一歩進む。

 

「『----とどめを!!!!』」

 

痛みが、呪いが、狐の悪意が、ショゴスの神経を狂わせる。

 

たった一拍。たった一拍の空白の時間。

 

それで、十分だった。

 

今の俺は、1秒が100秒に感じられる程度にはーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショゴスと目が合ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愉しかったぞ。須藤与一。ありがとうーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!!! これがぁ、俺のぉおおお!!!」

 

 

【獅子王】、すまん。

 

お前の命、使い切る。

 

幼馴染ちゃんごめん。

 

今からすげーの出すから、頑張って避けてくれ。

 

 

ひとみ。いろは。銀子さん。

 

ありがとうーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ。例えば次があって、もう一回人生をやり直せるとしたら、お前どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショゴスに、俺は変なことを聞いた。

 

もちろん、そんなの妄想だ。

 

だって今もなお、俺の刀は振り翳されようとしている。

 

でも、なんでだろうか。

 

目が合うと、会話をしている気になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん。決まっておろう」

 

 

ショゴスは、涙をこらえるように笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は、勝つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「境界斬りぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

その一撃は、ぬらりひ

          ょんと同様に異界すら切り裂いて。

 

ぬらりひょんの核を、

          綺麗に二つに割った。

 

その衝撃は、裏世界の

          果てにまで届く勢いで

 

それを担っていた準国

          宝であった日本刀。

 

須藤与一が使う【獅子

          王】は役目を終えた。

 

どうしてかわからなか

          ったが、ぬらりひょん。

 

いや、ショゴスは、笑

 

 

 

 

 

 

 

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「ぅ、ぅぅ」

 

ステージ上の蘆屋緋恋がボロボロになっている。

 

訳が分からない。

 

同時に20回の剣戟やら、異常な剣捌き。

 

そして、最後の一撃。

 

「うそ……。弾き切れなかった……」

 

 

 

 

明晴学園。その伝統の闘技場。

 

その伝統は、歴史の海の中で、初めて。

 

綺麗に二つに、斬られていた。

 

「……与一くん?」

 

何故か分かった。

 

最後の一撃は、須藤与一の一撃だ。

 

その一撃に自分は吹き飛ばされ、それ以上の剣戟は無かった。

 

つまり。

 

「……。あー! もう! 負けたー!!!!!! あはははははは!!!! あはははははははははは!!! 与一くん!!!! すごいねぇー!!!! あはははははははは!!!!」

 

【今毘沙門天】蘆屋緋恋の笑い声は、夕日に沈む校舎を美しく彩っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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エキシビジョンマッチ

 

 

 

 

【剣豪】ぬらりひょん 改め

 

【剣豪】ショゴス

 

vs

 

【陰陽師】須藤与一。

 

 

 

勝者、【陰陽師】須藤与一

 

 

なお、会場が崩壊したため

 

今回の大会は中止とする。

 

しかし【陰陽師】の勝利は、誰にも汚されること能わず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【神話生物】事件 後編 下  完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱち、ぱち、ぱち。

 

「素晴らしい試合でしたネ。お見事」

 

ち。素直に終わらせてくれよ邪神。

 

「……あー」

 

そうだ。この事件に関しては口出しすんなって約束したんだっけか。

 

守ったのか。

 

なるほどな。

 

終わったから顔出したのね。

 

はぁー。

 

いや、違うな。

 

こいつまだ腹に何か持ってやがったな。

 

いや、いい。

 

分かってる。

 

俺だけは多分、違和感に気付けた。

 

畜生がよぉ。

 

「おやおや、準国宝も二つに折れてしまってますねぇ。よろしければ私財の武器をお貸しすることもやぶさかではないベストバウトだったのですが」

 

「嫌だよお前のお手付きなんて。絶対気が狂うだろ」

 

俺が悪態をついていると、ひとみと銀子が俺とニャルラトホテプの間に立ち、俺を守ろうとしてくれる。

 

「『旦那様になにか?』」

 

「『与一様に近づくな、邪神』」

 

「ふむ。……。ふむ。まぁ、そうでしょうねぇ。いえいえ、私はネ、須藤与一さんに伝えに来たんですよ。合図をね」

 

「『合図……?』」

 

ひとみが構える。

 

「はい、さぁ、須藤与一さん!!!! 此度の【剣豪】ぬらりひょんを名乗る妖怪討伐、おめでとうございます! これは人類史上初めての、偉大なハッピーエンドとして数えられるでしょう!!! 悲劇無しに語られる人類の勝利! しかして悲劇がないことで誰も語り継ぐことができない歴史の残火。それでも此度の戦い、ニャルラトホテプが見届けるに値するモノであった!!! というわけで!!!!」

 

 

邪神が、嗤った。そして、ぱちん、と手を叩いた。

 

「これが合図です」

 

 

 

 

 

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須藤与一の姿が消えた。

 

今の一瞬で姿を消して、どこかへ行った。

 

 

「『旦那様!?』」

 

ひとみが認識できない速度、異界を生成して、体内に須藤与一を取り込んでいたような状況で、一瞬で消えることはあり得ない。

 

「お姉さま!!! あれ!!!」

 

ひとみが指をさす。

 

それは、四角く黒い箱のような建物ものだった。

 

家のようなサイズで、窓も扉も存在しない。

 

突然現れたのだ。その建物は。

 

しかし、おそらく須藤与一が消えたことと無関係ではない。

 

ーーそう考えた瞬間、地獄を見た。

 

 

「『-----あ?』

 

 

銀子が、唸る。

 

 

「『う、うそ……』」

 

ひとみが、震える。

 

 

「い、いゃ……いやぁっ……!!!!」

 

いろはが、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その大きなプレハブのような四角い建物には、看板があった。

 

看板には、こう書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【S●Xしないと出られない部屋 by ニャルラトホテプ】

【部屋には須藤与一くんがいるにょん♪】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いぎゃああああああああああああああああああああああ!!?!?!?!?!??!?!?!?』」

 

小笠原ひとみが建物に全力で餓者髑髏と共に衝突する。

 

「ぴぃ、ぴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」

 

須藤いろは。人間として生きることを決めたせいでぽこぽこと壁を叩くのみ。

 

「『己ぇ!!!!! おどれぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』」

 

銀子。人生の中で発動したことがない禁術のオンパレード。

 

 

女たちの悲鳴は、続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

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side 須藤与一

 

 

 

 

 

いや。

 

気にはなっていた。

 

思い返すと、なんだか誤魔化しているような話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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回想

 

 

「なぁに、簡単ですよ。このシナリオのタイトルは……そうですねぇ。云わば『【神話生物】事件』! 私は貴方に合図を出しますので、シナリオの途中に登場するとある【剣豪】を倒してほしいのです」

 

 

「……【剣豪】?」

 

「えぇ。剣豪、またの名を……ぬらりひょん」

 

「!? お前っ……」

 

「そう、明晴学園地下に封印されており、原作ゲームにおけるラスボスであり、……貴方のお父様の部下が、今もなお監視しているはずの、ぬらりひょんですよ。須藤与一くん?」

 

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「明確に、「監視してる」とかも言わないし。【剣豪】ぬらりひょんは原作ゲームのラスボスのぬらりひょんじゃなかった。【剣豪】は、ぬらりひょんは別にいる可能性はあった。でも普通に考えたくないしもうやりたくなさすぎて怠いしで放置してた」

 

「御明察」

 

真っ暗な空間だった。

 

その中で、ニャルラトホテプの声が響く。

 

「須藤与一。貴方は素晴らしい。よくもまぁ、ここまで私を夢中にさせるロールをし続けました。なので、多少の色を付けた状態で勝負に挑ませてあげましょう。これが邪神の試練です。別に貴方はショゴスを殺さなくてもよかった。ですがクリアした。なら、探索者にボーナスを与えた状態でシナリオを進ませることが望ましい」

 

「ってことはなんだ? 【神話生物】事件は終わってないと?」

 

「いいえ? もう終わりでいいでしょう。邪神ちょー満足。貴方にぬらりひょんに顔合わせをした直後にシナリオの終了を宣言しましょう。その後は、--元気よく、殺し合ってください」

 

「最悪だよ、お前」

 

「ご尤も」

 

 

突然、後ろが光る。

 

扉の形をしている光だった。

 

「行きなさい、須藤与一。ここから先は、貴方か、ぬらりひょん。生き残った方が真の勝者です。原作越えの展開を、お待ちしておりますネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

回想。

 

「っていうシナリオもあったんですけどネ! いやぁー。頼んでよかった。ほらもうティンダロスの猟犬の女王個体もがんばって17分割されてしまえば息も止まるってことなんですねぇ。うわーくっさいなぁ! 」

 

牢獄の中。

 

暗く光の一筋もない空間。

 

不死の猟犬たちは、物理で殺されるはずがないにも関わらず、ただ美しく斬られ死に絶えていた。

 

それは単なる猟犬も、王も、女王も。

 

死体は混ぜっ返されたように散乱し、口にする事も憚られるおぞましい体液がまき散らかされている。

 

倫理観も、道徳も、この閉鎖的な空間には存在しない。

 

ただあるのは、髪の無く、長い頭をした老人が、日本刀を持って死体の上に座っていたことだけだった。

 

「なんだ……。年寄を酷使させて。72時間は斬り結んだぞ。ニャルラトホテプ、殺す気か? 俺を」

 

「滅相も。貴方様を酷く滑稽に冷徹に混沌の赴くまま死んでいただくのが私の使命。この程度の地獄で死ぬのであれば、死ぬ方が悪い。そうでしょう?」

 

「はぁ……。であるか。なら死体もこの臭い液体も全部処理したまえ。せめて牢屋の中くらい落ち着くひと時を過ごさせろ。これでも虜囚だぞ。あと労われクソボケ邪神」

 

「ほぉ怖い。……神刀、ですか。それを手に入れてからまぁ敵なしでしょうに。わざわざ牢に勝手に入って」

 

「--で? どうしてこいつを討たせた?貴様の手の物だろうに」

 

酷く歪んた笑顔で、ニャルラトホテプは応えた。

 

「嫌じゃないですか。一応高名なクトゥルフ神話ですよ? 人間と恋愛ラブコメよろしくラブラブちゅっちゅしている高位存在ってほら……気色悪くて。あぁおぞまじいおぞまじい。人間を貶めるはずが人間に誑かされ家畜のごとき発情を見せてくるなど、管理職的にアウトですアウト。……それに、このままだと間違いなくヒロインになるところだったのでネ! 最近、面白い存在を見つけましてね? なんと、(縺ォ繧薙@縺阪?縺ィ繧(にんしきのとり))を捕まえた人間がいるのですよ」

 

「(縺ォ繧薙@縺阪?縺ィ繧(にんしきのとり))を?」

 

老人の頭には、言葉が入らず、認識のできない概念が頭に埋め込まれた。しかしそれで老人は理解できたし、それがどういう結末を迎えるのかも心で分かった。

 

そして、何を捕まえたのか、すぐに忘れた。

 

反ミームと呼ばれるものを上手く使用した、意思伝達方法だ。

 

「有り得ぬ、だが、有り得たのか……? 誰が、誰が成した?」

 

「--。須藤与一」

 

「……。? ……え? だ、誰だ……?」 

 

「貴方でも知りませんか、ぬらりひょん。この世界を知り尽くしてしまった、イレギュラーの貴方でも」

 

「……。その者は」

 

遂に老人は、顔を上げた。

 

長い頭が、天秤が傾くように地面に向いた。

 

「良き人か?」

 

「えぇ。【ハナサキ】を2つ式神にしているモブ陰陽師です」

 

「……はぁ……? えぇ……ドン引きだが……」

 

初めて、ぬらりひょんに人間らしい表情が浮かんだ。

 

気の抜けた老人のような顔をして、和服の袖で汗をぬぐった。

 

「はぁ。もう訳が分からん。せめてもっと分かりやすくならんものか。ニャルラトホテプ。お前もシナリオとやらに一家言があるのなら、もう少しまともな筋書きにしてくれ。分かりにくい」

 

「……。えぇ。でも、賽は既に振られているんですよ。さぁ、老齢の英雄、日本大妖怪ぬらりひょん、そろそろこの牢から出てもらいましょう」

 

「……」

 

「世界を、美しく滅ぼすために」

 

「……。なるほど。で? どこで俺は動く?」

 

ニャルラトホテプは、指を上に刺した。

 

「こ、こ♡」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺が扉を開けると、そこは牢獄だった。

 

暗く、光の一筋もない空間。

 

どこか血なまぐさく、生きた心地のしない場所だった。

 

後ろを向いて正座をする老人がいた。

 

髪が無く、長い頭をした老人が、日本刀を持っていた。

 

「なんだ、ニャルラトホテプ。久々に現れたと思えば。そろそろ俺の試練の相手を呼んだのか……。ん?」

 

正座のまま、膝をうまくつかって、老人はこちらを見た。

 

「--、ぁ」

 

それは原作のぬらりひょんの顔だった。

 

そのものだった。

 

間違いなく、ラスボスが目の前にいた。

 

「……誰だ。俺の知らない顔だな」

 

老人が呟いた。

 

威圧的だった。

 

だが。

 

いや。

 

うそだ。

 

あり得ない。

 

そんなことがあってはいけない。

 

なんで、なんで。

 

和服を着ていた。

 

あった。

 

差分に、その私服が。

 

「む。そうか。君が【ハナサキ】を2人式神にした須藤与一か。(縺ォ繧薙@縺阪?縺ィ繧(にんしきのとり))を下すとは、おみそれいる。この世界を知り尽くしたイレギュラー。そうか……。うむ。良き人の相をしている。安心した」

 

分かった。分かって、しまった。

 

なんで、どうして。

 

分かる。

 

その座り方が、話し方が、目つきが。

 

その、温和なオーラが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「----原作主人公の、【最強】渡辺捧……?」

 

「仰る通り。あぁ、なんだったか。そうそう。我は明晴学園生徒会会長、3年梅組、【最強】渡辺 奉(わたなべ ささぐ)である。華咲き枯れても夢違わず。祖には一条戻橋にて果たした鬼斬り、源頼光四天王が筆頭渡辺綱也。闇夜に紛れる化生ども、日の丸に代わりその罪暴き、この場で因果断ち切るのみ。……今は、ぬらりひょんとして転生した、生きた罪人である。すまない。……俺の事も知っているとは思わなんだ。これも何かの縁。良ければ話を先にしてみたい。この先、生き残るのは一人だけだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【神話生物】事件  完結

 

 

 

 

 

 

 

次回。

 

【厄モノガタリ殺人】事件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬらりひょんが、少し上を向いて息を吐いた。

 

「まず何から話そうか。そうだな。俺の事は知っているようだが、何故俺がこうなったかは知る由もないだろう。これは俺がニャルラトホテプと出会い、……【厄モノガタリ~花咲き月夜に滅ぶ世界~】の作者と出会った時のことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真相、解体。




次の更新は当分ありません。

お茶でも飲んでまったりしててください。

ひっさびさにめっちゃ書いた~~~~~!!!

楽しかったですありがとうございました。

今回拾わなかった話はまた今度。ぶん投げちゃってもいいさ。拾わなくても未来で拾えるかもしれないのだから。

てか結局おわんねぇのかよぉぉぉ。

いやね? すいません言い訳させてくださいよぉ。

本当はもっと短くなる予定だったんすよ。

それこそ1話大体4万字なんで、後編もそれくらいで終わるって思ってたんすよー。


後編全部合わせて四捨五入したら約10万文字ってなに?

バカなの? 作者バカなの?

やーでもいつ更新するかもわからないような短編集(ぶれない意志)に最後までお付き合いいただいてるみなさんが「面白い」っって言ってくれたら幸いです。

というわけで次回の更新は年内か年外です。更新する気起きずモンハンしてる可能性はあります。そんな無責任作者ですがどうぞ須藤与一の応援をよろしくお願いします。
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