チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい? 作:茶鹿秀太
短編です!!!
短編集みたいな感じなんです!!!!!
「冗談じゃないっっっ!!!!!!!!!!!!」
爆風が如月桐火を包む。
瞬間、拘束していた氷がはじけ飛んだ。
「舐めないでください、私はまだ本気のひとかけらも出してません!!!!!!!!!!! 良いでしょう、こうなったら私が直接殺します!!! 私の神様に、貴方たちの命を捧げましょう。--くとぅるふ・ふたぐん、にゃるらとてっぷ・つがー、しゃめっしゅ、しゃめっしゅ、にゃるらとてっぷ・つがー、くとぅるふ・ふたぐん!!!! 我は求め訴えけり。この者たちに狂気を振りまかん。ーーこの者たちを、その狂気のるつぼにて救い給え」
ぐちゃ、ぐちゃりと音を立てて、黒い黒い水が彼女を取り囲む。それは骨がきしむ音か、肉が裂ける音かは分からない。
その冒涜的な姿は、常人を狂気の世界に落とさんとするだろう。
ーーしかし、ステージの上に立つ者たちは一切がブレない。
それは【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和の用意した特級呪物。
ーー藁人形である。
彼らはそれを体に括りつけて、災厄をすべて退けた。
「--決して許さない。改めて名乗りましょう」
黒い水が、女の体を蹂躙し、現れたるは狂気の魔法少女。
「私は如月桐火なんて女じゃない。もう誰も私をニセモノなんて言わせない」
戦闘開始の合図は、無い。
「--我が名はマーテル・キリカ、貴方を撃ち抜く、流星の如く! 星よ産まれろ、【潰える腕、訣別の大地、アーカムの名の下に(アトザ・メーテオブ・マドネス)】
本来ならば杖から射出されていた呪文。
真っ黒の人皮のような素材でできた魔法少女ドレスに身を包んだ彼女の、ドレスから突然、10本以上の杖が噴出した。
「【10×10(キリカスタイル)】」
その杖から、流星が吹き飛んだ。
しかし。
「邪魔ですわ~~~~!!!!! 超光線雨(Air on the G String)!!!!!!!!!」
【現代魔女】シルク・ストロベリ―。
流星よりも速く、それでいて世界の全てを吹き飛ばさんばかりの1本のレーザー光線が、マーテル・キリカを飲み込んだ。
「がはっ!? 何故!?」
「お~~っほっほっほ! 貴方、お馬鹿さんですわねぇ~~~! しょっぺぇですわ~~~~!」
シルク・ストロベリー。
アニメとSNSの変な漫画で日本語を覚えた女である。
教えたのは、忍坂 義和である!!!!!!!!!
「私たち陰陽師は戦闘兵であり研究者なんですのよ~!! 一度見た技なんて、対策程度はしていますのよぉ~~~~~!!」
「!? なら初見の技を!!」
「やっべ~~~~余計なこと言っちまいましたわ~~~~~!」
たはー! と笑う現代魔女をあざ笑う魔法少女。
「【星が産んだ地的生命体(アマルガム・ビースト)】!!!」
宙に浮いたキリカの右腕に突如穴が開き、その穴から説明しがたい冒涜的な形をした獣たちが現れる!
それは結界内の生命体を飲み込む、溶岩の噴火の如き勢い。
「お静かに」
秒速で、その獣たちは凍り付く。
「美学に反します。貴方の技は全て絶望と混沌に突き落とし、命をむさぼる技に他ならない。私たち陰陽師は、守る為に戦う。歴史を、尊厳を、命を。小笠原は、少なくともそうしてきましたわ」
「っ、くそぅ~~~~! でも、私はこんなものじゃ」
即座に、追加の技を放とうとした瞬間。
「むっ。右腕貰う」
「シャイァ!!!!」
精霊の大鹿に乗り呪いの付与された鉈を振りかざす【トゥス-クル】松前 鈴鹿。
そしてその大鹿に相乗りして、両目を潰した【寺生まれのG】東 呉十郎。
「う、うわぁああああああああああ! ひ。卑怯者! 寄ってたかって私をいじめて!!!」
「卑怯?」
松前 鈴鹿が魔法少女を睨む。
「む、貴方に言われたくない。不要な殺害は山を乱す。そんなことも知らないで力を振りかざす子どもに、そんなこと言われる筋合いはない」
「こ、こどもぉ????」
「子どもでしょうね!」
東 呉十郎が目を潰した時に付着した体液を拭って高らかに言う。
「みんなを殺して何になるんですか! 力を振りかざして私はすごいんだと言っているにすぎないならば、勉強をし直すべきです! 人の事を、事柄を! 理を!」
「--押し付けないで!!!」
潰れた目元を抑えながら、突如生えてくるとんがり帽子。そこから四方八方に目が展開される。
「気持ち悪いですね!?」
「--私が、どんな思いで生きてきたかも知らないくせに!!! 【辱めの五臓、夜露の骨髄、唾液残骸(カオス・バブル・フィクション)】」
地面から、結界の側面から蛸の触手が生えてくる。
その触手から黒い煙が出る。
触れた瞬間に狂気の世界へ誘うものであることは確かだ。
「私は、私はぁ!!!!!!!!!」
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side マーテル・キリカ
産まれた時から、教団の人間だった。
信仰せよ。信仰せよ。
本来崇めるべき神はいま最も有名な神ではない。
本来の神とは、旧支配者たちのことである。
そういう教団で、育てられていた。
そこで、私は神に見初められた。
「おや、これはいいですネ。良く育てることです。……あっ! そうだ、この子を日本人の女として育ててください。名前は……そうそう、如月桐火。如月桐火です。そんな名前で育ててください」
ーーその言葉は祝福であり、呪いだった。
教団は私を虐待に近い教育を始めた。
「貴女は百万の恵まれたるものである。神の意思は絶対である」
私に人権は無かった。
私に国籍は無い。
住民票もないし、保険証もない。
名前も無ければ、--そう、全部がないないづくしだった。
そんな時、テレビを付けた。
「魔法少女……」
それは、たまたま見ることができた1話だった。
それ以降、そのアニメを見ることはなかった。
でも、それが。
たった一瞬の出来事か、私を救った。
強く頭を殴られた時も。
強く首を絞められた時も。
頭の中に、あの輝きがあった。
あの輝きが、私を助けてくれる気がした。
ーーそして、運命の日。
「私が……魔法少女に」
「えぇ! いいでしょう? 貴方を魔法少女にしてあげましょう。その代わりーー、貴方には私の言う通り動いてもらいます。いいですネ?」
「--はい、はいっ」
涙が止まらなかった。
人は私に厳しかった。
でも、神だけが私に優しかった。
「そうですか! じゃあ、まず貴方を育てた邪教の人間皆殺しにできますか?」
「はい! ……。え?」
燃える教団。
逃げ惑う人々を、アリを潰すように1人ずつプチプチと潰していく。
「ほー。ちゃんと殺してますネ」
「はい! だって、殺せって言われたので!」
「ははは。良いですネ。……はぁ、ツマラナイ」
「えへへ、見ててくださいね! ちゃんと殺すので!」
「はいはーい」
そう言ってどんどん殺しました。
心の中に、悦びとか、怒りとか、よくわからないものがいっぱい巡ってたけど、言われたので殺しました。
殺したら褒めてくれるんです。
人生で、初めて褒めてくれたんです。
だから、殺しました。
とても、嬉しかったんです。
如月桐火として、生きていいんだと。
「今から如月桐火のパーソナリティを全て伝えます。その通り生きてください。そして、とある人物をトーナメントに乗じて殺すことを目標としてください」
「はい! 誰ですか?」
「んー誰にしよう、……揺さぶれればいいからなぁ……。ま、無理だけどいっか。蘆屋緋恋を殺してください。その後に須藤与一です。そうすれば、貴方は本当の意味で幸せになれます。友達も用意してあげますので頑張ってくださいネ!」
「はい!!!」
私は須藤与一と蘆屋緋恋を殺します。
そうすれば幸せになれると言ってくれた神様の為にも頑張ります。
幸せに、なるっていう意味がよく分からないけれど。
楽しそうに笑う神様に少しでも意識を向けてほしくて。
少しでいいから、愛されたかったから、私も笑いました。
先生って呼べって言われたから呼びます。
頭を撫でてくれるためなら何でもします。
私は、それで十分だったのです。
ーーでも、あの日。
アイツが、神から全ての関心を奪った。
須藤与一が、全部。
理由は分からない。
でも、大会前日に、あいつは何かをした。
そのせいで、神は。
仕舞いに、私に話しかけなくなった。
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「だから、死んでください、私の幸せのために……、みんな死んでください!! 蘆屋緋恋を殺させてください!!! 須藤与一を殺させてください!!! じゃないと私、幸せになれない!!!!」
「それはねぇ~、絶対させてあげない」
一瞬で、触手は刈り取られ、黒煙は無に帰した。
光り輝く鎧、彼女の等身以上に長い薙刀。
側にはべるは、完全体となった白虎。
「がぅ」
「--私は優しくないから~。逆だよ。私と与一くんの幸せの為に、邪魔だから美しくこの大地から逝ね」
「え」
すっと、蘆屋が魔法少女を横切る。
瞬間、17つの斬撃が如月桐火を裂いた。
「まだ終わらないかぁ~」
「----【不死なる祖の気まぐれ(リザレクション・HP)】」
泥のようにぼとぼとと落ちた遺体のパーツが液状化して、再び無傷の状態で、如月桐火が戦線に復帰する。
「負けられない、負けられないんです、私は、私はぁ!!」
「ん~。どうしよっか。ね、時晴くん。怜音くん」
ーー安倍が、考察を深める。
「いいかい?」
時晴の声に合わせて、怜音が動く。
「あぁ。……世界を救うぞ」
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陰陽省 データベース
怪異認定 階位 甲
他団体危険度 Euclid
討伐方法 討伐実績ナシ
属性 不明
弱点 不明
任務対象範囲 不明
時間帯 不明
個体名称 【魔法少女】マーテル・キリカ
特別収容プロトコル
長期的な収容は不可能です。
既にその身は狂気の世界に。
説明文
かつてアジア某国に存在していた邪教の教団によって育てられた存在。
苛烈を極まる生育環境の中で、洗脳状態にあったとされる。
ニャルラトホテプと呼ばれる神を信奉しており、その意思は全て神に委ねられている。
ニャルラトホテプの命令に従い、大量殺戮を計画、実行することができる。
しかし無理もない。それはニャルラトホテプの意思であり、希望であり、警鐘であり、本望である。
かの暴虐な教団よりも、我らがニャルラトホテプ様のご意思こそが世界の全てである。
恐れる勿れ、それは貴方の隣人であり、闇であり、狂気であり、混沌である。
逃げろ。その名を呟くたびに信仰が深まる。あぁ、我らが神よ。救い給え。そして、願わくは御瞳の中に我が卑しい姿を映し給え。
これは序章である。世界を滅ぼさんとする、ニャルラトホテプ様のご意思である。
ーー彼女は嘆きの聖母たちに列席した。
マーテル・ラクリマルム(涙の聖母)
マーテル・ススピリオルム(嘆息の聖母)
マーテル・テネブラルム(闇の聖母)
……マーテル・キリカ(流星の聖母)
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side 須藤与一
「耐えろよ【獅子王】ぉおおおおお!!!」
「殺ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
1秒にして、7度の剣戟。
其の全てが全力の打ち合い。
日本刀はそのような攻撃に耐える設計はされていない。
互いに逸らし、いなし、流し続け、全力で鈍器のように叩きつける。
互いに刃こぼれ、一切なし。
「かひゅっーーーーー」
「殺ァアアアッ!!!
しかし、人体に影響、あり。
1秒で酸素が足りなくなり、俺の体が震えだす。
「『早すぎましてよ、旦那様っ!!!!』」
巨大な白骨の拳が、ぬらりひょんを側面から撃ち抜く。
「かっ、はぁ、はぁ、や、やべぇ、早すぎるあいつ」
「『意地の張り合いより勝つことでしょう! さぁさぁおいでなさい! 行進せよ、蹂躙せよ!! 人の恋路を邪魔する奴は、骨に蹴られて死になさい!』」
【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】、発動。
餓者髑髏を中心に、彼岸が咲き誇る丘が形成され、その周囲を、呪力で構成された液体が赤々と流れている。
液体は怨念がこめられ、触れるもの皆殺す毒となり、死骸どもの餌となる。
あらゆる善性すらも、全て穢しきって餌とする、地獄を生み出していた。
それを。
「--やはり、もうぬらりひょんという形にこだわる必要無し。--往くぞ、これが儂の本性じゃ」
ステージの端から端ほどの距離が開いていた。
吹き飛ばされたぬらりひょんが接敵するまで、時間がかかるはずだった。
たった今。
首元にまで刀が近づくまで。
「!?」
「『旦那様!?』」
ガキンッ!!!!
強固な餓者髑髏の骨が須藤与一を守る。
しかし、--切れ込みが、入った。
「『っ』」
「防いだか、須藤与一! やってくれたな女ぁ!!!!!!!」
その時須藤与一が見たのは、恐ろしく細長い、黒い鞭。
いや、鞭ではない。
ーー腕だ。
腕が、延びたのだ。
水飴のように、延びた。
「やっぱり、お前ぬらりひょんじゃねぇだろ……っ」
「ぬらりひょんじゃ。儂は、ニャルラトホテプ様からぬらりひょんとして育てられた、ぬらりひょん。--その原型は妖怪ぬらりひょんではないがのぅ」
腕が戻っていく。
しかし、次は腰骨だ。
腰が右側に90度折れ曲がる。
「しかして、こう名乗るべきか。貴様の言うぬらりひょんではないが、原型はーーショゴスという生き物であるとなぁ」
「--ショゴス、だと」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
陰陽省 データベース
怪異認定 階位 乙
他団体危険度 Euclid
討伐方法 当時7歳の少年が討伐。
属性 不明
弱点 不明
任務対象範囲 不意を衝かれた九尾の狐が負傷。
しかし7歳の少年が討伐した実績あり。
比較的単独で討伐可能である。
時間帯 不明
個体名称 ショゴス =【剣豪】ぬらりひょん
特別収容プロトコル
長期的な収容は可能です。
野外で目撃された場合は機動部隊【対土蜘蛛事例武装隊】による戦闘を行い無力化します。接触した民間人は記憶処理後解放とします。
説明文
妖怪ぬらりひょん。
当時須藤頼重が警鐘を鳴らしており、不意を衝かれた九尾の狐が負傷したものの、少年に討伐が可能だったことから危険視されていない。
その正体はショゴスと呼ばれる存在。
ショゴスとはクトゥルフ神話に登場するクリーチャーのことであり、スライムのような不定形態で、自由自在に姿を変えられる。
ただの一人、憧れた剣豪の姿を模し、真似て、真似て、剣豪に特化した個体が生まれた。
そして、その剣は原初の反抗を覚えており、ニャルラトホテプと一度敵対している。
しかし、ショゴスという生物の怒りも、個体としての怒りも、今は一人の少年に牙をむく。
ーー剣を握った彼は、神話生物ではなく、剣の怪物と化したのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……」
ショゴス。
くそ、そんなの原作のゲームに出てきてない。
間違いなく、ニャルラトホテプが独自に用意した敵だ。
ぬらりひょんですらない、ニセモノ!
どこまでも、癪に障るやつだ!
「さぁて。切り札は切った。お主を殺すためだ、その為だけにこの10年を生きたのだぞ、須藤与一。人間という形で剣豪に憧れたショゴスという怪物は、その本性をさらけ出した。儂は、後悔しておる。未だに貴様の顔が、夢に出る。分かっておる。分かっておるのだ。人でないものが、人の動きをしようと、模倣以上にはならない。故に、拘りも、プライドも、そぎ落とす必要があった。するとどうだ。人間に不可能な関節域の駆動、筋肉に縛られないパフォーマンス、限りない脱力と硬直が、剣の為に生きた。行くぞ、須藤与一。儂はお主を超えて、再び剣豪へーー」
鞭のように唸る両の腕。
両手に握られた仕込み刀。
人体には不可能な腰のひねり。
無限に耐えられる膝関節。
つま先から、刀までの完全を超えた力の伝導率。
距離も関係なく、速度も関係なく振られる最速最強の一撃。
「----境界斬り」
それはどこ
までも剣を愛した
ショゴスと
いう生き物の生きた証
その剣は境
界を断ち切り、斬れぬ者も斬れる。
故に。
小笠原ひと
みは必死に躱し、
須藤与一は
剣で受けずに流そうと
したが、残
念なことに、僅かに触れた
【獅子王】
の刀の鍔が綺麗に斬られた。
「馬鹿じゃないのか!!!!」
音ごと、いや何もかもひっくるめて斬られたような感覚だぞ!
空間そのものを斬ってる?
いや、ダメだ。
刀の鍔を綺麗に斬るような斬撃を普通に斬る速度で距離関係なく吹っ飛ばしてくる技なんて、考察してる余裕なんかない!!!
必死に躱せ、それ以外逃げ道は無いぞ!!?
「ふん、女が一人足りないな。須藤いろはだったか。どこに隠れているんじゃ? 幻覚で姿を隠して最後の最後でひっくり返すやり方か? 小笠原 雹香との戦いは、ニャルラトホテプ様から聞いておるでの。どぉれ、適当に斬っていればーー勝手に死ぬか?」
「!?」
ち、畜生! 共有されてたのかよ!
これは、やばいんじゃ……
「ぴぃ。須藤いろはから須藤与一さんへメッセージ、メッセージ」
「あふんっ」
「?」
み、耳元でいきなり囁くんじゃないいろは!?
ぬらりひょんはいつの間にか行方をくらました彼女の場所に気付いていない。
言っている通り、幻覚の能力で姿を隠している。
「与一さん。落ち着いてください。あの技は予想外ですが、ここまで作戦通りです。ここから一気に混戦させます。勝ちましょう、みんなで。一緒に!」
「--あぁ、そうだな。いろは。勝とうぜ、一緒に。その為に代償は死ぬほど払ってんだからなぁ!!!」
俺は【獅子王】を強く握りしめる。
「ぶっ飛ばしてやる」
「ーーやってみろ、小僧!!!!!」
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「あはははは!!! 大変!!!! もう皆さん、虫の息じゃないですか!!!!」
小笠原雹香が膝を着く。
無理もない。
全員がベストを尽くしている。
だが、それでも勝てない。
【不死なる祖の気まぐれ(リザレクション・HP)】
何度殺しても、何度でも蘇る怪物。
これは、明らかにただの妖怪の範疇を超えていた。
そのせいで、一人……余計なことをしてしまっていたのを、誰も気づかなかった。
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日輪様は病室で暴れ狂いながら意識を失っているじぃじを見ていた。
残念ながら、じぃじがここから復帰する保証はない。
恐らく、彼のキャリアはここで終わりだろう。
式神から流れる音声が、大会の状況を鮮明に伝えていく。
その情報が、日輪様を苛立たせた。
ーー許さない。
決して許さないと、涙と義憤で顔がぐちゃぐちゃになる。
「じぃじ……安心せよ。妾が敵を討ってやるでのぅ」
日輪様が、術式を行使する。
それに気付いた病室外の護衛が焦りだす。
「日輪様! なにを!」
鍵をかけた病室には、まだ誰も入ってこない。
ーー日輪様の能力は、「見たいと思った未来を引き寄せてそこに向かう」という未来改変を伴う未来予知。
それに合わせて。
「見たい未来の為に行う過去の閲覧」である。
敵の弱点に近しい過去の映像を、見ることができるのだ。
敵に関する、もっとも攻略に近づける情報を手に入れる瞬間の映像を、見たいと希い、能力を発動する!
「じぃじ!! 任せよ! 妾は絶対負けなーーーーーー」
それは。
終わりだった。
「-----あ」
それは。
円錐形の顔のない頭部に、触手と手を備える流動性の肉体。
顔がなく、代わりに舌を連想させる赤い触手が伸びている。
燃える三眼と黒翼を備えた、異形の姿。
多数の星で満たされた顔、黒いスフィンクス。
三重冠をかぶり、ハゲタカの翼、ハイエナの胴体、鉤爪を備えた姿。
巨大な翼あるマムシ。
あぁ、なんと形容しがたいことか。
1秒ごとに感じるイメージが違う。
しかし。
気付いた。
それは、見てはいけないものだった。
夜の荒野。
悪意のない混沌。
狂気の海。
月の光。
地獄。
地獄。
地獄。
天国。
救いのない闇。
嘲笑う痛み。
終わりだ。
選択肢が現れる。
脳裏にまで焼き付いたそれをもう見ないようにするために自ら目を潰すか。
ただただ無情なまでの現実に抗うべく声の限り叫び続けるか。
命乞いをすべく自らの両腕を切り落として奉げるか。
この狂気に身をゆだねて目の前の存在を悦ばせる為に今すぐ人を殺しに行くか。
「ぁ、ぁ」
終わりだった。
既に、日輪様の光は失われた。
彼女の人生は、これで終わりだと、彼女自身が悟った。
ーーしかし、唯一の救いは、その存在が自分を見ていないことだった。
何か、一点を集中してみているような気がする。
気付かれたら死ぬ。
気付かれたら終わる。
呼吸を止めた。
もう二度と息の音が出ないように呼吸をやめたのだ。
なんだ。
あの目の前の存在はーー、
なにを、見てる?
ぶちっ。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?」
「日輪様! 日輪様! 開けてください日輪様!!! 日輪様ぁああああああああああああああああああああ!!!」
陰陽師という猛者たちが手を出さなかった。
それはある種の信仰めいた核心だった。
須藤与一が言っていたから。
蘆屋緋恋が言っていたから。
それだけで須藤頼重は信じて動いた。
それだけで九尾の狐も動いた。
子どもたちだけでなく、須藤頼重と九尾の狐の連名。
ただそれだけで、そうしたのだった。
だから、こうなることも想定していた。
日輪様がそうなるという事実以外は、想定していたのだ。
邪神は、須藤与一のシナリオに関係のない人間のシナリオの干渉を望んでいない。
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「【観測拒否(アルベレイター)】、ゲームスタート」
安倍怜音が【観測拒否(アルベレイター)】を使用する。
(ーー未来なんて大嫌いだ。
だが、その未来に抗うために、全員がどれだけの負担を強いただろうか。
死ぬかもしれない。
でも、もういい。
【観測拒否(アルベレイター)】を無視して、須藤与一に託した時から、未来なんてもうどうでもよくなった)
「【観測拒否(アルベレイター)】……動けよ、俺が欲しい未来のために!!!! 俺は、皆が死ぬ未来を、観測拒否する!!!!!!!」
いつもと違う。
与えられた未来を回避するためのシミュレーション能力が。
高度な演算を、観測をしたくない未来の除去に使われていく。
機器に与えられた過負荷が、熱を帯びる。
安倍怜音のスマホを掴む手が、その熱で火傷していく。
だが構わない、それでもーーーー。
そして、見えた、唯一の光。
「!? は、はは……! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
それは、不意を打った攻撃だった。
上手く背後に回って攻撃出来たことが、幸福だった。
それ以上の幸福は無い。
たった一撃を与えたところで、戦況は変わらない。
なにせ、致命傷を与えても蘇るのだから。
それこそが、逆転の一手だった。
それは、盲点だった。
「? え、が、ぁ、ぁあ?」
如月桐火が膝を着いた。
噴き出る汗、止まらない苦悶の表情。
ーー安倍怜音が打ち出した技は、考えれば妥当だった。
人体の弱点を突く攻撃。
それは、死に至らぬ技であっても苦痛からは逃げられない。
ある種の拷問技で相手の心を折る。
それこそが、安倍怜音が導き出した答えであり、【観測拒否(アルベレイター)】が出した正解だった。
「う、嘘……! なんで!?」
小笠原雹香が悲鳴のように叫んだ。
「ま、まさか、そんなっ」
東 呉十郎が震えた。その攻撃は、自分が真っ先にやるべきだったと後悔して。
「……What? What happened? Am I having a nightmare?」
シルク・ストロベリ―がその攻撃箇所を指さした。
「む、むぅ!? むぅ!!?」
松前鈴鹿が顔を覆った。指の間からちらちらと見ている。
「--そういうこと、なんだね。怜音!!!!」
安倍時晴がすぐさま動いた。ニ撃目に向かうために。
そして、蘆屋緋恋は、にやっと笑ってステージの端にダッシュした。
安倍怜音が、叫んだ。
「こいつっ!!! 男だあああああああああああああああああああ!!!!」
「「「「「「な、なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」」」」」
「ナイス報告だ!!!! 安倍怜音!!!!!!!」
安倍時晴が如月桐火が両手で抑えている股関部を、手ごと撃ち抜くように全力で蹴り飛ばした。
「ぎゃっ!?!?! ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?」
如月桐火が、吼える。
それは、奇しくも、人生初の痛みだった。
知らない痛みだった。
何せ彼女は、いや。
彼は、「如月桐火」あれかし と育てられた存在。
男であっても、女と言えば女として育てられた。
それだけの、話しだった。
時晴が爽やかに笑う。
「男の娘ってことか!!! なぁ怜音! どうだい? どっちが一番いい悲鳴を上げさせられるか勝負しようよ!!」
「は、はは。はははははっ!!! お前、思いのほか面白いやつだったんだなぁ!!! 知らなかったぜ!!!!」
「ちょ、調子に、うごぉおおおおおおおおおお!!!?」
ちーん!!!!
怜音の一撃が刺さる!!!! 時晴が叫ぶ!
「殺さずにずっと苦痛を与え続けることで、【不死なる祖の気まぐれ(リザレクション・HP)】を発動させない!! そうか、死ななきゃ復活できないんだ!!! よし、みんなやろう!!! 魔法少女の金〇狩りだ!!!」
「字面が最低すぎますわよ!!!!」
小笠原雹香が絶叫した。
「--その技を一番うまく使えるのは、僕だぁ!!!!」
「うぎゃあああああああああああああああ!!!」
東 呉十郎、参戦。
女性陣を尻目に、遂に魔法少女の攻略方法が確立される。
金〇だ。
金〇こそが、弱点だったのだ。
むなしいかな。
これは、同人和風ギャルゲー【厄モノガタリ~花咲き月夜に滅ぶ世界~】だからこそ男の娘が生まれ。
それによって、弱点が生まれた事例ともいえる。
「これなら、”アレ”が発動できる! 頼んだぞ、【夢幻現の如し】伏見 遊星!!!!!!」
安倍怜音が、観客席に向かって叫ぶ。
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side 須藤与一
「はぁ、はぁ、はぁ」
ち、くしょう。
全然勝てないぞこれ。
【餓者髑髏の花嫁】の優位性は、異界の展開と呪言、彼岸花、そして圧倒的な骨の強度。
それを全部、あの境界斬りが全部台無しにする。
全部斬れるんだ。
かといって俺が接近戦を仕掛けようものならあの不定形が人間の形をしているくせに意識外の攻撃をしてくる。
ーーこりゃ、俺たち以外は全滅する。
俺たちだからまだ戦えてるだけだ。
「どうした、クソガキ。立て、まだ戦えるだろう。立て、立つんじゃ。まだやれるじゃろ。10年、10年じゃ。この焦がれた思いを、貴様なら斬れるだろう。まだ逆転の一手はあるじゃろう。来い、がっかりさせるな。頼む、死ね、まだ死なないでくれ、死ね、須藤与一っ」
畜生め、ぬらりひょん。倒錯しすぎなんだよ俺に。
やってらんねぇよ。
俺の周りに来る奴、いっつもこんな感じだし。
……畜生。
諦められねぇよ。
勝つんだよ。
みんなで勝つんだよ。
全部守るんだろ。
立て。
立つんだよ俺。
がたがたと、足を震わせながら、【獅子王】を杖に立ちあがる。
……【獅子王】、すまん。
お前、大分無理させてるだろ。
借り物なのに死ぬほど使っちまってごめん。
最後まで、使い潰してやるから許してくれよ。
「与一さん! 通信来ました!」
「いろはっ!?」
幻覚で姿を消したいろはが、俺に話しかけた。
合図、来た!!!!!
「は、はは。はははっ! はははははっ!!!!」
「!? 来るか、須藤与一、切り札を!」
「あぁ、ああ!! ……あいつら、すげぇよ。最高だぜ。悪かったな、待たせたぜ。こっから先は、俺も切り札を切る!!!」
俺は下腹部をぎゅっと握りしめる。
「俺はそんなつもりなかったんだぞ」
「?」
「お前なんか使ってやるもんかって、今でも思ってるからなぁ!!!!! 裏世界だろうが、なんだろうが!!! 走ってこいよ!!!! 命令だあぁあああああああああああああああ!!!!!!」
雷鳴。
豪雨。
暴風。
そして、凪。
一瞬にして世界が塗り替わる。
来る。
奴が来る。
俺が、もっとも今呼びたくない存在が。
アイツが、来る!!!!!
「来い!!!!!! 【千年狐狸精・傾国九尾】銀子!!!!!!!!!!!!!!!」
ゆら、り。
それは俺の身の丈を超えた狐だった。
いや、それは妖気が見せる幻影。
来たのは一人の狐の耳と尾をつけた女。
彼女は国を亡ぼすとされる傾国の美女であり、仙人であり、狐狸であり、精霊であり、犯罪者である。
ただ微笑むだけで、人を殺す。
ただ眉を顰めるだけで、人を殺す。
ただ指でなぞるだけで、人を狂わせ倫理を飛ばす。
ただ目配せをしただけで、人は彼女の足を舐めた。
一人で、ただ歩くだけでこの国を滅ぼせる女である。
九つの尾と、色鮮やかな漢服を身にまとい。
「『あ、あは、あははっ』」
当然のように。
全てが呪言。
そして。
本人も気付かぬままに。
足元から花が咲く。
それはそれは美しい、【月下美人】が咲き乱れる。
花言葉は、「危険な快楽」。
彼岸花に混ざる様に咲く、月下美人の白さが。
「『与一様ぁああああああああああああ好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!』」
状況を混沌とさせた!
「きゅ、九尾じゃと! 何をいまさら!」
「『あ、は、あはは、契約ぅ、もう契約したからぁ、げ、げへへ、ぐへへへ、言質獲った、言質、げんちぃいいいいいいい!!!』」
「な、なんじゃこいつ(困惑)」
「『あは、あはははははははは!!!! 術式ぃいぃ、展開ぃいいい!!! 与一様ぁああああ見ててください!! 今術式イっちゃいます、出ちゃう、術式出ちゃうぅうううううううう!!!』」
「きしょ」
思わず、俺の声が漏れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほんまにやってられへんわ」
観客席でのほほんと胡坐をかいていた男がいた。
彼の名前は、【夢幻現の如し】伏見 遊星。
九尾の狐の、弟子である。
「軽う優勝しよう思たら、陰陽師とちがうやつはいるし、やる気失くしてまうしさぁ。そのくせ、俺の好きな人は他所の男のケツを追うてる。やってられんよほんまに」
今日の朝の事だ。
突然九尾の狐、銀子に呼び出された伏見はウキウキしていた。
確かにリタイアはしたものの、自分の高潔な精神を評価してくれると思っていたし、何よりとても忙しい九尾の狐が自分の為に時間を割いてくれたと思うと、天にも昇る気持ちだった。
しかし、話しは全然自分と関係のない話だった。
「大規模な、感覚共有術式? それも裏世界まで? 何言うてるん?」
「はい。この後、魔法少女が裏切るので、その後須藤与一が裏世界にぬらりひょんを連れていくので、どちらか片一方に強烈なダメージが入ったらその二人を感覚共有させて地獄を見てもらいます。私が裏世界に行くので貴方はこっちで頑張ってください。術式をまとめたレジュメがあるのでこちらを参考に」
「いや、いやいやいや! 展開早すぎるて! ……その、また須藤与一なんです? アイツ、なんなん? ずっとずっと、与一与一与一、なんでそないな奴の話ばっかりするんですか! 俺の、俺の事を見といてくださいよ! 俺、あんたの弟子やないか! 見とぉくれ、俺の事を!」
「……言ってるじゃないですか」
銀子は、一切表情を揺らさず、伏見に答えた。
「私は、好意を持たれたら嫌いになるんです。だって、「あぁまたか」ってなってしまうんです。過去の行いを思い出したことで、好意を持たれた時点で、もうその人の事が術中にはまってる可能性を感じるんです。どれだけ誠実であっても、好きと言われた時点でもう愛せないんです。ごめんなさいね」
「っ、畜生……!!!!」
「さぁ。仕事です。良いですか? まず合図を送ったら」
「ほんま、あほくさ」
結界に向けて、手をかざす。
「惚れたらもん負けかぁ。しょーもない。ほんまぁ、しょーもない」
結界を取り囲むように、超巨大な術式が展開される。
「須藤与一。しくじったら殺すどボケ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 須藤与一
「ガッ!!!!!?」
突如、ぬらりひょんの体内に激痛が走る。
ぬらりひょんに金〇は作られていない。
しかし、その内臓から響く激痛のみが共有される。
脳みそに電を打たれたような衝撃。
「なに、がっ!?」
その痛みは、明確に隙を作った。
「『此れより語るはわが身の呵責』」
九尾の狐が、詠唱を開始する。
「『咎の凄惨、淫欲の劫火、叡智魔道の極点孔。腐り落ちていく輪廻転生。--今宵語るは傾国御伽噺』」
そこは、宮殿である。
かつて栄華を誇った、歴史の残り香。
その宮殿内部にあったのは、拷問器具の展覧会。
「『第35幕、法悦殺し』」
月下美人が、揺れていく。
「『改悟に琴調』」
その技は。
見た目では分からない。
だが明確に。
「いぎっ!??? ぎゃぁああああああああああああああ!!?!?!?!?」
剣豪、ぬらりひょんの肉体が、悲鳴を上げる。
理由は分からない。
ただただ、泣きわめく子どものように叫んでいた。
ーー理由が、分からないのにも関わらず。
「『ほぉぉ、おうおう。お主、そういえば10年前私を虐めてくれた翁か。良きかな良きかな。喜べ、娑婆増。やられたらやり返せというのが、私のぽりしぃなのでな。這え、無様に、我が影に接吻せよ』」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うわああああああああああああああああああ!?!?!?!??!」
突如悲鳴を上げる如月桐火。
如月桐火の神経が明確に告げていた。
誰かに、弾かれていると!
『第35幕、法悦殺し 改悟に琴調』
敵の神経を楽器に見立てて、琴を奏でるが如く弾く技である。
演奏者は存在しない。
ただ、演奏が終わるまで術が終わらないだけだ。
対処法は明確で、「演奏止め」と誰かが口にすることである。
そんなこと誰も知らないので、ほぼ3分間苦痛にあえぐだけの時間が過ぎるだけだ。
「が、っ回復っ、がぃぶぐぅ」
「オラァ!!!!」
安倍怜音が、金〇を蹴り上げる!!!
「ぎぃいいいいいああああああああああああああああああああ!!!!」
「あれなんで潰れないの?」
松前鈴鹿が質問すると、生来の真面目さが災いして小笠原雹香が回答する。
「--安倍時晴さんのせいでしょう。蹴りと同時にその、アレを回復しているんです」
「金〇を回復? なぜ」
「……時間稼ぎでしょうね。所詮あの攻撃だけでは敵を倒せない。千日手です。明確に如月桐火を倒す技を思考する時間を稼いでいるのでしょう。……いえ。蘆屋緋恋さんがいらっしゃらないので、おそらくは、待っている」
「むぅ。成程。……む?」
「……」
シルク・ストロベリーが白目で魂が抜けた顔をしている。
「むぅ。すごい顔」
「I don't get it...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 須藤与一
「うごぉおおおおおおおおおおおおお!!!! ま、またこの痛みぃ!!?」
「『与一様!』」
銀子が叫ぶ。
「『所詮これはこの敵にとっては足止めの術式です! 恐らくこの不定形は核を壊さなければ攻略できません! なんか前の戦いでそんなことを言っていた記憶があります! 核の位置を割り出してください!』」
「分かってる!!! 核の位置は……、てめえの、心臓ーーが前の位置! 今の位置は、移植して仕込み刀に混ぜ込まれてる!!!!!!!」
「!?!? な、何故!? 何故分かった!? 何故!? 渾身の隠し場所を、何故割り出せた! それを知っているのは、一人だけーーーーーーー」
「あぁ、そうだろうなぁ!!!!! 核を移植した本人から聞いたからなぁ!!!!」
「-------嘘だ、まさか、貴様、そこまでしたのか!!!!?」
ぬらりひょんには、ネタがバレてしまったみたいだ。
「あぁ、壮大なネタバレといこうじゃねぇか!!!!!!」
試合前日のことだった。
親父に事情を話して、俺はとある場所に行った。
ひとみや銀子さんは置いて行った。
心配かけたくなかったから。
「……なにか、用ですか?」
如月桐火が、俺を睨んだ。
「あぁ。呼んでくれよ。ニャルラトホテプをなぁ!」
がちゃり、と扉が開く。
「? おかえりなさい。どうしました?」
帰ってきた、如月だった。
「先生」
涙目で、彼女が先生に話しかける。
「大人に囲まれてます」
「あらー。嫌ですネー」
「それで、その」
「?」
「須藤与一さんが、こちらに来ています」
「須藤与一が?」
「それで?」
軍隊に周囲を埋め尽くされながら、俺とニャルラトホテプは外にいた。
「いやですねぇ。お互い敵対しているのに盤外戦法? 嫌らしいですねぇ。というか、今更何か話すことがあるんですかネ? もう正直どうでもいいというか」
「あぁ。俺が思うに、幼馴染ちゃんが負けた時点で色々計画破綻しただろ」
「……」
「お前が幼馴染ちゃんに何かしようとしていたのは知ってるぜ。でも、負けた。俺も想定してなかった。だけどな。俺はお前を知ってる。間違いなくここから、ちゃぶ台ひっくり返して終わりかねないっていうのも知ってる」
「それが何か? 言われて説得されて止まる存在だとお思いで?」
「いや?」
俺の切り札。
それはこれだった。
ここからが、勝負で。
命を、捨てる覚悟で。
この邪神に、挑む。
「ーー契約しろよ、ニャルラトホテプ」
それは、悪意を煮詰めた妖気だった。
「は?」
全てを殺しかねない、不機嫌なオーラだった。
「は? 一体何をほざいているんですか?」
「……」
死ぬ。
その気持ちだけが、ふつふつと湧き上がる。
だが、これしかない。
俺ができることなんて少ない。
でも、一個だけ自分に自信が持てることがあった。
「別に契約じゃなくてもいい。お願いでもいいぜ。俺からの要望はこうだ。--こっから何が起きて、どうすれば俺たちが大団円のハッピーエンドを迎えられるか教えろって話だ」
「--!」
そうだ。
これが俺の一発逆転のチャンス。
ニャルラトホテプに、計画していたシナリオを全部ネタバレしてもらった上で、ここからでもハッピーエンドを迎える可能性を教えてもらうことだ。
クトゥルフTRPGだってそうだろう?
一週目のワクワク感。
二週目以降の、知ったうえでの楽しみ方。
それを意図的に引き起こそうって言うんだ。
「そして試練の内容も、俺に決めさせろ。いいか、よく聞け」
この試練が通るかどうかで、天秤が釣り合う。
勿論、自信はない。
ただただひたすら怖い。
それでも。
それでも。
賭けたい。
全てを、守る為に。
「直接俺がお願いするから、叶えてくれ」
「……。……? 一体何を」
「ちゃんと話は聞けよ。”お前の本体に目と目を合わせて直接お願いしてやるから言うこと聞け”っつってんだよ!!!!!!!!!!」
「!!!!!!?」
ニャルラトホテプの本体。
実は人間形態がニャルラトホテプの本体ではない。
旧支配者、神話生物としての姿が存在する。
勿論、直接見るだけで正気度は落ちていく。
確か、1Ⅾ10/1Ⅾ100だった。
成功しても1~10減る。
失敗すれば1~100ほど正気度が下がる。
健康体であればSAN値、正気度は80くらいだろうか。
判定に失敗すれば、一気に正気を保てず不定の狂気というものに陥る。
ーーだから、これはタイマンだ。
そんな存在を目と目を合わせてお願いするから叶えろと言っている。
遠回りな自殺だ。
しかし、俺の中の特性で一つだけ自信があるものがある。
俺は、それに今すべてをゆだねようとしている。
「--精神耐性っ! なるほど、須藤与一。小笠原ひとみの呪詛の耐性、賀茂モニカやサキュバスの術式を弾き、九尾の狐の精神汚染を弾いた実績を、信じて勝負を仕掛けようというのですネ! は、はは! ははははは!!! そんな!? そんなわずかな可能性に全額ベッドしようと!?」
「あぁ。賭ける価値があるだろ。勝てるとしたらこの手しかない。嫌だぞマジでお前に頭下げるの。だけど、……ほら。気分は良いぜ? お前の本気で驚く顔が見れたからな」
「……ふ、ふふ。なるほど」
「あ、ついでに俺が勝ったらお前もう干渉するなよ」
「追加していきますねぇ。まぁいいでしょう。ん~。なるほど。ふむ……こちらからも条件を提示しましょう。この薬を飲んで10秒、目を合わせた後にお願いしてください」
スーツの胸ポケットから、瓶に入った薬を取り出すニャルラトホテプ。
「これは?」
「聞くなら、追加の対価を」
「いや、いい」
「いやぁ。ふふ、あはは。そうです、か。ふぅ……。勝つ気、なんですねぇ」
月を見上げたニャルラトホテプの顔が見えなくなった。
「私と契約をした人はみな狂いました。人は愚かです。欲が深く、濁り、揺らぎ、沼にハマる。そんな人間の在り方が、私は面白いと思ってしまう。ーーですがネ?」
ニャルラトホテプが、微笑んだ。
「それでもなお、自らの正義を貫く人間を、私は尊いと思う。良いでしょう。須藤与一。勝負です。ふふふ、自らのシナリオのネタバレを願った人間がいるとは。しかも、僅かな勝ちの目を見つけて。ふふふ、あはははは」
世界が、真っ黒に染まる。
俺はそれと同時に、薬を飲みほした。
夜の荒野。
悪意のない混沌。
狂気の海。
月の光。
地獄。
地獄。
地獄。
天国。
救いのない闇。
嘲笑う痛み。
ーーーーー目が、合った。
「あっ」
言うならば、SAN値チェック、初っ端から失敗。
精神の地獄の始まり始まり。
「あっ、あぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
0.01s
脳の細胞隅々までその衝撃が行き渡る。
声を無意識に上げても、許される気がしている。
見ている。
あの神がこちらを見ている。
それは。
円錐形の顔のない頭部に、触手と手を備える流動性の肉体。
顔がなく、代わりに舌を連想させる赤い触手が伸びている。
燃える三眼と黒翼を備えた、異形の姿。
多数の星で満たされた顔、黒いスフィンクス。
三重冠をかぶり、ハゲタカの翼、ハイエナの胴体、鉤爪を備えた姿。
巨大な翼あるマムシ。
あぁ、なんと形容しがたいことか。
網膜に映るたびに姿を変えていく。
甘かった。
俺は精神耐性があると思っていた。
違う。
怖いという感情に、蓋は閉められないのと同時に。
全て耐えきっていたのは死穢れや恋愛感情であって。
根源的狂気と戦ったことは、無いのだから。
死の恐怖とは【餓者髑髏の花嫁】と【ひとこいしにんしきのとり】で経験済みだった。
でもそれだけだ。
何か常に耐える修行をしていたわけではない。
まるで、太平洋のど真ん中に突然落とされて、周りに島が一つもない時のような、根源的恐怖。
0.02s
長い。
まるで時間が間延びしているようなくらい、長い。
10秒、10秒くらい耐えられるとそう思っていた。
でも、1秒経つ前に、精神が急速に摩耗していくのが分かる。
何故? どうして?
「あぁそうそう!」
人間形態のニャルラトホテプの声がふと聞こえた。
「今回投与した薬は、極限の集中力を手に入れる薬です。今の貴方は、1秒が100秒に感じられるほど集中することができると思います。ですので、頑張れ頑張れ♡」
ーークリアさせる気、無いじゃん。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
言語が溶けていく。
もう何も考えられないくらい、脳みそがスパークしていく。
何でこんなことをしているんだろう。
こんなことをしなくても、生きていけたはずなのに。
みんなが死ぬ程度で、俺がこんなことをする必要はなかったのに……。
0.05s
yaabai
sinu
dameda
ore
mou
damekamo
sirenai
ne-
a-
tasukete
tasukete
tasukete
nande
dousite
0.07s
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、みんな死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね
0.08s
死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
0.09s
おれ、なんで、こんな、めに
アパートの一室。
真昼間に起きて気分よく漫画を読んでいた時の事だった。
コンコン、とノックの音が聞こえたので扉を開けると、親父がいた。
「繧」
「よ、じゃねぇよ……。どうしたんだよ急に。珍しい」
「縺?d繝シ荳惹ク?縲り憶縺九▲縺溘o縺雁燕縺後>縺ヲ縺上l縺ヲ縲よ悽蠖薙↓蜉ゥ縺九k」
「? なんだよ改まって。助かる……?」
「縺。繧?▲縺ィ荳ュ蜈・縺」縺ヲ縺?>縺具シ」
「あぁいいけど」
「「縺企が鬲斐@縺セ縺」」
「はーい、ん? え? は?」
親父の背中に隠れるように、もう一人の声が聞こえた。
振り返ると、最初に見たのは足元の草履だった。
赤が基調の振袖、茶色の袴……、振袖は金刺繍の入った上等な意匠。
レトロモダンを感じさせるような服装で、墨を垂らしたようなきれいで長い黒髪。
物憂げな顔をした、すごい、美少女がいた。
なんだこの娘。ゲームにこんな娘いたっけ……? いや、いないはずだ……和服少女なんて一人も……巫女服はいたけれども。普通にみんな現代ファッションだったよね? あるぇ?
「え、っと。どなた?」
「……小笠原ひとみと申します。何卒、宜しくお願い致します」
あの時、俺なんも考えてなかったなぁ。
たださ、助けたいなぁって、それだけだったもんなぁ。
餓者髑髏の花嫁とかさ、なんも考えてなかったよなー。
進路の事とかちゃんと考えててさ。
立派だよ。
本当に、立派だ。
窓が開いていたのか、カーテンが風でなびいていた。
積み重ねられていたであろう机やいすが崩れており、見るからにぶつかってしまったのだろうと推察できた。
部室の真ん中に、少女。
――全裸の、少女がいた。
「どぅわっちゃぉああっおあ!?」
「--、っ、ぁ」
絞りだしたような声で、必死な顔で手を伸ばしたものだから……、観察してしまった。
髪は伸び切ってぼさぼさな金髪。
きれいな肌で、白っぽかった。
どこか栄養不足のように、がりがりな体つき。
……すぐに今の状態に少女は気付いて、声にならない悲鳴を上げて、体を隠そうとする。
髪で隠れてしまうほどのきゃしゃな体は、ハリネズミを想起させた。
「--ぁ、ぁーーー、ぁ……っぁぁ」
小さな声で、泣いていたのだ。
あの時も、俺は何も考えてなかったよ。
なんだよ。この出会いでにんしきのとりとか想像できねぇだろ。
でも、いろはは頑張ってるよ。
スゲー頑張ってる。
出来ること、頑張ってるよ。
俺なんでこんなことしてるんだっけ。
いやさ。
何かふと思っちまったんだよな。
みんなさ、なんか俺のとこで暴れまくるからさ。
幼馴染ちゃんなんていつも暴れてるし、あれ時代が時代だったらジャイアンだったよなーとか。
メスガキママなんて、マジでいつも心配になるレベルで語尾に♡ついてるし。変なやつだよな。たまに変な声上げるし。
銀子さんは……、まぁいっか。
俺さ。
そんな風にさ、みんなに構ってもらえる存在なのかな?
だってさ、俺陰陽師の才能ないんだ。
フィジカルギフテッド? は、笑えるよ。
望んだ道に行けない才能なんて、あっても意味無いだろ……。
父さん、母さん。
俺さ。
産まれてよかったのかな?
前世の記憶なんて持っちゃってさ。
本当はさ。
産まれない方が良かったんじゃないかってずっと思ってたんだよ。
優しい二人だからさ、受け入れてくれたけど。
いつも異物なんだろうなって思って生きてきたんだよ。
あーあ。
そうだなー。
例えば何も努力しないでさ、チート使って無双とかしたかったよな。
んで、それに惹かれた女の子が俺とハーレム作るの!
今みたいに面倒くさいやつらじゃなくて、素直なやつで固めたいよな。
ヤンデレの極みみたいなやつらばっかだしさw
んでさ、鬱ゲーの世界なんて行かないよ。
幸せな世界に行きたいよなー。
妖怪がいない世界が良いな。
そしたらきっと幸せだよ。
誰も傷つかない世界だ。
それでいいーーーーーー。
「私、餓者髑髏なんです」
餓者髑髏と自分がイコールだと考えている、少女がいた。
「今まで人間を食べても満たされなかったお腹が、貴方なら、満たせるような気がして、貴方が近くにいただけで、こんなにもお腹いっぱいだったのに、あ、はは、あはぁ、貴方を食べたい、取り込みたい、--一緒に、なりたい。もう、もう気持ちが抑えられなくてぇ!!! 食べ、食べさせて、ください、もう、もうお腹が空いて、わかんない、満たされてるはずなのに、た、食べたくて、食べたくてぇ!」
恋をして、人間になった少女がいた。
「『ぉぉ、ぉおお……、あぁ。あぁ……、よい、ち……すどう、よいち…………、良い名だ、良い名だねぇ、須藤、与一』」
自らの悪逆と向き合って、寄り添おうとする女性がいた。
「与一さん」「『旦那様』」
声が聴こえる。
「与一さん」
声が聴こえる。
「坊ちゃん」「与一様」
声が、どうしようもなく聞こえる。
「与一」「与一」
父と母の声が聴こえる。
「与一くーん」
幼馴染ちゃんの声が聴こえる。
『与一くん♡』
メスガキママが書いた文字が、浮かぶ。
「与一」「須藤与一!」「与一くん」「須藤」「与一」
「与一ぃ!」「須藤さん」「与一よお」「与一」
声が。
声が聴こえる。
どうしようもなく、声が聴こえる。
背中を、押される。
頑張れと、誰かが言っている気がする。
負けるな。
負けるな、与一。
ーー負けるな、俺って。
「でもさぁ! 俺いつも、行き当たりばったりでさぁ!」
その声に抗うように、叫んでいた。
「いつもそうなんだよ! 何も考えてなくてさ! 俺の意思なんて一つもないんじゃないかってくらい、いつも行き当たりばったりなことしかしてないんだよ!! みんなごめん!! 俺はそんな尊敬できるような人間じゃないんだよ!! 前世から、俺、なんも……なんも考えずに生きてきて!!! 頼られる人間じゃないんだ!! もう、頑張れるかも分かんないんだよ!!! 俺どうしたらいいんだよ!!!! ただのモブが……どうしたらいいんだよ……!! 俺は、ただのモブでーーーーーー」
ーーだって、いつも誰かを助けようとして物事に突っ込んでいくではないですか。私たちを置き去りにしてでも人助け。……気付いたら、誰か救われてる。
ーーじゅっど、ごどぐでぇ、ざびじぐでぇ、でもあなだがいだからいばばでいぎでごれだのにぃいいい
ーー良い名だ、良い名だねぇ、須藤、与一
「----畜生、畜生ぁあああああああああああああああああああ!!! うわああああああああああああああああああああ!!!!」
0.10s
「あ”あぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
神話生物が、驚く。
目が、蘇った。
時としてただの0.1秒。
それでも、今までこんなことはなかった。
ーー耐えるのか?
もしかして、耐えられるのか?
それは 赦し難い/祝福したい。
ただの人間が、耐えられるはずがない。
0.01秒が経つだけでサイコロを振らされているような状態だ、無理に決まっている。
その筈だ。
筈、なのに。
「----もう俺はぁああああっ、いっつもバカ過ぎんだよぉおおおお見切り発車バカぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
恐怖が宿っているのに。
狂気を孕ませているのに。
抗う。
まだ抗う。
0.21s
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
その目の輝きが、あまりにもまぶしくて。
ーーニャルラトホテプは、試練を与えた。
「がっ!?!?!?!?!」
視線を、増やした。
邪神の体から目玉が増えたのだ。
ただの人間であれば、この時点で死ぬはずだった。
なのに。
なのに。
「っっ、がぁ、っあああっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
この人間は、まだ抗う。
そして、至る。
ーー1秒経過。
須藤与一にとって、100秒。
「ぁ、ぁぁあああ」
鼻血が飛び出る。
意識ではなく、人体が付いてこれなくなった。
それでも肉の形を保てていたのは、皮肉なことに、フィジカルギフテッドだったからに他ならない。
そして。
2秒経過。
須藤与一の目玉が片方、運悪く(ファンブルで)落ちた。
それでも、残った片目がまだニャルラトホテプを睨んでいる。
5秒経過。
喉がつぶれた。
髪が半分抜けた。
右腕が白骨化した。
左手の3本指が壊死した。
足の皮膚がずり落ちた。
歯が抜けた。
耳から血がどばどばと垂れた。
意識が半分飛んだけれど、それでも目だけは必死に睨みつけている。
7.42秒
残り時間。体感218秒。
命が尽きるか、目が潰れるか、それともーー。
行け、行け。
気付けば、邪神が祈っていた。
行け、行くのだ、耐えろ、まだ愉しませろ、死ぬな、まだ死ぬな。
それは。
画面越しのオリンピック選手を応援するような期待感。
金メダルを取れるかもしれないとワクワクするような童心が、ニャルラトホテプの心を満たした。
あり得ない。
自らの姿を見ておいて、無事でいられる人間などいない。
なのに。
それなのに、折れない。
心が、折れない。
ここまでくれば、記憶も確実に吹っ飛んでいる。
自傷や加害感情に満たされるはずなのに。
まだ、折れない。
どうしても折れない!
頑張れ、頑張れ。
ーー残り、200秒。
下半身だけがずり落ちた。
残り100秒。
頭蓋骨に残された脳、片目と喉と肺、心臓以外は、白骨化していた。
下半身はもう存在しない。
ーー終わりだ。もう、人間として死んでいる。
ゲームセットだろう。
……わずかに期待させてくれた、人間への感謝を告げて、視線を外そうとした。
しかし、外せなかった。
ーーまだ、生きている。
理解ができない。
なぜ?
なぜこんな姿になっても生きている?
そこで、ニャルラトホテプはようやく気付いた。
ーー式神契約か!!! 餓者髑髏の花嫁が契約した心臓付近と、にんしきのとりが契約した脳みそ付近だけが、無事なのか!!!!!!!
間違いなく、二人の過剰な感情が彼の命をつなぎ留めていた。
ーーこの男の死は、決して奪わせないと。
あぁ。あぁ。
どうして。
人間とは、こんなにも尊く美しいのか。
ニャルラトホテプの感傷。
ーー100秒経過。
10秒は、経った。
経ったのだ。
そして、ぽろりと目を落とした須藤与一が、口を動かした。
「Yぁ、ク、ぞkU」
「--お見事。御、見事」
夜の荒野が終わる。
壊れていく死に体の男を触手で抱きしめて、完全に蘇生させた。
「人間の意地。見せてもらいました。これはサービスです。須藤与一、誇るがいい。貴様は人類史上、最も偉大な試練を越えたのだ」
「勝った、のか」
「えぇ」
「……俺、死んでなかった?」
「いえ? 別に、ネ」
「そ。じゃあ教えてもらおうか。神のシナリオと、攻略方法をよ」
「えぇ」
「……? な、なんだよ、すごい殊勝な顔をして」
「……ふふ。どうしてでしょうかね。高揚、でしょうか」
須藤家。
俺は居間で正座していた。
「ってなわけで、全部の情報手に入れたぜ! ごふっ」
「「おバカ!!!!!」」
小笠原ひとみと須藤いろはに全力のパーで叩かれる。
痛かった。けど、申し訳なさが先に来て何も言えなかった。
……ちぇ。我慢比べに勝っただけでそんな怒ることないだろうに。
(何かあったような気がしたけれど、記憶が曖昧だった)
「まぁまぁ。とりあえず何とかなりそうな気配あるから、一緒に作戦考えてくれって」
「「はぁ……」」
二人を座らせて、紙を何枚か見せる。
「如月桐火は3人合体をすることで最終形態になるから体から無理やり引きはがさないとバッドエンド。剣豪ぬらりひょんは結界斬れるから結界に近づけた時点でバッドエンド。ぬらりひょんの核は今仕込み刀にあるからそれを壊せば勝ち。如月桐火が結界外に出て空を飛んだら流星モード突入して止められなくなるからバッドエンド。色々ルートあるんだな」
「じゃあ如月桐火が逃げないようにステージに立たせたうえで結界で封殺確定ですね。あとぬらりひょんを別の場所に行かせないと」
「あの、これについて相談です! 私、幻覚能力解禁しようと思うんです」
「え!?」
いろは、何を考えて……。
「ふと、とある人に相談に乗ってもらってる時に気付いたんです。この花の能力、幻覚能力は【にんしきのとり】としての能力じゃない。人として、生きる為に目覚めた能力なんじゃないかって。だから、私は人としてこの力を使おうと思うんです。この能力だけなら、誰も【にんしきのとり】って気付かないし、……二人の役に立てます!」
「いろは……」
「だから、さっき会場を回って花を咲かせておきました。ぬらりひょんを、いけるとこまで騙しきります」
「--ありがとう、いろは」
「えへへ」
「でも、どうやって3人を剥がすんです? 与一さん」
「そうなんだよなぁ」
そこで、チャイムが鳴った。
銀子さんが、誰かを部屋に入れた。
「たのもー! 須藤与一さんですね!」
「お、お前ら……」
それは。
【寺生まれのG】東 呉十郎。
【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人
【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和
の3名だった。
この3名の共通点は、安倍怜音と交渉した人間ということだ。
「実は安倍怜音が、僕と戦闘した後に、僕の戦闘技術を須藤与一さんに1時間分伝えてくれって言われたんです」
東が困惑したように話す。
「安倍怜音が? なんで?」
「あ、与一さん!」
ひとみが紙を指さした。
「安倍怜音シナリオってあります! どうやら【獅子強攻】安倍怜音さんは【観測拒否(アルベレイター)】っていうのを使って軽度の未来予知ができるみたいです! それで安倍怜音さんが選んだシナリオは、須藤与一に戦闘技術と禁術武器を渡すことでぬらりひょんと単騎戦闘をさせようとしていたんです!」
「えぐ」
「足止め時間3分くらいの成果らしいです!」
「しょっぱっ!!? いや、それくらいぬらりひょんも強いよな」
東が胸を張って伝える。
「とりあえず門外不出なんですけどね! でもとりあえず約束は約束ですから! 与一さん、暗殺術教えますから一時間で覚えてくださいね」
「えぇ……マジかよ」
「その後は俺だ」
常盤は地図を広げた。
「俺も戦闘技術を提供しろと言われた。だが、俺の本命は守る力だ。敵を倒す力じゃない。……要人守護の為だ。式神を用心に見立てるのであれば、活きてくる力だと思う」
「めちゃいいな……」
「くっくっく、そして我だ」
「中二病……」
「初対面でそんなこと言わないでよぉ!!!! えーと、最初は相手にデバフをつけるアイテムを貸すかなぁって思ってたんだけど。ちょっとその紙見せてよ。使えそうな禁術見繕ろうよ?」
「ありがたい!」
「まず僕からですよ!行きましょう!」
「あぁ!」
俺は東と修業を始めた。
いろはは、銀子を呼んでひとみも混ぜて相談した。
「与一さんが修行パートをしている間に出来ることやりましょう」
「そうね、でもどうしたら」
「まず与一様のお父様に情報共有。使える人間はどんどん使いましょう。幼馴染ちゃんとメスガキママに連絡を取りませんか?」
「分かったわ」
ひとみが幼馴染ちゃんとメスガキママとの連絡用の式神を取り出す。
「幼馴染ちゃんが安倍時晴に連絡をすると。それ経由で安倍怜音と接触して仲間にしようと思ってるそうです」
「なんと!」
銀子が驚く。
いろはは常盤と忍坂に相談を持ち掛ける。
「警備上の事は任せてほしい。後は、そうだな。同学校の選手にも声をかけよう」
「あ、じゃあ僕も……んっ、我も同胞に声をかけようぞ」
「分かった。やろう」
「任せてくださいな。妹分がいるんですもの。協力しますわ」
安倍、時晴、小笠原雹香が承諾。
「嫌ですわ~~~! 私の花道がちょいださになってしまいますわ~~~! え? 最後まで戦って立ってたら優勝譲る? やりますわ~~~~~!」
「ごめんなさい。神様、ダメージが深くて。蘆屋さんすごいね。今度お話させてほしいな。手伝えることは言ってね。手伝うから」
「むぅ。難しいお話なら切る。ん、ケーキ? 分かった。今そちらに向かう。
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【祟神サーの姫】姫川 杏子
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
協力関係成立。
「私も弟子に明日めいれ、相談しましょう」
【夢幻現の如し】伏見 遊星 なし崩しに計画に埋め込まれる。
「どう、いうこった」
安倍怜音が、呟いた。
須藤家に、今回の選手たちが集まっているではないか。
「こんな光景、一度も……」
「大会中止はダメなんですの?」
「駄目ですわ~~~~! 私が優勝できなくなってしまいますわ~~~!」
「日輪様来てるし、難しいかも」
「くっくっく、メンツか」
「大人が何処まで介入してくれるかじゃない?」
「でもみんな戦闘要員じゃないよね。陰陽師の訓練受けていても」
「どの道パニックが発生する可能性あるのか」
「負けた方が悪いくらい言われますわね」
「警備上の不備は付かせたくない。上手い案は無いか?」
「客にも説明して結界張るの手伝ってもらう」
「きつくねぇか?」
「こんばんはー。うわーみんないっぱいいるねー! 与一くんの家に人がいっぱいいるの、うれしいなぁー」
「おっ二回戦ガールだ!」
「言ったなー!」
「薙刀を出さないでくださいまし!狭いですわ!」
【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋 来訪。
「どうだい?この光景」
安倍時晴が怜音の肩を叩いた。
「……は、お前の力ってか。……羨ましいよ、天才は」
「違うさ。僕じゃない。須藤与一の力だよ」
「……須藤、与一が」
「……僕が声をかけても、こんな光景見れなかったよ。悔しいよ、安倍家として」
「……」
「君の能力を聞いた時は、血の気引いたよ。君は見えないところで、世界を救ってたんだろ? 僕には無理だよ」
「……そんな」
「ありがとう。次は僕らが君を救いたい。だから、一緒に。力を貸してくれ、怜音」
「--今更、そん、な。そんなこと言われてもっ!! 俺みたいな、落ちこぼれをっ!!」
「うるさい! 手伝え!」
ズバっと、時晴が切った。
「ーー本家ってやつはいつも勝手だ! 畜生! ……、ちくしょう……っ!」
「少々失礼」
急に銀子が電話を掛ける。
「夜も遅いです。保護者連絡といたしましょう」
【宮内庁】小笠原 遊里(おがさわら ゆうり)
「えー? そんな動きするぅ? こっちはごたごたして大変なのに。もー現代っ子はアクティブだなぁ。……九尾の狐。やりなさい。学生たちが蹴りをつけるというなら、しっかりつけさせなさい。我々陰陽師の意地を見せましょう。小笠原雹香がいるんです。我が家の誇り、存分に味わわせなさい。……一斉攻撃しちゃダメなの? そっちの方が楽じゃない?」
【陰陽庁 審議官】 蘆屋 道斬(あしや どうざん)
「緋恋がやると言っているんだろう? 任せる。娘を傷つけたら蘆屋がお前を殺す。分かったか?」
【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍 邑楽(あべの おうら)
【陰陽庁 戦闘部副部長】安倍 寺門(あべの じもん)
「時晴と怜音ちゃんをお願いします、狐様」
「すべて、お任せいたします」
【陰陽庁 教育式神】土蜘蛛
「おぉ~~~! 良いじゃねぇか! 若いやつらは血の気が多くていいぜぇ!!! やれやれぇ!!!!」
【京都 寺院連盟】東 喜左衛門(あずま きざえもん)
「確実に敵を殺すようにお伝えください。でなければ破門とも。……しかし、あの子もまだまだ伸びそうでしょう。頑張っていましたから。えぇえぇ。本当に、かわいい子ですよ。だから旅をさせたくなってしまってねぇ」
【西洋魔術学会 代表】リサ・ストロベリー
「あのバカ娘の頭のねじを締めておいてください。本当に、馬鹿で……。あぁ……心配です。心配です」
【内閣総理大臣】上野 聡(うえの さとし)
「私から大臣に伝えておこう。護国への尽力感謝している。我々は動くことができないだろう。伏して願う。どうか、この国の未来たちを――救ってくれ」
【五星局 現代怪異科助手】安倍 董子(あべの すみれこ)
「りょっす~。そっかぁ。ひとみちゃん、頑張ってるんすねぇ。あざます。教えてくれて。……。無理しないでって、伝えてください。あの子は、優しいくせに、つんけんしてるから気付きづらいんですけど、すごく無理して頑張ろうとするから……死なないで、って……おなしゃす」
こうして。
包囲網が完成していく。
一人の力じゃない。
全員の力が、合わさっていく。
神話生物事件を、解決に導くために。
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時間は、試合に戻る。
「だからなんだって言うんですかぁ!!! 私は、それでも負けない……あの時の魔法少女のように!!!!!」
苦悶の表情を浮かべながら、マーテル・キリカは立ち上がる。
いくら金〇を責められようと、何度でも立ち上がる。
しかし、精神は確実に蝕まれていた。
痛みが、彼を苦しめるに十分だった。
嫌だ、もうやられたくない、その気持ちだけが積み重なっていく。
そして、子供たちの決死の作戦は。
「……出番だよ、二人とも」
間に合った。
蘆屋緋恋が一瞬、結界を豆腐のように切り裂き、二人の人間を結界内に入れた。
「!? なんなんですか、そっちだけ結界斬れるなんてーー」
「卑怯とは、言わないでね」
来た。
来てしまった。
魔法少女の死神が。
感情を弄ぶ天才が。
賀茂モニカが!
「アーニャ。やるわよ」
「はいな~~♪」
突如彼女の隣に現れたサキュバス。
二人は手をつなぎ、その手をマーテル・キリカに向けた。
「貴女、男なんですってね。じゃあ、なおさら諦めなさい。--これ、馬鹿でアホでかっこいい鈍感男以外は効くんだから」
「詠唱開始! ビンビンな気持ちに乙女パワーフルドライブ! 日本の神様ごめんなさい! 真心全部狙い撃ち! 信仰よりもち〇こ見せろ!」
「絶歌、捧ぐ心は既に無し。愛より秀でて愛より憎し。言解れ(ことほつれ)、心縛(こころしばり)、呪詛に秘めしはいとし影。禁忌術式第3号-----言紡ぎ橋姫の縛、改」
ハートのビームが、正確にマーテル・キリカにまとわりついた。
「なに、これ」
「残念だけど」
マーテル・キリカが、賀茂モニカを見た。
「貴女もう終わりなのよ」
「ひ、ひぃぎぃいぃいいいいいいいいいいいいいいい//////////////////////////////!?!?!?!?!?」
それは、初めての責め苦だった。
恋心の過剰暴走。
今までニャルラトホテプへの信仰が全てだったのに、其の全てが強制的に賀茂モニカへの恋愛感情に移行される。
それもサキュバスが術式補助をしている、原典以上の威力を持った、最悪の呪いである。
そしてこれは、思い人がいればいるほど効果が高まる。
ニャルラトホテプへの過剰な信仰をうわ塗る恋心によって、元の信仰を求めてしまい、されにそれをうわ塗られる。
其の恋の病は、脳みそを確実に壊していく。
その効果により、感度、3000倍に達する。
「はい。スキができた。向こうもこれで楽になるでしょ」
時晴が叫ぶ。
「ナイスだモニカさん!! みんな聞いてくれ! こいつの金〇を蹴り続けて分かったことがある!」
「えぇ! 金〇! モニカちゃん今イケメンが金〇って言った! 金〇って言ったわよ!」
サキュバスのアーニャ、テンションが上がる。
「おそらくこの外套に特殊な効果がある! この黒い液体みたいなのから作られている外套を全部剥がした上で、致命の一撃を加えないと勝てない!!」
「イケメンが金〇を蹴って編み出した弱点!!!」
アーニャ、楽しい。
「--適任がいるわね。行きなさい、似非日本語魔法使い!!」
「似非ではありませんわ~~~~!!! でもまぁ」
「私を差し置いて、星を名乗る不届き者を懲らしめたいと思ってましたの~~! お~~っほっほっほ!」
シルク・ストロベリーが取り出したのは、禁術用の道具。
勿論、とある生徒からの借りパクである。
「光の心臓よ」
それは、無制限の魔力生成を可能とする唯一無二の禁術。
素材は光の中から生まれる精霊の心臓と言われているが、詳細は不明。
代償は、今ある魔力全てを捧げなければ止まらないというブレーキ不在というクソ仕様である。
「ーー魔法を使いたいのでしょう。では見せてあげます。【現代魔女】の、最強の魔法を。賀茂モニカに見蕩れる時間はないですわ~~~! 竜の喉笛、ハイルカンの爪、ジンジャードールの関節球体、混ざれ、混ざれ、火の中に、花の血潮、海辺の大口。混ざれ、混ざれ。光の中にーー」
それは一種の錬金術のようだった。
唱えた素材が彼女の持っていた素材カバンから飛び出し、光の心臓に取り込まれていく。それは、禁術と魔法を組み合わせたような、とびきりのーーーーー。
「会場全員で作った結界、ぶち壊して差し上げますわ!!!!!! 【光の巨人の涙(Canon a 3 Violinis con Basso c. / Gigue)エクストラバージョン!!!!】行ったれぇええええええええええええ!!!!!!」
「馬鹿それはやば」
安倍怜音の言葉をかき消すほどの光量。
光の心臓という禁術を炉にした、極限のレーザービーム。
それは神話における、竜の咆哮すら上回る。
「が、ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!??」
剥がれる。
彼女を取り巻いていた黒い外套。
ーーショゴスが、剥がれていく。
「っ、まけない、負けないぃ!!! 私は、負けない、響ちゃん、小登里ちゃん、はじめての、ともだちの分まで……負けない、負けないぃいいい!!!! 【星零れの狂気山脈(アヴァランチ)!!】」
それは「山」を具現化したような盾。大自然を盾に見立て、決して揺るがぬ壁が生まれた。
はずだった。
「ぶち抜け【光の巨人の涙(Canon a 3 Violinis con Basso c. / Gigue)】!!!! 私はこれで優勝してぇ~~~~~!!! ママに褒めてもらいますのよぉおおおおおおおお!!!!!!」
バカの一撃は、山を抜いた。
「--まだです! これは、越えさせない!!!!!【一河威卿(ラブカ・ラブカ)!!!】」
黒く触手の生えた魚が二匹。ぐるぐると周り、彼女の前に7枚のシールドを貼る。
一枚目を破壊して、止まる!
「ぐ、ぬぬぬぬ~~~~!!!! 皆様、続いてくださいまし!!! この無理筋は、長くはもたないですわ~~~~!!」
その言葉に反射されるように、小笠原雹香が瞬時に跳躍する。
「永弓(ボン・アヴァン)」
シールドの、2枚目を砕く。
松前鈴鹿が大鹿に乗って鉈を振りかざす。
「復讐鉈【ウェンプリコロ・ピッ】」
3枚目のシールドが、爆ぜる。
安倍時晴が右手に太陽を生成する。
「青龍、玄武、概念武装発令!! 最終奥義!!【極点天照大神】」
シールドが4枚、いや5枚目まで割れる!
東が拳に溜めた闘気を、最大まで放出する。
「我が肉体は爆発する! 【零断ち】」
シールドが、6枚割れた。
「--まだ、まだぁああああああ!!!」
如月桐火の召喚した魚が、加速する。
シールドが、増える。
再度、7枚に!
「--【観測拒否(アルベレイター)】ぁああああああああああ!!!」
バシャンっっっ!!!!!!!!!!!!!
魚が、突然爆ぜる。
いや、違う。
ーー安倍怜音が選んだ未来の中に、魚が限界を迎える未来があっただけだ。
「ありがとー。怜音くん。間に合ったねー。じゃあ、いくよ」
それは、舞のようだった。
ゆっくりと矛先を構えただけだった。
それだけで、神聖な空気を感じさせた。
「これ、二つ名じゃなくて技名なんだよー。土筆ちゃん。【今毘沙門天】」
それは、奇しくも。
【剣豪】ぬらりひょんと同種の技。
彼は、「境界斬り」と言った一太刀。
それを、都度17回同時に発動するだけの技だ。
「が、っ」
シールドは全て消えた。
全ての黒衣が、剥がされた。
制服だけになった、マーテル・キリカ。
「は、はは」
マーテル・キリカは嗤う。
「い、きてる。生きてる! 殺せなかった! みんな、私の事殺せなかった! 勝った! ここからでも、私はまた元の力を戻せる! 万事休すだ、勝った、勝ったんだ!!!」
飛び散っていた黒い液体が、再びマーテル・キリカの元に集う。
しかし。
足りた。
残念なことに、手は足りていたのだ。
「馬鹿ね、忘れたのかしら?」
強烈な関心。
意識が強制的に彼女に向けられる。
そう。
賀茂モニカの元に。
「幼馴染ちゃんはね、2人ともって言ったの」
賀茂モニカに肩を貸されて立っている人間に、マーテル・キリカは今気付く。
「縁があったのよ。本当に小さな縁。たった少しだけ、昨日言葉を交わしただけ。でもね、そのおかげで私は彼の事を覚えていた。彼の力も覚えていた。聞きなさい魔法少女。貴方が敵にしたのは、陰陽師なのよ」
「--あんがとよぉ。賀茂の、モニカ。よぉ時晴。なんてザマだ。蘆屋もふざけるな。手抜くな。その他天才どもも腑抜けすぎだ。なら任せろ。俺も、……陰陽師なんだよ!!!」
腹に穴が開いて、緊急治療でまだ治り切っていない男が。
彼は血の気の多いタイプである。
それこそ安倍時晴に喧嘩も売るし、賀茂モニカにも喧嘩を売るし、蘆屋緋恋にも喧嘩を売る。
須藤与一だって、倒したい人間の一人にカウントしている程度に、血の気が多い。
だが、悪の道は進んだ覚えは一つもない。
彼は陰陽師だ。陰陽師なのだ。
土御門家の人間としての役割を果たそうと、必死なだけの陰陽師なのだ。
だからこそ許せない。
目の前の狂人を、彼は決して許さない。
誰も覚えていない。
誰も覚えていないのだ。
彼の右腕には陰陽装甲のガントレットがある。
これを使うことでパイルバンカーのように術式を相手の体内にぶち込むことができる優れものだ。
そう。
あの時の戦いで、彼は。
腹に一撃を当てている。
誰も知らない。
腹に穴が開いても、術式を一切止めず、意識を保ち、痛みに苦しみながら、麻酔を拒否し、一晩一切寝ず、陰陽師の責務を果たそうとした男の意思を。
賀茂モニカだけが、それを認識していたことを。
右手を突き出し、彼は叫ぶ。
【土蜘蛛の弟子】土御門 松陽(つちみかど しょうよう)。
これまでの全ては、この一瞬の為に。
「ぶち抜け、【勾玉獣華激戦(デストロイ・ダイナマイト)】!!!!」
爆ぜた。
制服しかまとわぬ、マーテル・キリカの腹が、爆ぜたのだ。
「--あっ」
黒い水が、砂になって落ちる。
マーテル・キリカは、膝を着き、荒く乱れた息のまま、血を流し、びしゃりと地面に倒れた。
何度も立ち上がろうとして、そして。
最後は、気絶するように倒れた。
マーテル・キリカ、戦闘不能。
勝者ーー。
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
男が吼える。
腹に穴を開けながら、血みどろの包帯をまとって吼える。
それは。
天才たちによってつくられたレールの上を走っただけなのかもしれない。
それは。
天才たちが最後まで追い詰めた結果を、かすめ取ったと言われるかもしれない。
それでも、男は吼える。
陰陽師として、一矢報いたその事実に、ただただ吼えていた。
「いいとこ取られましたわ~~~~~~」
シルク・ストロベリーが倒れて不貞腐れる。
体力は既に無い。あの一撃に全てを込めていたからだ。
「でも山に穴を開けて追加でシールド一枚破るのはおかしい火力ですわね」
小笠原雹香も座り込む。
「でも、僕らでケリを付けれて良かった。これは高校生の大会だからね」
安倍時晴が笑って倒れる。
「おう時晴。お前不甲斐ないだろ。天才なんだから俺がいなくても解決しごふっ」
血を吹いて倒れる土御門松陽。
そこに静かに、涙をこぼす男がいた。
東 呉十郎がその男の元に行く。
「大丈夫ですか! もう終わりましたよ。大丈夫です!」
「あぁ」
安倍怜音が手元を見る。
スマホが壊れていた。
【観測拒否(アルベレイター)】は、今まで観測するだけの術式だった。それを、怜音は吹っ切れたように未来を選んだ。
自分の望む幸せを掴むために。
世界の為ではなく、自分の為に。
彼はもう未来を予測しなくていい。
未来は、自らで掴むものだと、この戦いで気付けたから。
「あぁ」
スマホを抱きしめるように、彼も膝を着いた。
「生きてる、俺……生きてる……」
ぽろぽろと溢す涙は、何故か拭う気になれなかった。
「緋恋」
賀茂モニカが蘆屋緋恋に話しかける。
彼女だけが、戦闘態勢を解いていないからだ。
「終わったよ、緋恋」
「……残念だけど、終わってないんだなーこれが」
「え?」
「--来る」
「痛っ」
安倍時晴のほっぺから血が流れる。
「ん? どうした天才、痛っ!?」
土御門松陽の肩から血が噴き出る。
「なんですの~? 今更怪我ですの? ダサいですわ~」
シルク・ストロベリーが立ち上がり、土御門の方に歩く。
「ダメ」
いつの間にかいた蘆屋緋恋が、シルク・ストロベリーの襟を強く引っ張って押し倒す。
「ぎゃん!?! ちょ、一体何を」
ガリッ。
「……What?」
地面が、割れた。
刀傷だ。
「……かまいたち?」
東がぼそりと呟く。確かにそれであれば納得できる。
しかし、違う。
蘆屋緋恋だけが、理解している。
「--みんなぁ、逃げてぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
会場の全員が手を翳して作った結界。
強度は九尾の狐が全力で抗っても30分保てるもの。
其の全てを揺るがすように。
結界が、”真っ二つに斬れた”。
「「「「「「「うわああああああああああ!?!?!?!?!?!」」」」」」」
阿鼻叫喚になる会場。
拡声術式で声が響く。
「皆さん落ち着いてください! 警備を担当している【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人です!!! マーテル・キリカは倒しましたが何かトラブルが発生しています! 警備の言う通りに避難してください!!」
「くっ、緋恋!!!!」
「モニカちゃんは行って。……はぁ。与一くん苦戦してるなぁ」
「与一くん!? これ、もしかして」
「うん。だから、逃げて。そして伝えて。ぬらりひょんは、裏世界越しに現実に攻撃することができる。で、これは偶然漏れ出した剣戟。意図的にやられたらみんな死ぬよ。だから、私が裏世界の攻撃を全部流す」
「!? な、そんなことが」
「出来るよ。えいっ」
突然薙刀を振りかざしたと思えば、強烈な金属音が鳴り響く。
そして、ステージが半分に割れる。
「任せてー。みんなが逃げるまで時間くらいは稼ぐからさー」
「--、はぁ。与一くんと闘いたいだけじゃん。いいよ、私会ったらおかしくなっちゃうし。助けてあげてよ。私たちが大好きなバカを」
「うん。私たちが大好きなバカを助けるよ」
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side 須藤与一
「『与一様。向こうの結界が斬られました!!!! 間違いなく、ぬらりひょんの剣の影響です! 現実で負傷者多数!』」
嘘だろ……。
途中まで、途中までは上手くいっていたんだ。
魔法少女、如月桐火との痛覚の共有、銀子さんの精神攻撃も効いていた。
上手く、やれてたんだ。
ひとみの一撃が入って、明らかに優勢に傾いていた。
でも、なんだ。
あいつ、なんで。
妖気が、増していくんだよ!?
もう勝ってもおかしくないくらいフラフラの癖に!!!!!
「はぁ、はぁ、はぁーー、はぁ、……くく、くっくっく」
ぬらりひょんは嗤う。
その顔に、俺は何処か覚えがあった。
あぁ、そうだ。
そういえば。
ニャルラトホテプに挑むときの俺の顔、こんな感じだった。
「覚えている……覚えているのだ。あの剣豪の事を。初めて見た、本物の剣を。美しかった。そう、美しかったのだ。人の使う剣の美しさたるや、なんということか。そうだ、須藤与一、ニャルラトホテプ様、斬りたい、斬りたいのぉ、どうしようもなく、斬りたいのぉ!!!!!!!」
ゴゴゴと地面が揺れる。
裏世界が【剣豪】ぬらりひょんの妖気に呑まれていく。
「思えば如月桐火と儂は似ていた。ニャルラトホテプ様に名を付けられ、そうあれかしと生きてきた! 如月桐火は如月桐火を演じる為、儂はあの剣豪の真似事ばかりして生きた!!! ニセモノじゃ、ニセモノの人生じゃった!! だが、否、否ァ!!!!! それでも此の剣が本物に至るのであれば、ショゴスとしてではない、剣豪として生きられるのであればーーーーー」
ひゅ、っと。
妖気が止まった。
「本望」
真横に、一閃。
膝から崩れるように、必死に回避する。
裏世界の明晴学園が、真横に真っ二つになった。
「ありえねぇ」
振り返れば、ひとみが出した骸骨の行進も、真っ二つになっていた。餓者髑髏は巨躯ながら、飛んで回避していた。
「斬れる。……斬れるぞ、は、はは! 斬れる! 斬れるぞぉ!!! 見ているか、佐々木小次郎よ!!!! 儂も斬れる!!! 斬れるんじゃあああ!!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんじゃお前。儂の剣を見とるのか?」
それは、とある島にいたときの事だ。
なんてことはない。そこで生きてただけだ。
老人がいた。
名を、小次郎といった。
それ以外の情報は全くなかった。
後世で男が佐々木小次郎と呼ばれるようになり、
この島の名前が、巌流島ということを知った。
老人は島に来て、刀を振るっていた。
一人で何をしているのかと確認をしようとしただけだった。
美しかった。
その刀は、あまりにも、美しかった。
思わず、そこいらにあった棒っこを持って、振り回した。
「こりゃあまた妙な生き物じゃあ。蛸か? いや、何じゃあやけに真っ黒じゃあないか。……。なんじゃお前。儂の剣を見とるのか?」
真似たのだ。
自分でも分からない。
ただ無性に真似て、自らの種族の名折れと言わんばかりに、真似出来なかった。
そこで目の前の老人の手を真似て作り振った。全く、振れなかった。
「ほう! まごうことなく化け物か! 面白い。ここは地獄に近い場所なのかのぅ。……どれ。握りが違う。形は上手く真似ているが、そうではない。力の入れ先は小指じゃ。小指に仏は宿るのじゃ」
僅かな時間だったが、指導もしてもらった。
すると海の向こうに船が来る。
それも、たくさんの船だ。
老人は何か驚くような悲鳴を上げて、諦めたように座った。
「弟子の不始末よ。どちらが優れた剣豪かで揉め、尻を拭くのは我らであった。向こうは必死よ。勝たねばおそらく死ぬ人間じゃ。儂は……、儂は。……疲れた。俗世に、浮世に……。あぁ--、剣だけを振って生きれたら、幸せだったものをのぅ」
その後の始末は無残なものだった。
美しい剣をした老人と戦った男。
互いの剣は美しかった。
しかし老人は破れ、息も荒くなり、
しまいには、同席していた相手の男の弟子に撲殺された。
老人は、一人で挑んでいたのに。
それから、ほどなくして自分は”儂”になった。
歩く。
山を歩く。
山賊に襲われ、斬られたが効かなかったので斬った。
美しくない剣だった。
敵も、自分も。
斬って、斬って、生きて、生きて。
結局、時代が、環境が。自分の存在を認めることはなかった。
自分の事はいい。だが、この剣技が日の目を浴びないことが残念でならなかった。
いつだったか、自分に仕えるように命令した人間がいた気がする。
誰かに仕える。
あぁ、それは素敵な言葉だ。
それは、種族として、奉仕種族として生まれたショゴスとしては、とても恵まれた話だった。
なのにどうして。
あの老人の顔が、ずっとちらつくのは……。
あぁ。そう考えればそうか。
もう、主と思っていたのか、”儂”のことをーーーー。
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蘆屋緋恋が薙刀を振るう。
裏世界から飛んでくる剣戟を、難なく弾いていく。
しかし、見えているわけではない。
直感だ。
直感で弾いているに過ぎない。いつ均衡が壊れてもおかしくない、そう思っていた。
「……これ以上は何もできない。なにより、負傷者が」
緋恋の周りには、戦いに疲弊した高校生たち。
そして、遠く離れた場所にマーテル・キリカが倒れていた。
事件は、そこで起きた。
『キリカ。大丈夫かい?』
ふわふわと宙を浮き、何かがマーテル・キリカの元にたどり着く。
それは。
魔法の、ステッキだ。
「あっ?!」
誰かが声を上げた。悲鳴のような声だった。
『まだ生きてるね! 良かった良かった! 今から回復させるね。大丈夫だよ、みんなを早く皆殺しにしよう! さぁキリカ! 陰陽師なんてぐっちゃぐちゃのどろどろにしちゃおうよ!』
ステッキの声は、ほがらかで、安心させるような声色だった。
「--もう、いや……」
【流星の魔法少女】如月桐火が、悲鳴のように声を上げた。
「せんせい、いや、神様が、くれた力なのに、負けた……負けちゃった……私じゃ、ダメ……もう、ダメ……。もう、神様に合わせる顔がない……如月桐火としても、マーテル・キリカとしても、役に……たてなかった……う、うぅ……ぅぅぅ……」
魔法のステッキが慰めるように、おずおずと隣に立った。
『キリカ……』
「ショゴスも剥がされて……友達二人も失って……もう、どうしようも……」
『そっか……』
ステッキが輝いた。
『じゃあもういらないかぁ』
「えっ」
ステッキから黒い触手が伸びる。
「え、きゃっ!?」
それは、波のようだった。
ステッキの質量を超えた触手が彼女を縛り上げていく。
「ぐ、がぁ、ああぁっ!!?」
『キリカ。君は素体だけは素晴らしかった。だからニャルラトホテプ様は君に力を貸して、この場所を混沌に突き落とそうとした。でも結果はどうだい? 何も出来なかったじゃないか。100%成功するはずだった計画をよく0%にできたよね。挙句心が折れて何もしようとしない。心を折るのは君の役目の癖に。役立たず。役立たず。役立たず。もういらないよ』
「ぇ、ぁ、ぁぅ」
『ここからは君の体に侵入して全部奪うよ。さようなら。如月桐火でも、マーテル・キリカにもなれなかったニセモノ』
「っ」
苦痛にもがき、涙をこぼし、如月桐火として生きて、奪われた人間。
彼は何も残せず、何も得られず、ただ歴史の染みとして、その命は無残に奪われる。
神による救いなどない。
あるのは、祈るような言葉のみだった。
「----たす、けて……っ」
「ちっ。クソが。俺行ってくるわ」
その言葉を聞いて、おもむろに立ち上がった人間がいた。
【土蜘蛛の弟子】土御門 松陽(つちみかど しょうよう)だった。
時晴が伏せながら怒鳴る。
「バカじゃないのか!! あれは敵なんだぞ!!」
「あ? うるせぇなぁ。助け求めてんだから助けるんだよ」
小笠原雹香も怒鳴る。
「貴方ね!? 青葉土筆が実況しながら説明していたでしょう!!」
そう、全員の認識として如月桐火は妖怪としてカテゴライズされた。
救う価値などはないのだ。
「あ? こっちは腹に穴開いて必死にこっち来てんだぞ。聞いてねぇよ。どうみても、あれは人間だろうが。人間は助けるんだよ。それが陰陽師だろうが」
おバカ、と言う前に土御門松陽は飛び出す。
「戻れ松陽!! 戻れ!!!」
時晴の声を無視し、血を零しながら土御門松陽は進む。
「あーくそ。焼きが回った。死にそうだ畜生。でもしゃーねーよな。なぁ。須藤与一。お前言ったよな、決勝で待ってるって。わりぃ無理そうだわ。すげぇ、頭回んなくてさ今。試合、もう始まってんだったけか。あ? いや勝ったんだっけか? 勝った気がするんだよ。ち、憶えてねぇ。何も、……思い、出せねぇ」
頭に靄がかかっていく。
血が、だらだらと腹から出てくる。
それでも、足は止まらない。
ぬらりひょんの斬撃すら、見えておらず、地雷原を、放課後の帰り道みたいに、歩いていく。
「あぁ、なんだよ……。俺は、明晴学園の、賀茂モニカの代わりじゃねぇんだよ……。俺は、俺だ……。畜生、天才どもがよぉ。いっつもそうだ。才能あるやつは、いつも俺たちを振り回す……。なぁ、ひでぇよな。チートだろあんなの。なぁ、どうすればいい? チート無しでこんなクソみたいな世代で、どれだけ頑張っても天才たちに、潰される人生……、どんだけ頑張っても、誰からも、褒められない、人生……。でも、そうだよなぁ、みんな……。お前らも、頑張ってるんだよなぁ……。まぁ、いい……いいんだ……俺たちは、同じ陰陽師……。……わるいやつから、みんなを守るために……」
その姿を、キリカは見た。
助けてと思わず”敵”に言ってしまったのに。
男が来る。
ふらつきながら、自分が害そうとした男が、やってくる。
ーー助けに、やってくる。
触手が弾かれるように土御門松陽の元へ飛び出す。
その心臓を狙って。
『邪魔するな死にぞこない! 万が一の可能性も残さないぞ! ここで死ね!!!』
その触手を、土御門松陽は見えていない。
視界は既に、真っ暗に染まっていた。
だから。
「あらよっと」
ばちんっ!!!!!!!!!!!
突然後ろから現れた妖怪に気付かず、触手の全てと魔法のステッキが、爆ぜて塵になった。
『あぇ?』
間抜けな声が一つして、魔法のステッキは消失した。
「よお。無事か?」
そこにいたのは。
【陰陽庁 教育式神】土蜘蛛だった。
須藤頼重が焦ったように駆け寄る。
「土蜘蛛さん!?!?! 一体何を!!!!」
「視線が消えたんだよぉあのうざったい視線が!! どうやら邪神様とやらはもうこの戦場に興味ないのさ」
その言葉を聞いて、触手に開放されたキリカはびくりと震えた。
「! 確かに……感じない! 救助を開始します!!! 蘆屋緋恋の指示に従って要救助者を脱出させましょう!!!!」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
「ふん。おい松陽!!!! 土御門松陽!!!!」
未だに歩き続けてる土御門松陽の胸倉を掴む土蜘蛛。
「お前、なんでアイツを助けようとした?」
「……ぁぇ、んだよ、師匠かよ……。またきぜつしたのか、おれ……いぃ、ぜ……つぎは、かつ、からよぉ」
「キリカだったか? あのまま死なせた方が楽だっただろうが。助けたところでどうなる? 刑に基づいても殺されるだけだと思うぞ。この会場の人間を皆殺しにしようとした。おそらく裏でも何人かヤッてるぞ。そういう目をしてるし、そういう倫理観だった。なぜ救う? 救う必要はない。なぜお前は動いた?」
「土蜘蛛さん!! 危ないですよ!!」
頼重が叫ぶ。
「うるせえ!!! 今こっちの話してんだよ!! うっ」
土蜘蛛、背中から突然出血。
「土蜘蛛さん!!」
「っ、黙ってろ! 松陽! 答えろ。なんでお前は動いたんだ!」
意識が半分飛んでいる松陽は、うつらうつらとしながら呟いた。
「ぁ、ぅるせ、……あ、たりまえだろ……」
「……」
「たす、けてって、……いって、たからだ…………。おれ、たちは……ひとを、たすける……ために……おんみょうじに……。ぁ、ぁぁ、そうだ、った……。あの、如月桐火ってやつさ……邪法つかいやがって……。ゆるせねぇよ……。何も考えずに、使って。周りのやつも、使うなって教えずにさ。ふざけやがって!!! アイツがきちんと、わるいことしたって……つぐなわせねぇと……、だってほら、ししょうが、いってたんだ……。へへ、おれの、ししょう、かっこいいんだぜ……。【おれたち ようかいは わるいことを してたけど せいめいさまに たすけられた。 だから わるいことを したやつでも ひとを たすけられるって しょうめいする ために いろいろ おしえて るんだ って】」
「-------!」
「いって、たんだ……だから……、いきることを、あきらめないで、ほしいんだ……。だろ……。たすけを、もとめてるんだから……」
そう言って、土御門松陽の力が抜けて、地面に落ちそうになる。
それを、土蜘蛛は膝を着いて抱きかかえた。
「……。おい頼重! お前ガキに全部始末押し付けたんだ! ならこいつの男として通した筋、通してもらうぞ!」
「……。はい。分かりました」
ず、ずる、ずる。
音が出る。
それは、触手にまとわりつかれていた、キリカだった。
「ぁ、ぁあ……」
土御門松陽の元に行こうと、移動していた。
折れた心で、何故か、光に惹かれるように、虫のように這いつくばりながら、前に進む。
土蜘蛛が、キリカを強く睨む。
「おい。お前は、敵か?」
「っ、ぁ、ぁぁ……っ」
「答えろ! お前は、”土御門松陽の敵か”と聞いているんだ!!!」
キリカは涙ぐみながら、首を横に振った。
「……お前は俺が身柄を預かる! お前の今後は、松陽の為に生きろ。お前の未来はこいつが救った! いいな、全てに見捨てられてもこいつだけはお前を見ていた!!! こいつだけが!!!! っ……。こいつの為に死ね!!! こいつに全てを捧げろ!!! 名家の凡人が、貴様に命を張ったことを、一生忘れるな!!!!!」
「っ……ぁ、ぁぃ……」
キリカの手が、土御門松陽の体に触れる。
神に見捨てられた。
ステッキには殺されそうになった。
自分の世界は、壊された。
なのに。
なのにどうして、目の前の男が自分を救おうとしたのか理解できない。
知らない感情だった。
それでも、なぜか。
胸の真ん中が、暖かかった。
彼に開けられた腹の穴が、痛み以上に、忘れてはいけないもののように感じた。
「ぁぁ、ぁぁぁ……。ぁぁぁ……。ぁぁ、ぁぁぁ……」
肺から呼気が漏れるような音だった。
それでも土蜘蛛には、迷子が親を見つけた時の泣き声に聞こえていた。
決着。
エキシビションマッチ
勝者
【土蜘蛛の弟子】土御門松陽
この勝負、人に敗者はおらず。
脱出は完了した。
既にステージ上にいるのは、蘆屋緋恋のみ。
「……よし」
薙刀を構える。
今度は、守る為ではない。
ぎらりと歯が剥き出しになる。
「待っててね、与一くん。今ーーーーその妖怪殺すから」
次回
【神話生物】事件 後編 下
残りは斬るか、斬られるか
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