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戯れ
「ねえ、りかさん。」
「なあに?」
「キスして、いい?」
ルームサーヴィスを平らげて、ワインを一瓶あけて、
ソファに伸びた途端、あたしに手をのばすあなた。
なんとなくふわふわしてる、あたしたち。
あなたはいつになくハイテンション。
お酒のせいじゃないわね、ザルだもの。
絡めた指が熱くなってる。
零れる吐息が甘くなってる。
「いけないっていったら?」
「でも、するよ。」
ちょっと拗ねたような顔をして。
その上目はあたしの癖よ。
絡めた指で手の甲をくすぐるように。
強引にあたしを引き寄せて、唇を合わせてくる。
口腔を探る舌は、まるであたしの身体を探るように動く。
いつの間に、こんなふうになったのかしら。
本当は、ずっと前から?
あたしは気がついていなかっただけかもしれない。
だって、あたしは目をつぶっていたから。
あんなことも、こんなことも。
本当は見たくてたまらない。
だから、わざと目をつぶっている。
「ちょっと、インターバル。」
ワインの酔いが回りそう。
あたしは無理やり唇を離す。
ちょっと抗うあなたの唇。
だけど、やっぱり聞き分けはいい。
そんなことに、安心する。
「どうして?」
瞳が少し、揺れる。
すぐ不安になるのね、あたしのことは。
そんなことに、安心する。
「なんか、飲みたい。」
あたしはミニバーを顎で指す。
「まだ、飲むの?」
「いけない?」
「お酒、好きだよね、りかさん。」
べつに、好きじゃないわ。
だけど苦手なの、あなたと素面でいるのは。
そんなこと、想像もついていないわね。
「あ、笑っててもだめ。」
「かおるに言われたくないわ。」
あなたの口が尖る。
「わたしは違うもん。
ただ、飲めるってだけで、わざわざ沢山とか飲もうとは思わないし・・・」
ちいちゃな唇がぷっくりして、あたしは触れたくなりそうで。
「わかった、わかった。
だからとってきて。」
かおるは言葉を遮られ、むっとした表情を浮かべる。
「いや。」
強い力であたしは抱きしめられる。
よくあるはずのことなのに、いままでよりも少しあなたは積極的ね。
「なんで?」
「たまにはいいでしょ。
りかさんを抱きしめてても。」
「・・・・・・・・・・いいわよ。」
そうして、そのまま、あたしはあなたに身体を預ける。
ちょっと痩せすぎ、でもいい気持ち。
「りかさん。
ねえ、りかさんってば。」
「ん?」
「このまま寝ちゃう気?」
あなたの肩に顔を乗せたまま、あたしはゆっくり目をつぶる。
「いけない?」
困っているのが、顔を見なくてもわかるわ。
そんなことが、嬉しい。
「い・・・けなくないけど・・・・」
「けど?」
「でも、せっかく会ったんだから。」
「だから?」
あたしは今日も意地が悪い。
ねえ、かおるの言葉で聞きたいの。
「せっかく・・・」
「せっかく?」
「少しくらい・・・・」
「少しくらい?」
くぐもる口調から、あなたがじりじりしているのが伝わってくる。
ねえ、かおるから言わないとだめよ。
そして、溜息が聞こえる。
「・・・・しよう。」
あたしはあなたの首筋にキス。
あたしたちはベッドに縺れるように転がり込む。
小さく笑い声を立てながら。
あたしの肩をなでながら、ストラップを外してゆくあなた。
今日はあなたに任せてあげる。
あたしは機嫌がいいらしい。
きっと、そう、お酒のせいね。
剥き出しの肩に唇を滑らせながら。
「りかさん、又細くなった?」
「そう?かおるほどじゃないでしょ。」
するするとドレスが落ちてゆく。
「ほら、ブラウスがゆるゆるじゃない。」
あなたのブラウスが落ちてゆく。
剥き出しの肌はやっぱり痛い。
それは心と心が触れ合うから。
こんなに飲んでも、まだだめね。
「りかさん、気が飛んでる。」
胸に埋めたかおるの口が、不満げに呟く。
あなたがあんまり一生懸命だから、あたしはもっと酔いが回る。
お酒ではない、酔いが。
「・・・・いや。」
「え?」
あたしの呟きに、びっくりしたように顔があがる。
目が大きく見開かれて、ああ黒目が大きいのね。
「な、なにが?」
声がもう上ずってるわ、手までお留守でどうするの。
そんな顔をすると、下級生のまま。
あたしと一緒だった、あの頃のまま。
あたしはうつぶせになり、枕に顔を埋める。
「え・・・えっと・・・。りか・・さん?」
おそるおそるの声、さっきまでの勢いはどこにいったの。
「りかじゃ、いや。」
ちょっと声が震える。
「・・え?」
困り果ててるあなた、枕に埋もれた中であたしの顔は笑ってる。
ああ、本当に趣味が悪いわ。
「ゆうがって、呼んで。」
かおるの息が、はっきりと止まる。
「やーーーーーーーーーーーーーーーーっ !!!!」
耳元で絶叫。
予想通りの反応。
「いっ・・。いじわるっ!
りかさんの、いじわるっ!!
どして・・・どして・・・・っ・・」
あなたは舌がもつれてる。
あたしは笑いが止まらない。
「あっ!肩、震えてるっ!
りかさんってば、笑ってるっ!!!」
あたしの背中を、枕で叩く。
「まだ、笑ってるっ!
もうー!りかさんいじわるだっ!!」
我慢できずに、あたしは思わず仰向けに。
涙を浮かべた真っ赤な顔で、かおるは枕を掴んでる。
笑いすぎてあたしも涙が出てる。
「いじわる!いじわる!いじわるーっ!!」
あたしに枕を投げつけて、ブランケットに潜り込む。
あたしは笑い転げながら、ブランケットを抱きしめる。
布地を通して、くぐもった声が聞こえる。
「りかさんの、いじわる。」
「そうよ、あたしはいじわるよ。」
布地を通して、あたたかい体温が伝わる。
「りかさんの、いじわる。」
「今頃、気づいたの?」
布地を通して、あなたの震えが伝わる。
「りかさんの、いじわる。」
「そうよ、あたしが嫌い?」
布地を通して、あなたの呼吸が伝わる。
「・・・・好き。」
そうして、あたしはあなたを抱きしめて。
あなたの涙を、一つ一つ舌ですくう。
「嫌い?」
「好き。」
「嫌い?」
「好き。」
果てしなく、呟きを繰り返す。
あたしの腕で抱きしめて。
あたしの舌で慰めて。
そして、またあたしは安心する。
だから、謝ったりなんかしてあげない。
そうね、酔いが回っているせいかしら。
だから、もう少し目をつぶっていたくなる。
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