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スカイ・マスターソンな憂鬱





『 遅れるから、待ってて RIKA 』

 

 

 

いつものようにそっけないメール。

わたしはベッドに伸びたまま見つめてる。

一方通行、そんな言葉が頭の裏をしゅっと走る。

んなわけない、んなわけある。

わかんない、どっち。

りかさんといる時、いない時。

どっちが頭がぐるぐるなんだろう、あたし。

 

 

 

 

そのまんま、寝こんじゃったらしい。

 

 

チャイムで目が覚める。

見ていた夢は、思い出せない。

 

 

 

 

「お待たせ。」

ぽつっと呟くようにして、りかさんが入ってくる。

甘いティファニー、ヌーディな唇。

「かおる、頭ボサボサ」

「ああっ・・・・寝ちゃっててっ!

 ごめんなさい。」

やっと顔がこっち向く。

「謝ることないでしょ。

 いくら東京だって、忙しいんだもん。」

「い、忙しいのに、ごめんね。」

つい謝ってしまうわたし。

肩にぽんと手が置かれる。

「お互い様でしょ。

 ナンか飲みたい。」

冷蔵庫にダッシュする。

「んと・・・コーラ?アルコール?エヴィアン?」

「とりあえず、エヴィアン。」

 

 

ソファにころんとひっくりかえって、ボトルからラッパのみのりかさん。

「外、暑かった?」

「ん、まあ。」

「わざわざ、ごめんね。」

「かおるだって忙しいじゃん。」

「でも・・・」

 

「はい」

いきなり飲みかけのボトルを差し出される。

「あ、ありがと。」

そっと口をつける。

間接キスの口元から、冷たい水が流れ込む。

「ごめん、打ち合わせが長引いちゃってさ。」

「別に、いいよ。

 次のはいつやんの?」

「んと・・8月の朗読のヤツ。」

「8月かぁ・・・・・わたし博多だぁ。」

必ずすれ違い、りかさんとわたし。

なんかそんなこと考えてたら、いきなりむせちゃった。

 

 

 

ゲホゲホしてるわたしに、りかさんは背中をとんとんと叩いてくれる。

「ばかねえ、そんなに勢い込いこんで飲むものじゃないでしょ。」

ああ、またおこちゃま度アップしちゃった。

「ほんとは寂しいとか?」

「え・・」

いきなりの言葉に顔を上げる。

「ほら、また会えないって。」

どうしてそんなにくすくす笑うの?

目尻にちょっと皺なんかよせて、すっごく面白そうに。

なんだか、すっごく悔しくなる。

「そうだもん。」

「あら。」

 

「そうだもんっ!」

声が高くなる。

りかさんのうふふって顔はかわらないまま。

「どうして?」

口を尖らす。

答えなんか知ってるくせに。

「ねえぇ、ど・う・し・て?」

鼻をちょんと小突く。

 

悔しくて、わたしは頭を思いきり回転させる。

「そっ・・それはっ!」

「それは?」

「りかさんに、教えて頂きたいことが一杯あるからですっ。」

いきなりの下級生口調。

流石のりかさんも、目がまんまる、やったあ。

 

 

 

まんまるの目をくるっと回し、唇を膨らませて、

又、笑みにもどるりかさん。

「で、なにを教えてほしいの?」

えとっ・・えとっ・・・・

又頭を高速回転、モーターぶっちぎれそう。

 

「ラ・・・ラブ・シーン・・!」

 

 

りかさん、ふうんっていう顔でわたしを上から下まで眺める。

「かおるもラブ・シーンしてるんだね。」

「そ、そりゃあ・・」

「で?」

「で?って」

「何が聞きたいのよ。」

「え・・・えっと。」

「さっさと言ってくんない?」

 

適当にひねりだしたつもりだったけど、結構わたし本気で聞きたがってるかも。

そんな自分に半ば呆れながら、恐る恐る切り出してみる。

「・・・・キス・シーンがね・・・なんか変な気がして・・」

ふうん、って顔でりかさん聞いてる。

「別に誰に言われたわけでもないんだけど。」

「へええ」

あ、何が言いたいの?って顔だ。

「でも、りかさんのは何て言うか、何だかかっこよかったんで・・・

 なんでこんなに違うかなあ、とか。」

じいっ、とりかさんの瞳がわたしの目を探るように。

何かいいたそうで、でもいいたくなさそうで。

そして仕方ないように、口が開く。

「でも、あたしはあたしだし、かおるはかおるだし。

 教えることなんかできないよ。」

いつのまにかわたし、必死。

「そ、それは分かってます。

 でも、やってみてもらえたら・・・・ちょっと、ちがうかなあって。」

「やってみてって・・・・・。」

りかさん、又笑い出した。

「ともかく、やっちまえってことね。

 かおるらしいっちゃあ・・・・・らしいか。」

わたし、首こくこく。

「で、どーゆーのがいいの?」

りかさんいたずらっぽく聞く。

「昔は振り返らない主義のあたしにやらせたいんなら、変なのは勘弁ね。」

そうだ、りかさんいつもそう言ってた。

ああ、なんかわたしとんでもないこと頼んじゃった・・よね。

一番好きなキスシーン、一番素敵なキスシーン。

一番格好よくて、一番男前で。

ぐるぐるぐるぐるぐる・

 

 

 

「眉間に皺よってる。」

 

 

 

 

 

 

「ガ・・・ガイズの・・あれ。」

消え入りそうな声でいう。

「ガイズの?・・・どれ?」

「あの・・・壁に押しつけて・・・・それで。」

説明するのも恥ずかしくて、段段下を向く。

 

 

 

エアコンの音と、遥か下を流れる車の音がぼやけて響く。

りかさんはソファに首までひっくりかえったままだ。

 

「・・・ったく、しょうがないなあ。」

りかさん、放ってたジャケットをばさりと羽織る。

しゅっと立ちあがり、わたしの前へ。

わたしはいきなりで、いやだ、あがってる?

 

 

りかさんもう目つきが違う。

さっきまではアンニュイな女の人だったのに、

いきなり男の人の目だ。

 

りかさんが一歩進む。

わたしは一歩さがる。

壁に背が触れる。

ライトスタンドが揺れる音がする。

わたしは目に捕らえられたまま、動けない。

 

手首が捕まえられる。

そんなに力がはいってないはずなのに、

何故だろう抵抗できない。

りかさんの眼の奥の光は哀しい男の人のそれみたい。

顎を上げられる。

自然と口が開く。

そっと、そっと、触れるようにキス。

全身の力が抜けてゆく。

それは、羽根が一枚一枚落ちるように。

自分を覆ってきた常識とか理性とかの枷が、

触れる唇の温かさで溶けていくように。

 

 

「あ・・・・ぅん」

溶けた声が、洩れる。

そっと舌が入ってくる。

それは暖かく、粘りを帯びて。

わたしの舌は、痺れたように固まってる。

解すように、溶かすように、柔らかく絡まって。

薄く瞼を開ける。

りかさんは、じっとわたしを見詰めている。

恥ずかしくて、舌が引っ込む。

すると、強引に押し入るようにわたしにりかさんが侵入してくる。

 

まるでそれは、愛してる、ってぶつけるような激しさで。

線を引くように、円を描くように、包み込むように、

身体中の性感帯を、集めているかのように巧みに刺激する。

わたしの中の温度があがっていく。

 

 

いきなりなにかが身体を突き抜ける。

身体中の力が抜け。

 

 

まるで見定めたように、りかさんの身体がふっと離れる。

わたしは動けない。

壁によりかかったまま。

 

 

 

 

 

「こんなもんで、いいかしら?サラ?」

 

 

もうりかさんは戻ってる。

さっきの膜の張ったような鋭い目つきは、

アンニュイな女の人のそれになっている。

わたしはまだ、息を整えてる。

わたしがキスくらいで情けないのか。

りかさんがキスくらいで凄すぎるのか。

とりあえず、あたまをぶるぶるふってみる。

転がるように、りかさんの横に座りこむ。

 

「わかった?」

また、余裕しゃくしゃくの笑み。

わたしは余裕なんかない。

「わかんない・・・かも」

「んふん、そうね」

りかさんは気を悪くした風もなく、わたしを見ている。

折角してもらったのになあ、と段段首が下を向いてしまう。

「どしたの?」

「ん、だって、折角してもらったのに。」

くすり、と声が聞こえる。

「キスだって、相手がいるでしょう。」

「うん。」

わたし下向いたまま頷いた。

「相手を見たら?」

「うん。」

まだ、下向いたまま頷いた。

「それと。」

「それと?」

 

 

「余裕かな?」

「余裕?」

「相手に会わせられるだけの、余裕。

 昔言ったでしょ、力を抜くことを覚えろって。」

なんかりかさんの言葉に、いちいちうんうん頷いてる。

出来の悪い生徒みたいな、わたし。

いや、実際出来悪いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

いきなりりかさんは、しゅたっと立ちあがる。

「じゃ、力抜く練習しようか?」

「え?」

親指でダブルベッドをさす。

わたしはまだキスの余韻が残ってる。

なんだか妙に、気恥ずかしい。

もたもたしてるわたしの身体が、いきなりひょいと上がる。

目の前にりかさんの顔。

「ヤなの?」

ぶんぶんぶんっ!!

鼻に軽くちゅっ、てされる。

 

 

あ・・・ん、と思った瞬間にベッドに放り出される。

「ひっどおおおおーーーーーーい!」

「かよわいあたしには、限界よ。

 まーだ成長期なんだから。」

そう言って、珍しくのしかかってくるりかさん。

ブラウスのボタンをたちまち外される。

「だめ、力ぬくのよ。」

肩をぐうっと押し返される。

下着をさらさらと解くように脱がされる。

「あ、りかさんも。」

「だめ、力抜いて、思いっきり。」

 

 

 

そしてわたしは、つま先から首筋までりかさんの羽の下。

ふわふわした羽は、いきなり熱くなったり、激しくなったり。

ものすっごく馬鹿みたいなんだけど。

わたしはりかさんの腕の中で思ってた。

りかさんの瞳は、とろりとしているようで、じいっとわたしを見つめてて。

わたしが微笑みかけると、なんとはなしにふっと目をそらす。

 

わたしの思ってたスカイ。

スカした二枚目で、ちゃらんぽらんだけどキメるとこは決めて。

なのに、なんだか嬉しくなさそうで、ううん切なそうで息苦しそうな。

そんなスカイがそこにいた。

 

わたしは仰け反り、震え、声を上げるばかり。

何度と無く空に舞い、地を這いずり。

もう抜く力さえ無くなってしまった頃に、眠りに落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝顔を見つめて、ミネラルウォーターを傾ける。

いきなりラブ・シーンなんていうんだもの。

あたしの気持ちなんて、わかってやしないわね。

だから、とっておきのキス。

そして、とっておきに愛してあげた。

そう、闇雲に攻め続けた。

 

教えてなんて、あげたくないの。

かおるは不器用なままでいい。

力が抜けないまんまでいいの。

 

成長したあなた。

力が抜けて、恋に手馴れるあなた。

そんなこと・・・って、含み笑い。

 

 

でも、本当は思ってる。

そのとき、あたしはどうなるか。

あたしの力が、もう抜けなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

あなたはわからないままでいい。

わたしはわからないふりをする。

そして、ずっと。

 

 

このままあたしと、眠り続ける。

 

 

 

 

 

 

 














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