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LOVE SCENE
「ねえ・・・・・」
わたしはりかさんの胸に頬をのせたまま。
「なあに?」
溜息みたいな言葉が揺れる。
「わたし・・・ね」
小さく舌を伸ばす。
目を瞑って、そっと含む。
りかさんの身体は冷たくて。
そして、口中のそれは真珠みたいにちいさくて、なめらかで。
だからついうっとりとしてしまった。
「・・・・・ぁ・・たっ・・・!」
「・・・えっ・・!」
いきなり目が覚める。
「かおるってば、反則ぅ・・・」
身体を上げて、顔を覗く。
「ご、ごめんっ・・・なさいっ!!」
「噛むのは、痛いでしょぉ。」
りかさんのぷっくりした唇が、ちょっと怒ってる。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね。」
わたし、必死で謝る。
りかさんの大きな目はわたしをじーっとみてる。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
ぷいっと顔を背けてベッドを降りる。
ごめんね、って言い続けて追いかけるわたし。
小さな冷蔵庫からワインのミニボトルをだす白い背中。
わたしは後ろに真っ裸でつっ立ったまんま。
「ごめんね。」
りかさん、ボトルに口つけながら、
「もう、いい。」
「え・・でも。」
つけた口拭って、めんどくさそうにいう。
「そんなにあやまらせたら、なんかひどいことしてるみたいだもん、
あたし。」
「そんなことないもの、ごめ・・・」
言いかけて口を塞がれる。
冷たい液体が嚥下する。
「おいしい?」
「ん」
飲みこみながら答える。
「じゃ、もいちど・・ね」
そういってりかさんはわたしの肩を抱いて、口付ける。
もっといっぱいのワインを含んだまま。
「こっちも、ね・・」
いつのまにかベッドにあたしたちは戻っている。
りかさんといる時間は、いつのまにか捩れたり撓んだり。
わたしはこの現実から隔離されたような空間で、
ひとりもがいている気がする。
も一度りかさんの胸に頭をそっと寄せる。
「見事に染めたねー。」
髪の毛をくしゃくしゃされる。
「だってそういう役だもん。」
「なんだっけ?次の。」
「言ったもん。」
「忘れちゃった。」
こういう押し問答はりかさんの軽い前戯らしい。
その証拠に必ずわたしの負け。
「ミュッセ、っていうんだよ。」
「ふーん、なに人?」
「フランス人。
あ、太田先生だから、プロヴァンスとおんなじ。」
「昔の事は、忘れてるの。」
「ミュッセってねえ・・」
言いかけた処で、又口が塞がれる。
「仕事の話は、野暮、でしょ。」
「あ・・うん・・ごめ 」
又、唇。
「んもう、ロクなこと言わない、かおるの唇って。」
「だって・・」
拗ねて唇を尖らせる。
「こんなにかわいいのに。」
「え」
「ほら、ちょっと言っただけですぐ開く。」
やだ、はずかしい。
今度は顔を背けるしかない。
そんなわたしを気にかけるふうもなく、
りかさんは後ろからそっと抱きしめる。
「ねえ・・・ミュッセ・・って」
「・・・・・」
余計なこと言わないように、黙ってる。
「猫の鳴き声に、似てない?」
ね・こ?
りかさんのいうこと、時々わかんない。
でもわたしは答える。
「うん、似てる。」
なんだか背中で納得してる。
「じゃあ、かおるは今夜はミュッセだわ。」
背中から、抱きしめられる。
「かわいく鳴いてね、あたしのミュッセ」
ぺろって背中を舐められる。
あたしなんかより、よっぽどりかさんの方が猫っぽいのに。
「ほらぁ、鳴くの。」
「・・・・に・・にゃーー。」
「だめ、それじゃあ唯の鳴き真似よ。」
だって、あたし、物真似とかできないもん・・
背中から首筋にりかさんの細い指が走り、
熱い位激しく首にキス。
「ん・・・・にぁ・・・・っ」
「あ、なかなかイイかんじかも。」
りかさんなんだかやけに楽しそう。
でも、なにしてんのって思いが意識の舌に舐めとられる。
脚を絡ませて、すべすべの肌をお互いに味わうように。
「ね、ミュッセ?」
「・・・・み、みゅーん」
「かわいい。」
今度は耳朶に、キス。
背中と胸が、ぴったりと重なって。
夜に静かに揺れながら、鼓動をあわせながら。
「にゃ・・・・にぁ・・・ぁ」
わたしの声はもう喘いでいるみたいだ。
「あたしの、ミュッセ。」
りかさんの長くて細い腕が、わたしを探る。
「みゅう・・・・ん」
なのに唇はしっかりわたしを捕らえてる。
「あたしの・・」
掌が波打つように、わたしを滑る。
「・ゅ・・・・・ん」
舌に擽られる。
「・・・かおる」
指が吸いつくように、わたしを探る。
「・ゅ・・・・・」
いきなりぎゅっと抱きしめられたかと思ったら、
天井がふわっと一回転する。
びっくり眼のわたしに、りかさん嬉しそうに聞く。
「びっくりした?」
「うん。」
唇に人差し指。
「だめ。猫でなきゃ。
あたし気にいったんだから。」
わたしは乾きはじめた唇を舐めて、
「みゃ」
りかさん半身を起して、片手でわたしの髪を柔らかく遊ぶ。
なのに片手はかきまわすように弄って。
「にゃ、にゃ・・・・ぁぁぁっ」
わたしもうわけがわからないまま声を上げる。
髪をいじっていた手がいつしかわたしの手首をとって、
指を絡めたまま舐められる。
「みゅ・・・ぅぅぅん」
突然、思いきり抱きしめられる。
わたしは必死で抱き返す。
「みゅう、みゅ、みゅ」
こうやって抱き合うのが、一番好き。
りかさんの側にいるみたいで、一番好き。
「にゃ・・・・・・にゃ。」
猫ならなんでもいえてしまう。
「ねえ。」
背筋を這う指が、徐々に降りてくる。
「・・・にゃ」
緩やかに軽やかに、わたしをかきまわす。
「もっと、鳴いて。」
昂まると引くように、わたしを操るように。
「・・・にゃ・・・ぁ」
身体が波打つ。
それは、旋律を奏でるように。
「だめよ、もっと。」
わたしの身体はとどまる処を知らぬかのように、揺らぎ続ける。
それは、わたしたちの鼓動の昂まりにも似て。
「・・・にゃ・・・・にゃぁ・・ ん 」
乾いた唇から洩れる。
掠れた切ない声は、誰のものなのか。
痛いほどの思いが、わたしの口から迸る。
わたしは狂ったように、鳴くことしかできない。
すき、って言ってるんだよ、ねえ、りかさん。
そして、かおるは丸くなってあたしの胸に抱かれてる。
小さく開いた唇は、密やかな寝息を漏らす。
なのに、あたしはぼんやりとぼやけた闇を見やる。
時たま震えるように、細い喉が上下する。
あなたの鳴く声が好き。
それは意味を持たないから。
あなたの言の葉はあたしには重すぎる。
あたしが思い過ぎているから。
それを分かりたくないから。
あなたの声にただ酔っていたい。
そうしたら、信じられるから。
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