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センチメンタリズム






「ここ?」
「だめ、いきすぎ。」
「えっと・・・・」




りかさんの真っ白な背中。
ベッドのリネンより白いみたい。


「んもう、かおる下手くそ。」


口をとんがらせて、枕を抱えてる。
バースデイだからってわけじゃないけど、
なんかしてあげたくなって。
マッサージしてあげるっていったら、この体たらく。
「やっぱ、マッサージさん呼ぼうかなぁ。」
いたずらっぽく目を開く。
こんな仕草、どきりとするほどかわいい。
年上なのに、りかさん。
こないだまで男役やってたなんて思えないほど細い背中。

「だめ!」
思わず声が大きくなるわたし。
「だって、今日は仕事ばっかで凝りまくってるんだもの。」
「言ったとおりにやるから、だめっ!」
「どぉして?
 並んでマッサージしてもらう方が楽でしょ?」
わたしの声に潜む焦りを、このヒトは簡単に嗅ぎ分ける。
そしてわたしは余計に焦る。
「どうしても、だめっ!」


くるりとりかさんの顔がこちらを向く。
真っ白な背中に繋がる、真っ白な胸。
華奢な鎖骨。
凄く女の人ってかんじがする。
今、繭から出てきたばかりみたいな、ちょっと眠そうな目をしながら。
わたしはその女っぽさにどきどきする。
女の人は腐るほど見ているはずなのに、
自分だって女のはずなのに。

ひとさし指が伸びてくる。
それはゆるやかに、わたしの唇をなぞる。
それはぞくりとするほどひんやりと、しなやかな。
わたしの唇をなぞり、自分の唇へ。
ぺろんと舌で指を舐める。
「間接キス。」
にこりとにやりの真中みたいな笑みを浮かべる。
なんだか無闇に、恥ずかしくなる。
キスなんか、何度もしたはずなのに。
わたしは困って、固まったまま。


りかさんが半身を上げる。
わたしの前髪を、弄ぶ。
おでことおでこを、くっつける。
至近距離の瞳がおっきい。

「ね?」
軽く唇を触れ合わせる。
「ん?」
わたしの口が薄く開く。
「どうして?」
「どうしてって?」
「どうして、だめなの?」
唇を蝶のように触れ合わせながら、緩やかに言葉を交し合うわたしたち。








かおるの小さな唇を味わいながら、
あたしはとりとめもなく言葉を垂れ流す。
誕生日なんて、時の流れる音に気が付くだけって気がする。
あなたにとっては違うのかしら。
去年とも、一昨年とも、確実にあたしたちは変わっていて、
幼さの残っていたあなたの顔も、随分変わった気がする。


「どうしてって・・・」
口が尖っているのが、唇の感触でわかるわ。
「ねえ、どうして。」
甘く柔らかく、あたしは尋ねる。


だけど、不思議。
あたしは思い出せない。
去年のあなたの顔、一昨年のあなたの顔。
あなたがどれほど色々な顔を持っているか、
あなた自身気が付いてないわね。


「ちゃんと、言って。」
躊躇する唇に、囁きかける。
「でないと・・・わからないわ。」


そう、あたしはまだ分からない。
今この瞬間ですら。
躊躇するあなたを、こじ開ける。


「わ・か・ら・な・い。」


腕を回して、抱き締める。
年下なんてどうでもいい、なんだか今日は甘えたい気分。
背中に回るかおるの腕。
優しくてあったかい。
胸と胸がくっついて、心臓の音があわさって。
細い肩に頭を乗せて、耳朶を噛みながら。
「ね、言って。」
思いきり甘えた声をだす。




「・・・・・だって、
 りかさんと二人きりでいたいから。」


搾り出すような小さな声。

「そうね・・・・あたしも。」
ちょっとだけ素直になったあたしたち。
安心したように、微笑むあなた。
鼓動に浸りながら、揺らめくあたし。
蕩けそうなくらい嬉しいなんて、分かるはずも無い。




もうしばらく、こうやっていよう。
あたしの想いが伝わらないように。














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