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DEEP LABYRINTH









自動ドアが滑らかに開く。
外気の暑さが、弾けたように吹き飛ぶ。
身体にこもっていた熱が、霧のように静まってゆく。
あの子の誕生日は、夏の真っ盛り。
冬の音が聞こえてくる頃のあたしとは、偉い違い。


だから分からない、正反対。
きっとそうに違いない。





ドアを軽くノック。
おずおずと、だけど笑顔で開けるあの子を軽く抱きしめて。
「あぁ、暑かった。」
四角く切り取った窓には、大都会の夜のパノラマ。
待たせてごめん、なんて言わない。
「りかさん、シャンパン持ってきた・・・」
語尾が消え入るように差し出す。
「ん、ありがと。」
あたしはごくごくってグラスを空ける。
「シャワー浴びてくるわ。」
「あ・・・うん。」



かおるはもうつやつやの肌。
お風呂上りの上気した頬。
ちょっと頑張ったアニマルプリントのシャツ。
第三釦まで空けて、グッチのベルト。
ルームサービスのテーブルには、シャンパンとオードブル。
夜もふけた頃に、遅刻してくるあたし。
気が付かない振りで、あたしはシャワー。



正反対もいいところ。
ねえ、こんなんでいいの?
自分に聞いてみる。
かおるには聞けないから。




乾杯して黙々と食べる。
時々上目使い。
だけど余計な話は振らない。
あたしがわかってる。
あたしにあわせてる?



「知ってる?」
「・・・え?」
「今日はかおる、誕生日でしょ。」
「覚えててくれたんだぁ・・・」
笑窪が蕩けそうな笑顔を浮かべる。
「だから、こうやって会ってるんでしょ。」
「・・・忙しいのに、ごめんなさい。」



なんでこんなこと話してんだろう。
なんだか違う。
なんだか正反対よ、あたしたち。


「飲ませてあげる。」
いきなり言うと、かおるは目をぱちくりさせる。
返事なんか待たないで、あたしはシャンパンを口に含む。
狭いテーブルの向こう、かおるの首筋を掴んで引き寄せる。
溢れたシャンパンが口の端を伝う。
「おいしかった?」
かおるは口元を急いで親指で拭って答える。
「うん。」
又、蕩けそうな笑顔。


あたしったら、なにを臍曲げてるんだろう。
それは簡単なこと。
かおるに聞けないから。
こんなんで、いいの?


すごく反対なんだけど、すごくおんなじなあたしたち。
嫌になるくらいずれたタイミング。
本当の事は譲らない。
でも、滅多に言ったりしない。
これじゃあ、こんがらがらないほうが不思議じゃない?


馬鹿馬鹿しくなって、あたしも笑っちゃう。
「あ・・」
「なに?」
「りかさん、やっと笑った。」
「笑っちゃ、悪い?」
「悪くない?」
こんがらがってる糸ならば、そのうえで遊べばいいわ。
まだ笑ってるかおるを抱き上げる。
「リフトだぁ。」
「・・・重い。」
「いいよぅ、りかさん。」
「いいの、誕生日だから。」
あたしは意地で、かおるをベッドに放り出す。



「リフトはプレゼント?」
あたしの下で、おっきな目がくるくる動く。
「違う、前戯。」
「じゃあ、プレゼントは?」
「あたしよ。」
年に一回の、最高に陳腐な台詞。
あたしは最低に落ち込んで、最高に昂揚する。
「うん。」
きゅっと両手が首に回る。
あたしは一つ一つ釦を外してゆく。
露になる肌の、一片一片までも愛撫しながら。
かおるは息を詰めて、静かに素肌になってゆく。



服なんて、全部まとめてベッドから投げ捨てる。
かおるが胸に頬を寄せる。
「ねえ、わたしの?」
「そうよ。」
鎖骨に唇を這わせる。
「これも?」
「そうよ。」
お臍を舐める。
「ここも?」
「ええ。」


あたしは息が荒くなる。
かおるが深く呼吸する。



「ここも?」
「ええ。」
「ここも?」
「そう。」
くぐもったように、あたしの身体のあちこちから声がする。
そしてあたしは、声にならない声を上げ始める。
かおるの舌は、激しさを増し、
あたしの身体は、より過敏になる。
震えるように確かめる指が、あたしを支配するようで。
「かおる・・・」
「ん?」
「あたし・・が・・」
「だめ、りかさんは今日はわたしの。」
やけに大真面目な声。
あたしはつい笑ってしまい、かおるが耳を噛む。
「反則。」
「ちがうもん。」
そう言いながら、あたしの中を指で確かめるように。
「違うわよ。」
あたしも彼女の中を確かめながら、刻むように。
唇と唇を繋ぎ、舌と舌とを絡めあう。

そして押し寄せる、大きなうねりに身を任せる。
かおると身を寄せあって。
かおると重なりあって。











おんなじだけど正反対。

あたしたちはどこまで縺れあうのだろうか。











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