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リネンの憂鬱
「りかさん、コーヒー入れる?」
「・・・いい。」
「じゃ、お紅茶?」
「・・・いらない。」
かおるが困ったように眉を上げる。
「ルームサービス、とる?」
「お腹、すいてない。」
手持ち無沙汰に、歩き回るあなた。
ソファに伸びてるあたし。
こういうときは、分かってる。
本当はあたしに触りたいの。
だけど、素直にできそうでできない。
実はへそ曲がりなかおる。
けど、そこも魅力。
「ねえ。」
「ん?」
何気なさそうに振り向く。
唇が尖ってる。
シャツの釦が二つあいてる。
かわいいから、あたしは言ってみる。
「こない?」
「ん・・・と」
まだ困ったように、ソファの端にちょこんと座る。
変なとこ見栄っ張りな、あなた。
「もっと。」
手を取って引き寄せる。
ちょっと抵抗して、ぱたんと胸に倒れこむ。
しばらくじいっとして、空調の音に耳を澄ます。
かおるが口を開く。
「・・・苦しい。」
「嫌?」
「・・・りかさんの匂いがする。」
「好き?」
「うん、好き。」
おへそがやっと直ってきたかしら。
あたしはこのでかい図体になってるかおるを、
まるで小動物でも抱きしめるように抱きしめる。
「りかさん、どしたの?」
「ん・・・なんとなくかわいいから。」
耳朶まで赤くなる。
修行が足りないわね。
だからあたしは、赤い耳朶を軽く噛む。
腕の中でかおるがぴくりと震える。
「気持ちいい?」
「・ちょ・・・ちょっと・・」
やあね、眉毛上げていうことじゃないわよ。
かおるは抱きしめられた子供みたいで、
無防備にまあるくなる。
母性本能とはトンと縁の無いあたしだけど、
無性に愛おしさが募ってくる。
「りかさん。」
「ん?」
「外していい?」
釦をもて遊ぶ形のいい指。
「外したいの?」
「うん。」
額に軽くキス。
そっとかおるの手があたしの胸を開く。
下着をずらし、柔らかに敏感に舌を滑らせる。
それは無邪気に子供が戯れているような無垢さを持って、
あたしの神経を刺激する。
「いく?」
「え・・・!」
顔をあげてどぎまぎするあなた。
そういう処も楽しいあたし。
「だから、あっち。」
ちょっとほっとした顔をしたかおるを抱きしめたまま、
あたしたちはベッドに倒れこむ。
ぱちぱちとかおるが照明を消してゆく。
あたしの好きな、柔らかい光に包まれるように。
そんなに急がなくても、ご機嫌悪くならないのに。
そんなとこも、必死なのね。
うふふ、ってかおるからは見えないように含み笑いのあたし。
ちょっと性格悪いけど。
かおるは跪いて、あたしの釦を外してゆく。
「あ・・・・」
予想通り、口が開いてる。
してやったり、な気分であたしはさりげない顔。
「りかさん、これ。」
「ん・・・なあに?」
おずおずと顔を向ける。
「開けたの?」
「いけない?」
「いけなくないけど・・・」
「じゃあ、なに?」
「又、見せたの?」
妙に真剣な声しちゃうのは、どうして?
「ダメなの?」
「ダメじゃないけど・・・・」
語尾が消える。
「だって、あたし女優だもん。」
「そりゃ、そだけど・・・
わたしが、ガキだからってだけだけど・・・」
なんかもごもご口で言ってる。
その様子が、かわいくって、切なくって。
あたしはいいかげんにしなきゃと、反省。
「ほら、開けてないわよ。貼っつけてるだけ。」
ちょっとほっとした顔。
そうね、かおるは穴なんか開けないタイプだものね。
「あたし、おへその形綺麗だから、石も似合うかなあって思ったの。」
「うん、綺麗な色、りかさんの紫だぁ・・・」
「でもって、これは、かおる用。」
顔が上がる。
「え?」
「他の時は、別の石よ。」
急にふわんとした笑顔になる。
子供が宝物を見つけたみたいな。
あたしの胸に、絞られるような痛みが走る。
「じゃあ、これ、わたしの石?」
「ん。」
かおるはためつすがめつあたしのお腹を眺め回す。
緩やかに細い指を流すように愛撫して。
そして、石にそっと舌を伸ばす。
大事な大事なものに触れるように、
柔らかに繊細に。
あたしは身体の真中から、かおるの押し殺した思いが、
切ない思いが神経に染み込んでくるようで、
しばし感覚にうっとり浸る。
そしてあたしたちは触れ合い続ける。
指を、胸を、心臓を。
がむしゃらに熱くなって貪り続けて、それでもまだ足りなくて。
どれほどに自分がかおるを求めているのか思い知らされる。
「ねえ・・・・」
かおるがあたしの下で呟く。
乱れた息と、上気した頬がたまらなくセクシーって気づいてる?
「なあに?」
あたしは胸もお腹もぺたんとはりついたまま、耳を舐めるように返す。
「わたしも開けようかな・・・穴。」
「うふふ」
「なんで、笑うの?」
あたしは指を肋骨から滑らかな腹部へと滑らせて、
すんなりとした脚の付け根に。
「あのね、かおるは・・ダメ。」
「どおして?」
「誰にも見せたくないから。」
「りかさん、勝手。」
「知らなかった?」
付け根の指をゆっくりと内側に沿って動かしはじめる。
かおるの息が荒くなる。
「どうしても、したいんなら。」
「・・・ん?」
かおるの周りを擽るように。
潤いあなたは柔らかく開いてゆく
「ここなら。」
「・・ん」
指をかおるの中に滑りこませる。
背中が大きくしなる。
「だあれも、わからない。」
指の温度が上がる。
収縮にあわせ、あなたの呼吸を感じながら。
「りかさん・・・・わがまま・・・」
「うふふ、知らなかった?」
あたしの指は別の生き物のように動く。
かおるの小さな唇が艶めく。
「あたししか、知らない。」
上がる顎に舌を伸ばす。
あなたの身体に薄く汗が光る。
「誰にも見せてあげない。」
耳元に舌をねじりこむように。
小刻みに震え出す、睫。
「小さな、宝石。」
小さな襞は唇のように柔らかく。
あたしの指を包み込むように。
「あたしだけの為の、ピアス。」
身体中をかけてのしかかるようにあたしを押し込むの。
そして唇にむさぼるような口付けを。
震える睫が光ってる
「苦しいの?かおる?」
「・・・・んっ・・・・」
「身体中でキスされてるみたいでしょ。」
息が詰るほど舌を差し入れる。
思いきり指が吸い上げられる。
かおるの口が大きく開く。
あたしたちは肩で息をしながら、お互いにすがるように抱き合って。
あたしにとっては、あなた。
本当は、とっておきたい。
本当は、誰にも見せたくない。
そんな気持ちに時折なることがある。
これはただの、憂鬱。
そう、リネンの中だけの。
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