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白日夢
わかってるの、このまま行くわけなんかないってこと。
あなたの汗は、甘い香り、の気がする。
「・・・・・どしたの?」
ぱらりとかかるあなたの髪。
「ん、何でも無い。」
やっぱり、甘い香り。
「ぼうっとしてる。」
かおるの動きが止まる。
「あんまり気持ち、いいからじゃない?」
あたしの顔をじいっと見つめる。
あたしも負けずに見つめ返す。
瞳がゆるりと近づいて、唇がふわりと触れる。
「頭、飛んでた。」
唇がゆっくりと尖る。
「どして?」
左の眉が上がる。
「あんまり気持ちいいから。」
凄くセクシー。
「嘘だ。」
「なんで?」
「わかるもん。」
「どこで?」
「身体で。」
あたしはくすりと笑う。
我ながら皮肉な弧を描く唇。
笑いを押し潰すように、唇が重なる。
薄くてなめらかなそれ。
温かな舌が触れあい、絡みあう。
ざらりとした感触で、あたしに押し入ってくる。
細くて長いあなたの指。
優しく、いとおしげに、
そして深く、深く。
胸の先端が擦れあう。
柔らかに、敏感に。
あたしは我慢できず、反応する。
あなたにしがみつく。
あなたしか見えなくなる。
唇で、皮膚で、そしてあたしの中で、
あなたが息づく。
仰け反る背中が抱えられて、
押し付けあう胸は、心臓の鼓動が直に響いてくるようで。
強引なまでの舌の動き。
擦れあう皮膚の感覚。
かき混ぜられる、あたしの身体。
緩やかで滑らかな動きなのに、あたしはゆすぶられるように。
「いや。」
「なにが?」
「他のこと考えちゃ。」
「ばかね。」
珍しく口数の多いあなた。
尖らせた唇は、余計に身体を熱くする。
脚をあなたの腰に絡みつかせ、あたしはさぞ浅ましいことだろう。
その浅ましさにまで欲情する、浅ましいあたし。
身動きができないほど絡みつく。
あなたの身体の曲線が、隅々まであたしに押し付けられる。
それでも唇とあたしの中への刺激は、止まらない。
不自由な身体に与えられる刺激は、感覚を鋭敏にする。
舌のほんの少しのざらつきすら、唾液が溢れてしまう。
指の関節のひとつひとつまで、あたしは感じてしまう。
狂ったように指で肩甲骨をなぞる。
爪を立てる。
仰け反った首に、かおるが口を這わせる。
湿ったその感触に、睫が触れる。
熱くなった息がかかる。
あたしの頭は、ぐらぐらと靄がかかるように、白濁する。
「このまま・・・・」
「ん・・?」
かおるが顔を上げる。
「このまま、おかしくなっちゃえたらいいのにね。」
そう言ったまま、あたしは白い靄の中に沈みこむように、
かおるに溺れる。
あなたの姿しか見えず。
あなたの声しか聞こえない。
あなたの皮膚しか触れない。
あたしの五感は、あなたにしか反応しない世界。
そんな世界に行ってしまえたら。
それはリネンの間だけの、白日夢。
すうすうした寝息。
ベッドサイドの仄かな明かりに照らし出されるあなた。
滑らかな桃みたいなつややかな肌。
柔らかな髪が額にかかる。
鎖骨の間に、うっすらとかいた汗のあと。
長い睫のまま、微かな寝息を立てる小さな唇。
いとおしさがそのまま具現化したような、あなた。
あたしはそっとベッドを滑りおりる。
「どこいくの?」
寝ぼけた声。
「冷蔵庫。」
エビアンのボトルを流し込む。
寝ぼけ眼のかおるの唇が小さく開く。
「・・・・ん」
軽く口移し。
「おいし・・・」
なんとなく微笑むあたし。
この子に見られていないならば浮かべられる、慈愛の微笑み。
すれ違ってるわけじゃない。
触れあえないわけでもない。
なのに時折、焦燥感が湧き上がる。
なるようになる、ケ・セラ・セラ。
軽く口をついてでる。
それなのに、ときたま思ってしまう。
もっともっと、近くへ。
あなたしか見えないほど、近くへ。
世界があなただけしかいないくらい、近くへ。
あたしの心の深遠が夢を見る。
それはとても残酷で遠い、白日夢。
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