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Bewitched
人影の無くなった廊下。
わたしは部屋で息を詰め、何気ないふうを装いながらかちかちで。
あの人の衣擦れの音だけで、わかっちゃう。
わたしがどれだけ、頭が一杯なのか。
空気を震わせるチャイムの音。
変に緊張する、私。
何も変わっていないのに。
私は私のまんまで、りかさんはりかさんで。
ぐるぐるしながら、扉を開く。
すらりとした、りかさん。
やっぱしいつものまんま。
ちょっと私ってば安心して単純。
「ああっ、スカートじゃないんだあ。」
扉を後ろ手に閉めたりかさんに、安心した勢いでつい・・・
「ふうん。
見たかったの?」
りかさん、仁王立ちで睨みが入ってる。
「えっと、そりゃあ・・・・」
いきなり声が小さくなっちゃう私、調子乗りすぎたかなあ。
「まだ、ダ・メ。」
ちょっとめげてすぐ下向いちゃう私の鼻に、りかさんの人差し指。
「出し惜しみするのよ。」
声が笑ってる。
おずおず顔を上げると、ぷっくりした唇。
私ってばつい、じいっと見つめちゃったみたい。
「美味しそう?」
「ん。」
そういって啄ばむようなキス。
アペリティフみたいに、甘いキス。
変わらないキスだから、
変わらずに私はりかさんに抱きついて。
抱きあって。
お互いの鼓動を確かめる。
「ちゃんと食べてんの?」
「食べてる。」
「嘘ばっか。」
「嘘じゃないもん。」
そういいながら、りかさんの指はブラウスにの釦に絡まってく。
皮膚に覆われた骨をなぞるようにして、指が走る。
「痩せすぎ。」
「今までが太りすぎだっただけ。」
「口答えばかりね。」
「嫌い?」
「さあね。」
かおるとあたし、あたしとかおる。
垣間見せる本音、と外面。
変なとこ見栄っ張り、脆そうだけど頑固。
そういうとこだけ似たもの同士。
ちらちらと顔に過ぎるのは、不安げな翳。
わからないでもない、あたしも経験済みな事。
だけどあたしはあたしのままで、ただ進化していくだけなのよ。
言葉にするなんてこっ恥ずかしい。
だから、服をはいでゆく。
とっても即物的。
そして動物的。
だけど一番効果的。
シーツのなかでかおるがおずおずと指を這わせる。
膝小僧を掴む。
「ねえ、見せたの?」
「なにを?」
「足?」
「さあね。」
いきなりくるっと背中を向ける。
「今日はいじわるだ。
りかさん。」
「じゃあ、自分で確かめればよかったでしょ。」
「だって・・・・・仕事・・・」
ああ、やあねえ。
分かりきってるわよ、そんなこと。
そんなことで、僻むわけないでしょ、このあたしがさ。
「馬鹿。」
無理やりこちらを向かせる。
ベッドサイドランプにうかぶ唇は、ぷっくりと不満げに盛り上がる。
頬をぎゅうっと掴んで、強く唇を重ねる。
「とっといた。」
目がぱちりと開くのが分かる。
舌が柔らかく絡まってくる。
もう、このへんの現金さが若いってことなのかしら。
駆け引きしようとかないのね、あなた。
「そのかわりね・・・」
「ん・・?」
甘い声に、あたしは悪戯心が止まらない。
「うふふ、みせちゃった。」
「・・・・・・・・・・どこっ?!」
弾かれたように跳ね上がる身体、ああ、もう、わかりやすいったら。
「こ・こ。」
人差し指を軽く折る。
「えええっ!」
急にお腹に飛びつくのはやめて、息が詰まるわ。
とかいってるわりに、あたしってば含み笑い。
「いいじゃない、減るもんじゃなし。」
「よくないっ!」
頬擦りする感触が堪らなくくすぐったい。
「こんな綺麗な、おヘソ・・・・」
そういって、舌を差し入れる。
もうくすぐったくて、あたしは我慢できやしない。
「笑ってる場合じゃないでしょう!りかさん。」
そういいながらぎゅううってウエストにしがみつくかおるを見下ろして、
あたしってば、笑いすぎて涙が出てきそう。
あたしを独占しようとしてくれる、あなたが好きよ。
あなたを独占したがる、あたしはちょっと嫌い。
だけど、今は好きになろう。
「じゃあ、あたしのおヘソはかおるにあげるから。」
「うん、貰う。」
真面目な顔でじいっと見つめあい、噴出すあたしたち。
そしてゆったりとした夜の中、
あたしたちは似た物同士の殻を、一枚一枚剥がしあう。
吐息が上がってゆく。
肌が艶めいてゆく。
後れ毛が首筋に張り付いて、
吐息は甘い囁き声となり、
あなたの収縮があたしの背中を走り、
なめらかな曲線が一つになる。
「かおるはあたしにくれる?」
「うん、あげる。」
魔法にかかったみたいな会話。
目覚めれば、恥ずかしくて頭が痛くなる。
だけど、今は仕方ない。
だってあたしはBewitched。
あなたの魔法にかかってるから。
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