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プレゼント
ノックの音だけでわかるなんて、なんか嫌だわ、あたしったら。
ドアスコープで確かめなくても、確かめてるふりで立ち止まる。
ドアの向こうの瞳は、とっても強くて透かして見られていそうなんだもの。
あたしはもう一度、鏡で確認する。
ちょっとうんざりしたみたいに、ちょっと付き合ってあげてるのよって、
そんな顔になってるかしら。
これも見栄のひとつなの。
レースを透かして見せるみたい、見えそうで見えない覆われた素肌。
口の端をちょっと上げ、めんどくさそうにドアを開く。
「りかさ ぁん 。
お誕生日、おめで、とっ! 」
いっつもドアから、もう勝負が決まってる。
だから、いきなり腕に飛び込んでみた。
酔ってるふりでもなんでもいいや。
なんか、わたし焦ってる。
荷物なんか、そこいらへんにほっぽりだして。
細くて折れそうなりかさんに、身体を預けてみる。
ぎゅうぎゅう抱きしめて、頬をすり寄せて。
考える前に動いちゃえ、って考えた結果なんだけど。
「ど・・・したの?」
もう、なんだかこの子って、全然わからない時がある。
離れすぎてるか、近づきすぎてるか、
あたしたちは丁度いいってことがない。
「あったかい。」
「違うでしょ。」
「なにが?」
なにが、っていわれるとなにがなんだろう。
あたしたち抱きあって温かくて、
それは確かに、違わない。
いつのまにかあたしより、ちょっと高くなった目線。
いつのまにかあたしくらい、ちょっと色っぽい唇。
あなたはいつもちょっとずつ違ってる。
意識せずに、軽やかに、
あなたはどんどん進化する。
りかさんの言葉に、いつもピント外れるわたし。
だから今日は言葉なんて捨てちゃおう。
理屈なんかつけない、本能だけで動いてやる。
ああ、もう、どうしちゃたの?って顔にかいてある
焦ってるんだ、わたし。
足が止まっちゃう前に、言葉を飲み込む前に。
今日は伝えなきゃ、なんてね。
だから飛びこんでんだ、この腕の中に。
顔に手を伸ばし、唇が寄せられる。
グロスでふんわりと描いたそれが、甘くあたしを包み込む。
柔らかく忍び込む感触に、あたしは揺れてしまいそう。
こんなところまで進化しちゃってるの。
「なんか・・・すごいわね、
今日は。」
ひとつ大きく息を吐くあたしに、あなたは笑窪なんか浮かべてる。
「おめでたいから。」
「そんなもん、かしら?」
「 ・・・ いや?」
「ううん。新鮮。」
「じゃ、も一回。」
まるで貪るみたいに、夢中になってキスするあたしたち。
押されっぱなし、だからなんなの。
なにが丁度いいかなんて、本当はわかってないの。
心に纏うレースは、様々に文様をかえてゆき、
あたしたちはお互いに惑わされっぱなし。
息が止まるくらい、胸が潰れるくらい、貪ってみるのも悪くない。
「・・・・息、上がってるわよ。」
くすくす笑ってる、りかさん。
ああ、やっぱだめだ、わたし。
ここでぜいぜいしてたら、ギャグにしかならないよ。
だけど、そろそろ精一杯。
ストックの無い気持ちに身体がついてかない。
あとはひたすら抱きつくくらい、バリエーション無い事このうえない。
「ね・・・行く ?」
お見通しっていうみたいに、耳元でりかさんが囁く。
いっぱいいっぱいで、頷いてるわたし。
「・・・ん。」
まろやかな光が薄く落ちるベッドルーム。
膨らんだ唇が、ふんわりと弧を描く。
こんなふうに笑うこともあるんだ。
りかさんはいつも変わってく。
わたしは追いつこうと、息があがるばかり。
これみよがしに手をとられたりはしないけれど、
それくらいの距離が、心地いい。
「あ、プレゼント・・・」
放り出したバッグに、戻りかける。
「いいわよ。後で。」
くすくすって笑いながら、りかさんが手を引っ張って、
わたしたちはベッドに倒れこむ。
うふふって笑いながら、りかさんの手がブラウスにかかり、
わたしたちはお互いを剥がしてゆく。
「ありがちで、いいの。」
「なにが?」
「プレゼント。」
あたしの上のあなた、やっと困った顔になったわね。
薄い肩にかかる、下着のストラップに指をかけて。
そっと、窪みをなぞってみる。
そう、あなたを頂戴。
「いいの?」
「いいの。」
言葉を止めて、脚を絡めて、
あなたを思い切り引き寄せる。
理屈なんてつけられない、本能はあなたに引き寄せられっぱなし。
見えそうで見えないレースを纏いながら、
お互いに手探りを繰り返しているようで。
その素肌を見定めたくて、いつもあたしは焦りっぱなし。
手探りしてるのは、本当はあたしだけ?
回りだした頭、引きずられないように、
今日はあなただけに焦点をあわせてみよう。
上がり始めた息を、あなたの胸に埋めてみる。
誕生日にくれるなら。
見えないものを、頂戴。
聞こえないものを、頂戴。
触れないものを、頂戴。
あたしにうっとりと、夢を見させて。
甘やかな、あなたの声に包まれて。
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