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鏡
ぽやぽやの頭に、あなたはタオルをひっかけて。
バスルームの熱が、そのまま残っているような上気した頬。
あたしってば、そこいらのコップに注いだワインを舐めながら、
ベッドで上目使い、凄く感じ悪い。
「・・ん?」
「・・・ん、と。」
やあねえ、会話になってないでしょ。
会話が要らないっていうのならばいいけれど。
あたしたちは、会話にならない、ただそれだけで。
上滑りな問いかけを、放り出すようなあたし。
応えなきゃって気負いばっか、ループしちゃってるあなた。
そして、ぐるぐる想いばかり乱反射してる。
不機嫌に見えるのだろう。
あの子は突っ立ったままで、思案しているのがわからないようにと、
窓の方なんかに目を向けて。
ばればれよ。
「こんな時間だと、街の電気も消えちゃう・・・ね。」
だからなんなのよ。
って顔が伝わったのかしら、唇が半開きのまま固まっちゃった。
「・・・ん?」
「・・・ん、と・・・」
ああ、切りが無いのはあたしのせいだわ。
ベッドサイドにグラスを置いて、なんとかしなきゃ。
「こっち。」
立ち上がったりかさんが、めんどくさそうに手で招く。
間抜けなわたしは、スリッパをばたばたさせながらりかさんの側へ。
なのに、りかさんは音もなく滑るように歩くんだ。
「なに ?」
大きな姿見、ぴかぴかの鏡面の前にわたしは並んで立たされる。
うわあ、お風呂上りで髪なんかばさばさじゃん。
りかさんはちょっとほんのりした頬で、
おっきな目が心なしかとろんとしてて。
肩にひんやりとした手をかけて、わたしのうしろから、覗き込む。
「ねえ・・・」
頬に唇の振動が伝わる。
「あの、かお、して。」
「え?」
「あの、かお。」
なんでこんなに嬉しそうなんだろう、この人ってば。
「どの顔、ですか?」
あなた、気が逸れると敬語になるのね。
くだけてる口調は、緊張してる証拠。
なんて、大概あたしたちへそ曲がりね。
「ほらぁ、あの、きりっとした。」
「なんですか、もお・・」
「男前な、表紙の顔よ。」
「んもう、りかさんてば。」
そう、今ごろ気がついたの?
あたしって、結構意地が悪いの。
結構欲張りなの。
あなたを独り占めしたいくらいには。
「やぁ、だぁ。」
わたしってば情けない、消え入りそうな声。
真面目なのか馬鹿にされてるのか、全然掴めないなんて。
勘が鈍い、呆れられてる?
「ほらぁ、もっと、ちゃんとやってよ。」
りかさんの頬があつい。
頬を寄せ合って並んでるわたしたちが映る。
「ん、いい景色。」
肩越しに並んでる顔は、うふふふって聞こえてきそうな、
大人っぽい笑顔。
「ちゃんと・・・って。」
伸び上がるように、顔を摺り寄せられて。
ピアスの冷たさに、目が覚める。
「もっと、ね、こう。」
そう言いながら、指が唇をなぞり、
顔のラインに下りてきて、そして首筋に。
「唇なんか、きりっとしてて。」
細い指がバスローブに遊びだす。
わたしは開いてしまいそうな唇を、必死でかみ締める。
「眼なんか据わってたじゃないの。」
絶対それって褒めてないよね。
いつの間にか、肩なんか剥き出しにされっちゃてる。
白白としたライトの中で、倒れそうなわたしを鏡が映し出す。
バスローブの紐が、ゆるりと解かれて。
鏡面を通した裏焼きのあたしたち。
なんだかそのほうが見えてくるみたい。
フィルターを通したら、濾過された想いが滲み出す。
本当は倒れちゃいそう。
本当は倒れこみたい。
どうしてこんなに触れることに臆病なのだろう。
鏡の向こう、刺さるような瞳。
酔うように揺らがせてしまいたくて。
肩に顔を埋める。
「ねえ・・・あの、顔は・・?」
鏡の向こうのあたし、バスローブの下の滑らかなラインをなぞりだす。
膨らみも、窪みも全て手の中で確認する。
「もう・・・やだ。 りかさん・・っ。」
声が上がってくる、掠れてくるのも思った通り。
余裕ぶって笑いながら、感じ始めた体温を楽しむ。
あたしの指はまるで意思を持っているかのかのように、あなたに入り込む。
張り詰めたような薄い皮膚の下で、あたしを柔らかく受け入れて。
あたしの腕の中のあなたが、鏡の中で切ない息を洩らす。
そうね、まだあなたの隅々まで知っている幻想に遊べるわ。
いつまでも、なんて思っちゃいない。
そうね、ベッドに行くまででいいの。
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