AKABOSHI
「・・・・・ねえ、起きてる?」
寝呆けた頭で呟く戯言。
カーテンの向こう、星が滲んでく気配がする。
ぼやけた頭は、ざわついた不安に絡めとられる。
白いリネン、ダブルのベッド。
薄いブランケット、埋もれた身体。
寝返りを打つように仰け反ると、
小さな唇が開く、綺麗な歯が覗く。
「ん・・・」
すっかり満足しちゃったみたいに、気持ち良さそうに眠るのね。
あたしはこの小さな箱の中、空に放り出されちゃったみたいな、
ムチャクチャな感情に囚われる。
寂しいとかいうんじゃないけど。
そう、心細いみたいな。
りかちゃん、って包まれたい。
あたしってば、あたしったら。
「寝てるのね・・・」
お互いの曲線は、もう掌に馴染んでる。
あなたの舌も歯並びも、感触でわかってる。
あたしはさっきまでのあなたを頭で反芻する。
一人で。
――――― 遠くへと逃げ去ってしまおうか
「随分と作ったでしょ。」
胸の曲線を舌で確かめる。
「なにを?」
「胸。」
「まだ、観てくれてないよ。」
唇が膨れてるのがわかる。
――――― 消えそうに欠けてゆく月と 被さる雲はそのままに
「違うの?」
「りかさんほどじゃ、ないもん。」
「・・・・生意気。」
頂きに歯を立てる。
肩が小さく竦む。
痛いの?感じるの?
「ひっどおい。」
「聞こえない。」
「噛んだ。」
「悪い?」
「聞こえてるじゃない。」
薄く浮く肋骨から鳩尾へ。
指は絡めあったまま。
「でもね。」
「え?」
「下半身は、ちょっと・・・かも。」
あたしはつい下に眼を向ける。
縊れた腰からまろやかなヒップ。
滑らかに張った腿、小さな膝。
その下に、長くすんなり伸びた脚。
「あ、やだ。見てる。」
脚をばたつかせて、恥ずかしがってるってだけで、
あたしったら嬉しくて潤む。
馬鹿みたい。
「やぁ ・・・だあ。」
「いい脚よ。」
「え?」
膝を寄せて、どうしようって顔で。
「締まってるでしょ、足首。」
だから?って思ってる?
「感度がいいって。」
唇がすぼまって、目がくるんとなって。
「そっかあ。」
「・・・・こともある。」
目が細まって、笑窪が浮かぶ。
「んもう・・・
えっちだ、りかさん。」
「いまさら。」
そのまま言葉を遮るように、顔をあなたに埋めるの。
一番優しい処に、一番優しく唇が遊ぶ。
吐息がエアコンの唸りに溶けてゆく。
「ねえ、観て・・・くれるよね。」
「観て、ほしい?」
「ん。」
絡めた指に力がこもる。
「ねえ。」
「気が向いたら、ね。」
――――― 遠くへと連れ去ってしまおうか
「カッコよかった。」
「そう。」
「素敵だった。」
「そう。」
「色っぽかった。」
「そう。」
昂まりだすのは、あたし?あなた?
あたしの下で、大きく波を打ち始めるあなた。
「入れて・・くれ・・・・る?」
「ん?」
「・・・・・い・・ろ・・ クラ・・・ブ。」
呂律と反比例して、言葉が縺れるように転がりだす。
「考えとくわ。」
「意地悪 ・・ぅい。」
指が離れる。
「怒った?」
「さあね。」
我ながら、意地が悪い。
はぐらかす言葉しか知らない。
いつからあたしって、こんななっちゃったの。
外面はちゃんとしてるのにね。
こんななのに、あなた、本当にいいの?
なんて、聞くわけないでしょ。
鳩尾を額に感じながら、
なだらかに、もっとなだらかに。
滑らかに張った肌に包まれながら。
心地良い弾力に、あたしは包まれながら。
「声、出しなさい。」
二人、息はもう上がってる。
取り繕うなんて考えたりしないわね、あなた。
取り繕うことばっか考えてる、あたし。
「 りか・・・・・ぁ ! 」
「・・・・・・・呼びつけに、
・・・・するな。」
縺れ合って、喘ぎながら、笑いながら。
あたしたちは、動物みたい。
あなたと動物になるのは、心地いい。
――――― 明日の僕らは何処にいる?
「寝ちゃったの?」
起こさないように呟くの。
漂うようなベッドの上で、小さな身体を引寄せる。
肌蹴た肩が、眠りの中であたしの胸に滑り込む。
頬を寄せて、その温かさにあたしは涙なんか零してみる。
近しくて、愛おしくて、可愛くて。
だから泣けるんじゃないわ。
無意識のまま、腕があたしに回る。
身体が熱くなる、どきどきする。
溶ける、胸の底が。
意味もない涙となり流れ出す。
何故なの?切ないの。
――――― また今日も汚れてく街は 蝕む煙を吐き出す
ちゃちくてセンチメントな、まどろみのなかのあたしたち。
――――― 君の知らない 遠くへと連れ去ってしまおうか
あたしは何を見ているの。
――――― 瞬かない星が一つ 夜明けの街に消えてゆく
あたしは何を見つけたいの?
――――― 二人ここから 充てのない明日を探そうか
いつのまに頬を濡らしながら、
夜明けにあなたの夢を見るあたし。
なにかを、思い出して。
なにかを、忘れながら。
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