Don't Disturb 1
クリスマスだからじゃないわ。
そりゃあね、嬉しいわよ。
紙袋にはシャンパン、そっと抱えてきたケーキボックス。
いそいそとテーブルに広げながら、楽しそうなあなた。
あたしはすっかり湯上りで、バスローブなんて引っかけて、
ソファで片肘ついて、ずり落ちかけていたりする。
楽しいのよね、それって本当?
ああ、この頃やけに疑り深い。
顔に出せないだけ言葉に出せないだけ、余計に胸が重い。
そんなあたしの頭など、まったく見えてない、
もしかして見えないふりで、あなたはあたしに話しかける。
そんな姿は堪らなく可愛くて、堪らなく憎らしい。
あたしの頭の中、今更見せられない、見せたくない。
どうしてこんなに年上ぶりたいのかしら、あたし。
「ねえ、甘過ぎない?」
ドンペリとケーキ、一緒に食べようって気によくなるわね。
「え、結構いけますって。」
「そうお。」
床にぺたりと座ったまま、瞳を上げる。
ケーキをすくったフォークが止まる。
「んと、りかさん、嫌いでしたっけ?」
「ううん、別に。」
「でも、手つけてない。」
「今は飲みたいの。」
「おなか、空いてないの?」
あら、敬語がなおってきたのね。
自覚なくやってるのかしら。
こんなことが気になる、あたしってかなりやられちゃってる?
「うん。」
「でもね、幸せですよね、思いっきり好きなもの食べられるって。」
あーあ、そんなことでこんなに嬉しそうに笑わないで。
「そういうもん、かしら。」
口唇のクリームを舐めとりたい衝動を抑え、つまらなそうにいってみる。
「そういうもん、ですよ。」
こら、素っ面でフォークを振るんじゃない。
よく食べて、よく飲んで、つかえがとれたような今日のあなた。
アルコールでほんのり目元が染まる。
こういう顔が、壮絶に色っぽいって、わかってる?
「色っぽいわね、今日は。」
珍しくストレートに言ってみる。
「りかさんに言われるなんて、すっごおい、自分。」
弾けたように笑い転げる。
この子の距離感が掴めない。
懐にいるかと思えば、見えないところまで飛んでいくようで。
いなくなったと気を許すと、いきなり切りこむような鋭さを剥き出しにする。
天性に勘がいい、考えてるあたしは勝手に自分を追い詰める。
「凄いでしょ、たには。」
「そう、思ってくださいます?本当に?」
やだわ、今日はどうしちゃたの。
いきなりソファに乗るのはやめて。
零れそうなグラスを慌てて飲み干す。
「いつも・・・思ってるでしょ。」
間近で見つめるこの子の瞳に、なんとなく言葉が見つからない。
面倒くさい、って自分に言訳する。
取りあえず口唇を重ねて、言葉を止める。
この子を舌で思い切り揺さぶってみる。
柔らかく受け入れる舌が吸いつくようで、
あたしはもう酔いつぶれてしまいそう。
だめ、このままじゃ。
口唇を耳朶へ。
「くすぐったい。」
「いいから、じっとしてて。」
囁きは振動となり、震えるくらい気持ちがいいはずよ。
「どお。」
「あつ、い。」
吐息の下、あなたの首筋に指を這わせる。
いきなり手首を掴まれる。
「どうしたの。」
愛撫の名残に、きらきら瞳を上気させたあなたが口唇を耳に寄せてくる。
あたしを受け入れた柔らかい舌が、そっとさし入れられる。
「今日は、クリスマスだから。」
だから、なあに。
「あたし、頑張る。」
綺麗な顔は素面なんだけど、珍しく酔ってるの?
子供扱いするのは、あたしが大人でありたいから。
お互いにそれを分かっていながら演じつづける。
今夜は無礼講。
役を取り替えるのも悪くない。
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