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 チェックイン 8月4日 23:45 








ドアスコープ、魚眼のレンズ。
大写しのあの子、肩で大きく息をつく。

息を止めて、ブザーを鳴らす。
ドアの向こう、スコープが陰る。



「すみません、遅くなっちゃって。」



息を切って飛び込む顔に、一瞥もしないあたし。
何も言わずに窓辺へ戻る、空けてしまったドンペリ。
プレゼントに、思いなんて込めたくない。
どうでもいいように持ってきた酒瓶。
中身はほとんど、胃袋に収まってる。


「あ・・の、なかなか抜けられなくて、それで。」


もちろんわかってます。
大人です、上級生です。


「いいんじゃない、付き合いは大切だもの。」


こんなこと、言ってる場合じゃない。






あなたは、少し困ったように、そして眩しいように、目を顰める。
回り込んでこちらを見つめる。
背が伸びたのね、もう上目じゃない。
正面からあたしを、真っ直ぐに見つめる。
なによ、なにが言いたいのよ。
こういうときは、言わせるのが定石。


「もうすぐ、終わりよ、誕生日。」


手首を返して、口を尖らす顔が、こども。
時間なんて忘れてた?


「忙しいなら、無理しなくていいのに。」


うなだれて、口の中で何か考える顔も、こども。
言い訳なんか聞かない。


「守れない約束なら、しないほうがいいんじゃない。」


こちらを見つめる、必死そうな目も、こども。
目は口ほどにものなんか言わない。
「無理しなくても、いつでも会えるんだし。」




喋りっぱなしの、あたし。
こども、こども、こども。





「でも、会いたかった、から。」




いきなり、気がつかされる。
堂々巡り、本質をつけない。
それは怖いから、素で立ち向かえない。
気をとられるのは、瑣末なことばかり。


「折角の、誕生日だから。」


揺らがずに、本質だけついてくる。
その鷹揚さに、気づかされることがある。
言うべきことと、言わないことと。
こどもは、あたしだ。






首に手が回る、心地よい重みがかかる。
手を下ろしたまま、髪の匂いを楽しむ。
大きな目を寄せられて、軽く鼻を擦りあう。
急いで直してきた、ファンデーション。
薄く透ける、沢山のキスマーク。


「いっぱい、されたわね。」
「りかさんほどじゃ、ない。」


くすくすと笑いあう、あたしはこどもに戻ってゆく。
ひとつひとつ口唇を寄せて、その痕跡を消してゆく。


「くすぐったい。」


「許さない。」


はしゃぎあいながら、いつしか抱きあって。
薄っぺらな見栄が、ぱりぱりと剥がれ落ちる。


「もう、許す?」


「許さない。」


最後の一杯を、グラスに注ぐ。




「プレゼント。」



口移しで、そのまま大人らしく、キス。
あなたはこどものふりをして。
あたしはおとなのふりをする。


まだ、もうすこし、こんなふうに時を過ごしたい。




「もう、許す?」


「あと、十五分。」





あなたが、また、一つおとなになるまで、
あと、十五分。











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