人事部クライシスは大企業だけの問題ではない。中小ではそもそも人事部がない企業も少なくない。そうした状況下で奮闘しているのが葬儀関連会社の永田屋(神奈川県相模原市)だ。
「100年以上続く企業がさらに100年続くためには、中途採用だけでは未来をつくれない」と田中大輔代表は話す。
中途採用のみだったが、次世代の社員を育成するため、8年前から新卒採用を始めた。パートタイムを含めた従業員数は約200人。15拠点、22式場を運営する中堅企業だが、葬儀の仕事はネガティブな印象を抱かれやすく、学生に興味を持ってもらうのは容易でない。
日々命と向き合う仕事だからこそ、自分の人生について考える機会も増え、「多くの気付きを与えられる仕事でもある」(田中代表)。葬儀社で働く良さを若い人にも知ってもらいたいと思い、田中代表は採用チームの招集に動いた。
中小企業の多くは人事部を持たず、総務部や社長が労務や採用を兼務しているところが多い。船井総研HRストラテジー支援部の宮花宙希マネージング・ディレクターは「人事や採用担当を雇うなら、そのコストで基本給や家賃補助を手厚くしたほうがいいと考える」と話す。中小企業にも人事担当者を設けようとする動きはあるものの、「ノウハウのある人が社内におらず、外部から雇おうとしても年収がネックとなり、人事経験者を雇えずに結局断念してしまう」(同氏)。
永田屋は新卒採用を始めた数年後、役員室に人財開発室を設けた。同社は正社員が80人ほどであることを踏まえると、手厚い採用体制といえる。近年の新卒採用は毎年1000人ほどのエントリーがあり、倍率は100倍にも上る。しかし、採用を始めた当初は人が集まらず、苦労も多かった。田中代表は「周りの社員は協力的ではなく、成果も出なかった。効果の実感がないことをするほどつらいことはない」と当時を振り返る。
周囲の理解を得るため、「経営で一番大事なのは採用。社員全員が採用担当だ」というメッセージを発信し続けた。限られたリソースで兼務しながら採用の時間を捻出するのはたやすくない。営業部や総務部など3部署の部長を務める長岡修氏は「採用を最優先業務に据えて、残りの時間で他の業務に取り組む。これは私だけではなく、みんなそう」と話す。兼務せざるを得ないからこそ、トップが業務の優先順位を明確にすることが求められる。
面接や面談も全員野球だ。応募者につき7~8回ほど行うが、面接は管理職、面談は入社2~4年目の若手社員が担う。長岡氏は「採用やインターンシップで面倒を見た学生は、入社後も育ててあげたいという気持ちが芽生えやすく、『全員が採用担当』という方針も腹落ちしやすくなる」と話す。新入社員としても、入社前からお世話になった先輩には憧れや敬意を抱きやすく、入社後、採用活動に協力的になりやすいという。
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