部分分数分解は、ラプラス変換を用いて微分方程式を解くときや、積分計算するときなどに必要となることがあります。
このページでは、部分分数分解の主要な方法である、係数比較法とヘビサイドの展開定理を紹介します。
※ラプラス変換を用いた微分方程式の解き方については、こちらのページをご覧ください
- 部分分数分解後の式の形には法則性があるので、これを覚えておくと便利
- 係数比較法は、分解後の式の形を予測し、そこから解を逆算する手法
- ヘビサイドの展開定理も同様だが、係数比較法よりも計算が簡単
部分分数分解とは
次のように、分数の積を分数の和(差)に分解する操作のことを、部分分数分解と呼びます。
ちょうど、通分の逆の操作を行うわけですね。
※本ページではラプラス変換での利用を想定して、変数を
上記はシンプルな例ですが、実用上は次のように分母分子がもう少し複雑な場合がほとんどです。
結局、分母にある掛け算が足し算になるのがポイントですね。
当然と言えば当然ですが、分解後の各分母はそれ以上因数分解できない形にすることに注意してください。もし因数分解可能なら分母に積ができるので、その項をさらに分解する必要があります。
係数比較法
分解後の式の形
それでは、具体的な分解法を紹介していきましょう。まずは最も基本的な係数比較法です。
係数比較法は、分解後の式の形を予測し、そこから解を逆算する手法です。よって、まずは分解後の式の形を抑えておきましょう。
分解後の式の形には、次のような法則性があります。
- 分母の各因数が、各項の分母に分解される
- 分子の最大次数は、「分母の次数-1」となる
※
これらの形をゴールとして、分子の係数をそれぞれ逆算していくわけですね。
方法
例として、次の分数を部分分数分解してみましょう。
先ほど示した法則より、これの分解後の姿は次のようになるはずです。
これが元の分数に等しいので、各項の係数を比較することで、次の関係性が得られます。
後はこれを解いて、解を式に代入すれば分解完了です。
利点と欠点
この手法の利点は、理論がシンプルで分かりやすいことです。この方法を高校で学んだ方も多いのではないでしょうか。
一方の欠点としては、連立方程式を解くのが面倒なことが挙げられます。上の例は3変数の連立方程式でしたが、式が複雑になるにつれて変数がどんどん増えるため、手間も増大していきます。
何より、分数を分解したいだけなのに「連立方程式で分子の係数を求める」という別の問題をやらされている感が出るのが嫌な感じですよね。ただでさえ部分分数分解も手段にすぎないのに…

また、最初に分解後の式の形を正しく予測する必要があることも欠点として挙げられます。これを間違えると、以降の苦労が水の泡になってしまいますからね。
ヘビサイドの展開定理
上記欠点をちょっぴり緩和できるのが、ヘビサイドの展開定理です。
ヘビサイドの展開定理も係数比較法と同じく、分解後の式の形を予測し、そこから解を逆算する手法です。
ヘビサイドの展開定理には様々な解釈方法がありますが、ここでは実用上使いやすい簡単なものを紹介します。
※数学的に厳密に表現されたヘビサイドの展開定理は、式が複雑で分かりにくいので省略します。気になる方は別途検索してみてください。
方法
例として、次の分数を部分分数分解してみます。係数比較法と同様に、分解後の姿も予測しておきましょう
本質的に同じものの数式表現を変えているだけなので、上記は恒等式、つまり「どんなときでも成り立つ式」であるのがポイントです。この性質を生かして、
まず、両辺に
上式も「どんなときにも成り立つ恒等式」なので、
同様の流れで、
後はそれぞれの解を代入すれば、分解完了です。
上記概念を踏まえると、結局次のように考えれば、色々すっ飛ばしていきなり係数を求められることが分かります。
簡単に言うと、
分母に累乗がある場合
次のように分母に累乗が含まれる場合は、ちょっと特別な取り扱いが必要です。これについて、見てみましょう。
実際にやってみると分かりますが、この場合は累乗の部分を次のように分解しないと、先ほどのようにスマートに解けなくなります。
- [さっきのやつ] 分母の各因数が、各項の分母に分解される
- [さっきのやつ] 分子の最大次数は、「分母の次数-1」となる
- [new!] 因数が累乗の形である場合は、最大乗数以下の各乗数の項に分解しておく
※
これに従って、先ほどの分数を分解してみましょう。
まずは、
ここで
こんなときは両辺に
「両辺にかけるのは常に最高次数、あとは必要に応じて微分する」と覚えておけばよいでしょう。
後はそれぞれの解を代入すれば、分解完了です。微分が入ると、ちょっと手間が増えますね。
利点と欠点
ヘビサイドの展開定理の利点としては、連立方程式を直接解くことなく各項の係数を求められる点が挙げられます。都合のよい
一方、最大の欠点としては、分母の因数の次数が1でないといけないことが挙げられます。
例えば次のように分母に2次以上の因数がある場合、それは「それ以上因数分解できないからそこにある」わけですよね。
ということは、この部分を0にできる実数
※
また、手間が減ったとはいえ、やはり部分分数分解したいだけなのに「係数を求める」という別の問題をやらされている感は残ります。

このあたりは係数比較法と同じですね。もう一つ係数比較法と同じ欠点としては、最初に分解後の式の形を正しく予測する必要があることも挙げられます。
これらの欠点よりも利点が勝る場合は、ヘビサイドの展開定理は非常に便利に使えるでしょう。
以上、係数比較法とヘビサイドの展開定理についての解説でした!なお、こちらのページでは上記欠点を全て解消した部分分数分解の裏ワザを紹介していますので、合わせてご覧ください。

- 部分分数分解後の式の形には法則性があるので、これを覚えておくと便利
- 係数比較法は、分解後の式の形を予測し、そこから解を逆算する手法
- ヘビサイドの展開定理も同様だが、係数比較法よりも計算が簡単



コメント
部分分数分解
部分分数分解の基礎のセクションの2本目の式、右辺第二項の分母の係数が、3本目の式、左辺第二項の分母の係数と違っております。
2と3の入れ替わりと思われます。
ご確認くださいませ。
コメントありがとうございます。
2本目の式は「それ以上分解できない例」、3本目の式は「それ以上分解できる例」として、別のものを掲載した意図でした。
なので間違いではないのですが、非常に類似した例であったので、その意図が伝わりにくい説明になってしまっていたのが問題ですね…
もっと分かりやすい形に変更します。フィードバックいただき、ありがとうございました。
こちらこそありがとうございます。
こんとろさんで勉強させていただいております。
大変ありがたく学ばせていただいております。
間違いでない旨は理解いたしました。
今後ともよろしく。
こんにちは。
部分分数分解についてずっと疑問に思っていることがあります。
「分解後の式の形」の色のついている箇所の一番下の式についてです。
分母が(s+1)^2、(s+1)^3の項の分子がそれぞれB、Cという定数でうまくいくのはなぜでしょうか?分子の最大次数は、「分母の次数-1」となるのなら、Bは1次式、Cは2次式にしないといけないように思いますが、定数で大丈夫な理由がわかりません。
お忙しいところすみませんが、教えて頂けるとうれしいです。よろしくお願いします。
こんにちは。確かに言葉足らずで混乱を招く表現になっていますね。コメントありがとうございます。
該当項目の説明文としては、「因数が累乗の形である場合は、最大乗数以下の各乗数の項にも分解できる」としたほうがより適切ですね。
というのも、もし分母(s+1)^3の部分を「分母の次数-1」の法則で分解するなら、分子がA・B・Cの3項に分解されるのではなく、(As^2 + Bs + C)/(s+1)^3という1つの項を最終形とすることになります。
そしてこれをうまく整理すると、分子がA・B・Cの3項にも分解できる、と解釈すればよいかと思います。実際、それぞれの項を通分して1つにまとめると、{As^2 + (2A+B)s + (A+B+C)}/(s+1)^3となるため、定数部分をまとめ直すと結局さきほどの(As^2 + Bs + C)/(s+1)^3と同じ形になります。
つまり、分母が(s+1)^3の部分を「分子が2次式の1つの項」として切り出したいか、「分子が定数の3つの項」として切り出したいかによって、最終形の想定が変わるが、本質的にはどちらも同じものだと解釈すればよいかと思います。
本文中で「分子が定数の3つの項」を想定しているのは、ヘビサイドの展開定理ではこの形から考えないとスマートに解を導出できないからですね。係数比較法を使う場合は、「分子が2次式の1つの項」から考えたほうが計算は楽なので、そのあたりが分かるように本文をうまく再編集できないか考えてみます。
早速のご返答、どうもありがとうございました。
本質的にはどちらも同じ、ということで納得しました!
公式としてとにかく覚えろ、と言われてずっとモヤモヤしておりました。
これからも応援しています。ありがとうございました。
お力になれたようで良かったです。
記事改善のヒントにもなりますので、また何かありましたらお気軽に質問してくださいね。