「こよちゃん、大丈夫でござるか…?」
私は、こよちゃんにそう言った。
こよちゃんは布団にくるまったままだった。
「だい、じょうぶ…だいじょうぶ、だよ...」
明らかに、おかしい様子だ。
今日は本来、ライブの予行日だった。
しかし、こよちゃんの体調がよくない。
だから私は看病するために、休んだのだ。
結構前から、少し様子がおかしかったのだ。
なんだか焦っているようで、私を見るたびに不安そうな目をしていた。
「…ねえこよちゃん、前から何かおかしくなかったでござるか?」
その言葉に、こよちゃんはビクッと反応した。
「教えてくれないで、ござるか?」
そう聞いた数秒後、布団の中からこよちゃんが現れた。
「…いろはちゃん、どうしよう...」
泣きながら、私に縋って来た。
「どうしたでござる?」
「…こよが、この世界を壊しちゃう」
「え、どういう、ことなの?」
こよちゃんのその言葉に、私の表情が固まってしまった。
「こよ、ぼたん先輩に脅されて、ウイルスを作った…人を、ゾンビ化させる、ウイルスを...」
私は、そんな非現実的な言葉に驚く。
「そのウイルスは、今日、世界に広まる...」
「え、じゃあ、この世界が...」
ゾンビで、溢れかえるってこと?
それは、まずい。
この世界が、混乱してしまう。
「こよが、作ったの…」
泣き出してしまう、こよちゃん。
脅されて作ったこよちゃんの気持ちは、きっとものすごくつらいのだろう。
私はこよちゃんを撫でる。
「大丈夫でござる」
そう言った私も、不安でいっぱいだった。
この先、どうなってしまうのだろうか。
「こよちゃん、逃げよう」
私はこよちゃんの手を引いて部屋から飛び出した。
外には、ゾンビがあふれかえっていた。
やばい、思った以上に数が多い。
私は思った。
あの町から少し離れた丘まで行けば、高いから少しは安全なはず。
そこまで走っていくしかない。
「こよちゃん、行くよ」
私はこよちゃんの手を引いて走り出した。
その途中で邪魔になるゾンビは、全部斬り捨てていった。
結構な数、私はゾンビを殺した。
返り血で、私の服が結構汚れてしまう。
しかし、今はそんなこと言っていられない。
こよちゃんを守らないといけないんだ。
だからもっと、剣を振るわなくてはいけないんだ。
また目の前に、ゾンビが現れた。
「どいて」
そう言って、斬り捨てた。
正直、ゾンビを斬り殺すのは気持ち悪い。
でも、仕方がないんだ。
私はまた走り出そうとした、でも
「こよちゃん?」
こよちゃんに袖をつかまれて、できなかった。
「もう、やめようよ」
「何を言ってでござる?」
「これ以上、いろはちゃんの手を穢したくない」
こよちゃんはそう、潤んだ目で言ってきた。
「で、でも」
「お願い、もう、やめて...」
そう、私の胸に抱き着いてきた。
私は、こよちゃんのその願いを断ることができなかった。
「わかった。もう、やめよっか」
そう言って、歩いて私たちは丘へと向かった。
そして、丘の上にあるベンチまでたどり着いた。
「こよちゃん、すごくきれいでござるな」
「そう、だね…きれい...」
私たちはそのままベンチに腰を下ろした。
そして二人で寄り添いあう。
「…ごめんね、こよのせいで」
「ううん、大丈夫でござる」
「この毒薬を飲めば、楽に死ねるから...」
こよちゃんが、透明な液体を渡してきた。
私はそれを受け取る。
これを飲んだら、私たちは死ぬ。
どうなんだろう、これってこよちゃんのためになったのかな。
「こよちゃん、幸せ?」
私はそう無意識に聞いた。
こよちゃんは笑顔で頷いた。
「うん、いろはちゃんが横にいるからね」
あぁ、やっぱり好きだな。
そのかわいらしい笑顔が、私の心を絆した。
「また、来世も会えたらいいでござるな」
「そうだね、会えたら、いいなぁ...」
こよちゃんは、遠くを見つめてそう言った。
「じゃあ、また来世だね」
「うん、またね」
私たちは試験管の中身を飲み干した。
すると、すぐに手の力が入らなくなった。
私の手から試験官が滑り落ちた。
私はこよちゃんの手を強く、強く握った。
最期に、こよちゃんと一緒に寄り添いあえて
風間は、幸せでござる
素晴らしい作品だ!