判例評釈「福岡高判令和6年3月22日(判例集未登載)」

第1 事案の概要

1 訴訟の概要

 熊本県玉名郡長洲町に居住して生活保護を受けていた原告が、平成29年2月14日付けでなされた生活保護廃止決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案である(被告は、原告に対して生活保護を行う福祉事務所を設置している熊本県知事である)。

2 原告らの家族関係

 原告は妻、孫(長女の子)の3人で暮らしていた。孫は両親の離婚に伴い、保育園の頃から原告夫婦によって養育されていた。

3 孫の看護専門学校への進学

 孫は平成26年4月看護専門学校准看護科(2年過程。講義も実習も日中行われる。入学金10万円、教育充実費4万8000円、テキスト等8万円。月額授業料2万1000円、同実習費8000円、同その他7000円の合計は3万6000円である。)に入学し、在学しながら福岡県大牟田市内の病院に勤務し、収入を得ていた。

4 生活保護の受給開始

 原告は生活に困窮し、平成26年8月8日付けで、同年7月14日から生活保護(医療扶助)の受給を開始した。その際、孫は原告夫婦の世帯から世帯分離され、原告夫婦のみの世帯として生活保護の受給が認められた。

5 准看護科在籍中の世帯分離の継続

 福祉事務所の担当者は、平成27年10月13日、孫から、同年5月以降に病院から月6万円程度の就労収入を得ていること、学費を就労収入だけではなく奨学金等でも賄っていること、看護科への進学の以降を持っていることなどを聴取した。福祉事務所は10月21日にケース診断会議を開催したが、この時点では世帯分離の要件に該当するとして、世帯分離を継続することとした(なお、担当者が平成27年12月14日に、同年8月分(9万6040円)、9月分(7万1980円)、10月分(8万5250円)の給与明細を受領しているが、世帯分離を継続している)。

6 看護科進学後の状況

 孫は平成28年3月に看護専門学校准看護科を卒業して准看護師の資格を取得し、同年4月に同校看護科(3年過程。講義は夜間、実習は日中行われる。入学金22万円、教育充実費7万2000円、テキスト等15万円。月額授業料2万6000円、同実習費9000円、その他1万円の合計は4万5000円である。)に進学した。孫は同校進学後も在学しながら病院に勤務し、月約12~16万円(手取り)の収入を得ていた。

7 世帯分離の解除と生活保護の廃止に至る経緯

(1)孫の給与額

 福祉事務所の担当者は、平成28年12月16日、原告の自宅を訪問して原告と孫と面談し、孫の給与明細を受領し、孫の給与総支給額が以下の額であることを把握した(通勤費を除く)。


1月分  9万3360円

2月分  7万2335円

3月分 10万3320円

4月分 14万4820円(推計)

5月分 13万9960円

6月分 18万5132円

7月分 16万4317円

8月分 16万0025円(推計)

9月分 16万0025円(推計)

10月分 16万0025円(推計)

11月分 15万6525円


また、担当者は、孫が同年4月から月20日・1日7時間以上、時給1000円の条件で病院で就労するとともに、健康保険、厚生年金等に加入していたこと、看護科の入学金等の一時金44万2000円、月謝4万5000円、車検費用等を病院からの給与及び奨学金により賄っていることを確認した。

(2)ケース診断会議

 福祉事務所は平成29年1月26日にケース診断会議を開催し、平成29年2月1日付けで孫と原告の世帯分離を解除し、本件処分を行うことを決定した。

 同会議の検討票には担当者の意見として「これまでは孫が生業扶助の対象とならない専修学校に就学しており、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であるとして世帯分離としてきたが、平成28年4月から勤務条件が代わり、平成28年5月以降は社会保険・厚生年金・雇用保険に加入し、給与額(総支給額)も14~19万円と大幅に増えたため、世帯分離を解除し、保護廃止としたい。」との意見が記載されている。

(3)その後の経緯

 福祉事務所は平成29年2月14日付けで本件処分を行い、同日付の保護廃止決定通知書を同月16日に、福祉事務所の担当者が原告に対して交付した。保護変更決定通知書には「1 廃止した保護の種類 医療、2 廃止する時期 平成29年2月1日、3 理由 世帯の収入が最低生活費を上回るため」と記載されていた。

 原告は、平成29年5月11日、熊本県知事に対して本件処分の取消しを求める旨の審査請求をしたが、同年12月27日に同請求を棄却する旨の裁決がされた。

 福祉事務所は、平成30年1月、看護師資格取得のために就学は特に世帯の自立助長に効果的であるとして世帯分離を認めて保護を再開した。

原告は、平成30年1月31日、厚生労働大臣に対して本件処分の取消しを求める旨の再審査請求をしたが、令和元年12月2日に同再審査請求を棄却する旨の裁決がされた。

 原告は、令和2年6月1日、本件訴えを提起した。


第2 世帯分離について

 生活保護法10条(世帯単位の原則)

保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。


小山進次郎「生活保護法の解釈と運用」220頁ではただし書部分の意義について「世帯主が第4条1項の要件を満たさないのにかかわらず世帯全員として生活困窮に陥り他に途なき場合或いは世帯としての構成に無理がある場合等に世帯単位の取扱を強制すると与えらるべき保護を拒む結果となり、このような場合には世帯単位の取扱が形式的には可能であっても実質的には法の目的に背致するに至るからである」としている。

生活保護法10条のただし書を受けて、実施要領局長通知第1・2で世帯分離が規定されている。世帯分離がされた者については、たとえ生活保護を受給している世帯員と同居をしていても、生活保護の要否あるいは程度の決定にあたって考慮をされないことになる。

本件では局長通知第1・5(3)の「生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場合であって、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合」に当たるとして世帯分離がなされている。


第3 1審判決(熊本地判令和4年10月3日判タ1506号93頁)の概要

1 判断の枠組み

 1審判決は、本件処分が、孫の収入が増加したことに着目して原告夫婦と孫との世帯分離が解除されたこと、それを前提として原告夫婦及び孫で構成される世帯の収入が、同世帯の最低生活費を上回ることを理由として行われたことから、本件処分の適法性を判断するにあたって、原告夫婦と孫の世帯分離解除の適法性を判断するとした。

 生活保護法10条ただし書及び局長通知第1・5(3)によって世帯分離が認められている趣旨を「専修学校等に進学した世帯員の経済的負担を軽減し、引き続き保護世帯との同居を続けながら専修学校等の教育課程を修了することができるようにして、専修学校等の在学中に十分な稼働能力を取得させ、専修学校等に進学した世帯員及び分離された保護世帯の将来的な自立を促進助長することにあるもの」とする。その上で、「専修学校等に進学した世帯員の世帯分離又は世帯分離解除をするか否かの判断については、処分行政庁に相応の裁量権が付与されているものの、その判断時における専修学校等に進学した世帯員の就学状況、収入・支出等の経済状況、分離された保護世帯の状況等に基づき、世帯分離又は世帯分離解除を行うことにより専修学校等に進学した世帯員及び分離された保護世帯の将来的な自立の促進助長に効果的であると認められるか否かが検討されるべきであり、その検討過程ないし結果(判断の内容)が著しく合理性を欠く場合には、当該世帯分離又は世帯分離解除の判断は、処分行政庁の裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法性が認められると解するのが相当である」(下線は報告者による。)としている。

 そして「局長通知第1の2(2)、(4)、(5)、(6)及び(8)の場合と異なり、世帯分離を行わないとすれば「その世帯が要保護世帯となる場合に限る」という要件が付されていない局長通知第1の5(3)の世帯分離については、専修学校等に進学した世帯員の収入が増えて世帯分離を行なわなければ当該世帯員を含めた世帯収入が最低生活費を上回る状態となる場合であっても世帯分離を継続することが可能とされていると考えられるのであって、専修学校等に進学した世帯員の収入が増加したことのみをもって世帯分離を解除することは相当でないというべきである」ともしている。

2 具体的検討

(1)裁量権の逸脱・濫用にあたること

 福祉事務所の担当者は孫が看護科に就職し、准看護師の資格を取得して、一般人と同等の稼働能力を取得した孫の収入を含めれば生活保護を廃止できると考えて世帯分離を解除すべきと判断したものと思われるとする。

 しかし、

・准看護科と看護科は同質性・連続性を有する過程である

・看護師の資格を取得すれば准看護師の資格しか取得していない場合よりも病院等への就職がしやすくなり、支給される給与額や仕事のやりがいも増加することが認められる

ことから考えると、「長期的・俯瞰的な視点からすれば、孫が看護専門学校の准看護科を卒業し看護科に進学したことを踏まえても、平成29年2月の世帯分離解除の時点において、看護専門学校看護科に就学中の孫と原告夫婦の世帯分離を継続することが孫及び原告夫婦の経済的な自立に資する状況にあったことは明らかであるというべきである」とする。

 そのため、担当者には孫の世帯分離を継続することが、原告夫婦及び孫の経済的自立助長に効果的である状況が継続しているかという視点に欠けるところがあり、生活保護法4条の保護の補足性の原則を踏まえても、処分行政庁(福祉事務所長)における世帯分離解除の検討過程ないし結果(判断の内容)は著しく合理性を欠いていたと言わざるを得ないとし、本件処分は違法であって取消しを免れないとする。

(2)被告の主張に対する判断

 これに対して、被告は、①看護科に進学して就学の時間帯が夜間定時制に変わり、雇用も安定して収入が一般人と同様程度になり、世帯の自立促進という世帯分離の趣旨が達成された、②孫の稼働能力の活用を求めることが孫の就学を妨げるものとはいえない、として世帯分離解除の判断は合理的であると主張している。

 しかし、①については、進学によって世帯分離された世帯員の収入が増加等した場合に直ちに処分行政庁が世帯分離を解除することを許容する規定は無く、看護専門学校看護科に進学した孫が一般就労者と同程度の収入を得て社会保険にも加入したことをもって、孫と原告夫婦の自立助長が達成されたということはできない、②については、原告夫婦の生活保護受給が廃止されれば、原告夫婦が遠からず経済的に困窮し、孫の就学に支障が生じる可能性が高いことは処分行政庁にも容易に予測できたと考えられるし、困窮状態に陥ってから再度の生活保護を申請するのでは、学業と就労を両立させていた孫の生活が破壊され、かえって孫の経済的自立を阻害する結果になる、として被告の主張を退けている。


第4 控訴審判決(福岡高判令和6年3月22日)の概要

1 裁量権の逸脱・濫用には当たらないこと

 控訴審判決は、生活保護法10条の本文とただし書について述べた上で、「この個人単位の取扱いであるいわゆる世帯分離は、その要件や効果が「これによりがたいとき」「定めることができる」と規定されているから、そのいずれについても、行政庁に法1ないし4条の基本原理や法10条の趣旨に反しない範囲での裁量権がある」とする。

その後、これまで述べてきたような事実経過を述べた上で「孫は、看護専門学校での就学を経て、平成28年3月に准看護師の資格を取得し、同年4月以降、病院に勤務して月16万円程度の収入を得ていたのであり、その結果、孫を含む被告訴人世帯の収入合計額は最低生活費を約6万円上回ることになったのであるから、被控訴人世帯は、孫の就学・資格取得により、自立を一応達成することができたということができる。そして、甲4及び弁論の全趣旨によれば、処分行政庁はこのような状況を前提に、孫を含む被控訴人の世帯は世帯分離の要件を充たさなくなったと判断し、世帯分離を解除した上で、本件処分をしたものと認められ、これは、処分行政庁の裁量権の逸脱・濫用には当たらない。なお、孫が看護師の資格取得を目指していたという主観的事情は、自立の目的の達成に関する判断を左右しない」とする。

2 要保護世帯要件について

局長通知第1・5(3)には「世帯分離を行わないとすれば、その世帯が要保護世帯となる場合に限る。」といういわゆる要保護世帯要件が設けられていないことについて、このことから収入額の増加を理由に世帯分離解除をすることが認められていないということはできない、とする。局長通知第1・5(3)が要保護世帯要件を設けていないのは、被分離者が稼働等による収入で就学費用を支出することを認めて被分離者の自立を助長する趣旨と解されるが、本件では一応の自立が達成されているので、このような趣旨が当てはまらないとする。

3 被控訴人の主張に対する判断

・被控訴人夫婦と孫は同居し、家財を共同使用する等していたので、生計が同一で同一世帯に属していたというべきである。被控訴人夫婦と孫が年代や生活態様を異にすることは、別世帯と認定すべき根拠とはいえない。

・ガソリン代以外の車の関連費用を認めるに足りる証拠は無い。実習期間の生活費や国家試験費用とを孫の収入から必要経費として控除すべき理由は無い。

・孫の就学・准看護師資格の取得により、自立を一応達成することができたから、孫の収入がその後の看護専門学校の就学費用等に充てられ、また、実習開始後の生活費を貯蓄する必要があったとしても、世帯分離解除の適否を左右しない。

・平成30年1月に保護を再開したことも、直ちに本件処分時における世帯分離解除の判断や本件処分に裁量権の逸脱・濫用があったということはできない。再開にかかる申請では、孫の職場実習が始まって就労収入が減る見込みであることや医療費が高額であることが理由とされているので、本件処分時の判断と再開時の判断がそごするとも言いがたい。

・本件処分は扶助義務を根拠とするものではなく、法の採用する世帯分離の原則に基づくものである。


第5 検討

1 裁量権行使についての審査のあり方について

 行政事件訴訟法30条

 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。


 生活保護法10条ただし書の規定ぶり(「これによりがたいとき」)からしても、一定の裁量があるものと考えられる。

 裁量権の逸脱・濫用があったかどうかについては、①「行政庁の判断が全く事実の基礎を欠き、または社会観念上著しく妥当を欠く場合に限って」処分を違法とする社会観念審査と、②行政庁の判断過程に不合理な点がないかを審査する判断過程審査がある。

 この点、1審判決は「その判断時における専修学校等に進学した世帯員の就学状況、収入・支出等の経済状況、分離された保護世帯の状況等に基づき、世帯分離又は世帯分離解除を行うことにより専修学校等に進学した世帯員及び分離された保護世帯の将来的な自立の促進助長に効果的であると認められるか否かが検討されるべきであり、その検討過程ないし結果(判断の内容)が著しく合理性を欠く場合には、当該世帯分離又は世帯分離解除の判断は、処分行政庁の裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法性が認められると解するのが相当である」と述べている。

「その判断時における専修学校等に進学した世帯員の就学状況、収入・支出等の経済状況、分離された保護世帯の状況等」といういくつかの検討すべき要素を挙げ、さらに「その検討過程ないし結果(判断の内容)が著しく合理性を欠く場合には、当該世帯分離又は世帯分離解除の判断は、処分行政庁の裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法性が認められると解するのが相当である」としているため、判断過程審査を取ったものと考えられる。

控訴審判決でも、「孫は、看護専門学校での就学を経て、平成28年3月に准看護師の資格を取得し、同年4月以降、病院に勤務して月16万円程度の収入を得ていたのであり、その結果、孫を含む被告訴人世帯の収入合計額は最低生活費を約6万円上回ることになったのであるから、被控訴人世帯は、孫の就学・資格取得により、自立を一応達成することができたということができる」としており、一応、上記のような要素を考慮しているといえる。

2 一審と控訴審での判断の岐路について

 一審と控訴審で判断が分かれた大きな要因は、生活保護世帯からの進学者について世帯分離をする目的が「自立」にあるところ(この点については一審・控訴審とも一致する)、平成28年4月以降の状態が「自立」を達成したといえるかどうか、という評価にあると考えられる。

 控訴審判決は、孫が月16万円程度の収入を得ていたこと、それによって最低生活費を約6万円上回ることとなっていたことから、自立が「一応」達成されたとして世帯分離の解除を妥当としている。

 生活保護における自立については「就労による経済的自立」と「日常生活自立」、「社会生活自立」の3つに分類されると考えられており、ここで問題となっているのは「就労による経済的自立」である。ただ、3つの自立観に見られるように、自立は単に生活保護からの脱却を意味するものではなく、生活保護を受けながらの自立をも含むものになっているという点が重要である。

 控訴審判決は、孫と祖父母の収入を合わせれば最低生活費を上回り、自立が「一応」達成されたとする。しかし、単に収入が最低生活費を上回ることをもって自立が達成されると考えるのであれば、高校を卒業した者は十分な稼得能力を有しているのであり、大学や専門学校に進学させることなく就職させる方が、保護法の目的である自立の達成に資するはずである。しかし、現行の制度は、「その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合」には世帯分離した上での進学を認めている。そうだとすると、ここで達成したかどうかを検討する対象としての「自立」とは、単に収入が最低生活費を上回るかどうかという短期的な視点ではなく、その者の将来的な稼得能力の上昇の可能性を高め、経済的な自立を図れるかという観点からも考えるべきである。

 以上のことからすれば、「一応」の自立で足りるとした控訴審の判断には疑問がある。


【補論】

1 仮に、「生活保護受給世帯から世帯分離された大学2年生が「4年生の教育実習時にはアルバイトができない」ことを見越してアルバイトに精を出していたところ、他の世帯員と合算すれば最低生活費を超えるとして世帯分離を解除し、保護を廃止された」とした場合、それは不当だと考えるのではないか。

 それは、いかにアルバイト収入が増加し、他の世帯員と合算すれば最低生活費を上回る収入を得ていたとしても、世帯分離の具体的目的である大学卒業資格の取得(抽象的な「自立」ではない)が果たされていないためだと考える。

 一方で、現在の生活保護の現場では、大学院までの進学は、たとえ世帯分離によっても認めない運用がなされている。

 この扱いの差が生じるのは、その時点が一連の経過の途中なのか(大学2年)、それとも大学卒業という区切りを経た後なのか(大学院)というところに求められるように思われる。


2 では、孫が通っていた専門学校において正看護師を取得する過程にあることは、上記を見た場合の大学2年に近いのか、それとも大学院に近いのか。


(1)看護師と准看護師の違い

【保健師助産師看護師法】

第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

第六条 この法律において「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者をいう。


また「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、准看護師の年収(賃金+賞与)は約412万円で、正看護師の約508万円とは大きな差がある。


(2)看護師になる課程

看護師になるには①高校卒業後に4年制大学、3年生の短大・専門学校に進学して国家試験を受けて看護師資格を取得する方法と、②準看護学校に2年間通い、都道府県が実施する試験を受けて准看護師の資格を取得した上で、2年生の看護学校に通ってから国家試験を受けて看護師資格を取得する方法がある。

この点、①の場合には、卒業して試験に合格しなければ資格を取得できないため、収入が得られていたとしても途中で世帯分離を解除することが正当だとは考えにくい。

一方で、孫は②のルートで看護師資格を得ようとしていた。その点では、大学卒業後に大学院に進学する場合に近いようにも見える。

しかし、本件においては、孫は当初から看護科への進学を考えていたはずであり、そのことを福祉事務所にも伝えていたからこそ、看護科進学の段階で世帯分離を解除しなかったはずである。その点で、福祉事務所にとっても准看護科卒業・看護科進学は看護師資格取得の途中であると考えていた、つまり世帯分離の具体的目的を看護師資格の取得と考えていたものと思われる。

にもかかわらず、准看護師資格を得たことにより就労収入が上がっていることを理由として世帯分離を解除して保護を廃止し、看護科での修学を事実上困難ないし不可能にすることは、世帯分離の具体的目的である「看護師資格の取得」を達成できないようにするものであって、世帯分離を継続あるいは解除するか判断するのに与えられた裁量の逸脱あるいは濫用と考えられる。


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