バンコク宝石仕入れ事情、、、タイの宝石鑑別機関事情
タイのバンコクには、宝石鑑定士1名のみの小資本の鑑別機関から、世界的に評価の高い鑑別機関まで、私の知る限り大小20社の鑑別機関が営業しています
GIA THAILND言わずと知れた世界で最も知名度のある宝石鑑別機関である米国宝石学協会のタイ支部です。GIAの教育機関をはじめ、ダイアモンド、カラーストーンのラボがあります。
GIT教育機関ではFGAのプログラムを学習できます。分析機器の設備は、X線蛍光分析器(EDXRF)フーリエ転換赤外線分光分析器(FTIR)、ラマン分光測定装置、紫外可視近赤外(uv-vis-nir) 分光光度計、X線透過装置、レーザー誘発ブレイクダウン分光器測定システム、サリン(ダイアメンション)、ダイアモンドレーザーマーカー、レーザアブレーションICP質量分析器の設備があります。世界的にもこれだけの設備を保有する鑑別機関は僅かしかありません。高度な分析機器と高い鑑別技術を持つ、世界的な評価の高い鑑別機関です。
AIGSタイの宝石鑑別機関では歴史も古く、最も有名な鑑別機関です。教育機関はAGディプロマと言う資格があり、カラーストーン鑑別を重視した教育を行っています。教育スタイルはFGA方式で、産地特定や処理石鑑別が充実した実践的な教育をしています。鑑別ラボの分析器具は、エネルギー分散型X線分析(EDAX)、フーリエ転換赤外線分光分析器(FTIR)、レーザー誘発ブレイクダウン分光器測定システム、サリン(ダイアメンション)があります。GIT同様に信頼性の高い権威ある鑑別機関です。
GRS日本でも有名なGRSのスイスラボですが、バンコクオフィスはラボではなく、受付窓口になってスイスのラボに送っています。コランダム鑑別の権威です。
日本の鑑別機関では東京鑑別協会やエミールラボジャパンがあり、その他、タイ人が1名~3名程度の宝石鑑定士で営業している鑑別機関が10社以上ります。
日本の主要鑑別機関はAGL(日本鑑別団体協議会)に所属し、AGLのルールブックをもとに鑑別書の発行をしています。AGLのルールブックには下記の様な禁止事項があります。
①産地特定(科学的に特定可能なカシミール産サファイアは除く)の禁止
②ダイアモンド以外の色石品質評価の禁止
③小売値の評価
タイの鑑別機関ではAGLの様に統一したルールや業界団体はありません。当然、日本のAGLとはルールが違うため、上記の禁止事項はありません。
私は訪タイ前の2000年まで、全国宝石学協会(通称全宝協)に勤めていました。全宝協は日本3大鑑別機機関の一つとされ、特に色石鑑別の権威と言われた会社です。毎日新聞のダイアモンド鑑定かさ上げ報道で業界の信用を失い、倒産しましたが、色石バイヤーの間では、新合成石や処理石の鑑別方法を情報発信してくれたり、鑑別結果に迷った時の最後の拠り所になる鑑別機関でした。色石鑑別の技術力では世界の最高権威になる可能性を秘めた会社でしたので、倒産を惜しむ声をよく聞きました。私が在職していた当時は故志田淳子社長を筆頭に優秀な技術研究室の研究者と5~6人の神技の技術を持つ職人的な女性の鑑別技術者がいましたが、技術者の鑑別能力は間違いなく世界でトップランク実力でした。全宝協の鑑別の中心的な技術者は倒産後に中央宝石研究所に移っていますので、現在は中央宝石研究所がダイアモンド、色石ともに日本最高権威の鑑別機関になったと思います。
鑑別機関は高度な鑑別器具や技術力以外にも納期、鑑別料金、枠付き鑑別の技術、等の総合力で判断すべきですが、私の個人的な考えでは日本の鑑別機関は総合的な技術力が世界で最も高いと思っています。
日本の鑑別機関とタイの鑑別機関の違いを述べてみたいと思います。
納期と鑑別料金
日本の鑑別機関では翌日又は中1日の納期が当たり前で、鑑別料金も非常に安いですが、タイの大手鑑別機関では、納期も2週間から3週間ほどかかる場合があり、鑑別料金が(1500バーツ(4500円)~5000バーツ(1.5万円)と日本に比べ高いのが特徴です。一方で、大手以外の鑑別機関は鑑別料金が200バーツ(600円)からあり、納期も翌日上がりで写真付き鑑別書を発行してくれます。しかし、高度な分析器具はないため、屈折率測定や偏光機、ハンディータイプの分光器等の一般鑑別が中心になります。
産地特定
日本の鑑別機関はAGLで科学的に特定可能なカシミール産サファイア以外は産地特定を禁止しています。例えば、ブルーサファイアの産地であるタイのチャンタブリ鉱山と隣接するカンボジアのパイリン鉱山は地質学的には同地域ですが、国境で産地や国名を科学的に正確に分けることが出来ないので、日本では産地特定を禁止する大きな理由になっています。一方で、色石バイヤーの間ではパイリン産のサファイアの方が上質とされるのが常識になっています。タイの鑑別機関では色相やインクルージョン、分析器具等を使い、○○産の特徴を有する、、や予想産地○○産等の記載をしているようです。
ちなみに全宝協ではAGLで産地特定を禁止されていたので、その代わりにコロンビア産エメラルドの場合は3相インクルージョン、ミャンマー産ルビーの場合は糖蜜状組織、又はけ蛍光性強い赤等、産地特定の参考になるデーターを常に鑑別書に記載していました。
ダイアモンド以外の色石品質評価の禁止
AGL所属の日本の鑑別機関では、あらゆる色石の品質評価を禁止しています。鑑別機関は処理石を含めた宝石名の結果を重視すべきで、品質評価や小売価格の設定は小売店が独自に設定すべきであり、鑑別機関の仕事ではない、と言うのが大きな理由です。一方でタイの鑑別機関は、コランダムのビジョンブラッド、ロイヤルブルー、コーンフラワ-ブルー等の品質評価や一部の鑑別機関では小売価格の査定までしている鑑別機関もあります。私の個人的な考えでは、鑑別機関が色石の品質評価や小売価格の査定をするのは反対ですが、コランダムのビジョンブラッド、ロイヤルブルー、コーンフラワ-ブルー等の品質評価やパパラチアサファイア、インペリアルトパーズ等の色相のボーダーラインに関する事は、マンセルの色彩表を使って、日本のAGLの統一見解を協議しても良いのではないかと思っています。
宝石バイヤーにとっては、天然石、合成石等の石名の結果のみを鑑別するのはあまり意味が無く、高度な分析器具を使わなければ判断できない処理石判定や、インペリアルトパーズやパパラチアサファイア等、微妙な色相によって石名が変化する石などの検査を鑑別機関に期待しています。先述の『最後の拠り所』と言う意味は、バイヤーの知識や経験だけでは補えない分析器を使った科学的な根拠や、積み重ねられたノウハウやデータを鑑別機関は持っているので、この点においてはどんな鑑別眼の優れた色石バイヤーでも、技術力のある鑑別機関に頼らなければならないのです。その意味ではGITやAIGS等の大手鑑別機関は、分析器具も充実しており、技術力は高く申し分がありません。
一方でタイの鑑別機関は日本のAGLと類似したに業界団体が存在しない事と、納期が遅く、料金の高さに多少の問題があります。また、日本の鑑別技術者は枠付き鑑別の能力が大変高く、更に、仕事が早く正確ですが、タイでは枠付き鑑別に多少不慣れな欠点があります。
全宝協では10人程の鑑別技術者が毎日800個近くのルースや枠付き鑑別をダブルチェックで鑑別していました。枠付き鑑別にはパヴェ留めやミステリーセッティング等の多数石を使用したジュエリーも多く含まれていました。ルースのみの検査と違い、枠付き鑑別は難易度が格段にあがります。どの様な難しい鑑別でも翌日又は中一日で検査していたので、納期や仕事のスピードにおいては日本の技術者のレベルが世界と比べ、高すぎるのかもしれません。
日本の鑑別技術者の総合力(仕事の正確性、技術力、速さ)は世界でトップランクです。アジアの鑑別機関だけでなく、欧米の鑑別機関も含め、総合力では遥かに高い技術を持っています。一方で職業がら何かとネガティブな評価や批判を受けやすい業種でもあります。日本の宝石鑑定士は大変レベルが高い!、これだけは声を大にして伝えたいと思います。
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- 2014/03/15(土) 12:58:28|
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