松本市や塩尻市の情報をXで発信 新聞やテレビより早いことも...「マツサイ」って? 誰が運営? 謎に迫る

マツサイのXアカウント
■デジタル発~若手、中堅記者が新たな発想で取材(2)

 松本平の話題を発信するX(旧ツイッター)のアカウント「マツサイ」。店舗の開店・閉店情報や観光情報について県内ニュースを引用して紹介するほか、「中の人」が取材した自身のウェブサイト記事も出ている。街の情報をつかむ早さに信毎松本報道部メンバーも注目している。一体誰がどう運営しているのか-ずっと気になっていた。「従来の新聞製作の発想を超える」デジタル発の特集に合わせて、取材を試みた。XのDM(ダイレクトメッセージ)を送ると、20代という管理人から返信があり、「県内最大のメディアである信濃毎日新聞様に取り上げていただけることは、身に余る光栄でございます」とあった。(岡田理一)

マツサイに「やられた」 とある例
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マツサイに「やられた」、3月21日の投稿

 3月21日夜、信濃毎日新聞社の松本報道部に衝撃が走った。

 マツサイのX。「【独自】イトーヨーカドー南松本店が解体へ 跡地にはあの会社が商業施設の設置を検討」との投稿を見つけた同僚記者から連絡があった。

 「やられた」。

 大型店閉店が相次ぎ、跡地の行く末は間違いなく市民の関心が高い「大ネタ」。情報源はイトーヨーカ堂(東京)ではなく、建物を共同所有するスーパー運営のデリシア(松本市)のホームページ上の発表だった。

 発表を元に翌日の朝刊には間に合わせたが、冷や汗をかいた。

始まりは新型コロナの情報発信

 管理人の希望でDMのやりとりのみで取材を重ねた。こちらの質問に丁寧に回答してくれた。

 マツサイは2020年4月、新型コロナ感染拡大をきっかけに始まった。

 「松本市育ち」で20代の男性管理人が、感染状況などツイッターの情報を集めてリツイート(引用、Xではリポスト)し、自身の備忘録のように発信していた。

 大雨などの時に臨時で発信するうちに自然と日々のニュースを投稿するようになった。「サイト作成を開始、知識0から突貫制作」して、2023年3月にウェブサイトを立ち上げた。その頃に「マツサイ」と名付けた。「松本地域 最新情報」を呼びやすくした略で、「松本のサイト」という意味も込めた。

情報を得たら人に教える体質 子どもの頃から

 気になる管理人は会社員だった。

 小学生の頃から欠かさず経済紙やテレビのニュースに触れてきた。内容を要約し、自分の意見を交えて家族に伝え続けてきた。情報を得たら人に教える体質が、自然とネット上での情報発信に変わったという。

目立つ開店・閉店情報

 Xの投稿で目立つのは開店・閉店や災害、道路に関するものだ。

 情報提供を中心に、「市民の関心度が高かったり、街の話題になったりしそう」なニュースを選んでいるという。

 アクセス数や話題性を参考に、フォロワーに多いとみる30~40代の子育て世代や40%程度の女性も意識。

 本人は「伸びきった」とするが、フォロワーは2万8200人余(2025年6月22日時点)もいる。見られた数などを示す「インプレッション数」は10万を超える投稿もある。

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4月18日に大町市などで震度5弱を観測した地震に関する投稿
災害の速報、秘密は

 災害情報の発信は報道のプロ顔負けの早さで驚かされる。

 今年4月18日に大町市などで震度5弱を観測した地震では、発生直後にXの防災情報アカウントなどを引用する形で速報した。

 管理人によると、災害が事前に予想できる場合は、河川カメラや道路カメラ、雨雲レーダーなどを確認しながら、Xの投稿や県内メディアの配信記事を組み合わせて投稿している。

 ゲリラ豪雨や火災など突発的なものは、Xの投稿を検索してリアルタイムで発信しつつ、実際に現場周辺に出向いて確認もしている。

 記者も最近の災害取材ではXをよく活用する。より早く伝える方法は考えていかなければいけないと思う。

信毎の「同業」?「ライバル」?

 ここまでくると信毎の「同業」「ライバル」とも思えてくるが、管理人は「個人ブログ」との認識で、「ネットメディアと名乗るには時期尚早」と控えめだ。

 現在は「趣味の延長程度」に1人で運営。取材費やサーバーの維持・管理費には広告収入を充てている。利益は「お小遣い程度」だが、人に情報を伝える自身の癖やフォロワーの期待感が発信を続ける原動力になっている。

 松本市の渋滞や道路事情に関する投稿では、批判的な内容を伴う問題提起をしている。街の衰退につながっていると考えているためだ。

 一方で、「力強い商都を取り戻す」ための鍵ともみていて、積極的な投稿には地域への熱い思いもこめられていると感じた。

 今後は情報発信にとどまらない事業を展開したい構想もあるが、まずはサイトに掲載する情報の質と量の向上を目指す考えのようだ。

取材を通して感じたこと

 スマートフォンの所有やSNSの発達で、報道機関に所属せずとも、誰もが「取材者」「発信者」になれる時代になった。

 マツサイは住民目線の情報に特化した、その典型例だと思う。

 取材を通して、改めて市民の「知りたい」に応える発信や身近な情報とは何かを考えさせられた。今後のマツサイにも注目するとともに、松本市を担当する記者として、負けないようにアンテナを広げなければならないと感じた。



 

(おかだ・りいち)川崎市出身。2016年入社。長野市の編集局報道部、白馬支局を経て再び編集局報道部に赴任し、23年10月から松本報道部。ガジェット好きで、デジタル機器の購入について同僚から相談を受けている。早くからデジタルを駆使した取材方法を研究し、4年前から取材ノートはiPad mini。最近は減量と平日の自炊の負担を減らす目的で、週末は冷凍弁当作りに励んでいる。

 

 以下は記者が注目したマツサイの投稿。右の矢印ボタンからスライドを押すと投稿画像が切り替わります。

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