「家庭教師のトライ」の運営会社トライグループ(東京)のオンライン教材が水俣病を「遺伝する」と誤って説明していた問題で、同社幹部が25日、熊本県水俣市を訪れ、被害者団体などに謝罪した。団体側は被害者の苦しみが続く現実を踏まえた新たな教材作成を求め、同社側は検討を約束した。
楠瀬大吾・執行役員ら2人が「水俣病被害者・支援者連絡会」の会員らと面会した。連絡会が5月に環境省を通じて同社に誤りを指摘していた。
楠瀬氏らは「心よりおわび申し上げます」と陳謝し、教材のチェック体制を強化するなどの再発防止策を説明。連絡会側は救済を巡る裁判が続く現状を挙げ「学校の教科書では終わったものになっているが、水俣病は進行形」と伝え、新たな教材作りを要望した。楠瀬氏は「前向きに考える」と応じ、社内で検討後に回答する意向を示した。
連絡会側からは、誤りを非難する声が相次いだ。胎児性患者の松永幸一郎さん(61)は「遺伝するという誤った情報が多くの子どもたちに伝わったと知り、がくぜんとした」と憤った。別の患者は「最近やっと安心して水俣病と言えるようになったのに」と話した。
連絡会の山下善寛代表代行(84)は「謝罪に来たことは評価するが、水俣病を分かっていない感じだった。今回の誤りはきちんと啓蒙(けいもう)、教育がされなかった結果であり、本来なら環境省や文部科学省、県も謝罪すべきだ」と述べた。
楠瀬氏らはこの日、水俣市役所で高岡利治市長にも謝罪した。誤りがあったのは映像授業サービス「Try IT」の中学生向け社会の教材で、メチル水銀が母親から胎児に取り込まれ、生まれた子どもが発症する事例に関して「遺伝する」と表現した。2015年からアプリで公開。16年からは動画投稿サイト「ユーチューブ」でも公開し、25年5月に非公開とするまでに再生回数は延べ7万回を超えた。【中村敦茂、石井尚】