参政党「日本人ファースト」への熱気 街で聞いた支持する理由と不安

杉山あかり

 22日投開票の東京都議選(定数127)に初めて候補者を立てた参政党が、大田区、世田谷区、練馬区で3議席を得た。積極的な発信でSNSでの存在感を高め、地方の市議選ではトップ当選が相次ぐ。参院選に向けて掲げるのは「日本人ファースト」。街頭演説に足を運んだ人に支持理由を尋ねると、身近な不安や経験を参政党の主張に重ねる声が目立った。

 投開票日前日の21日夕方、世田谷区の小田急電鉄経堂駅前で、参政党の神谷宗幣代表がやり玉に挙げたのは外国人だった。

 「外国人の方はなんでも偽造しちゃうしですね、法の抜け穴を探すのが得意じゃないですか。そういうことを許してはいけない」。演説は14分に及んだが、外国人の違法行為に関する具体的なデータを示すことはなかった。

支持者たちに話を聞くと

 通りかかった会社員の女性(66)は選挙カーを見上げ、神谷氏の演説に大きくうなずいた。

 支持するのは、30年ほど前に住んでいたドイツで移民に関する問題に触れた経験から。「家族が暴漢に襲われた。逃げて大丈夫だったけど移民は怖い」と語り、日本で外国人がこれ以上増えるのは嫌だという。

 都議選中、ボランティアで参政党候補のビラ配りを手伝っていた大田区の男性会社員(54)も、支持理由に外国人の増加を挙げた。「怖いですよね。外国人が暴れるかもしれない」と懸念を語ったが、「具体的にどんな問題があるのか」と尋ねると、特に実害はないと答えた。

 参政党が、都議選前の5月ごろからキャッチフレーズに掲げるのが「日本人ファースト」だ。

 今月6日の会見で神谷氏はその意図を「外国人の社会保障や教育支援にお金かけすぎなんじゃないのと不満を持っている国民もたくさんいる」と説明。日本人ファーストについては「SNSで一番我々が見かける言葉で、訴えてほしいことだとして選んだ」と語った。

「差別やめろ」のプラカードも

 こうした主張は一部の支持者を引きつける一方、「排外主義」との指摘もつきまとう。

 17日夜、練馬区での応援演説で神谷氏は、「違法なことをする外国人」の取り締まりの必要性を語った。演説が終わると「差別やめろ」「差別主義者が選挙を悪用して差別扇動をしています」と書いたプラカードを掲げる男性と支持者たちの間で言い合いが起きた。

 外国人を警戒視するような主張に反発が広がっている点について、22日の会見で神谷氏は「排外主義を言いたいんじゃない。外国人の受け入れのルールをしっかりと整えないと、国民が不安と不満を抱えている」と語った。

奨学金、公営住宅…不安と重ねて

 参政党の勢いは、都内にとどまらない。15日にあった愛知県西尾市、福井県あわら市、兵庫県尼崎市の各市議選で公認候補がトップ当選。生活するなかで感じる身近な不満や不安に党の主張を重ねる手法が、各地で支持を広げる要因の一つだ。

 15日昼、横浜市のJR桜木町駅前であった参院選立候補予定者らの演説会には、気温が30度近くになる中、100人ほどの支持者が集まった。6時間に及ぶ演説会が終わる頃には聴衆は400人ほどに増え、日本国旗を振って支持をアピールする人たちもいた。

 ベビーカーに子どもを乗せて、夫と演説を聞いていた専業主婦(35)は「参政党は他の党が言っていないことを言ってくれるから期待できる」と語る。そう思うのは「政府が留学生の授業料や生活費を出している」と強調する参政党などのユーチューブ動画がきっかけだ。自らは大学で奨学金を500万円ほど借りた。貯金を取り崩しながらの返済はあと3年続くと言い、「不公平だ」と語った。

 これまで政治に興味はなかった。昨年の衆院選以降、「手取りを増やす」と訴えた玉木雄一郎氏のSNSを見て「国民の声を聞いてくれそう」と国民民主党を応援してきた。だが、最近になって労働組合の中央組織・連合が支持していると知り、自民党のようなしがらみがあると感じて失望したという。「『バックは党員や国民』という参政党を信じてみようと思った」

 2歳の子を連れて演説を聞きに来た品川区の歯科衛生士(37)はシングルマザーで生活は苦しいのに、公営住宅に入るための抽選に落ちた。その公営住宅に外国人とみられる家族が住んでいるのを見て、「まずは日本人とその子どもを大事にして税金を使ってほしい」と思った。これまで選挙とは無縁だったが、参院選では参政党に投票するという。

記事の後半では、保守言論やネット世論に詳しい識者らに参政党が支持される背景や理由について聞きます。

食の安全やワクチンにも重点

 参政党は他の重点政策として「化学的な物質に依存しない食と医療の実現」「ワクチン接種推進策の見直し」なども唱える。「メディアが言わないワクチンのことを言っている」(横浜市の党員の男性)と支持理由に挙げる人も多い。

 この間、街頭演説を聞いていた支持者25人に参政党に興味を持ったきっかけを聞くと、19人が「ユーチューブの動画」と答えた。そのほか、X(旧ツイッター)やTikTokで見た切り抜き動画が3人など、大半が動画を挙げた。

 21日夜、街頭演説にいた世田谷区のアルバイトの男性(73)は「テレビはつまらないしうそばっかり」と語る。1日3~4時間ほど「ユーチューブでいろんな人のニュース番組を見ている」というが、主に見るのは参政党や党の応援演説に立った著名人のチャンネルだという。

「SNSなどの匿名の言論空間と相性がよい」

 結党から5年が経つ参政党は、これまで4人の国会議員と150人の地方議員が議席を得た。

 保守言論やネット世論の現状に詳しい作家の古谷経衡(つねひら)さんは、参政党が当初、重点を置いた話題が食の安全やワクチンなど身近な生活に関わることだった点に着目する。「政治に関心がなかった人にもわかりやすく、受け入れやすい主張」が浸透した理由とみる。

 「日本人ファースト」を掲げる参政党が唱える「外国人の留学生が優遇されている」「治安が悪くなる」といった主張について、古谷さんは「明確なデータなどを元にしているわけではないが、わかりやすく、SNSなどの匿名の言論空間と相性がよい」と指摘する。その上で「自分と異なるもの、未知のものを『なんか怖い』という感情論で排除している」参政党の手法と支持者の共鳴を「排外主義の萌芽(ほうが)だ」とみる。

安倍政権支持層が移っているとの指摘も

 JX通信社代表取締役の米重克洋さんは、「外国人問題は『票にならない』と思われてきたが、今回の選挙で芽が出てきた」と分析する。

 14~15日に実施した同通信社の調査で、都議選で重視する争点を複数回答で聞くと、「外国人・インバウンド対応」を挙げた人は17%で、11%だった「教育・子育て」より多かった。「外国人」を選んだ人が投票するつもりの政党では、参政党が19%でトップだった。

 米重さんは、有権者には、移民排斥の動きがみられる欧米のように「仕事が奪われた」との感覚はなくても、「物価高で生活が苦しい中、自分たちに使うべき税金を外国人に使われているという感覚があるのではないか」と見る。

 一方で、参政党支持層には、かつて安倍政権を支持していた若い世代が移っていると指摘する。同通信社などの14~15日の定例調査で、第二次以降の安倍政権は総じて評価できるかをたずねたところ、参政党支持層の6割が「強くそう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた。米重さんは「野党の中でも最多クラス。自民党に失望した人たちの受け皿になっている」と語る。

 ユーチューブ動画を定期配信するなどネット戦略にも力を入れる参政党や国民民主党の支持層は、政治などに関する情報源を複数回答で聞く調査に「ユーチューブ」「X」と答える比率が、自民や立憲民主支持層より多い傾向にあるという。

 勢いは参院選でも続くのか。米重さんは、全国の選挙区に候補者を立て、支持率も上昇傾向にある参政党は、参院選でも議席を増やす可能性があるという。「1人区でも(支持層が重なる)自民党の票を奪うなど『参政党現象』が起きるかもしれない」

「デジタル版を試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
杉山あかり
ネットワーク報道本部
専門・関心分野
民主主義、ジェンダー、地方自治、防災、医療
  • commentatorHeader
    三浦麻子
    (大阪大学教授=社会心理学)
    2025年6月25日15時0分 投稿
    【視点】

    私が月に1回実施しているパネル調査(同じ方々に同じ質問にお答えいただくことで,変化を観察できる方法)でも,参政党を「一番好き」と答えたり参院選での投票意向を示す回答者は今年5月以降に増えており,特に6月は,国民民主党を「一番好き」と答える回答者の急減と連動して顕著でした.「一番好き」と答えた方に政党としてのイメージを聞くと「日本人のことを考えている」という回答が多かったです.逆に「一番嫌い」と答えた方にイメージを聞くと「極右」「カルト」「よくわからない」といった言葉が目立ちました.好きと嫌いで印象がまるで違うというのは,兵庫県知事選挙でも観察されましたが,社会心理学者としては非常に興味深い現象です. こうした現象の背景には,排外主義・差別という指摘があっても,そしてそれが適切ではないことだと分かってはいても,「そんなこと言われても,そもそも自分が市民として尊重されていない」という意識の強まりがあるように思います.

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    上西充子
    (法政大学教授)
    2025年6月25日15時0分 投稿
    【視点】

     「日本人ファースト」とは、字義通りに解釈すれば、「日本人を優先する」「外国人は後回し」という意味です。ここは日本なんだから、それは「当然」でしょうか。  例えば「アメリカ人ファースト」をアメリカが掲げたらどうでしょう。入国審査もアメリカ人が優先、座席の予約もアメリカ人が優先、料理の提供もアメリカ人が優先、医療を受けるのもアメリカ人が優先、採用も、大学の入学許可もアメリカ人が優先、奨学金の支給もアメリカ人が優先……。もしアメリカがそんな国になったら、アメリカで生活している日本人も、仕事でアメリカに出向く日本人も、留学する日本人も、旅行する日本人も、除け者にされている、差別されているという思いを常に抱かざるをえないでしょう。もし空港に大きく「アメリカ人ファースト」の看板が掲げられていたらどんな思いになるか……。  「そんな極端なことを求めているわけじゃない。何もかも日本人優先にせよ、ということじゃない」と思うかもしれませんが、「日本人ファースト」という言葉は、日本に暮らす外国の人たち、日本を訪れた外国の人たちに、同じ思いを抱かせる言葉であるという想像力が必要です。私たちは外国でフェアな扱いを期待したい、ならば、私たちも外国の人たちとフェアな関係を築いていけるように環境を整えることこそが政治の仕事でしょう。  政治が排外主義をあおってはいけません。そういう動きには警戒が必要です。神谷氏は「排外主義を言いたいんじゃない」とのことですが、ではなぜ「共生社会」を謳うのではなく「日本人ファースト」を謳うのでしょうか。「日本人ファースト」という言葉が「外国人は後回しでいい」という意味合いを言外に含んでいることに、私たちはもっと敏感になるべきだと思います。

    …続きを読む

東京都議選

東京都議選

2025年6月13日(金)告示、6月22日(日)投開票の東京都議選に関するニュースをお届けします。[もっと見る]

関連ニュース

関連キーワード

トップニュース

トップページへ戻る

注目の動画

一覧