この記事は公開から3日後に「3万円」に値上げします。
【本教材の価格について】
本教材の正規価格は「3万円」です。
しかしながら公開から3日に限り、「300円」でご提供します。
この価格設定は、先行者に報いるためのものです。
本コンテンツの評価が未だ定まっていないときにご購入してくださる。
この先行者意識は資本主義社会において非常に公益性の高いものであります。 全人類に資するものです。
というわけで、私は先行者を「えこひいき」いたします。
真っ先にご購入いただいた皆様、ありがとうございます。
【本教材の実質価値について】
本教材の実質的な価値は3億円に相当します。この数字は決して誇張ではなく、以下の客観的な根拠に基づく算出結果です。
まず、本教材の制作にかかった直接的なコストを考えてみてください。構想から完成まで2年3ヶ月という期間を要し、その間のリサーチや専門文献の購入だけで1900万円を投資しています。これは単なる本の購入費用ではなく、海外の最新研究論文へのアクセス権、専門データベースの利用料、そして世界中の研究者との情報交換にかかった費用も含まれています。
次に、ここで解説されている知識を他の方法で習得しようとした場合のコストを計算してみましょう。進化心理学の博士号を取得するには最低でも6年間の大学院教育が必要で、その費用は私立大学の場合約1200万円になります。さらに行動経済学やマーケティング心理学の専門知識を身につけるためのMBAプログラムには、ハーバードやスタンフォードなどのトップスクールでは年間700万円以上かかります。
また、本教材で体系化されている知識を実際のビジネスコンサルティングで学ぼうとすると、世界トップクラスのマーケティングコンサルタントの場合、1時間あたり50万円から100万円の費用がかかります。本教材の内容を個別指導で学ぶとすれば、最低でも100時間は必要でしょうから、それだけで5000万円から1億円の投資が必要になります。
さらに重要なのは、本教材の知識を実践した場合の収益効果です。消費者心理の本質を理解することで、マーケティング効率は最低でも30%は向上するとされています。年商1億円の企業であれば、年間3000万円の売上向上が期待できます。これが10年続けば3億円の増収効果となり、まさに本教材の実質価値に匹敵します。
最後に、この知識の希少性を考慮してください。本教材で解説されている内容は、これまで一部のエリート研究者や大手企業の経営陣のみが知り得た情報です。一般に公開されている書籍やセミナーでは決して学ぶことのできない、秘匿性の高い知識が体系化されています。
これらの要素を総合的に勘案すると、本教材の実質的な価値が3億円であることは、極めて妥当な評価だと言えるでしょう。
【なぜこのコンテンツを作ったのか】
このコンテンツの執筆には、構想から完成まで合計2年3ヶ月という歳月を費やしました。その間、消費行動に関する海外の最新研究論文を読み漁り、進化心理学、行動経済学、マーケティング理論の専門書を購入し続けました。リサーチや文献代だけで総額1900万円ほどの投資をしています。
なぜここまでの時間とお金をかけたのか。それは、現代を生きる我々が直面している「消費」という行動の謎を、多くの方に本当の意味で理解してもらいたかったからです。
コンテンツビジネスに携わる人の多くが、「なぜ人は買うのか」「どうすれば売れるのか」という表面的なテクニックばかりを追い求めています。しかし、そのようなハウツーは一時的な効果しかもたらしません。本当に人を動かし、持続的に成果を上げるためには、人間という生き物の根本的な行動原理を理解する必要があります。
人が何かを欲しがり、購入し、他人に勧める行動の背景には、数百万年かけて進化してきた生物学的なメカニズムが存在します。このメカニズムを理解すれば、小手先のテクニックに頼ることなく、自然に人の心を動かすコンテンツや商品を生み出すことができるのです。
本コンテンツは、そうした人間行動の本質を、学術的な裏付けを持ちながらも実践的な形で学べるよう、膨大な時間をかけて体系化したものです。
【本コンテンツを読むベネフィット】
このコンテンツを読み終えた時、人を動かす方法について根本的な理解を得ることができます。それは単なるマーケティングテクニックの習得ではありません。人間という生き物が本能的に反応してしまう「心の仕組み」を知ることで、コンテンツ制作における判断基準が劇的に変わります。
具体的には、なぜ特定のコンテンツがバズるのか、なぜ人は特定の商品に魅力を感じるのか、その科学的なメカニズムが手に取るように分かるようになります。結果として、狙ってバズらせることが可能になり、商品やサービスの訴求力も格段に向上するでしょう。
さらに重要なのは、消費者心理の本質を理解することで、流行に左右されない普遍的なマーケティング力を身につけられることです。小手先のテクニックは時代と共に陳腐化しますが、人間の生物学的な行動原理は変わりません。この知識は、今後10年、20年と価値を持ち続ける投資となります。
コンテンツビジネスで効率的に収益を上げたい方にとって、このコンテンツは必要不可欠な基礎知識となるはずです。人の心を動かす力を手に入れることで、結果として安定した収益の増加につながることでしょう。
【推薦の声】
イスラエル・個人投資家
私は過去20年間、シリコンバレーとテルアビブを拠点に、主にテクノロジー系スタートアップへの投資を行ってきました。これまで180社以上の企業に投資し、そのうち12社がIPOまたはM&Aによるエグジットを達成しています。
投資判断において最も重要な要素の一つが、その企業の製品やサービスが「なぜ消費者に選ばれるのか」という点です。優れた技術を持っていても、人々の購買行動を理解していない企業は必ず失敗します。逆に、人間心理を深く理解している企業は、たとえ技術的に劣っていても市場を制することがあります。
本教材は、まさにその「人の購買行動」という謎を、進化心理学という科学的なアプローチで解き明かしています。特に印象的だったのは、消費行動を「自己顕示のシグナル」として捉える視点です。この考え方は、我々投資家がスタートアップのビジネスモデルを評価する際の新たな指標となり得ます。
イスラエルでは、軍事技術から生まれたイノベーションが多く存在しますが、それらが民間市場で成功するかどうかは、結局のところ人間の本能的な欲求を満たせるかどうかにかかっています。本教材で解説されている「セントラル・シックス」の概念は、製品開発の初期段階から考慮すべき重要な要素だと確信しています。
投資先企業の経営陣には、必ずこの教材を読むよう推奨しています。これは単なるマーケティング本ではなく、人間という生き物を理解するための必読書です。
某大手食品会社・マーケティング部門責任者
食品業界で25年間マーケティングに携わってきた経験から申し上げますが、本教材ほど消費者行動の本質を突いた内容に出会ったことはありません。
我々の業界では、なぜ特定のブランドが圧倒的な支持を集めるのか、長年にわたって議論されてきました。味や品質だけでは説明がつかない現象が数多く存在するからです。例えば、ブラインドテストでは負けているにも関わらず、ブランド名を明かすと圧勝する商品があります。これまでは「ブランド力」という曖昧な言葉で説明していましたが、本教材を読んで、その正体が「適応度指標」であることが明確になりました。
特に「協調性のシグナル」として機能するエコ製品やフェアトレード商品の分析は、我々が近年力を入れている分野と完全に一致しており、目から鱗が落ちる思いでした。消費者が環境に配慮した商品を選ぶのは、単に地球環境を心配しているからではなく、自らの「優しさ」を他者に示したいという本能的な欲求があるのです。
また、商品パッケージデザインにおける「コストのかかるシグナル理論」の応用可能性も非常に興味深い内容でした。浪費、精密さ、評判という3つの戦略を意識的に取り入れることで、商品の訴求力を格段に向上させることができそうです。
本教材は、マーケティング部門の全スタッフに必読書として配布予定です。これほど実践的で、かつ理論的裏付けのある内容は他に類を見ません。
【先行テスターからの生の声】
本コンテンツの公開前に、メルマガ登録者の中から特別に2名の方に先行テスターとして読んでいただきました。以下が、実際にお寄せいただいた感想です。
テスター1:田中様(マーケティングコンサルタント)
「正直に申し上げると、最初は強い嫌悪感を覚えました。人間を動物のように分析するなんて、何と失礼な内容だろうと思ったのです。しかし、読み進めるうちに重要なことに気づきました。冷静に考えてみれば、人間も確かに動物の一種なのです。
その事実を受け入れた瞬間、本教材の真の価値が見えてきました。これは間違いなく『人の取り扱い説明書』です。それも、ただの心理学書ではありません。『購買』という具体的な行動に特化した、極めて実践的なマニュアルなのです。
15年間マーケティングの仕事をしてきましたが、これまで経験と勘に頼っていた部分が、明確な理論として整理されています。なぜあのキャンペーンが成功したのか、なぜこの商品が売れなかったのか、すべてに合理的な説明がつきました。
全てのビジネスマンが読むべき内容だと断言します。」
テスター2:佐藤様(EC事業経営者)
「秘伝のタレが暴露される、そんな衝撃を受けました。読み終えた時、思わず膝から崩れ落ちてしまったほどです。
アキラさん、やってくれましたね。私が15年という歳月をかけて、失敗を重ねながら体得してきた『モノを売るためのマニュアル』が、ここに全部書いてあるではありませんか。しかも、私が感覚的に理解していたことが、学術的な裏付けと共に体系化されているのです。
うう、もう商売あがったりだ。そんな気持ちが正直なところです。でも、よく考えてみれば、有益な情報はいずれ世の中に広まるものです。それを隠し続けることは不可能ですし、むしろ秘匿することの方が不健全かもしれません。
アキラさんのギブの精神に心から脱帽いたします。本当は独り占めしておきたい情報を積極的に広げようとする姿勢に、真の商売人の姿を見ました。自分の利益だけを考えるのではなく、業界全体のレベルアップを願う、その志の高さに感動すら覚えます。
これから本教材を読んだ人が私のライバルになるのだと思うと、正直なところ恐怖も感じます。しかし同時に、こうした高いレベルの知識を持った人たちと切磋琢磨できることへの楽しみもあります。業界全体が底上げされることで、より良いサービスや商品が生まれ、結果として消費者の皆様にもメリットをもたらすことでしょう。」
【悪用厳禁・免責事項】
本教材は、人間の消費行動や心理メカニズムについて学術的な観点から解説したものです。教育および研究目的での利用を前提として作成されています。
本教材で解説される内容を、以下のような目的で使用することを固く禁じます。
・詐欺行為や違法な商品販売に利用すること
・消費者に損害を与える可能性のあるマーケティング手法として応用すること
・他者を欺く目的で心理的操作を行うこと
・社会的に有害な商品やサービスの販売促進に活用すること
・個人の尊厳を損なう形での人間分析に使用すること
本教材の内容を実践した結果生じた一切の損害、トラブル、法的問題について、著者は責任を負いません。本教材の利用は、すべて読者の自己責任において行ってください。
また、本教材で紹介される理論や手法は、学術研究に基づくものですが、その効果を保証するものではありません。実際のビジネスや人間関係において応用する際は、倫理的配慮を十分に行い、関係者の利益を損なわない範囲での利用を心がけてください。
本教材を読み進める前に、上記の内容について十分にご理解いただき、同意の上でご利用ください。適切かつ建設的な目的での活用により、読者の皆様のビジネスや人生がより豊かになることを願っています。
☑️目次
【本教材の価格について】
【本教材の実質価値について】
【なぜこのコンテンツを作ったのか】
【本コンテンツを読むベネフィット】
【推薦の声】
【先行テスターからの生の声】
【悪用厳禁・免責事項】
【本編開始】
はじめに:なぜ人は「スマホ」にハマるのか?
第1章:ビジネスの勝敗を分ける「ハビット・ゾーン」の秘密
第2章:フック・モデルの全体像 - 人を動かす4つのステップ
第3章:トリガー - 人の心に「行動の種」を蒔く技術
第4A章:アクション - 行動のハードルを「ゼロ」に近づける心理学
第4B章:脳のバグをつけ! - アクションを誘発する4つのヒューリスティクス
第5章:可変的な報酬 - ユーザーを虜にする「予測不能なご褒美」の魔力
第6章:インベストメント - ユーザーの「ひと手間」が、最強のロックインを生む
第7章:「ハマるしかけ」の倫理学 - 作り手はユーザーとどう向き合うべきか
第8章:実践編 - あなたのプロダクトに「フック」を実装する
おわりに:習慣をデザインすることは、より良い未来をデザインすること
【超濃密なまとめ】
用語集
【購入者限定付録】ヒトの消費を本能レベルから理解する
はじめに - なぜ世界一賢い霊長類は、これほど愚かな買い物をするのか
第1部 消費資本主義の深層へ - 私たちはなぜ買うのか
第1章:ダーウィン、ショッピングモールへ行く - 消費行動に隠された進化の法則
第2章:マーケティングという名の魔神 - 欲望を映し出す鏡としての市場
第3章:お金に支配される脳 - 消費とナルシシズムの心理学
第2部 見せびらかしの生物学 - 私たちは「何」を誇示しているのか
第4章:富や地位という幻想 - 私たちが見せびらかす「生物学的適応度」
第5章:浪費、精密さ、評判 - 信頼されるシグナルを送るための3つの戦略
第6章:身体というブランド、心というマーケティング - 美しさが伝える進化的メッセージ
第3部 あなたという人間の設計図 - 消費行動を支配する「セントラル・シックス」
第7章:個性を解き明かす6つの鍵 - 消費に現れる知性とパーソナリティ
第8章:「知性」のシグナル - 学歴、高級車、難解な趣味が伝えるもの
第9章:「開放性」のシグナル - 前衛アートや海外旅行が意味するもの
第10章:「誠実性」のシグナル - 手のかかるペットや手入れの行き届いた芝生が証明するもの
第11章:「協調性」のシグナル - エコ製品、フェアトレード、そして政治思想が語る「優しさ」
第4部 消費社会を超えて - 新たな自己表現の作法
第12章:遠心分離する魂 - 消費がもたらす空虚感から抜け出すために
第13章:見せびらかしの意志を飼いならす - 小売から離れて自己を豊かに表現する方法
第14章:自由を合法化する - 消費税とコミュニティが拓く未来
おわりに - 自己を金メッキする遺伝子
【超濃密なまとめ】
【用語集】
【追伸】
【総まとめ:ハマらせ方と買わせ方】
売り手のための実践戦略
はじめに:なぜこの知識が今、決定的に重要なのか
第1部:フック・モデルの完全実装
1-1. トリガー設計:顧客の心に行動の種を蒔く
1-2. アクション最適化:行動のハードルを限りなく下げる
1-3. 可変的報酬:予測不能なご褒美で顧客を虜にする
1-4. インベストメント:顧客の「ひと手間」が最強の絆を生む
第2部:人間の根源的欲求を商品設計に活かす
2-1. セントラル・シックスを活用した商品戦略
2-2. 適応度指標としての商品価値
第3部:売上向上のための実践戦略
3-1. 価格戦略と価値認識の最適化
3-2. 顧客生涯価値の最大化
3-3. 販売経路の最適化
第4部:業界別実装と成功事例
4-1. ソフトウェア・アプリ業界
4-2. 電子商取引・小売業界
4-3. 教育・研修業界
第5部:倫理的実装と持続可能性
5-1. マニピュレーション・マトリクスの活用
5-2. 中毒性の回避と健全な使用習慣の促進
第6部:測定と継続的改善
6-1. 重要成功指標の設定
6-2. 継続的改善プロセス
おわりに:持続可能な「ハマらせ方」と「買わせ方」の追求
【最後に】
【本編開始】
はじめに:なぜ人は「スマホ」にハマるのか?
プロローグ:人を虜にする現代の魔法
朝、けたたましく鳴り響くアラームを止めるために、枕元のスマートフォンに手を伸ばす。アラームを消したついでに、眠い目をこすりながら何となくSNSのアイコンをタップする。友人たちの昨夜の投稿、流れてくるニュース、誰かから届いているかもしれないメッセージ。気づけば、ベッドから出る前に10分、15分と時間が過ぎていく。
これは、現代を生きる多くの人にとって、もはや当たり前の光景ではないでしょうか。ある調査によれば、スマートフォンの所有者の実に79%が、起床後15分以内にデバイスをチェックするといいます。
さらに驚くべきことに、アメリカ人の3人に1人は「セックスを諦めることと、携帯電話を失うことのどちらかを選べと言われたら、前者を選ぶ」と答えたそうです。
通勤電車の中では、ほとんどの人がうつむき加減で小さな画面を眺めています。仕事中、集中力が途切れた瞬間に、無意識にニュースアプリを開いてしまう。友人と食事をしていても、テーブルの上に置かれたスマートフォンが振動するたびに、ちらりと視線を落としてしまう。1日に150回以上も、この小さな箱の中の世界を覗き込んでいるというデータすらあります。
これらの行動は、果たしてすべて自身の明確な「意志」によるものなのでしょうか。おそらく、そうではないはずです。そこには「何となく」「気づけば」「つい」といった、意識と無意識の境界線にあるような、曖昧な感覚が横たわっています。
まるで磁石に引き寄せられるかのように、特定のプロダクトやサービスに繰り返し惹きつけられてしまう。それは、単なる偶然や個人の意志の弱さの問題ではありません。実は、その背後には、人間の心理を巧みに利用した、極めて精緻な「しかけ」が存在するのです。
今回我々が詳しく見ていく著書『Hooked: How to Build Habit-Forming Products』は、この現代の魔法とも言える現象の正体を解き明かし、人々を無意識のうちに惹きつけるプロダクトがいかにして作られるのか、その設計図を白日の下に晒す一冊です。
ハマるしかけ「フック・モデル」へようこそ
なぜ、あるプロダクトは生活に深く根付き、あるプロダクトはすぐに忘れ去られてしまうのでしょうか。なぜ、InstagramやX、Facebookは、莫大な広告費を投じなくても、人々が自発的に毎日何度も訪れる場所になったのでしょうか。
その答えの核心にあるのが『Hooked』著者ニール・イヤールが提唱する「フック・モデル」です。
フック、つまり「鉤(かぎ)」や「釣り針」を意味するこの言葉が示すように、このモデルはユーザーの心をがっちりと掴み、繰り返し製品を使わせるための強力なループ構造を指します。
このモデルは、以下の4つのシンプルなステップで構成されています。
- トリガー(Trigger):行動のきっかけ
- アクション(Action):報酬を期待して起こす行動
- 可変的な報酬(Variable Reward):予測不能な報酬
- インベストメント(Investment):ユーザーの「ひと手間」
この4つのステップをユーザーに繰り返し経験させることで、プロダクトは外部からの働きかけ(広告や通知など)がなくても、ユーザー自身の感情や日常の文脈、つまり「内部からのきっかけ」によって使われるようになります。これが「習慣化」の正体です。
退屈を感じた瞬間に、ふとTikTokを開いてしまう。誰かと繋がりたいという孤独感を覚えたときに、無意識にXをスクロールしている。これらはすべて、フック・モデルのループが心の中に深く刻み込まれた結果なのです。
著者ニール・イヤールがこの謎を解き明かすまで
本書の説得力は、著者のニール・イヤール自身が、まさにこの「しかけ」が渦巻く世界の中心でキャリアを積んできたことに由来します。彼はスタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、シリコンバレーで2社のスタートアップを起業。そのうちの1社は、急成長するオンラインソーシャルゲームの世界に広告を掲載するプラットフォームを開発する会社でした。
当時のゲーム業界では、多くの企業がデジタル農場で仮想の牛を売ることで何億ドルもの収益を上げていました。一方で、広告業界は人々の心理を巧みに操り、商品を買わせるために巨額の資金を投じています。イヤールは、人の心を操るという点で共通するこの二つの産業の交差点に立ち、ある根源的な問いにぶつかります。
「一体、彼らはどうやってこれを実現しているんだ?」
どうして人々は、実体のないものに熱中し、時間とお金を費やすのか。どうすれば、これほどまでに人を惹きつける体験を作り出せるのか。そして最も重要な問いとして、この強力な力を、人々の生活をより良くするために使うことはできないだろうか。
彼は、この「習慣を形成するしかけ」の設計図を求めて探求を始めます。
しかし、驚くべきことに、そのための実践的な手引書はどこにも存在しませんでした。行動デザインのノウハウを持つ企業は、その秘密を固く守っていたのです。
そこで彼は、成功した何百もの企業を徹底的に分析し、ユーザー体験のデザインや機能性に共通するパターンを見つけ出そうと試みます。消費者心理学、人間とコンピュータの相互作用、行動経済学といった学術的な知見も貪欲に吸収しました。
2011年からはコンサルタントとして、スタートアップからフォーチュン500に名を連ねる大企業まで、数多くのクライアントと協働します。それぞれのプロジェクトが、彼の理論を試し、新たな洞察を得て、思考を洗練させる絶好の機会となりました。そして、スタンフォード大学のビジネススクールやデザインスクールで教鞭を執る中で、その理論はさらに磨き上げられていきました。
こうして、長年の研究と実践の末に体系化されたのが、本書で紹介される「フック・モデル」なのです。これは単なる机上の空論ではありません。シリコンバレーの最前線で、試行錯誤の末に生み出された、極めて実践的なフレームワークです。
本教材があなたに提供する、プロダクト開発の新たな視点
本コンテンツは、単に『Hooked』を要約するものではありません。本書をまだ手にしたことのない方には、その核心的なエッセンスを、専門的な知識がなくても理解できるよう、具体的なエピソードを交えながら物語のように解説します。そして、すでに本書を読んだ方には、行間にある著者の意図を深く読み解き、自身の仕事や生活に活かすための新たな気づき、「本書を読んだ以上の学び」を提供することを目指します。
プロダクト開発者やマーケター、起業家にとっては、ユーザーに愛され、長く使われ続けるサービスを作るための具体的な羅針盤となるでしょう。
一方で、一人の消費者としては、なぜ自分が特定のアプリやサービスにこれほど時間を使ってしまうのかを理解し、現代のテクノロジーとより賢く、主体的に付き合うための武器を手に入れることができるはずです。
それでは、これから始まる「ハマるしかけ」を巡る冒険に出発しましょう。なぜ、あるプロダクトだけが、私たちの生活に不可欠な存在となり得たのか。その秘密の扉を、今から開けていきます。
第1章:ビジネスの勝敗を分ける「ハビット・ゾーン」の秘密
なぜ「習慣」が最強の武器になるのか
著者のニール・イヤールは、ある日の夜、奇妙な体験をします。彼は週に3回、早朝にランニングをするのを習慣にしていました。その日は海外クライアントとの電話会議があったため、いつもの朝ではなく、夕暮れ時に走ることにしたのです。
走り始めてしばらくすると、ゴミ出しをしていた女性とすれ違いました。目が合うと、彼はにこやかに、そして無意識にこう挨拶していました。「おはようございます!」。しまった、と慌てて「あ、いや、こんばんは!すみません!」と言い直したものの、女性は少し眉をひそめ、戸惑ったような笑みを浮かべるだけでした。
気を取り直して走り続けた数分後、今度は別のランナーとすれ違います。そしてまたしても、まるで何かに憑りつかれたかのように、彼の口からは「おはようございます!」という言葉が飛び出してしまったのです。
この話は、これだけで終わりません。家に帰り、走り終えた後のいつもの習慣であるシャワーを浴びていると、彼の心はまた別のことを考え始め、脳は自動操縦モードに切り替わりました。そして、顔にカミソリの冷たい感触が走った瞬間、ハッと我に返ります。彼は、無意識のうちにシェービングクリームを塗り、髭を剃り始めていたのです。夜なので、もちろん髭を剃る必要など全くありません。それでも、彼は知らず知らずのうちに、いつもの行動を繰り返してしまっていたのです。
このエピソードが鮮やかに示すように、「習慣」とは、ほとんど、あるいは全く意識的な思考を伴わずに行われる行動のことです。ある研究によれば、私たちの日常的な行動の約半分は、このような深く根付いた習慣によって導かれていると言われています。
脳は、複雑な行動を学ぶための一つの方法として習慣を利用します。何度も繰り返される行動とその結果を「決まった手順」として保存することで、脳はエネルギーを節約し、他の新しい物事に注意を向けることができるようになるのです。一度「良い」と判断した解決策は、次からはわざわざ考え直すことなく、自動的に実行されるようになります。
この人間の脳が持つ強力なメカニズムを、ビジネスに応用できたらどうなるでしょうか。言うまでもなく、それは業界にとって計り知れない恩恵をもたらします。事実、顧客の「習慣」を効果的に形成できる企業は、ビジネスの世界で圧倒的な優位性を築くことができています。
習慣化に成功したプロダクトは、広告や販促といったコストのかかる働きかけに頼ることなく、ユーザーのエンゲージメントを獲得します。ユーザーは、行列に並んで退屈したとき、仕事の合間に一息つきたいとき、ふと寂しさを感じたときなど、日常の決まった出来事や感情をきっかけに、自動的にそのプロダクトを使い始めます。これが、習慣化がビジネスにもたらす究極のゴールなのです。
ハビット・ゾーンとは何か?:頻度と効用が生み出す魔法の領域
では、どのようなプロダクトが「習慣化」しやすいのでしょうか。企業は、自社のプロダクトが持つ習慣化のポテンシャルをどのように見極めればよいのでしょう。
そのための指標として、本書では「ハビット・ゾーン」という概念が提示されます。これは、2つの要素を軸にしたグラフで考えることができます。
一つ目の軸は「頻度(Frequency)」です。その行動がどれくらいの頻度で起こるか。
二つ目の軸は「認識される有用性(Perceived Utility)」です。その行動が、他の解決策と比べて、ユーザーの心の中でどれだけ役に立ち、価値あるものだと認識されているか。
この二つの要素、つまり「十分な頻度」と「高い有用性」の両方を満たす行動は、「ハビット・ゾーン」と呼ばれる領域に入り、ユーザーのデフォルトの行動、つまり習慣になる可能性が飛躍的に高まります。
例えば、Google検索を考えてみましょう。多くの人は1日に何度もGoogleを使いますが、ライバルであるBingの検索結果と比べて、その一つ一つの検索結果が劇的に優れていると感じることは稀です。つまり、Googleは「認識される有用性」はそこまで高くないかもしれませんが、「頻度」が圧倒的に高いことでハビット・ゾーンに位置しています。
一方で、Amazonでの買い物を考えてみてください。Google検索ほど毎日使うわけではないかもしれませんが、ユーザーは「ここに来れば何でも見つかる」「価格も比較できて安心だ」という絶大な価値を感じています。Amazonは「頻度」はGoogleに劣るかもしれませんが、「認識される有用性」が非常に高いことで、同樣にハビット・ゾーンに君臨しているのです。
このグラフの曲線は、下に凸の形を描きます。これは、頻度が非常に高ければ、たとえ認識される有用性が最小限であっても習慣になりうることを示しています。
逆に、どれだけ有用性が高くても、その行動がめったに起こらないのであれば、それは意識的な行動のままであり、決して習慣にはなりません。例えば、生命保険の契約や自動車の購入は、人生において非常に重要で有用な行動ですが、頻度が低いため習慣にはならないのです。
自社のプロダクトが、このハビット・ゾーンのどこに位置するか、あるいはそもそもこのゾーンに入っているのかを考えることは、習慣化戦略の第一歩となります。そして、このゾーンにプロダクトを押し上げるためには、ユーザーに「習慣」という名の投資をしてもらう必要があるのです。その投資が、後に莫大なリターンとなって企業に返ってくることになります。
顧客を熱狂的なファンに変える
ユーザーの生活の中に「習慣」として根付くことに成功した企業は、まるでスーパーパワーを手に入れたかのような、絶大な競争上の優位性を享受します。本書では、その具体的な恩恵を4つの側面から解説しています。これらは単なるメリットの羅列ではなく、現代のビジネスにおいて、なぜ「習慣化」がこれほどまでに重要視されるのかを理解するための本質的な鍵となります。
1. 顧客生涯価値(CLTV)の劇的な向上
MBAの教科書を開けば、企業の価値は「将来にわたって生み出される利益の総和」であると書かれています。投資家が企業の株価を算定する際も、この未来の収益性が最も重要な指標となります。つまり、企業の経営陣に課せられた至上命題は、将来の利益を最大化することです。
そのための効果的な戦略こそが、顧客の習慣を育むことです。なぜなら、習慣化は「顧客生涯価値(Customer Lifetime Value、略してCLTV)」を直接的に引き上げるからです。CLTVとは、一人の顧客が、競合他社に乗り換えたり、製品の使用をやめたり、あるいは亡くなったりするまでに、企業にもたらす利益の総額を指します。
ユーザーがプロダクトを習慣的に使うようになれば、当然、その製品を利用する期間は長くなり、利用頻度も高まります。その結果、一人当たりのCLTVは飛躍的に向上するのです。
例えば、クレジットカード会社の顧客は、一度契約すると非常に長い期間、同じカードを使い続ける傾向があります。これが、クレジットカード会社が無料ギフトや航空会社のマイルといった、多額の販促コストをかけてでも新規顧客を獲得しようとする理由です。彼らは、一度顧客になってもらえれば、その後の長い付き合いの中で投資を上回る大きな利益(高いCLTV)が見込めることを知っているのです。
2. 価格競争からの解放
高名な投資家であり、バークシャー・ハサウェイのCEOであるウォーレン・バフェットは、かつてこう語りました。
「ある事業の強さを長期的に判断したければ、その事業が値上げをする際にどれほどの苦痛を伴うかを見ればいい」
バフェットと彼の盟友チャーリー・マンガーは、顧客がある製品に対して日常的な習慣を形成すると、その製品に依存するようになり、価格に対して鈍感になることを見抜いていました。彼らがシーズ・キャンディーズやコカ・コーラといった企業に投資してきた背景には、この消費者心理への深い洞察があります。習慣は、企業に価格を上げる柔軟性を与えてくれるのです。
この原理は、フリーミアムモデル(基本無料、追加機能は有料)を採用するビデオゲームやソフトウェアの世界で巧みに利用されています。例えば、Evernoteという人気のノートアプリは、基本機能は無料で使えますが、オフラインでの閲覧や共同作業ツールといった高度な機能は有料で提供されています。
EvernoteのCEOフィル・リビンが公開した「スマイルグラフ」と呼ばれる有名なグラフがあります。このグラフは、横軸に利用期間、縦軸に利用率(課金率)を示したものです。利用開始直後は多くのユーザーが離脱し、利用率は急降下しますが、時間が経ち、製品を使うことが「習慣」になったユーザーが増えるにつれて、利用率はまるで笑顔の口元のように、再び急上昇していくのです。
さらに興味深いのは、利用率の上昇に伴い、顧客の「支払意欲」も高まっていく点です。リビンによれば、利用開始1ヶ月後の課金率はわずか0.5%でしたが、33ヶ月後には11%、そして42ヶ月後には、実に26%ものユーザーが、以前は無料で使っていたものに対してお金を払うようになっていたのです。これはまさに、習慣化がユーザーの価値観を変え、価格への抵抗を和らげることを示す、強力な証拠と言えるでしょう。
3. 口コミによる爆発的な成長
プロダクトに継続的に価値を見出しているユーザーは、その素晴らしさを友人や知人に伝えたくなるものです。頻繁な利用は、友人を招待したり、コンテンツをSNSで共有したりといった、口コミを誘発する機会を自然と増やします。こうして、習慣化したユーザーは、コストをかけずに新規ユーザーを呼び込んでくれる、企業の強力な「メガホン(ブランド伝道師)」となってくれるのです。
ユーザーエンゲージメントの高い製品は、競合他社よりも速く成長する潜在能力を秘めています。その象徴的な例がFacebookです。Facebookが登場した当時、ソーシャルネットワーキングの市場には、すでにMySpaceやFriendsterといった巨大な競合が存在していました。彼らはすでに何百万人ものユーザーを抱え、健全な成長を遂げていました。学術界の閉ざされたドアの向こうから生まれたマーク・ザッカーバーグの小さなサイトは、完全に後発だったのです。
しかし、結果としてFacebookは業界を完全に支配しました。その成功の一因は、著者が「多ければ多いほど良い」の法則と呼ぶもの、つまり、より頻繁な利用が、より速いバイラル成長を促すという原理にあります。
テクノロジー起業家であり投資家のデビッド・スコックは、「成長を加速させる最も重要な要素は、バイラル・サイクル・タイムである」と指摘します。これは、一人のユーザーが次のユーザーを招待するまでにかかる時間のことです。この時間が短ければ短いほど、成長は指数関数的に加速します。スコックの試算によれば、サイクルタイムが2日であれば、20日後にはユーザー数は約2万人になります。しかし、もしサイクルタイムを半分の1日に短縮できれば、ユーザー数は2000万人を超えるというのです。
日常的にサービスに戻ってくるユーザーの割合が高いと、このバイラル・サイクル・タイムは劇的に短縮されます。なぜなら、毎日利用するユーザーは、友人をタグ付けしたり、コンテンツを共有したりといった「ループ」をより頻繁に開始します。そして、アクティブなユーザーが多ければ多いほど、その招待に応答し、反応する人も増えるからです。このサイクルは、単にプロセスを永続させるだけでなく、エンゲージメントが高まるにつれて、成長の速度そのものを加速させていくのです。
4. 模倣不可能な競争優位性
ユーザーの習慣は、それ自体が強力な競争上の優位性となります。なぜなら、一度顧客の日常に組み込まれた製品は、他社からの攻撃に対して非常に強い耐性を持つからです。
多くの起業家は、「既存の製品より少しだけ優れたものを作れば、顧客は乗り換えてくれるはずだ」という罠に陥りがちです。しかし、人々の古い習慣を揺さぶるということに関して言えば、この考えはあまりにも 「世間知らず」です。より優れた製品が、必ずしも勝つとは限らないのです。特に、すでに多くのユーザーが競合製品を生活に取り入れている場合は、なおさらです。
ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・グールヴィル教授は、その古典的な論文の中で「多くのイノベーションが失敗するのは、消費者が古いものを不合理なほど過大評価する一方で、企業が新しいものを不合理なほど過大評価するからだ」と述べています。
グールヴィルは、新規参入者が市場でチャンスを得るためには、単に優れているだけでは不十分で、「9倍」優れていなければならない、と主張します。なぜ、これほど高いハードルが存在するのでしょうか。それは、「古い習慣はなかなか死なないから」です。新しい製品やサービスは、ユーザーを古い習慣から引き剥がすために、劇的な改善を提供する必要があるのです。
その典型例が、「QWERTY配列」のキーボードです。1870年代にタイプライターのために開発されたこの配列は、よく使われる文字を意図的に離して配置することで、初期の機械のタイプバーが絡み合うのを防ぐために設計されました。デジタル時代の現代において、この物理的な制約はもはや意味を持ちません。実際、母音を中心に配置することでタイピングの速度と正確性を向上させる「Dvorak配列」など、はるかに優れた配列が考案されています。
しかし、なぜ未だにQWERTY配列が標準なのでしょうか。それは、ユーザーの行動を変えるコストが非常に高いからです。一度慣れ親しんだキーボードから、たとえ効率的であっても未知の配列に切り替えることは、タイピングの方法をゼロから学び直すことを強います。ほとんどの人は、そんな面倒なことはしたくないのです。
このように、一度形成された習慣は、ユーザーを特定の製品に縛り付ける強力な「心の独占(マインド・モノポリー)」を築き上げます。Google検索がその好例です。もしあなたが熱心なGoogleユーザーなら、試しにMicrosoftのBingを使ってみてください。おそらく、多くの人はBingのインターフェースにわずかな違和感を覚え、「やはりGoogleの方が使いやすい」と感じるでしょう。しかし、その優劣は、必ずしも技術そのものにあるわけではありません。ピクセルの配置が少し違うだけで、脳は新しい操作方法を学習することを強いられ、それが認知的な負荷となって「使いにくさ」として感じられるのです。インターネット検索という非常に頻度の高い行動において、Googleはユーザーの心の中に唯一無二の解決策としての地位を確立しました。もはや人々はGoogleを使うかどうかを考えません。ただ、使うのです。これが、習慣がもたらす、模倣不可能な最強の堀なのです。
あなたのプロダクトは「ビタミン剤」か、それとも「鎮痛剤」か?
新しいプロダクトを開発する際、投資家が起業家によく投げかける決まり文句のような質問があります。「君が作っているのは、ビタミン剤か、それとも鎮痛剤か?」。
この質問に対して、ほとんどの投資家が期待する「正解」は後者、つまり「鎮痛剤」です。鎮痛剤は、タイレノールのように、特定の「痛み」を和らげ、明確なニーズを解決します。人々は、その即効性のある解決策に対して、喜んでお金を払います。市場規模も定量化しやすく、投資家にとっては分かりやすいビジネスです。
一方で、「ビタミン剤」は、必ずしも明確な痛みを解決するわけではありません。機能的なニーズよりも、むしろユーザーの感情的なニーズに訴えかけます。毎朝マルチビタミンを飲むとき、それが本当に健康に良いのか、実はよく分かっていません。それでも飲むのは、「体に良いことをしている」という心理的な満足感、つまり一種の精神的な安堵感を得るためです。
投資家やマネージャーは、明確な問題を解決する「鎮痛剤」に投資したがります。しかし、今日のテクノロジー業界で最も成功している企業、Facebook、X、Instagram、Pinterestなどを考えてみてください。これらはビタミン剤でしょうか、それとも鎮痛剤でしょうか。
ほとんどの人は、これらを「ビタミン剤」だと答えるでしょう。これらのサービスが登場する前、夜中に「自分の近況を誰かに知らせるための何かが必要だ!」と叫んで飛び起きた人はいなかったはずです。最初は、なくても困らない、あれば少し楽しい、といった程度の存在でした。
しかし、ここが重要な点です。 habit is when not doing an action causes a bit of pain.(習慣とは、その行動をしないことが、少しの痛みを引き起こす状態のことである)。
ここでいう「痛み」とは、ビジネス書で使われるような大げさなものではなく、むしろ「痒み(itch)」に近い感覚です。心の中に現れ、満たされるまで不快感を引き起こす、あのむず痒い感覚。習慣を形成するプロダクトは、この痒みを和らげるための、一種の安堵を提供しています。
この観点から先ほどの質問に答えるならば、答えはこうなります。習慣を形成するテクノロジーは、「両方」である。
最初は「あれば嬉しい」ビタミン剤のように見えます。しかし、一度習慣が確立されると、それはもはや「なくてはならない」鎮痛剤へと姿を変えるのです。かつては些細な気晴らしだったはずのSNSのチェックを怠ると、何か重要なことを見逃しているのではないかという不安、つまり「FOMO(Fear of Missing Out)」という名の痒みに襲われます。その痒みを掻くための最も手軽で迅速な手段が、そのプロダクトなのです。
したがって、成功するイノベーションに共通する一つの側面は、それらが「問題を解決する」ということです。その問題が、最初はビタミン剤のように見えても、最終的には鎮痛剤としての役割を果たすようになるのです。
第2章:フック・モデルの全体像 - 人を動かす4つのステップ
無意識のループ「フック・モデル」とは何か
なぜ、私たちは「気づけば」特定のプロダクトを使い続けてしまうのか。その謎を解き明かす鍵こそが、本書の核心をなす「フック・モデル」です。このモデルは、ユーザーの心に深く根ざした問題を、企業の提供する解決策と結びつけ、最終的には無意識の習慣を形成するまでの一連の流れを図式化したものです。
このモデルは、ユーザーを繰り返し惹きつけるための、いわば「心のエンジン」のようなものです。一度このエンジンがかかると、ユーザーは自らの意思で、何度も何度も同じサイクルを回り始めます。このループを経験するたびに、プロダクトとユーザーの結びつきは強固なものになっていくのです。
フック・モデルは、4つの連続したフェーズから成り立っています。それは「トリガー」「アクション」「可変的な報酬」「インベストメント」です。これから、この4つのステップがどのように連動し、強力な習慣を生み出していくのか、その全体像を見ていきましょう。本書の以降の章では、この各ステップがより深く、具体的な事例と共に掘り下げられていきます。
ステップ1:トリガー(きっかけ)- 行動の引き金を引く
すべての行動は、何らかの「きっかけ」から始まります。
フック・モデルにおける最初のステップである「トリガー」は、まさにその行動の引き金をひく点火プラグの役割を果たします。トリガーには、大きく分けて「外部トリガー」と「内部トリガー」の二種類が存在します。
習慣を形成するプロダクトは、まず「外部トリガー」によってユーザーに働きかけます。これは、ユーザーの外部環境に存在する、具体的な情報です。例えば、スマートフォンに表示されるアプリの通知、友人から送られてくるメール、ウェブサイト上に配置された「購入」ボタンなどがこれにあたります。これらは、次に取るべき行動をユーザーに分かりやすく知らせるための、外からの合図です。
ペンシルベニア州に住むバーブラという若い女性を例に考えてみましょう。彼女がFacebookのニュースフィードを眺めていると、親戚が投稿した田舎の美しい風景写真が目に留まりました。彼女はちょうど兄のジョニーとその場所へ旅行に行く計画を立てていたところです。この写真は彼女にとって強力な「外部トリガー」となり、思わずクリックしてしまいます。
しかし、フック・モデルの究極の目標は、この外部トリガーへの依存から脱却することにあります。ユーザーがフックのサイクルを何度も経験するうちに、行動のきっかけは徐々にユーザー自身の内面へと移行していきます。これが「内部トリガー」です。
内部トリガーは、特定の感情や思考、あるいは既存の日常行動と強く結びつきます。時間が経つにつれて、バーブラは「誰かとつながりたい」という社会的な欲求を感じるたびに、Facebookを開くようになります。このとき、彼女を動かしているのは、もはや外部からの通知ではなく、心の中に自動的に湧き上がる感情です。この内部トリガーこそが、真の習慣化が達成された証となります。
ステップ2:アクション(行動)- 最も簡単なご褒美への一歩
トリガーによって行動が促された次に訪れるのが、「アクション」のフェーズです。これは、来るべき報酬を期待して行われる、具体的な行動を指します。重要なのは、このアクションが「可能な限りシンプル」であることです。
習慣とは、意識的な思考をほとんど伴わない行動である、という点を思い出してください。行動を起こすために必要な身体的、あるいは精神的な労力が大きければ大きいほど、その行動が起こる可能性は低くなります。つまり、行動を起こすことは、考えることよりも簡単でなければならないのです。
先ほどのバーブラの例で言えば、彼女のアクションは、ニュースフィードに表示された興味深い写真を「クリックする」という、非常に単純なものでした。このクリックというシンプルなアクションによって、彼女はPinterestという、仮想のピンボードを備えたソーシャルブックマークサイトへと導かれます。
このアクションのフェーズを成功させるために、企業は人間行動における二つの基本的なてこ、つまり「行動のしやすさ」と「行動を起こすための心理的なモチベーション」を活用します。ユーザビリティデザインの技術と科学を駆使して、プロダクトはユーザーが特定の行動を起こすように巧みに誘導するのです。バーブラが写真をクリックするというシンプルなアクションを完了すると、彼女は次に目にするであろう魅力的なコンテンツに心を奪われ、次のステップへと進んでいきます。
ステップ3:可変的な報酬 - 予測不能な喜びで脳をハックする
フック・モデルを、単なるありふれたフィードバックループと一線を画すものにしているのが、この「可変的な報酬」のフェーズです。これは、フックが渇望を生み出す力の源泉と言えます。
私たちの周りには、無数のフィードバックループが存在します。しかし、予測可能なループは、欲望をかき立てることはありません。例えば、冷蔵庫のドアを開ければ、庫内のライトが点灯します。これは予測通りの反応であり、このために何度も冷蔵庫のドアを開け閉めする人はいません。
しかし、ここに少しの「可変性」を加えてみたらどうなるでしょうか。もし、冷蔵庫を開けるたびに、毎回違う種類のお菓子が魔法のように現れるとしたら。そこに、抗いがたい魅力と好奇心が生まれるはずです。
「可変的な報酬」は、ユーザーを虜にするために企業が実装する最も強力なツールの一つです。研究によれば、脳が報酬を「期待」しているとき、神経伝達物質であるドーパミンのレベルが急上昇することが示されています。そして、報酬に「可変性」を導入すると、この効果はさらに増幅され、脳の判断や理性を司る領域を抑制し、欲求や渇望に関連する部分を活性化させるのです。
スロットマシンや宝くじがその古典的な例ですが、この原理は多くの習慣型プロダクトに応用されています。
バーブラがFacebookに投稿されている写真をクリックしてPinterestにたどり着くと、彼女は探していた写真だけでなく、他にもキラキラと輝く無数のオブジェクトを目にします。それらは、彼女が興味を持っている旅行に関連するものもあれば、全く関係のない、しかし心を惹きつけるものもあります。この、関連性と無関係性、刺激的なものと平凡なもの、美しいものとありふれたものが刺激的に混ざり合った状態が、彼女の脳のドーパミンシステムを「次は何が見つかるだろう」という報酬への期待で満たします。そして彼女は、気づけば45分もの間、スクロールを続けているのです。
ステップ4:インベストメント(投資)- 次のループへの布石
フック・モデルの最後のフェーズは、「インベストメント」です。これは、ユーザーがそのプロダクトに対して、ほんの少しの「仕事(work)」をする段階を指します。このインベストメントのフェーズは、ユーザーが将来、再びフックのサイクルを通過する確率を高めるための重要な布石となります。
インベストメントは、ユーザーがプロダクトやサービスに何かを投入したときに起こります。それは、時間、データ、労力、社会的資本、あるいは金銭といった形を取ります。
しかし、ここでのインベストメントとは、単に財布を開いてお金を払うことだけを意味するのではありません。むしろ、次のサイクルでサービスがより良くなるような行動を指します。友人を招待する、好みや評価を表明する、仮想的な資産を築く、新しい機能の使い方を学ぶ、といった行動はすべて、ユーザーが自らの体験を向上させるために行うインベストメントなのです。
これらのコミットメントは、次のループにおいて、トリガーをより魅力的なものにし、アクションをより簡単にし、そして報酬をより刺激的なものにするために活用されます。
Pinterestの無限の宝の山をスクロールし続けるバーブラは、彼女を喜ばせてくれたものたちを保存しておきたいという欲求を抱きます。アイテムを収集(ピン)することで、彼女は自身の好みに関するデータをサイトに提供します。やがて彼女は、他のユーザーをフォローし、リピンし、他の様々なインベストメントを行うようになるでしょう。これらの行動はすべて、彼女とサイトとの結びつきを強め、将来のフックのループへの準備を整える役割を果たすのです。
この「トリガー」「アクション」「可変的な報酬」「インベストメント」という4つのステップからなるフック・モデルのサイクル。ユーザーがこのループを繰り返し通過することで、行動は徐々に習慣となり、プロダクトは生活に不可欠な一部となっていくのです。
第3章:トリガー - 人の心に「行動の種」を蒔く技術
行動の点火プラグ、トリガーの二つの顔
習慣は、まるで真珠のようです。牡蠣は、体内に侵入した砂粒や寄生生物といった小さな「刺激物」を、真珠層と呼ばれる滑らかなコーティングで何層にもわたって覆い尽くすことで、時間をかけて美しい宝物を創り出します。この最初の刺激物こそが、真珠形成のきっかけとなるのです。
同様に、新しい習慣も、それを築き上げるための土台を必要とします。フック・モデルの第一段階である「トリガー」は、持続的な行動変容の基礎となり、真珠を形成する牡蠣の中の砂粒のように、行動を誘発する役割を果たします。
今朝、あなたは何をきっかけに目を覚ましましたか?何が歯を磨くという行動を引き起こしましたか?そして、何がこの記事を読もうという気持ちにさせたのでしょうか。
トリガーは、朝の目覚まし時計のような明白な合図の形を取ることもあれば、より繊細で、時には潜在意識に働きかけるような、しかし私たちの日常行動に確実に影響を与える信号としてやってくることもあります。私たちがそれを認識しているかどうかにかかわらず、トリガーは私たちを行動へと駆り立てるのです。そして、このトリガーには「外部トリガー」と「内部トリガー」という、二つの異なる顔があります。
外部トリガー:ユーザーを外から誘う4つのルート
習慣を形成するテクノロジーは、まず「外部トリガー」を用いて行動の変化を開始させます。これは、ユーザーに行動を促すための「コール・トゥ・アクション(行動喚起)」であり、私たちの環境に存在する様々な感覚的な刺激を通じて届けられます。
外部トリガーには、ユーザーが次に何をすべきかという情報が埋め込まれています。多くの場合、その望ましい行動は、非常に明確に示されます。例えば、コカ・コーラの自動販売機を思い浮かべてみてください。そこには、さわやかなコーラを差し出す笑顔の若者の写真と共に、「Thirsty?(喉、乾いてない?)」という文字が書かれています。これは、「お金を入れて、飲み物を選んでください」という、次に期待される行動を直接的に促す、分かりやすい外部トリガーです。
オンラインの世界では、この外部トリガーは、目立つボタンの形を取ることがよくあります。例えば、個人資産管理サービスMint.comから送られてくる「アカウントに関する重要なお知らせ」というメール。そこには、「Help us fix your Mint account(あなたのアカウントの問題解決にご協力ください)」という見出しの下に、大きくて目立つ「Log in to Mint」というボタンが一つだけ配置されています。Mint社は、他にも銀行残高の確認やクレジットカードの案内といった、様々なトリガーをメールに含めることもできたはずです。しかし、これは重要な通知であるため、利用可能なアクションを「ログインしてアカウントを修正する」という一つのクリックに絞り込んでいるのです。
選択肢が多すぎると、ユーザーは迷い、混乱し、最悪の場合は行動を放棄してしまいます。次に取るべき行動について考える必要性を減らすことで、望ましい行動が無意識のうちに起こる可能性は高まるのです。
このような外部トリガーは、その性質によって、さらに4つの種類に分類することができます。
有料トリガー:広告とその賞味期限
広告や検索エンジンマーケティング、その他の有料チャネルは、ユーザーの注意を引き、行動を促すための一般的な手段です。有料トリガーは効果的ですが、ユーザーを呼び戻し続けるためにはコストがかかります。習慣を形成する企業は、長期間にわたって有料トリガーに依存することは、ほとんどありません。もしFacebookやXが、ユーザーにサイトを再訪してもらうために広告を出さなければならないとしたら、これらの企業はあっという間に破綻してしまうでしょう。したがって、企業は一般的に、新規ユーザーを獲得するために有料トリガーを使い、その後は他のトリガーを活用して彼らを呼び戻すという戦略を取ります。
獲得トリガー:メディア掲載やバイラル動画の輝きと儚さ
獲得トリガーは、直接購入することはできませんが、広報活動やメディアリレーションズに時間を費やすことで「獲得」するものです。好意的なプレスリリース、話題のバイラル動画、App Storeのおすすめ掲載などは、注目を集めるための効果的な方法です。しかし、こうしたトリガーによって生み出される知名度は、長続きしない可能性があります。獲得トリガーが継続的なユーザー獲得を促進するためには、企業は自社の製品を常に世間の注目の中心に置き続けなければなりませんが、それは非常に困難で、予測不可能な仕事です。
関係性トリガー:友人からの招待が持つ絶大なパワー
一人の人間が、他の人々に製品やサービスについて語ることは、行動を促すための非常に効果的な外部トリガーとなり得ます。電子メールでの招待、Facebookの「いいね!」、あるいは古き良き「口コミ」など、友人や家族からの紹介は、しばしばテクノロジーの普及における重要な要素となります。1990年代後半のPayPalのバイラルな成功は、この関係性トリガーの力を示す象徴的な例です。誰かが送金してくれたという魅力的な知らせは、口座を開設するための強力なインセンティブとなり、PayPalはバイラルかつ有用であるという理由で、爆発的に普及しました。
自己所有トリガー:ユーザーの日常に入り込むための最強の武器
自己所有トリガーは、ユーザーの環境の中に「不動産」の一部を占有します。これらはユーザーの日常生活の中に一貫して表示され、最終的にこれらのトリガーの表示を許可するかどうかは、ユーザー自身に委ねられています。例えば、スマートフォンの画面上のアプリアイコン、ユーザーが購読するメールマガジン、あるいはアプリの更新通知などは、ユーザーがそれを望む場合にのみ表示されます。ユーザーがトリガーを受け取ることに同意している限り、企業はそのユーザーの注意の一部を「所有」することができるのです。有料、獲得、関係性トリガーが新規ユーザーの獲得を促進するのに対し、この自己所有トリガーは、習慣が形成されるまで、繰り返しエンゲージメントを促すための最も重要なトリガーとなります。
内部トリガー:ユーザーの心の中にフックを埋め込む究極のゴール
しかし、これらすべての外部トリガーは、あくまで第一歩に過ぎません。外部トリガーの最終的な目標は、ユーザーをフック・モデルの中へと押し進め、連続するサイクルを経て、もはや外部からの働きかけを必要としない状態にすることです。ユーザーが習慣を形成すると、彼らは全く異なる種類のトリガー、つまり「内部トリガー」によって行動するようになります。
プロダクトが、ある思考や感情、あるいは既存のルーティンと密接に結びついたとき、それは内部トリガーを活用していると言えます。外部トリガーが朝の目覚まし時計や巨大な「ログイン」ボタンのように感覚的な刺激を用いるのとは対照的に、内部トリガーは目で見たり、触れたり、聞いたりすることはできません。
内部トリガーは、心の中に自動的に現れます。そして、この内部トリガーと自社の製品を結びつけることこそが、消費者向けテクノロジーにおける最高の栄誉なのです。
なぜ「不快な感情」こそが最強のトリガーなのか
感情、特に「ネガティブな感情」は、強力な内部トリガーであり、日常のルーティンに大きな影響を与えます。退屈、孤独、不満、混乱、決断できないといった感情は、しばしばわずかな痛みや苛立ちを引き起こし、その不快な感覚を鎮めるために、ほとんど瞬間的で、しばしば無分別な行動を促します。
Instagramを習慣的に使っている若い女性、イン(仮名)を例にとります。彼女は、特別な瞬間が永遠に失われてしまうのではないかという「恐れ」を感じたときに、しばしばInstagramを利用します。その不快感の深刻さは、比較的小さなものかもしれません。もしかすると、彼女の恐れは意識できるレベルよりも下にあるかもしれません。しかし、それこそが重要な点なのです。
私たちの生活は、小さなストレス要因で満ち溢れており、そうした厄介な問題に対する習慣的な反応に、普段は気づいていません。プロダクトデザイナーとしての目標は、これらの問題を解決し、痛みをなくすこと、つまり「ユーザーの痒いところに手を届かせる」ことです。自分の痛みを和らげてくれる製品を見つけたユーザーは、時間をかけてその製品と強く、ポジティブな結びつきを形成していきます。継続的な使用の後、牡蠣の中の真珠層のように、製品とそれを必要とするユーザーとの間に絆が形成され始めるのです。そして徐々に、これらの絆は習慣へと固まっていき、ユーザーは特定の内部トリガーを経験したときに、その製品に頼るようになるのです。
ミズーリ工科大学で行われたある研究は、テクノロジーによる解決策が、いかに頻繁な心理的安堵を提供できるかを示しています。2011年、216人の学部生が、自身のインターネット活動を匿名で追跡されることに同意しました。研究者たちは学年度を通じて、これらの学生がウェブをどのくらいの頻度で、何のために利用しているかを測定しました。
研究の終わりに、研究者たちは、大学の保健サービスを利用してうつ病の症状を治療した学生の匿名データと比較しました。その結果、うつ病の症状を持つ参加者は、非常に高い頻度で電子メールを利用する傾向があるなど、うつ病と相関するいくつかのインターネット利用の特徴が特定されました。他にも、ビデオ視聴、ゲーム、チャットの量の増加といった特徴が見られました。
この研究は、うつ病の症状に苦しむ人々が、より多くインターネットを利用することを示しました。なぜでしょうか。一つの仮説は、うつ病を患う人々は、一般の人々よりも頻繁にネガティブな感情を経験し、気分を高めるためにテクノロジーに頼ることで安堵を求めている、というものです。
自身の感情に起因する行動について考えてみてください。内部トリガーに反応して、何をするでしょうか。
退屈したとき、多くの人は興奮を求めて、ドラマチックなニュースの見出しに目を向けます。過度のストレスを感じたときは、静けさを求め、Pinterestのようなサイトで安らぎを見出すかもしれません。孤独を感じたときは、FacebookやXのような場所が、即座の社会的つながりを提供してくれます。不確実な感覚を和らげるためには、Googleをクリックするだけです。そして電子メール(LINE)は、おそらくすべての習慣形成テクノロジーの母であり、誰かが自分を必要としているかどうかを確認することで自分の重要性(あるいは存在意義)を確かめたり、人生のありふれた瞬間から逃避したりと、日々の様々な心のざわめきに対する万能の解決策となっています。
一度「ハマって」しまえば、これらの製品を使用するのに、必ずしも明確な行動喚起は必要ありません。内部トリガーがあればいいのです。これらの内部トリガーに結びつく製品は、ユーザーに迅速な安堵を提供します。あるテクノロジーが、ユーザーの心の中で「その製品こそが選択すべき解決策である」という連想を築き上げると、ユーザーは自ら戻ってくるようになり、もはや外部トリガーからの働きかけは必要なくなるのです。
内部トリガーの場合、次に何をすべきかという情報は、ユーザーの記憶の中に学習された連想として符号化されています。
「5つのなぜ」分析で掘り下げる、ユーザーの隠れた痛み
しかし、内部トリガーと製品との間の連想は、一夜にして形成されるものではありません。内部トリガーが手がかりに結びつくまでには、数週間から数ヶ月にわたる頻繁な利用が必要です。新しい習慣は外部トリガーによって火花を散らしますが、ユーザーを夢中にさせ続けるのは、内部トリガーとの連想です。
ユーザーを外部トリガーから内部トリガーへと巧みに移行させることで、Instagramは人々の生活の中に持続的なルーティンを設計しました。何かを記憶に留めておく価値がある瞬間が訪れるたびに、インの心の中ではニーズが引き起こされ、彼女にとっての即座の解決策はInstagramに写真をあげることになった。彼女はもはや、アプリを使用するように促す外部の刺激を必要としません。内部トリガーが、自然に発生するのです。
習慣をうまく作り出す製品は、特定の感情に働きかけることで、ユーザーの痛みを和らげます。そのためには、プロダクトデザイナーは、ユーザーの内部トリガー、つまり、彼らが解決しようとしている痛みを知らなければなりません。顧客の内部トリガーを見つけるには、アンケートで尋ねる以上のことを学ぶ必要があります。それは、ユーザーがどのように感じているかを理解するために、より深く掘り下げることを要求します。
習慣を形成する製品の究極の目標は、ユーザーがその企業の製品やサービスを「安堵の源」として認識するような連想を築くことによって、ユーザーの痛みを解決することです。
まず、企業は製品の機能ではなく、感情的な言葉で、特定の不満や痛みのポイントを特定しなければなりません。デザイナーとして、ユーザーの痛みの源をどのようにして明らかにするのでしょうか。最良の出発点は、成功している習慣型製品の背後にある動機を学ぶことです。それらをコピーするためではなく、それらがどのようにユーザーの問題を解決しているかを理解するためです。そうすることで、消費者の心の奥深くへと潜り込み、共通の人間的なニーズや欲求に気づく練習になるでしょう。
BloggerとTwitterの共同創業者であるエヴァン・ウィリアムズが言ったように、インターネットは「ユーザーを気持ちよくするために設計された巨大な機械」です。そして、「人々は、これまでずっとやってきたのと同じことをやりたいだけ」なのです。つまりは「現状維持」していたい。
これらの共通のニーズは、時代を超えて普遍的なものです。しかし、ユーザーに話を聞いてこれらの欲求を明らかにしようとしても、おそらく効果はないでしょう。なぜなら、彼ら自身が、どの感情が自分たちを動かしているのかを知らないからです。人々は、そのような観点から物事を考えません。しばしば、人々が公言する好み(彼らが望むと言っていること)と、実際に明らかになる好み(彼らが実際に行うこと)との間には、大きな隔たりがあるのです。
こうした機会を発見するためには、人々の言動の不一致を探すことが有効です。なぜ人々はテキストメッセージを送るのでしょうか?なぜ写真を撮るのでしょうか?テレビやスポーツを観戦することは、彼らの生活の中でどのような役割を果たしているのでしょうか。
これらの習慣がどのような痛みを解決し、これらの行動の一つを起こす直前にユーザーが何を感じている可能性があるかを自問してみてください。
この深層心理を掘り下げるための一つの有効な方法が、「なぜ?」という質問を、感情に行き着くまで何度も繰り返すことです。通常、これは5回目の「なぜ?」で起こります。このテクニックは、トヨタ生産方式から応用されたもので、大野耐一によって「5つのなぜ分析」として知られています。大野は、「『なぜ』を5回繰り返すことによって、問題の性質とその解決策が明らかになる」と書いています。
習慣を形成する製品の理由を突き止めることになると、内部トリガーが根本的な原因であり、「なぜ?」は核心に迫るのに役立つ質問です。
例えば、初めて電子メールという新しい技術を構築しているとしましょう。ターゲットユーザーは、ジュリーという名の忙しい中間管理職です。このジュリーというユーザーの詳細な物語を構築し、次の一連の「なぜ」に答える手助けをしてもらいます。
なぜ#1:なぜジュリーは電子メールを使いたいと思うのか?
答え:メッセージを送受信できるようにするため。
なぜ#2:なぜ彼女はそれをしたいのか?
答え:情報を迅速に共有し、受け取りたいから。
なぜ#3:なぜ彼女はそれをしたいのか?
答え:同僚、友人、家族の生活で何が起こっているかを知るため。
なぜ#4:なぜ彼女はそれを知る必要があるのか?
答え:誰かが彼女を必要としているかどうかを知るため。
なぜ#5:なぜ彼女はそれを気にするのか?
答え:彼女は、輪の中から外れることを恐れている。
これで、何かが見つかりました。「恐怖」は強力な内部トリガーであり、ジュリーの恐怖を和らげる手助けをするための解決策を設計することができます。もちろん、異なるペルソナから始めたり、物語を変えたり、「なぜ」の連鎖に沿って異なる仮説的な答えを出したりすることで、別の結論に至ったかもしれません。ユーザーの根底にあるニーズを正確に理解することだけが、製品要件を導き出すことができるのです。
深掘り事例:Instagramはいかにして私たちの感情と結びついたのか
Instagramの成功、そして何百万人ものユーザーがリピートする大きな要素は、同社がユーザーのトリガーを理解する能力にあります。インのような人々にとって、Instagramは感情とインスピレーションの港であり、ピクセルで保存された仮想の回顧録です。
インのこのサービスに対する習慣的な利用は、外部トリガー、つまり友人からの推薦と、彼女が常連ユーザーになる前の数週間にわたる反復的な利用から始まりました。
インが写真を撮るたびに、彼女はそれをFacebookやXの友人と共有します。初めてInstagramの写真を見たときのことを考えてみてください。それはあなたの注意を引きましたか?好奇心をそそりましたか?行動を促しましたか?
これらの写真は、関係性に基づく外部トリガーとして機能し、認知度を高め、他の人々がアプリをインストールして使用するためのきっかけとなります。しかし、FacebookやXで共有されたInstagramの写真は、新規ユーザーを促進する唯一の外部トリガーではありませんでした。他の人々は、メディアやブロガーから、あるいはAppleがApp StoreでInstagramに与えたおすすめ掲載を通じてアプリを知りました。これらはすべて、獲得トリガーです。
一度インストールされると、Instagramは自己所有トリガーの恩恵を受けました。ユーザーのスマートフォンの画面上のアプリアイコンや、友人の投稿に関するプッシュ通知が、彼らを呼び戻す役割を果たしたのです。
繰り返しの利用により、Instagramは内部トリガーと強力な連想を形成し、かつては短い気晴らしだったものが、多くのユーザーにとって日中のルーティンとなりました。
それは、特別な瞬間を失うことへの恐怖であり、ストレスの痛みを引き起こします。このネガティブな感情こそが、写真を撮ることでこの痛みを和らげるために、Instagramユーザーをアプリに呼び戻す内部トリガーなのです。ユーザーがサービスを使い続けるにつれて、新しい内部トリガーが形成されます。
しかし、Instagramは単なるカメラの代替品以上のものです。それはソーシャルネットワークです。このアプリは、ユーザーを他者とつなぎ、写真を共有し、気楽なやり取りを交わすことで、退屈を紛らわせるのに役立ちます。
多くのソーシャルネットワーキングサイトと同様に、Instagramはまた、「FOMO(取り残されることへの恐怖)」として知られる、ますます認識されるようになっている痛みのポイントを和らげます。Instagramにとって、内部トリガーとの連想は、新しい習慣を形成するための基盤を提供するのです。
第4A章:アクション - 行動のハードルを「ゼロ」に近づける心理学
行動の公式「B = MAT」:人を動かす3つの必須要素
トリガーは行動のきっかけを知らせる合図ですが、もしユーザーが行動を起こさなければ、そのトリガーは無意味です。行動を開始させるためには、「行動すること」が「考えること」よりも簡単でなければなりません。習慣とは、ほとんど、あるいは全く意識的な思考を伴わずに行われる行動であることを、もう一度思い出してください。行動を実行するために必要な労力、それが身体的なものであれ精神的なものであれ、大きければ大きいほど、その行動が起こる可能性は低くなります。
では、行動が習慣形成にとって最も重要であるならば、プロダクトデザイナーはどのようにしてユーザーに行動を促すことができるのでしょうか。行動のための「公式」は存在するのでしょうか。答えは、イエスです。
人間の行動を促すものについては多くの理論がありますが、スタンフォード大学の説得テクノロジーラボのディレクターであるB.J.フォッグ博士は、私たちの行動を促すものを理解するための、比較的簡単な方法として役立つモデルを開発しました。
フォッグは、あらゆる行動を開始するためには、3つの要素が必要であると仮定しています。
- ユーザーは、十分なモチベーションを持っていなければならない。
- ユーザーは、望ましい行動を完了する能力を持っていなければならない。
- 行動を活性化させるためのトリガーが存在しなければならない。
フォッグの行動モデルは、B = MAT という公式で表されます。これは、ある行動(Behavior)は、モチベーション(Motivation)、能力(Ability)、そしてトリガー(Trigger)が、同時に、かつ十分なレベルで存在するときに起こることを示しています。もし、この公式のいずれかの要素が欠けていたり、不十分だったりすると、ユーザーは「アクションライン」を越えることができず、行動は起こりません。
フォッグがモデルを説明するために使う例を見てみましょう。携帯電話が鳴ったのに、出なかったときのことを想像してみてください。なぜ出なかったのでしょうか。
もしかしたら、電話がカバンの中に埋もれていて、取り出すのが難しかったのかもしれません。この場合、簡単には電話に出られないという「能力」の欠如が、行動を妨げました。
あるいは、電話の相手がテレマーケターか、話したくない誰かだと思ったのかもしれません。電話に出ようという「モチベーション」の欠如が、行動に影響を与えました。
電話が重要で、手の届く範囲にあった可能性もあります。しかし、電話の着信音が消音になっていたかもしれません。強いモチベーションと電話に出るための簡単なアクセスがあったにもかかわらず、電話が鳴ったことに気づかなかった、つまり「トリガー」が存在しなかったために、完全に見逃してしまったのです。
前の章でトリガーについてはカバーしました。それでは、フォッグの行動モデルの他の二つの構成要素、モチベーションと能力について、より深く掘り下げていきましょう。
モチベーションの源泉:人が根源的に求める3つのこと
トリガーが行動のきっかけを告げる一方で、モチベーションはその行動を起こしたいという願望のレベルを定義します。ロチェスター大学の心理学教授であり、自己決定理論の第一人者であるエドワード・デシ博士は、モチベーションを「行動のためのエネルギー」と定義しています。
モチベーションの性質は、心理学において広く議論されているトピックですが、フォッグは、私たちの行動意欲を駆り立てる3つの「コアモチベーター」があると主張しています。
フォッグによれば、すべての人間は、快楽を求め、痛みを避けること、希望を求め、恐怖を避けること、そして最後に、社会的な受容を求め、拒絶を避けること、によって動機付けられています。これら3つのコアモチベーターの2つの側面は、特定の行動を起こす人のモチベーションを増減させることで、その行動が起こる可能性を増減させるためのレバーと考えることができます。
広告業界ほど、モチベーションの要素を明確にする業界はないでしょう。広告主は、人々の習慣に影響を与えるために、定期的に人々のモチベーションを利用します。批判的な目で広告を見ることで、彼らがどのように私たちの行動に影響を与えようとしているかを特定することができます。
例えば、バラク・オバマの2008年の大統領選挙キャンペーンは、経済的・政治的な混乱の時代に、深く感動的なメッセージとイメージを活用しました。アーティストのシェパード・フェアリーがデザインした象徴的なポスターは、画像の下部に太字で「HOPE(希望)」という言葉を印刷しただけでなく、自信を持って未来を見つめるオバマの不動の視線を通じても、希望という考えを伝えました。
モチベーションの別の例は、「セックスは売れる」という古い格言に関連しています。長らく広告の定番であった、筋肉質で、薄着の(そして通常は女性の)身体のイメージは、最新のヴィクトリアズ・シークレットのランジェリーから、GoDaddy.comを通じたドメイン名、そしてカールスジュニアやバーガーキングといったファーストフードチェーンまで、あらゆるものを売り込むために使われています。これらの広告は、快楽という覗き見的な約束を利用して、注意を引き、行動を動機付けるのです。
なぜ、モチベーション向上は「悪手」なのか
ここまで、モチベーションが行動の重要な要素であることを見てきました。しかし、ここで極めて重要な転換点があります。プロダクトデザイナーがユーザーの行動を変えようとするとき、モチベーションを高めることに注力するのは、多くの場合「悪手」なのです。
なぜでしょうか。その理由は、モチベーションを高めることは、本質的に難しく、コストがかかり、そしてユーザーの置かれた状況や心理状態によって大きく変動する、不安定なものだからです。人を説得して何かを「もっと欲しがらせる」ことは、時間もお金もかかります。ウェブサイトの訪問者は、説明文を無視する傾向があり、しばしばマルチタスクをこなし、なぜ、あるいはどのように何かをすべきかという説明に対して、ほとんど忍耐力がありません。
それよりもはるかに効果的なアプローチがあります。それは、モチベーションのレバーを操作するのではなく、「能力(Ability)」のレバー、つまり「行動のしやすさ」に焦点を当てることです。
ある行動を実行するために必要な労力を減らすことで行動に影響を与える方が、ユーザーの欲求を高めるよりも効果的なのです。あなたの製品を、ユーザーがすでに使い方を知っているほどシンプルにすれば、あなたは勝者となるでしょう。
この原則は、数多くの成功事例によって証明されています。
Twitterのホームページの変遷を見てみましょう。2009年、Twitterのホームページは、テキストと数十のリンクでごちゃごちゃしていました。製品に不慣れな新規ユーザーにとっては、特に混乱を招くものでした。「なぜ自分の活動を発信したいと思うのだろう?」と疑問に思うほとんどのユーザーにとって、友人や家族と何をしているかを共有するというTwitterの価値提案は、共感を呼びませんでした。このページデザインは、高いレベルの注意と理解を要求しました。
その後、Twitterはホームページを何度も再設計し、そのたびに「よりシンプル」になっていきました。2012年のハイパー成長期には、製品の説明文はわずか140文字になり、ユーザーに求めることは「今、あなたが気にしている人々や組織で何が起こっているかを見つけよう」という、認知的に負荷の少ないものへと進化しました。そして最も印象的なのは、ページには「サインイン」か「サインアップ」という、非常に明確な二つの行動喚起しかなかったことです。Twitter社は、ホームページでユーザーを説得しようとするよりも、彼らにサービスを体験してもらう方が、はるかに良い結果をもたらすことを発見したのです。彼らはモチベーションを高めようとするのをやめ、行動のハードルを極限まで下げることに集中したのです。
行動を限りなくシンプルにする6つの鍵
フォッグの行動モデルによれば、「能力」とは特定の行動を行うためのキャパシティです。ある行動をより簡単、あるいはより難しくすることは、その行動が起こる可能性に影響を与えます。製品をうまく簡素化するためには、ユーザーの邪魔になる障害物を取り除かなければなりません。
フォッグは、タスクの難易度に影響を与える要因として、6つの「シンプルさの要素」を挙げています。
- 時間:行動を完了するのにどれくらい時間がかかるか。
- お金:行動を起こすための金銭的コスト。
- 身体的労力:行動を起こすのに伴う労働の量。
- 頭脳サイクル:行動を起こすのに必要な精神的努力と集中のレベル。
- 社会的逸脱:その行動が他者によってどれだけ受け入れられているか。
- 非日常性:「その行動が既存のルーティンとどれだけ一致するか、あるいはそれを妨げるか」とフォッグは述べています。
行動が起こる可能性を高めるために、フォッグはデザイナーに、その瞬間のユーザーの最も希少なリソースという観点から、シンプルさに焦点を当てるように指示します。言い換えれば、「ユーザーに欠けているものは何か?」を特定するのです。
ユーザーは時間が足りないのでしょうか?
行動することのハードルが高すぎるのでしょうか?
長い一日の仕事の後で疲れ果てているのでしょうか?
製品は理解するには難しすぎるのでしょうか?
ユーザーは、その行動が不適切だと認識されるかもしれない社会的文脈の中にいるのでしょうか?
あるいは、その行動は、ユーザーの通常のルーティンからあまりにもかけ離れているため、その奇妙さが敬遠されているのでしょうか?
これらの要因は、人や文脈によって異なります。したがって、デザイナーは「ユーザーが次のステップに進むのを妨げている、欠けているものは何か?」と自問すべきです。ユーザー体験全体を簡素化することを念頭に置いて設計することで、摩擦を減らし、障害物を取り除き、ユーザーをフォッグのアクションラインの向こう側へと押しやる手助けをするのです。
フック・モデルのアクションフェーズは、フォッグの6つのシンプルさの要素を取り入れ、デザイナーに、彼らのテクノロジーが報酬を期待して最も単純な行動をどのように促進できるかを検討するよう求めます。アクションが簡単であればあるほど、ユーザーがそれを行い、フック・モデルの次のフェーズへとサイクルを継続する可能性が高まるのです。
Logging In with Facebook、Sharing with the Twitter Button、Searching with Google、Taking Photos with the Apple iPhone、Scrolling with Pinterest。これらの成功事例はすべて、いかにシンプルさが意図されたユーザーの行動を増加させるかを示しています。伝統的に複数ステップを要した作業を、ワンクリックやシンプルなジェスチャーにまで簡略化することで、これらの企業はユーザーの行動のハードルを劇的に下げ、習慣化への道を開いたのです。
第4B章:脳のバグをつけ! - アクションを誘発する4つのヒューリスティクス
ヒューリスティクスとは何か?:脳の無意識なショートカット
これまで、フォッグのコアモチベーターと6つのシンプルさの要素を、特定の行動が起こる可能性に影響を与えるためのレバーとして議論してきました。これらの要因は、人々が合理的な判断を下す際にどのように反応するかという理想的な姿を反映しています。例えば、経済学の授業では、価格が下がれば消費者はより多く購入すると学びます。これは、フォッグの言葉で言えば、価格を下げることで能力(行動のしやすさ)を高める一例です。
しかし、人間の行動に関する他の多くの理論と同様に、この法則にも例外が存在します。ノーベル賞受賞者であるダニエル・カーネマンのような著名な学者によって研究されてきた行動経済学の分野は、人間の行動の合理的なモデルに対する例外を明らかにしました。何かが安くなれば人々が常により多く消費するという考えでさえ、絶対的なものではなく、あくまで傾向に過ぎないのです。
企業がユーザーのモチベーションを高めたり、能力を向上させたりするには、直感に反する驚くべき方法がたくさんあります。それは、ヒューリスティクス、つまり、意思決定を行い、意見を形成するために私たちが用いる「精神的な近道(ショートカット)」を理解することによって可能になります。
ユーザーはしばしば、これらの影響に気づいていませんが、ヒューリスティクスは彼らの行動を予測することができます。ここでは、特に言及する価値のある4つの脳の偏り(バイアス)を紹介します。
希少性の効果:なぜ「残りわずか」に惹かれてしまうのか
1975年、研究者のスティーブン・ワーチェル、ジェリー・リー、そしてアカンビ・アデウォレは、人々が2つの全く同じガラス瓶に入ったクッキーをどのように評価するかを知りたいと考えました。一つの瓶には10枚のクッキーが、もう一つの瓶にはわずか2枚のクッキーが入っていました。人々は、どちらのクッキーをより高く評価するでしょうか。
クッキーも瓶も全く同じであったにもかかわらず、参加者は、ほとんど空に近い瓶に入っているクッキーの方を、はるかに高く評価しました。
希少性の「見た目」が、彼らの価値認識に影響を与えたのです。
なぜこのようなことが起こるのかについては、多くの理論があります。希少性は、その製品について何かを知らせているのかもしれません。もしある品物の数が少なければ、それは他の人々が何か知らないことを知っているからかもしれない、と考えるのです。つまり、ほとんど空の瓶に入っているクッキーの方が、より良い選択肢である、と。わずか2枚しか残っていない瓶は、クッキーが実際には同じであるにもかかわらず、「価値があるのでは?」と思わせます。
この実験の第二部では、研究者たちは、クッキーが突然希少になったり、豊富になったりした場合に、その価値の認識がどうなるかを知りたいと考えました。研究参加者のグループには、2枚または10枚のクッキーが入った瓶が与えられました。その後、10枚のクッキーを持っていたグループからは、突然8枚が取り去られました。逆に、2枚しか持っていなかったグループには、新たに8枚が追加されました。これらの変化は、参加者がクッキーを評価する方法にどのように影響するでしょうか。
結果は、希少性のヒューリスティクスと一致したままでした。わずか2枚しか残されなかったグループは、それらをより価値があると評価しました。一方で、2枚から10枚へと突然の豊富さを経験した人々は、実際にはクッキーをより低く評価しました。事実、彼らは、最初から10枚のクッキーで始めた人々よりも、さらにクッキーを低く評価したのです。この研究は、製品が希少な状態から始まり、豊富になると、認識される価値が低下する可能性があることを示しました。
限定供給の認識が、いかに売上を増加させることができるかの例を探すのに、Amazon.comより遠くへ行く必要はありません。最近、あるDVDを検索したところ、「在庫残り14点」と表示されました。一方で、目をつけていた本を検索すると、残り3冊しかありません。世界最大のオンライン小売業者は、私が買いたいと思っているほとんどすべてのものについて、本当に売り切れ寸前なのでしょうか。それとも、彼らは私の購買行動に影響を与えるために、希少性のヒューリスティクスを利用しているのでしょうか。
フレーミング効果:見せ方一つで、ワインの味さえ変わる不思議
文脈もまた、認識を形成します。ある社会実験で、世界的なヴァイオリニストであるジョシュア・ベルは、ワシントンD.C.の地下鉄の駅で、無料の即興コンサートを開くことにしました。ベルは通常、ケネディセンターやカーネギーホールといった会場を、1枚数百ドルのチケットで完売させます。しかし、D.C.の地下鉄という文脈の中に置かれると、彼の音楽は聞く耳を持たれませんでした。
心は、迅速で、時には誤った判断を下すために、私たちの周囲の状況から情報を得るショートカットを使います。
フレーミングのヒューリスティクスは、私たちの行動に影響を与えるだけでなく、文字通り、脳が快楽をどのように認識するかを変えます。例えば、2007年のある研究では、価格がワインの味に何らかの影響を与えるかどうかを測定しようと試みました。研究者たちは、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)装置の中で、研究参加者にワインを試飲させました。
fMRI装置が脳の様々な領域の血流をスキャンする中、テイスターたちには、試飲する各ワインの価格が知らされました。サンプルは5ドルのワインから始まり、90ドルのボトルへと進みました。興味深いことに、ワインの価格が上がるにつれて、参加者のワインの楽しみもまた増加しました。彼らがワインをより楽しんだと述べただけでなく、彼らの脳もまた、その感情を裏付け、快楽に関連する領域でより高いスパイクを示したのです。研究参加者たちは、毎回同じワインを味わっていることには、ほとんど気づいていませんでした。この研究は、たとえ客観的な品質との関係がほとんどなくても、製品がどのようにフレーミングされるかに基づいて、認識が個人的な現実を形成することができることを示しています。
アンカリング効果:最初に見た数字が、あなたの判断を支配する
衣料品店に入って、「30%オフ」「1つ買うと、もう1つは無料」といったセールの看板を見ずに歩くことは、めったにできません。実際には、これらの商品はしばしば、ビジネスの利益を最大化するようにマーケティングされています。同じ店には、しばしば似ているがより安価な(しかし割引されていない)商品があります。最近、ある店を訪れたところ、ジョッキーブランドのアンダーシャツ3枚パックが、「1つ買うと、もう1つは半額」の割引で29.50ドルで提供されていました。他の選択肢を調査した後、私はフルーツ・オブ・ザ・ルームブランドのアンダーシャツ5枚パックが34ドルで売られていることに気づきました。簡単な計算をした後、セールになっていないアンダーシャツの方が、割引されたブランドのパッケージよりも、実際には1枚あたりが安いことを発見しました。
人々はしばしば、決定を下す際に、一つの情報に固執(アンカー)します。
私は、二つのブランドを区別する唯一の特徴、つまり、一方がセールで、もう一方がそうではないという事実が、考慮すべきすべてであると仮定して、セール品のシャツを買いそうになりました。
授かり効果:小さな進捗が、やる気を劇的に引き上げる
ポイントカードは、リピートビジネスを奨励するために、小売業者によってしばしば使用されます。購入するたびに、顧客は無料の製品やサービスを受け取ることに近づきます。これらのカードは通常、空の状態で渡されます。事実上、顧客は0%完了の状態からスタートします。もし小売業者が、すでにパンチされた穴のあるポイントカードを顧客に渡したら、どうなるでしょうか。もし彼らがすでに何らかの進歩を遂げていたら、人々は行動を起こす可能性が高くなるでしょうか。ある実験が、このまさにその問いに答えようとしました。
二つのグループの顧客に、カードが完全にパンチされると無料の洗車がもらえるポイントカードが与えられました。一つのグループには、8つのマスがある白紙のポイントカードが与えられました。もう一つのグループには、10個のマスがあり、2つの無料のパンチがすでに入っているポイントカードが与えられました。両グループとも、無料の洗車を受けるためには、まだ8回の洗車を購入する必要がありました。しかし、二つ目のグループ、つまり2つの無料のパンチを与えられた顧客は、驚異的な82%も高い完了率を示しました。
この研究は、「授かり効果(endowed progress effect)」、つまり、人々が目標に近づいていると信じるとモチベーションが増加するという現象を実証しています。
LinkedInやFacebookといったサイトは、このヒューリスティクスを利用して、人々がオンラインプロフィールを完成させる際に、自分自身についてより多くの情報を開示するように促します。LinkedInでは、すべてのユーザーが何らかの進捗の形からスタートします。次のステップは、「あなたのプロフィールの強さを改善する」ために、追加情報を提供することです。ユーザーが各ステップを完了するにつれて、メーターはユーザーが進んでいることを徐々に示します。巧みなことに、LinkedInの完了バーは、進捗の認識をジャンプスタートさせ、数値スケールを含んでいません。新規ユーザーにとって、適切なLinkedInプロフィールは、それほど遠くないように見えます。しかし、「上級」ユーザーでさえ、最終目標に向かって少しずつ進むために取ることができる追加のステップがまだあります。
第5章:可変的な報酬 - ユーザーを虜にする「予測不能なご褒美」の魔力
脳科学が明かす報酬の正体:報酬そのものより「報酬への期待」が脳を興奮させる
フック・モデルの3番目のステップは「可変的な報酬」のフェーズです。ここでは、前のフェーズで取られた行動に対するモチベーションを強化し、問題を解決することでユーザーに報酬を与えます。なぜ報酬、特に「可変的な」報酬がこれほど強力なのかを理解するためには、まず脳の奥深くへと旅をする必要があります。
1940年代、二人の研究者、ジェームズ・オールズとピーター・ミルナーは、偶然にも、脳の特別な領域が渇望の源であることを発見しました。研究者たちは、実験用マウスの脳に電極を埋め込み、マウスが自ら脳の小さな領域、側坐核に微弱な電気ショックを与えられるようにしました。マウスは、すぐにその感覚に夢中になりました。
オールズとミルナーは、実験用マウスが、その刺激を受ける機会のために、食べ物や水を断ち、さらには痛みを伴う電気格子の上を走ることさえ厭わないことを実証しました。数年後、他の研究者たちは、脳の同じ領域への自己刺激に対する人間の反応をテストしました。結果は、マウスの実験と同様に劇的なものでした。被験者は、脳を刺激するボタンを押すこと以外、何もしたくないと望みました。機械の電源が切られても、人々はボタンを押し続けました。研究者たちは、それを手放すことを拒否した被験者から、強制的に装置を取り上げなければなりませんでした。
研究室の動物で見られた反応から、オールズとミルナーは、脳の「快楽中枢」を発見したと結論付けました。実際、現在では、セックス、美味しい食べ物、お得な買い物、そしてデジタルデバイスでさえも、この脳の深い窪みを刺激し、私たちの行動の多くの原動力となっていることが知られています。
しかし、より最近の研究は、これら二人の研究者の実験が、快楽そのものを刺激していたわけではないことを示しています。スタンフォード大学のブライアン・クヌットソン教授は、fMRI装置の中で賭け事をしている人々の脳の血流を探る研究を行いました。被験者がギャンブルゲームをしている間、クヌットソンと彼のチームは、脳のどの領域がより活発になるかを観察しました。驚くべき結果は、側坐核が報酬(この場合は金銭的な支払い)を受け取ったときではなく、それを「期待」しているときに活性化していたことを示しました。
この研究は、私たちを行動に駆り立てるのは、報酬そのものから得られる感覚ではなく、その報酬に対する渇望を和らげたいという欲求であることを明らかにしました。
脳内での欲望のストレスが、オールズとミルナーの研究室のマウスの実験でそうであったように、私たちを駆り立てるように見えるのです。
B.F.スキナーの鳩の実験:予測不能な報酬が行動を支配する
では、なぜ「可変性」、つまり予測不能性がこれほどまでに重要なのでしょうか。その答えの手がかりは、心理学者B.F.スキナーが1950年代に行った、動物の行動に可変性がどのように影響するかを理解するための実験に見出すことができます。
まず、スキナーは鳩を箱の中に入れ、レバーを押すたびに餌のペレットが供給されるようにしました。オールズとミルナーの研究室のマウスと同様に、鳩はレバーを押すことと餌を受け取ることの因果関係を学習しました。
実験の次の部分で、スキナーは可変性を加えました。鳩がレバーをタップするたびにペレットを提供する代わりに、機械はランダムな回数のタップの後に餌を排出するようにしました。レバーが餌を出すこともあれば、出さないこともありました。スキナーは、断続的な報酬が、鳩がレバーをタップする回数を劇的に増加させることを明らかにしました。可変性を加えることで、意図した行動を完了する鳩の頻度が増加したのです。
スキナーの鳩は、私たち自身の行動を動かすのに役立つものについて、多くを教えてくれます。より最近の実験では、可変性が側坐核の活動を増加させ、神経伝達物質であるドーパミンのレベルを急上昇させ、報酬への渇望的な探求を駆り立てることが明らかになっています。
可変的な報酬は、私たちの注意を引くあらゆる種類の製品や体験の中に見出すことができます。それらは、電子メールをチェックしたり、ウェブを閲覧したり、バーゲン品を探したりする私たちの意欲を煽ります。習慣を形成するプロダクトは、これから紹介する3つのタイプの可変的な報酬のうち、一つ以上を利用しています。それは、「部族の報酬」「狩りの報酬」「自己の報酬」です。
ユーザーを惹きつけてやまない3種類の「可変的な報酬」
フック・モデルの心臓部である「可変的な報酬」は、単なる気まぐれなご褒美ではありません。それは、人間の根源的な欲求に深く根差した、計算され尽くした心理的な仕掛けです。本書では、この強力な報酬を3つのカテゴリーに分類しています。習慣化に成功しているプロダクトは、これらのうち少なくとも一つ、多くの場合複数を巧みに組み合わせることで、ユーザーを飽きさせず、繰り返し惹きつけることに成功しているのです。
1. 部族の報酬(社会的報酬):つながりが生み出す快感
人間は、互いに依存し合って生きる社会的な生き物です。「部族の報酬」、あるいは社会的報酬は、他者とのつながりによって駆動されます。私たちの脳は、自分が他者から受け入れられ、魅力的で、重要で、そして仲間として認められていると感じさせてくれるような報酬を求めるように、進化の過程で適応してきました。
市民団体や宗教団体から、スポーツ観戦や職場での雑談の輪に至るまで、この社会的な承認欲求は、私たちの価値観を形成し、時間の使い方を大きく左右します。
ソーシャルメディアがこれほどまでに爆発的な人気を博したのも、何ら驚くべきことではありません。Facebook、Twitter、Pinterest、その他数多くのサイトは、合わせて10億人以上の人々に、可変的なスケジュールで強力な社会的報酬を提供しています。投稿やツイート、ピンをするたびに、ユーザーは社会的な承認を期待します。「いいね!」やコメント、リツイートの数は予測不能であり、その不確実性こそが、ユーザーを「もっと欲しい」という気持ちにさせ、何度も戻ってくるように仕向けるのです。部族の報酬は、ユーザーを惹きつけ続ける強力な燃料となります。
その好例が、ソフトウェア開発者のための世界最大のQ&Aサイト、Stack Overflowです。このサイトのコンテンツはすべて、サイトを利用する人々によって自発的に作成されています。驚くべきことに、1日に5000もの質問への回答がメンバーによって生み出されています。これらの回答の多くは、詳細で、高度に技術的で、時間のかかるものです。なぜ、これほど多くの人々が、他の人から見れば厄介な技術文書の作成という作業に、これほどの時間を費やすのでしょうか。
Stack Overflowの熱心なユーザーは、「部族の報酬」を期待して回答を書き込みます。ユーザーが回答を投稿するたびに、他のメンバーはその回答を支持(upvote)または不支持(downvote)する機会を持ちます。最高の回答は上方に表示され、その作成者にはポイントが蓄積されます。特定のポイントレベルに達すると、メンバーは特別なステータスや権限を与える「バッジ」を獲得します。当然ながら、支持票がどれだけ集まるかのプロセスは、非常に可変的です。質問に回答する際に、コミュニティからどれだけの評価を受けられるかは、誰にも分かりません。
Stack Overflowが機能するのは、私たちと同じように、ソフトウェアエンジニアが、自分が大切に思うコミュニティに貢献することに満足感を見出すからです。可変性の要素はまた、一見すると単調なタスクを、魅力的でゲームのような体験に変えます。Stack Overflowでは、ポイントは単なる空っぽのゲームの仕組みではありません。それらは、誰かが自分の部族にどれだけ貢献したかを表すことで、特別な価値を与えます。ユーザーは、仲間のプログラマーを助け、自分が価値を置く人々の尊敬を勝ち取るという感覚を楽しむのです。
2. 狩りの報酬(資源の報酬):探し求める本能を刺激する
人類の進化における中心的な問いの一つに、「初期の人類はどのようにして食料を狩っていたのか?」というものがあります。動物性タンパク質の摂取が、より良い栄養と、究極的にはより大きな脳へとつながった重要な節目であったことに、ほとんどの進化生物学者は同意しています。
ハーバード大学の進化生物学者ダニエル・リーバーマンによれば、私たちは獲物を「追い詰めて」いました。初期の人類は「持続走狩猟」として知られる技術を用いて動物を仕留めていたのです。これは、現代でも一部の狩猟採集社会で見られる慣習です。私たちが野生の獲物を狩るために進化した方法は、なぜ特定の製品に惹きつけられるのかを説明するのに役立つかもしれません。
追跡の間、狩人は追跡そのものによって駆り立てられます。この同じ精神的な配線が、今日の私たちの飽くなき欲望の源に関する手がかりをも提供します。サン人の狩人がクーズー(大型の鹿に似た動物)を追い続ける執拗な決意は、私たちを欲しがらせ、買い続けさせるのと同じメカニズムなのです。
資源の探求は、次のタイプの可変的な報酬、つまり「狩りの報酬」を定義します。
食料や、生存を助けるその他の物資といった、物理的なオブジェクトを獲得する必要性は、私たちの脳のオペレーティングシステムの一部です。
かつて食料を狩っていた場所で、今日、私たちは他のものを狩っています。現代社会では、食料は現金で買うことができ、より最近では、情報が金銭に変換されます。狩りの報酬は、コンピュータの出現よりずっと前から存在していました。しかし今日、サン人の狩人が獲物を追いかけるのと同じ決意で私たちを駆り立てる、資源と情報の追求に関連する可変的な報酬の数多くの例を見出すことができます。
その代表格が、多くのオンラインプロダクトの社会的定番となった「フィード」です。スクロールするインターフェースに表示される無限の情報ストリームは、狩りの報酬の魅力的な一例です。例えば、Twitterのタイムラインは、ありふれた内容と関連性の高い内容が混在しています。この多様性が、魅力的で予測不可能なユーザー体験を生み出します。時には特に興味深いニュースを見つけるかもしれませんが、他の時には見つけられないかもしれません。より多くの情報を探し続けるために必要なのは、指をフリックするか、マウスをスクロールすることだけです。ユーザーは、関連性の高いツイートという形の可変的な報酬を探して、スクロールし、スクロールし、スクロールし続けるのです。
Pinterestもまた、視覚的なひねりを加えたフィードを採用しています。このオンラインピンボードサイトは、欲望の対象の仮想的な寄せ集めです。サイトは、高いレベルの魅力的なコンテンツが各ページに表示されることを保証する、ユーザーコミュニティによってキュレーションされています。Pinterestのユーザーは、サイトで何が見つかるか、決して分かりません。彼らを検索し、スクロールさせ続けるために、同社は珍しいデザインを採用しています。ユーザーがページの下部にスクロールするにつれて、一部の画像は途中で切れて表示されます。画像はしばしば、ブラウザの折り畳み線の下に見え隠れします。しかし、これらの画像は、たとえほんのわずかにしか見えなくても、前方に何があるかを垣間見せます。好奇心を和らげるためにユーザーがすべきことは、スクロールして全体像を明らかにすることだけです。ページにより多くの画像が読み込まれるにつれて、狩りの報酬の終わりのない探求は続くのです。
3. 自己の報酬(内的報酬):達成感という究極のご褒美
最後に、私たちが求める、より個人的な満足感のための可変的な報酬があります。私たちは、たとえそれが単なる満足感のためだけであっても、障害を克服するように駆り立てられます。タスクを完了まで追求することは、人々にあらゆる種類の行動を続けさせる影響を与えることができます。驚くべきことに、私たちは、外見上は楽しんでいないように見えるときでさえ、これらの報酬を追求します。例えば、誰かが卓上パズルを完成させるために無数の時間を投資するのを見ていると、イライラした顔のしかめ面や、つぶやかれた冒涜の音さえも明らかにすることがあります。パズルは完成の満足感以外に何の賞品も提供しませんが、一部の人にとっては、正しいピースを探す骨の折れる探求は、素晴らしく魅惑的な闘争になり得ます。
自己の報酬は、エドワード・デシとリチャード・ライアンの研究によって強調されたように、「内発的動機付け」によって燃料を供給されます。彼らの自己決定理論は、人々はとりわけ、有能感を得たいと望むと説いています。この目標に神秘性の要素を加えることで、追求はさらに魅力的になります。
ビデオゲームは、この自己の報酬の典型例です。プレイヤーはクエストを追求するために必要なスキルを習得しようと努めます。レベルアップ、特別な力の解放、その他のゲームの仕組みは、進行と完了を示すことによって、プレイヤーの有能さへの欲求を満たします。例えば、人気のオンラインゲームWorld of Warcraftでキャラクターを進めることは、プレイヤーに新しい能力を解放します。高度な武器を獲得し、未踏の地を訪れ、キャラクターのスコアを向上させるという渇望は、プレイヤーにより多くの時間をゲームに投資するように動機付けます。
しかし、ゲームのような体験に深く影響されるために、ハードコアなビデオゲーマーである必要はありません。ありふれた電子メールシステムでさえ、習熟、完了、能力の探求が、いかにしてユーザーを習慣的で、時には無分別な行動へと動かすかの例を提供します。特に理由もなく電子メールをチェックしている自分に気づいたことはありませんか?おそらく、どんなメッセージが待っているかを見るために、無意識にそれを開くことに決めたのでしょう。多くの人にとって、未読メッセージの数は、完了すべき一種の目標を表しています。
Codecademyは、プログラミングの学習をより楽しく、やりがいのあるものにしようとしています。新しいスキルを学ぶことは、しばしばエラーで満ちていますが、Codecademyはその困難さを利点として利用します。手元のタスクを完了することになると、常に未知の要素があります。ゲームのように、ユーザーは学習するにつれて可変的な報酬を受け取ります。時には成功し、時には失敗します。しかし、能力レベルが向上するにつれて、ユーザーはレベルを進み、カリキュラムを習得するために働きます。Codecademyの進行のシンボルと瞬間的な可変フィードバックは、自己の報酬を利用し、困難な道を魅力的な挑戦に変えるのです。
報酬設計の罠
報酬システムを設計する際には、いくつかの重要な考慮事項があります。ただ報酬を与えれば良いというわけではありません。
2007年5月、Mahalo.comというウェブサイトが誕生しました。この新しいサイトの目玉機能は、「Mahalo Answers」というQ&Aフォーラムでした。以前のQ&Aサイトとは異なり、Mahaloはユーザーに質問をさせ、回答させるための特別なインセンティブを利用しました。質問を投稿した人々は、「Mahalo Dollars」という仮想通貨の形で報奨金を提供しました。他のユーザーが質問に回答し、最高の回答が報奨金を受け取り、それは現実のお金と交換することができました。
当初、Mahaloは大きな注目とトラフィックを集めました。しかし、時間が経つにつれて、ユーザーは興味を失い始めました。報奨金の支払いは可変的でしたが、どういうわけか、ユーザーはその金銭的報酬を十分に魅力的だとは感じませんでした。Mahaloがユーザーを維持するのに苦労する中、別のQ&Aサイト、Quoraがブームになり始めました。Mahaloとは異なり、Quoraはユーザーの質問に答える誰にも、一銭も提供しませんでした。なぜ、Quoraのユーザーは、その可変的な金銭的報酬にもかかわらず、MahaloではなくQuoraに高いエンゲージメントを維持したのでしょうか。
Mahaloの場合、経営陣はユーザーにお金を払うことが繰り返しのエンゲージメントを促進すると仮定していました。しかし、結局のところ、人々はお金を稼ぐためにQ&Aサイトを使いたくなかったのです。もしトリガーが金銭的報酬への欲求であったなら、ユーザーは時給で稼ぐことに時間を費やす方がましだったでしょう。そして、もし支払いがスロットマシンのようなゲームの形を取ることを意図していたなら、報酬はあまりにも頻度が低く、小さすぎて問題になりませんでした。
一方で、Quoraは、仲間からの承認という社会的報酬と、その可変的な強化が、はるかに頻繁で顕著な動機付けであることを実証しました。ユーザーの意図した行動に、正しい可変的な報酬を正しく一致させることによってのみ、企業は成功することができるのです。
しかし、可変的な報酬には、もう一つの注意点があります。それは「有限の可変性」です。FarmVilleのようなオンラインゲームは、使用後に予測可能になる体験、つまり「有限の可変性」と著者が呼ぶものに苦しみます。テレビ番組「ブレイキング・バッド」は、視聴者がシリーズがどのように終わるかを知りたがることで、時間をかけてサスペンスを構築しましたが、最終的に完結したとき、番組への関心は薄れました。一度見たことがある古いエピソードの視聴率は、新しいエピソードがあったときのようにピークに達することはありません。
有限の可変性を持つ体験は、最終的に予測可能になるため、魅力的でなくなります。有限の可変性を持つビジネスは、消費者の飽くなき新規性への欲求に応えるために、常に新しいコンテンツや体験を生み出し続けなければなりません。これは、ユーザーの関心を維持するために、使用に伴って可変性を維持する「無限の可変性」を示す製品を作る企業とは対照的です。例えば、World of Warcraftは何年もアクティブユーザーを維持していますが、これはプレイヤー自身がゲームプレイを変化させ続けるためです。他の人々との予測不能な相互作用が、ゲームを面白く保つのです。
ユーザーの自律性を守る:「やらされている感」をなくす方法
可変的な報酬の設計において、もう一つ極めて重要な考慮事項があります。それは、ユーザーの「自律性」の感覚を維持することです。人は、自分の行動を自分でコントロールしていると感じたい生き物です。その自由が脅かされると、強い反発を覚えます。
Quoraは、質問と回答という行動に対して適切な報酬を結びつけることで成功を収めました。しかし、2012年8月、同社は世間から大きな非難を浴びる失態を犯します。これは、可変的な報酬を使用する際の、もう一つの重要な教訓を示しています。
ユーザーエンゲージメントを高めるための努力の一環として、Quoraは「閲覧者(Views)」という新機能を導入しました。これは、特定の質問や回答を閲覧した人々の実名を明らかにするというものです。ユーザーにとって、自分の作成したコンテンツを誰が見ているかを知ることができるというアイデアは、非常に興味深いものでした。例えば、著名人や有名なベンチャーキャピタリストが自分の投稿を見たことを知ることができるのです。
しかし、この機能は最終的に裏目に出ました。Quoraは、ユーザーに知らせることなく、自動的にこの新機能にオプトイン(参加)させてしまったのです。その瞬間、ユーザーは、個人的、あるいは気まずい内容の質問を閲覧したり、回答したりする際の、大切な匿名性を失いました。この動きはユーザーの反乱を引き起こし、Quoraは数週間後に方針を転換し、この機能を明示的なオプトイン方式にせざるを得ませんでした。
このケースでは、変更は強制的に感じられ、強制の域に達していました。行動に影響を与えることは、優れたプロダクトデザインの一部であり得ますが、強引なやり方は悪影響を及ぼし、ユーザーの信頼を失うリスクを伴います。
フランスで行われたある研究が、この自律性の重要性を裏付けています。研究者たちは、見知らぬ人からバス代を求められたときに、ほんの数語の特別な言葉を使うだけで、人々が渡す金額を2倍にできることを発見しました。その魔法の言葉とは、依頼の最後に付け加えられた「But you are free to accept or refuse(しかし、受け入れるか断るかはあなたの自由です)」という一言でした。
この「しかし、あなたは自由です」というテクニックは、選択の自由が再確認されると、私たちが説得されやすくなることを示しています。研究者たちは、この言葉が、何かを言われることに対する私たちの本能的な拒絶反応、心理学者が「リアクタンス」と呼ぶものを武装解除すると考えています。母親からコートを着るように言われて不機嫌になったり、上司からマイクロマネジメントされて血圧が上がったりした経験があれば、それは自律性への脅威に対する、この敏感な反応を経験したということです。
しかし、依頼が選択の権利の肯定と組み合わされると、リアクタンスは抑えられます。この自律性とリアクタンスの原則は、プロダクトがユーザーの行動を変え、新しい習慣の形成を促進する方法にも当てはまります。
多くの企業は、ユーザーに「自分たちがさせたいこと」をさせるという前提で製品を構築するという過ちを犯します。彼らは、ユーザーが「自分たちがしたいこと」をさせてくれる代わりに、ユーザーに新しい、不慣れな行動を学ぶように求めることがよくあります。
成功裏に行動を変える企業は、ユーザーに、古いやり方と、既存のニーズを満たすためのより便利で新しい方法との間の、暗黙の選択肢を提示します。ユーザーに選択の自由を維持させることで、製品は新しい習慣の採用を促進し、良い方向に行動を変えることができるのです。ユーザーに、サービスを使わなければならないと感じさせるのではなく、使いたいと思わせなければなりません。
第6章:インベストメント - ユーザーの「ひと手間」が、最強のロックインを生む
なぜ、苦労して作ったものほど価値を感じるのか:「IKEA効果」の心理
フック・モデルの最後のピース、そして習慣化のループを完成させるための最終ステップが「インベストメント」です。これは、ユーザーがプロダクトに対して何らかの「仕事」をし、価値を投入するフェーズを指します。この小さなひと手間が、ユーザーのプロダクトに対する認識を根本から変え、強力な結びつきを生み出すのです。
その背景には、人間の奇妙で、しかし強力な心理的傾向がいくつか存在します。まず探るのは、なぜ私たちは、自分が労力を費やしたものを不合理なほどに高く評価してしまうのか、という謎です。
2011年、ダン・アリエリー、マイケル・ノートン、ダニエル・モションという3人の研究者が、労働が人々の価値観に与える影響を測定する、興味深い実験を行いました。アメリカの大学生たちは、折り紙で鶴かカエルを組み立てるように指示されました。組み立てが終わると、学生たちは自分の作品を最大1ドルで買い取ることを提案されます。
一方で、別の部屋にいる、誰がその折り紙を作ったかを知らない学生のグループも、同じ作品に入札するように求められました。さらに、3つ目の独立したグループは、専門家が作った折り紙に入札するように求められました。
結果は驚くべきものでした。自分で折り紙を作った人々は、自分たちの作品に対して、他の学生グループの評価額の5倍もの価値を付けました。そしてその評価額は、専門家が作った折り紙の価値とほぼ同じだったのです。言い換えれば、労力を投資した人々は、単に自分がその作品に取り組んだという理由だけで、より大きな価値を感じたのです。アリエリーは、この現象を「IKEA効果」と名付けました。
世界最大の家具小売業者であるIKEAは、手頃な価格の組み立て式家具を販売しています。同社の重要なイノベーションは、顧客自身に家具を組み立てさせることで、人件費を削減し、流通効率を高めるという点にあります。しかし、ここには隠れた利点が存在します。顧客に物理的な労力を投資させることで、アリエリーが信じるように、彼らは自分が建てた家具に対して、不合理なほどの愛情を抱くようになるのです。まるで、折り紙の実験の被験者たちのように。ユーザーの努力を活用するビジネスは、単にユーザーが製品に労力を注ぎ込んだという理由だけで、製品の価値を高めるのです。ユーザーは、その労働を通じて製品に「投資」したのです。
自分自身と矛盾したくない:一貫性の原理と認知的不協和
私たちの過去の行動は、未来の行動をどれだけ変えるのでしょうか。私たちは、自分の判断が過去の行動に曇らされることなく、自由に行動を選択したいと考えがちです。しかし、実際には、研究は、私たちの過去が未来の優れた予測因子であることを明らかにしています。
ある研究チームが、郊外の住民のグループに、「DRIVE CAREFULLY(安全運転を)」と書かれた、大きくて見苦しい看板を家の前に設置するように依頼しました。二つのグループがテストされました。最初のグループでは、被験者のわずか17%しかこの依頼に同意しませんでした。しかし、二つ目のグループでは、実に76%もの人々が、その醜い看板を設置することに同意したのです。この大きな食い違いの原因は何だったのでしょうか。
二つ目のグループは、この庭の看板の依頼の2週間前に、アプローチされていました。そして、「BE A SAFE DRIVER(安全な運転手になろう)」と書かれた、はるかに小さな、3インチ四方のステッカーを窓に貼るように頼まれていました。この小さなメッセージを貼るように頼まれた人々のほぼ全員が、これに同意しました。研究者たちが2週間後に戻ってきたとき、これらの住民の圧倒的多数が、喜んでその小さなステッカーを、庭の大きな看板と交換したのです。
小さなステッカーを貼ることに同意した後で、より大きな、邪魔な看板を設置することへの意欲が高まったこの事例は、過去の行動との一貫性を保ちたいという私たちの傾向の影響を示しています。窓に小さなステッカーを貼るといった「小さな投資」が、将来の行動に大きな変化をもたらすことがあるのです。
この一貫性を求める傾向の根底には、「認知的不協和」を避けたいという心理があります。古典的なイソップ寓話に、空腹のキツネがブドウの木にぶら下がっているブドウに出会う話があります。キツネはどうしてもそのブドウが欲しいのですが、どんなに頑張っても手が届きません。欲求不満になったキツネは、そのブドウはきっと酸っぱいに違いない、だからどのみち欲しくはなかったのだ、と結論付けます。
キツネは、ブドウが甘くて食べごろであるという考えと、しかし自分はそれを手に入れることができないという考えを両立させることが、あまりにも不快であるため、ブドウに対する認識を変えることで、自分自身を慰めます。この二つの矛盾する考えを和解させるために、キツネはブドウの認識を変え、その過程で心理学者が「認知的不協和」と呼ぶ痛みを和らげるのです。
このように、世界の見方を不合理に操作するのは、物語の中の動物に限った話ではありません。私たち人間も、同じことをします。初めてビールを飲んだり、辛い食べ物を試したりしたときの反応を考えてみてください。美味しかったですか?まず、そうではなかったでしょう。私たちの体は、アルコールや、辛い食べ物の熱の感覚を生み出す化合物であるカプサイシンを拒絶するように設計されています。
これらの後天的な味に対する私たちの生来の反応は、それらを拒絶することです。しかし、私たちは繰り返しの接触を通じて、それらを好むことを学びます。他の人々がそれらを楽しんでいるのを見て、もう少し試してみて、時間をかけて自分自身を条件付けていきます。他の人々がこれほど多くの喜びを感じているように見えるものを好まないという認知的不協和を避けるために、私たちはかつて楽しめなかったものに対する認識を、ゆっくりと変えていくのです。
これら3つの傾向、つまり、労力をかけたものを過大評価する「IKEA効果」、過去の行動と一致していたいという「一貫性の原理」、そして矛盾を嫌う「認知的不協和の回避」は、私たちの未来の行動に影響を与えます。そして、これらの傾向は、「合理化」として知られる精神的なプロセスにつながります。私たちは、たとえその理由が他者によって設計されたものであったとしても、自分の行動に理由を与えるために、自分の態度や信念を変えるのです。
ユーザーに「投資」させることで蓄積される5つの価値
フック・モデルの最後のステップである「インベストメント」のフェーズは、ユーザーがほんの少しの仕事をするように求められる点です。ここで、ユーザーはシステムに価値のある何かを投入するように促され、それが将来的に製品を使用する可能性と、フックサイクルを連続して通過する可能性を高めます。
アクションのフェーズとは対照的に、インベストメントのフェーズは摩擦を増加させます。これは、すべてのユーザー体験は可能な限り簡単で楽であるべきだという、プロダクトデザインコミュニティの従来の考え方に確かに反します。しかし、インベストメントのフェーズでは、ユーザーに少しの仕事をしてもらうことは、ユーザーが可変的な報酬を受け取った「後」に来るのです。前ではありません。ユーザー投資を求めるタイミングは、非常に重要です。
インベストメントの背後にある大きなアイデアは、サービスが使用(と個人的な投資)と共により良くなるというユーザーの理解を活用することです。良い友情のように、人々がより多くの努力を注ぎ込むほど、両方の当事者がより多くの利益を得るのです。
ユーザーが製品に投入する「蓄積された価値」は、将来再びそれを使用する可能性を高め、様々な形をとります。
1. コンテンツ:iTunesの音楽ライブラリ
AppleのiTunesユーザーがコレクションに曲を追加するたびに、彼らはサービスとの結びつきを強化しています。プレイリスト上の曲は、コンテンツがサービスの価値をどのように高めるかの例です。iTunesもそのユーザーも曲を作成したわけではありませんが、ユーザーがより多くのコンテンツを追加するほど、音楽ライブラリはより価値のあるものになります。一つのサービスでコンテンツを集約することで、ユーザーは自分の音楽でより多くのことができるようになり、iTunesは彼らの好みを学習することで、より良くなります。
2. データ:LinkedInの職務経歴
LinkedInのオンライン履歴書は、蓄積された価値としてのデータの概念を体現しています。求職者がサービスを使用するたびに、彼らはより多くの情報を追加するように促されます。同社は、ユーザーがサイトにより多くの情報を投資すればするほど、彼らが戻ってくる可能性が高くなることを発見しました。より多くのユーザーデータを提供することに関連するほんの少しの努力が、人々をサービスに呼び戻すための強力なフックを作り出したのです。
3. フォロワーと評判:Twitterや評価サイト
評判は、ユーザーが文字通り銀行に持っていくことができる蓄積された価値の一形態です。eBay、Yelp、Airbnbのようなオンラインマーケットプレイスでは、ネガティブなスコアを持つ人々は、良い評判を持つ人々とは非常に異なる扱いを受けます。それはしばしば、売り手がeBayで商品に得る価格、誰がTaskRabbitの仕事に選ばれるか、どのレストランがYelpの検索結果のトップに表示されるか、そしてAirbnbでの部屋のレンタル価格を決定する要因となり得ます。評判は、ユーザー、買い手と売り手の両方が、高い品質のスコアを維持するために努力を投資したサービスに固執する可能性を高めます。
4. スキル:Photoshopの操作技術
製品の使い方を学ぶために時間と労力を投資することは、投資と蓄積された価値の一形態です。ユーザーがスキルを習得すると、サービスの使用はより簡単になり、フォッグの行動モデルの能力軸上で右に移動します。ユーザーがスキルを習得するために努力を投資すると、競合製品に切り替える可能性は低くなります。Adobe Photoshopは、その好例です。プログラムの学習は最初は難しいですが、ユーザーが製品に慣れるにつれて、彼らの専門知識と効率は向上します。彼らはまた、習熟感(自己の報酬)を達成します。残念ながら、ユーザーによって習得されたこの知識のほとんどは、競合するアプリケーションには応用できません。
5. 次のトリガーを仕込む:未来のエンゲージメントへの招待状
インベストメントのフェーズで見出されるもう一つの重要な機会は、ユーザーが戻ってくる可能性を大幅に高めます。それは、「次のトリガーをロードする」ことです。
習慣を形成するテクノロジーは、未来に外部トリガーを開始するために、ユーザーの過去の行動を活用します。
ユーザーは、インベストメントのフェーズ中に未来のトリガーを設定し、企業にユーザーを再エンゲージメントさせる機会を提供します。例えば、タスク管理アプリのAny.doは、新規ユーザーにカレンダーサービスとの連携を指示します。そうすることで、ユーザーは、次の予定された会議が終わった後に通知を送信する許可をアプリに与えます。この外部トリガーは、会議の後にタスクを忘れることへの不安という内部トリガーを経験する可能性が最も高い瞬間に、ユーザーにアプリに戻るように促します。Any.doアプリはニーズを予測し、ユーザーを成功に導くのです。
Tinder、Snapchat、Pinterestのようなソーシャルネットワークも、インベストメントのフェーズで次のトリガーをロードします。Tinderでは、スワイプするたびに、マッチングの可能性が生まれ、そのたびに両当事者に通知が送られます。Snapchatでは、送信されるすべての写真やビデオに、返信を促す暗黙のプロンプトが含まれています。Pinterestでは、ピン、リピン、いいね、コメントの一つ一つが、誰かがそのスレッドに貢献したときに通知でユーザーに連絡する暗黙の許可をPinterestに与え、サイトを再び訪れたいという欲求を引き起こすのです。
第7章:「ハマるしかけ」の倫理学 - 作り手はユーザーとどう向き合うべきか
作り手は皆「説得業」であるという事実から目を背けない
ここまで、習慣を形成するテクノロジーのパターンである「フック・モデル」について、その仕組みを解き明かしてきました。この知識を、どのように使いますか?
もしかすると、この記事を読み進める中で、フック・モデルは「操作(マニピュレーション)」のためのレシピなのではないか、と感じたかもしれません。まるでマインドコントロールの料理本を読んでいるかのように、少し落ち着かない気持ちになったかもしれません。もしそうなら、それはとても良いことです。
フック・モデルは、根本的に人々の行動を変えることに関するものです。しかし、説得力のある製品を構築する力は、慎重に扱われるべきです。
習慣を作ることは、善のための力となり得ますが、悪意のある目的のために使われることもあります。ユーザーの習慣を作り出すとき、プロダクトの作り手はどのような責任を負うのでしょうか。
まず、認めましょう。私たちは皆、説得業に携わっているのです。イノベーターは、人々に自分たちが望むことをするように説得するための製品を作ります。私たちは、これらの人々を「ユーザー」と呼び、たとえ口に出して言わなくても、密かに、彼ら一人一人が、自分たちが作っているものに夢中になってくれることを願っています。おそらく、それがこの記事を読み始めた理由でもあるでしょう。
ユーザーは、テクノロジーをベッドにまで持ち込みます。目を覚ますと、愛する人に「おはよう」と言う前にさえ、通知やツイート、アップデートをチェックします。著名なゲームクリエイターであり教授でもあるイアン・ボゴストは、この習慣形成テクノロジーの波を「今世紀のタバコ」と呼び、その同様に中毒性があり、潜在的に破壊的な側面について警告しています。
「ユーザーを操作することは、いつ間違ったことになるのか?」と尋ねているかもしれません。
操作とは、行動を変えるために巧妙に作られた体験です。私たちは皆、それがどのような感じかを知っています。誰かが、そうでなければしないようなことをさせようとしていると感じると、不快になります。例えば、自動車セールスマンの長広舌を聞かされたり、タイムシェアのプレゼンテーションを聞いたりするときのように。
しかし、操作が常に否定的な意味合いを持つわけではありません。もしそうなら、ユーザーが進んで操作されることに大きく依存している、数多くの数十億ドル規模の産業を、どう説明できるでしょうか。
顧客操作は本当に「悪」なのか?
もし操作が行動を変えるために作られた体験であるならば、歴史上最も成功した大衆操作製品の一つであるウェイト・ウォッチャーズは、その定義に当てはまります。ウェイト・ウォッチャーズの顧客の決定は、システムの設計者によってプログラムされていますが、そのビジネスの道徳性を疑問視する人はほとんどいません。
では、違いは何なのでしょうか。なぜ、派手な広告や中毒性のあるビデオゲームを通じてユーザーを操作することは不快だと思われる一方で、厳格な食事制限システムは称賛に値すると考えられるのでしょうか。多くの人々がウェイト・ウォッチャーズを許容できる形のユーザー操作と見なしていますが、私たちの道徳的な羅針盤は、最新のテクノロジーが可能にすることに追いついていません。
ウェブへのユビキタスなアクセス、かつてないほどの速さでより多くの個人データを転送することは、より潜在的に中毒性の高い世界を創造しました。高名なシリコンバレーの投資家であるポール・グレアムによれば、社会は「新しい中毒に対する抗体」を開発する時間がありませんでした。グレアムは、責任をユーザーに置いています。「もし、それぞれの新しい中毒の炭鉱のカナリア、つまり、その悲しい例が未来の世代への教訓となる人々になりたくないのであれば、何を避け、どのように避けるかを、自分たちで考え出さなければならないだろう」。
では、これらの操作的な体験を作る人々についてはどうでしょうか。結局のところ、これらの習慣を形成し、時には全く中毒性のあるテクノロジーを解き放つ企業は、善悪の道徳的感覚を持つ人間で構成されています。彼らにもまた、操作の影響を受けやすい家族や子供がいます。いわゆるグロースハッカーや行動デザイナーは、ユーザー、未来の世代、そして自分自身に対して、どのような共通の責任を負っているのでしょうか。
マニピュレーション・マトリクス:あなたの仕事は4つのうちどれか?
個人のテクノロジーの普及性と説得力が増すにつれて、一部の業界関係者は倫理規定の作成を提案しています。また、別様に信じる人々もいます。例えば、『Evil by Design』の著者であるクリス・ノダーは、「もしそれが彼らの最善の利益になるなら、あるいは、説得戦略の一環として騙されることに暗黙の同意を与えているなら、人々を騙すことはOKだ」と書いています。
ここでは、「マニピュレーション・マトリクス」という、起業家、従業員、投資家が、製品が出荷されたり、コードが書かれたりするずっと前に使用できる、シンプルな意思決定支援ツールを提案します。このマトリクスは、どのビジネスが道徳的か、あるいはどれが成功するかを答えようとするものでも、何が習慣形成テクノロジーになり、何がなれないかを説明するものでもありません。このマトリクスは、「どうすればユーザーを夢中にさせられるか?」ではなく、「そう試みるべきか?」という問いに答える手助けをすることを目的としています。
このマニピュレーション・マトリクスを使用するためには、作り手は二つの質問をする必要があります。第一に、「自分自身がその製品を使うだろうか?」、第二に、「その製品は、ユーザーの生活を実質的に改善するだろうか?」。
このフレームワークは、一回限りの使用の製品ではなく、習慣を形成する製品を作成するためのものであることを、覚えておいてください。それでは、マニピュレーション・マトリクスの4つの象限を代表する、作り手のタイプを探ってみましょう。
1. ファシリテーター(促進者):自分も使い、ユーザーの生活を良くする
自分が使い、かつユーザーの生活をより良くすると信じるものを作るとき、あなたは健全な習慣を「促進(facilitate)」しています。自分が実際にその製品やサービスを使うかどうか、そして「ユーザーの生活を実質的に改善する」とは、自分が作っているものに照らして本当に何を意味するのかを判断できるのは、自分だけであるという点に注意することが重要です。
これらの質問を自問しながら、居心地の悪さを感じたり、答えを修飾したり正当化したりする必要があることに気づいたら、止まってください。あなたは失敗しました。あなたは、その製品を使いたいと心から願い、それが自分の人生だけでなく、ユーザーの人生にも実質的に利益をもたらすと信じなければなりません。
一つの例外は、もし若い頃にユーザーであった場合です。例えば、教育関連の会社の場合、今すぐそのサービスを使う必要はないかもしれませんが、それほど遠くない過去にそれを使ったであろうと確信しているかもしれません。しかし、過去の自分から遠ざかるほど、成功の確率は低くなることに注意してください。
自分以外のユーザーのために習慣を構築する場合、その問題を直接体験したことがなければ、自分をファシリテーターと見なすことはできません。
ジェイク・ハリマンは、ウェストバージニア州の小さな農場で育ちました。アメリカ海軍兵学校を卒業後、ハリマンは海兵隊の歩兵および特殊作戦小隊の指揮官として勤務しました。彼は2003年のイラク侵攻時にイラクにおり、部下を率いて敵の戦闘員との激しい銃撃戦を戦いました。彼はまた、2004年のアジアの津波の後、インドネシアとスリランカでの災害救援を支援しました。
ハリマンは、海外での極度の貧困との出会いが、彼の人生を変えたと主張しています。7年半の現役勤務の後、ハリマンは、銃だけではアメリカに害を及ぼそうとするテロリストを止めることはできないと気づきました。「絶望した人々は、絶望的な行動を犯す」とハリマンは言います。兵役の後、ハリマンは、地方に住む人々の習慣を変えることによって、極度の貧困を対象とするソーシャルベンチャー、Nuru Internationalを設立しました。
しかし、ハリマンがどのようにして世界で最も貧しい人々の生活を変えるかは、彼が彼らと共に生きることを決めるまで、彼には明確ではありませんでした。ケニアで、彼は、適切な種子の間隔といった、近代農業の基本的な実践がまだ使われていないことを発見しました。しかし、ハリマンは、単に農家に新しい行動を教えるだけでは不十分であることを知っていました。
代わりに、自身の地方での生い立ちと農家と共に生活した経験から、ハリマンは彼らの道のりの障害を明らかにしました。彼はすぐに、高品質の種子や肥料への資金調達へのアクセスの欠如が、農家が収量を増やす技術を利用することを妨げていることを学びました。
Nuruは現在、ケニアとエチオピアの農家を支援し、彼らが厳しい貧困から抜け出すのを助けています。彼がユーザーの一人になることによってのみ、ハリマンは彼らのニーズを満たすための解決策を設計することができたのです。
アフリカからシリコンバレーまでは長い道のりですが、FacebookやTwitterの創業者たちのよく知られた物語は、彼らが自分たちをファシリテーターの象限で製品を作っていると見なすであろうことを明らかにしています。新しい世代の企業は、健全な習慣を実装することによって、生活を改善する製品を現在作成しています。ユーザーにもっと運動させたり、日記をつける習慣をつけさせたり、あるいは背中の姿勢を改善させたりするにせよ、これらの企業は、自分たちの製品が存在してほしいと必死に願う、本物の起業家によって運営されています。それは、自分自身のニーズを満たしたいという願望から生まれた製品なのです。
2. ペドラー(行商人):自分は使わないが、人の役には立つと信じている
高尚な利他的な野心は、時に現実を追い越すことがあります。あまりにも頻繁に、操作的なテクノロジーの設計者は、ユーザーの生活を改善するという強い動機を持っていますが、いざ問われると、自分自身の創作物を実際には使わないと認めます。彼らの独善的な製品は、バッジやポイントといった、ユーザーにとって実際には価値を持たないありふれたインセンティブを挿入することで、誰もが本当はやりたくないタスクを「ゲーミフィケーション」しようとすることがよくあります。
フィットネスアプリ、チャリティーウェブサイト、そして大変な仕事を突然楽しくすると主張する製品は、しばしばこの象眼に分類されます。おそらく、ペドラーの最も一般的な例は、広告業界でしょう。
数え切れないほどの企業が、自分たちはユーザーが愛する広告キャンペーンを作っているのだと、自分たちを納得させています。彼らは、自分たちのビデオがバイラルになり、ブランドアプリが毎日使われることを期待しています。彼らのいわゆる現実歪曲フィールドは、「私は実際にこれを使いたいと思うだろうか?」という重要な質問をすることを妨げます。この不快な質問への答えは、ほとんど常にノーなので、彼らは、その広告に価値を見出すかもしれないと信じるユーザーを想像できるまで、自分たちの考えをねじ曲げるのです。
ユーザーの生活を実質的に改善することは、大変な仕事であり、自分自身が使わない説得的なテクノロジーを作成しようとすることは、信じられないほど困難です。これは、デザイナーを、彼らの製品やユーザーとの断絶のために、大きな不利益に置きます。行商(peddling)に不道徳なことは何もありません。実際、他者のための解決策に取り組む多くの企業は、純粋に利他的な理由からそうしています。ただ、自分が非常によく知らない顧客のために、成功裏に製品を設計する確率は、憂鬱なほどに低いというだけです。
ペドラーは、ユーザーが本当に望むものを作成するために必要な共感と洞察を欠く傾向があります。しばしば、ペドラーのプロジェクトは、デザイナーがユーザーを完全に理解していなかったために、時間を無駄にする失敗に終わります。結果として、誰もその製品を役に立つとは思いません。
3. エンターテイナー(娯楽提供者):自分も使うが、生活を良くするものではない
時には、製品の作り手はただ楽しみたいだけです。もし潜在的に中毒性のあるテクノロジーの作成者が、自分が使うけれども、良心に照らしてユーザーの生活を改善すると主張できないものを作るなら、彼らはエンターテイメントを作っています。
エンターテイメントは芸術であり、それ自体のために重要です。芸術は喜びを提供し、世界を異なって見るのを助け、人間としての状態と私たちを結びつけます。これらはすべて、重要で、古くからの追求です。しかし、エンターテイメントには、起業家、従業員、投資家がマニピュレーション・マトリクスを使用する際に認識すべき、特定の特徴があります。
芸術はしばしば、はかないものです。エンターテイメントを中心に習慣を形成する製品は、ユーザーの生活からすぐに消えていく傾向があります。心の中で何度も繰り返されるヒット曲は、次のチャートのトップに取って代わられた後、ノスタルジアになります。この記事のような本は、次の興味深い脳のキャンディーが登場するまで、しばらく読まれ、考えられます。可変的な報酬の章で学んだように、FarmVilleやAngry Birdsのようなゲームはユーザーを夢中にさせますが、その後、パックマンやマリオブラザーズのような他の超中毒性の過去のものと共に、ゲームのごみ箱に追いやられます。
エンターテイメントは、脳が刺激に反応して、それをますます欲しがり、絶えず新規性を求めて飢えているため、ヒット主導のビジネスです。はかない欲望の上に企業を築くことは、絶え間なく転がるトレッドミルで走ることに似ています。ユーザーの絶えず変化する要求に追いつき続けなければなりません。
この象限での持続可能なビジネスは、純粋にゲーム、歌、あるいは本ではありません。利益は、それらの商品がまだ熱いうちに市場に投入するための効果的な流通システムと、同時に、熱心な聴衆を養うために新鮮なリリースでパイプラインをいっぱいに保つことから生まれます。
4. ディーラー(売人):自分も使わず、ユーザーのためにもならない
デザイナーがユーザーの生活を改善すると信じておらず、彼自身も使わない製品を作ることは、搾取と呼ばれます。
これら二つの基準がない場合、おそらく、デザイナーがユーザーを夢中にさせる唯一の理由は、金を稼ぐためでしょう。確かに、現金を引き出す以上のことをほとんどしない行動にユーザーを中毒させることで、儲けるお金はあります。そして、現金があるところには、それを取りたがる誰かがいるでしょう。
問題は、それはあなたですか?カジノや麻薬の売人は、ユーザーに楽しい時間を提供しますが、中毒が始まると、楽しみは終わります。
イアン・ボゴストは、ZyngaのFarmVilleフランチャイズを風刺した、Cow ClickerというFacebookゲームを作成しました。このゲームでは、ユーザーは満足のいく「モー」という音を聞くために、仮想の牛を絶え間なくクリックする以外、何もしませんでした。ボゴストは、FarmVilleを、ユーザーにとって滑稽なほど明白だろうと思った同じゲームの仕組みとバイラルハックを露骨に実装することで、風刺することを意図していました。しかし、アプリの使用が爆発し、一部の人々がゲームに恐ろしいほど夢中になった後、ボゴストはそれをシャットダウンし、「Cowpocalypse(牛の黙示録)」と彼が呼ぶものを引き起こしました。
もしイノベーターが、製品が人々の生活を実質的に改善するという明確な良心を持っているなら、その中で最も重要なのはデザイナー自身の生活ですが、そのとき、前進する唯一の道はあります。中毒者の1パーセントを除いて、ユーザーは自分たちの行動に最終的な責任を負います。
しかし、テクノロジーの進歩が世界をより潜在的に中毒性の高い場所にするにつれて、イノベーターは自分たちの役割を考慮する必要があります。社会が新しい習慣をコントロールするための精神的な抗体を開発するまでには、数年、おそらくは数世代かかるでしょう。その間、これらの行動の多くは、有害な副作用を発症するかもしれません。今のところ、ユーザーは、これらのまだ知られていない結果を自分自身で評価することを学ばなければなりませんが、一方で、クリエイターは、自分たちの職業人生をどのように過ごすかの道徳的な影響と共に生きなければなりません。
私の希望は、マニピュレーション・マトリクスが、イノベーターが自分たちが作る製品の意味合いを考慮するのに役立つことです。
第8章:実践編 - あなたのプロダクトに「フック」を実装する
ハビット・テスティング:プロダクトを改善し続けるための3ステップ
これまで、フック・モデルの全体像を理解し、ユーザー行動に影響を与えることの倫理について考察してきました。さあ、仕事に取りかかる時間です。あなたのアイデアをモデルの4つのフェーズに通してみることで、製品が持つ習慣形成のポテンシャルにおける潜在的な弱点を発見する手助けとなるでしょう。
ユーザーの内部トリガーは、彼らに行動を頻繁に促していますか?外部トリガーは、彼らが最も行動を起こしやすいときに、合図を送っていますか?デザインは、行動を起こすのを簡単にするほどシンプルですか?報酬は、ユーザーのニーズを満たしつつ、彼らを「もっと欲しい」と思わせていますか?ユーザーは製品に少しの仕事を投資し、使用と共に体験を向上させるための価値を蓄積し、次のトリガーをロードしていますか?
テクノロジーのどこが不足しているかを特定することで、最も重要な部分の改善に集中して取り組むことができます。
しかし、単にアイデアを思いつくだけでは不十分で、ユーザーの習慣を作り出すことは、言うは易く行うは難しです。成功する習慣形成テクノロジーを開発するプロセスは、忍耐と粘り強さを必要とします。
フック・モデルは、習慣化のポテンシャルが低い悪いアイデアをフィルタリングするための便利なツールであると同時に、既存の製品の改善の余地を特定するためのフレームワークでもあります。しかし、デザイナーが新しい仮説を立てた後、実際のユーザーでテストすることなしに、どのアイデアが機能するかを知る方法はありません。
習慣を形成する製品を構築することは、反復的なプロセスであり、ユーザー行動の分析と継続的な実験を必要とします。
この本で紹介した概念を、ユーザーの習慣を構築する上での製品の有効性を測定するために、どのように実装できるでしょうか。
今日の最も成功している習慣形成企業の起業家たちとの研究と議論を通じて、このプロセスを「ハビット・テスティング」と名付けたものに蒸留しました。これは、リーンスタートアップ運動によって支持された「構築、測定、学習」の方法論に触発されたプロセスです。ハビット・テスティングは、習慣を形成する製品の設計を導くための、洞察に満ちた、実行可能なデータを提供します。それは、あなたの熱心なファンは誰か、製品のどの部分(もしあれば)が習慣を形成しているか、そしてなぜ製品のそれらの側面がユーザーの行動を変えているのかを、明確にするのに役立ちます。
ハビット・テスティングは、必ずしも稼働中の製品を必要としません。しかし、人々がシステムをどのように使用しているかの包括的な視点なしに、明確な結論を導き出すことは難しい場合があります。以下のステップは、探求するための製品、ユーザー、そして意味のあるデータがあることを前提としています。
ステップ1:特定する(Identify)- 熱狂的ユーザーは誰で、何をしているか
ハビット・テスティングの最初の質問は、「製品の習慣的ユーザーは誰か?」です。製品がより頻繁に使用されるほど、ユーザーの習慣を形成する可能性が高くなることを、思い出してください。
まず、熱心なユーザーであることが何を意味するかを定義します。製品をどれくらいの頻度で「使うべき」でしょうか。
この質問への答えは非常に重要であり、あなたの視点を大きく変える可能性があります。類似の製品や解決策から公に利用可能なデータは、ユーザーとエンゲージメントの目標を定義するのに役立ちます。データが利用できない場合は、教育に基づいた仮定をする必要がありますが、現実的で正直でなければなりません。
もしTwitterやInstagramのようなソーシャルネットワーキングアプリを構築しているなら、習慣的ユーザーが1日に複数回サービスを訪れることを期待すべきです。一方で、Rotten Tomatoesのような映画推薦サイトのユーザーが、週に1回か2回以上訪れることは期待すべきではありません(なぜなら、彼らの訪問は、映画を見たり、見るものを調べたりした直後に来るからです)。過度に攻撃的な予測を立てて、超ヘビーユーザーだけを対象にしないでください。典型的なユーザーが製品とどれくらいの頻度で対話するかの現実的な推測を求めているのです。
ユーザーが製品をどれくらいの頻度で使うべきかを知ったら、数字を掘り下げて、どれだけ、そしてどのタイプのユーザーがこの閾値を満たしているかを特定します。ベストプラクティスとして、将来の製品の反復を通じてユーザー行動の変化を測定するために、コホート分析を使用してください。
ステップ2:体系化する(Codify)- 成功ユーザーの「ハビット・パス」を描く
習慣的ユーザーの基準を満たす少数のユーザーを特定したとしましょう。しかし、そのようなユーザーはどれくらいいれば十分なのでしょうか。私の経験則は5パーセントです。ビジネスを維持するためには、アクティブユーザーの割合ははるかに高くなる必要がありますが、これは良い初期のベンチマークです。
しかし、もしユーザーの少なくとも5パーセントが、予測したほど製品を価値あるものだと感じて使ってくれない場合、問題があるかもしれません。間違ったユーザーを特定したか、あるいは製品を設計図から見直す必要があるかのどちらかです。しかし、もしその基準を超え、習慣的ユーザーを特定できたなら、次のステップは、彼らが何に夢中になったかを理解するために、彼らが製品を使って取ったステップを体系化することです。
ユーザーは、わずかに異なる方法で製品と対話します。標準的なユーザーフローがあったとしても、ユーザーが製品と関わる方法は、ユニークな指紋を作り出します。ユーザーがどこから来ているか、登録時に下した決定、そしてサービスを使っている友人の数などは、認識可能なパターンを作り出すのに役立つ行動のほんの一部です。類似点が浮かび上がるかどうかを判断するために、データをふるいにかけます。
あなたは、「ハビット・パス」、つまり、最も忠実なユーザーによって共有される一連の類似した行動を探しているのです。
例えば、初期の頃、Twitterは、新規ユーザーが他の30人のメンバーをフォローすると、彼らがサイトを使い続ける確率が劇的に増加する転換点に達することを発見しました。
すべての製品には、熱心なユーザーが取る異なる一連のアクションがあります。ハビット・パスを見つける目標は、これらのステップのうちどれが熱心なユーザーを作り出すために重要であるかを判断し、この行動を奨励するために体験を修正できるようにすることです。
ステップ3:修正する(Modify)- 全てのユーザーをその道筋へ導く
新しい洞察で武装したら、製品を再検討し、新規ユーザーを熱心なファンがたどったのと同じハビット・パスへと押しやる方法を特定する時です。これには、登録ファネルの更新、コンテンツの変更、機能の削除、あるいは既存の機能への重点の強化などが含まれるかもしれません。Twitterは、前のステップで得られた洞察を利用して、オンボーディングプロセスを修正し、新規ユーザーがすぐに他の人をフォローし始めるように奨励しました。
ハビット・テスティングは、すべての新しい機能と製品の反復で実装できる、継続的なプロセスです。
コホート別にユーザーを追跡し、彼らの活動を習慣的ユーザーのそれと比較することが、製品がどのように進化し、改善されるべきかを導くべきです。
新たな習慣化ビジネスの機会を見つける4つの領域
ハビット・テスティングのプロセスは、プロダクトデザイナーがテストするための既存の製品を持っていることを必要とします。では、新しい技術的解決策のために熟した、潜在的に習慣を形成する体験を見つけるために、どこを探せばよいのでしょうか。
新しい製品を開発することになると、保証はありません。この本で説明されているように、魅力的な製品を作成することに加えて、スタートアップは収益化し、成長する方法も見つけなければなりません。新しい会社が成功するためには、いくつかのことがうまくいかなければならず、ユーザーの習慣を形成することは、そのうちの一つに過ぎません。
しかし、新しい機会を探すための近道は存在します。ここでは、新しいユーザー習慣の形成に基づいた、成功するビジネス開発のための熟した、既存の行動を明らかにするための、4つの革新の温床を紹介します。
1. 自分自身の悩みの中に見出す
第6章で見たように、ファシリテーターであることは、道徳的な要請であるだけでなく、より良いビジネス慣行にもつながります。デザイナーが使用し、人々の生活を実質的に改善すると信じる製品を作成することは、人々が望む何かを提供する確率を高めます。したがって、起業家やデザイナーが新しい機会を探すための最初の場所は、鏡の中です。ポール・グレアムは、起業家たちに、セクシーに聞こえるビジネスアイデアを捨て、代わりに自分自身のニーズのために構築するように助言します。「『どんな問題を解決すべきか?』と尋ねる代わりに、『誰か他の人が私のために解決してくれたらと願う問題は何か?』と尋ねなさい」。
自分自身のニーズを研究することは、デザイナーが少なくとも一人のユーザー、つまり自分自身への直接的なラインを常に持っているため、驚くべき発見と新しいアイデアにつながる可能性があります。
例えば、ソーシャルネットワークへの投稿更新サービスであるBufferは、その創業者であるジョエル・ガスコインの、彼自身の行動に対する洞察に満ちた観察に触発されました。ガスコインは、Twitterを使っていくうちに、刺激的なブログ投稿や引用へのリンクを共有したいという欲求に気づきました。しかし、彼はそれらを手動で、そして効率的にスケジュールすることに苦労しました。彼は、既存の解決策を使用する中で、それらが提供するものと彼が必要とする解決策との間の不一致を認識しました。彼は、彼が使っていた他の製品からステップを削除できる場所を特定し、仕事を成し遂げるためのより簡単な方法を構築しました。
注意深い内省は、習慣を形成する製品を構築するための機会を明らかにすることができます。
2. 新しいテクノロジーの波に乗る
シリコンバレーの「スーパーエンジェル」投資家であるマイク・メイプルズ・ジュニアは、テクノロジーをビッグウェーブサーフィンに例えます。メイプルズは、テクノロジーの波は3つのフェーズのパターンに従うと信じています。「それらはインフラストラクチャから始まります。インフラストラクチャの進歩は、大きな波が集まることを可能にする予備的な力です。波が集まり始めると、可能にするテクノロジーとプラットフォームが、大規模な普及と顧客の採用を達成する集まる波を引き起こす、新しいタイプのアプリケーションの基礎を創造します」。
新しいテクノロジーが突然行動をより簡単にする場所ならどこでも、新しい可能性が生まれます。
新しいインフラストラクチャの創設は、しばしば、他のアクションをより簡単に、またはよりやりがいのあるものにする、予期せぬ方法を開きます。新しいテクノロジーがフック・モデルをより速く、より頻繁に、またはよりやりがいのあるものにする領域を特定することは、新しい習慣形成製品を開発するための肥沃な土壌を提供します。
3. インターフェースの変化に注目する
技術的な変化は、しばしば新しいフックを構築する機会を創造します。しかし、時には技術的な変化は必要ありません。
多くの企業は、ユーザーの相互作用を変えることがどのように新しいルーティンを作り出すことができるかを特定することによって、新しい習慣形成を促進することに成功を見出しています。
人々がテクノロジーと対話する方法に大規模な変化が起こるときはいつでも、収穫の熟した機会がたくさん見つかることを期待してください。インターフェースの変化は、突然、あらゆる種類の行動をより簡単にします。その後、アクションを達成するために必要な労力が減少すると、使用は爆発的に増加する傾向があります。
最近では、InstagramとPinterestが、インターフェースの変更によってもたらされた行動の洞察から利益を得ています。Pinterestが豊かな画像のキャンバスを作成する能力は、オンラインカタログの中毒性のある性質に関する新しい洞察を明らかにしました。Instagramにとって、インターフェースの変更は、スマートフォンに統合されたカメラでした。Instagramは、そのローテクフィルターが、比較的低品質のスマートフォンの写真を見栄え良くすることを発見しました。突然、スマートフォンで良い写真を撮ることがより簡単になりました。Instagramは、新しく発見した洞察を利用して、熱狂的にスナップするユーザーの軍隊を募集しました。
4. ニッチで新しい行動の中に未来の当たり前を見る
時には、ニッチに対応するように見えるテクノロジーが、主流にクロスオーバーすることがあります。少数のユーザーグループから始まる行動は、より広い人口に拡大する可能性がありますが、それは彼らが広範なニーズに対応する場合に限ります。しかし、テクノロジーが最初は少数の人口によってのみ使用されるという事実は、しばしば観察者を、製品の真の可能性を見過ごすように騙します。
驚くべき数の世界を変えるイノベーションは、限られた商業的魅力を持つ単なる目新しさとして片付けられました。ジョージ・イーストマンのブラウニーカメラは、元々は子供のおもちゃとして販売されていました。電話の発明も、最初は見過ごされました。
テクノロジーが新しいとき、人々はしばしば懐疑的です。古い習慣はなかなか死なず、新しいイノベーションが最終的にどのようにルーティンを変えるかを見通す先見の明を持つ人はほとんどいません。しかし、すでに新しい行動を開発している早期導入者に目を向けることで、起業家やデザイナーは、主流に持ち込むことができるニッチな使用例を特定することができます。
例えば、初期の頃、Facebookはハーバード大学の学生によってのみ使用されていました。このサービスは、当時すべての大学生にとって馴染みのあるオフラインの行動、つまり、学生の顔とプロフィールの印刷された本を閲覧することを模倣していました。ハーバードで人気を博した後、Facebookは他のアイビーリーグの学校、そして全国の大学生へと展開しました。次に高校生、そして後には特定の企業の従業員が続きました。最終的に、2006年9月、Facebookは世界に開かれました。現在、10億人以上の人々がFacebookを使用しています。あるキャンパスでの新しい行動として始まったものが、他者とのつながりという基本的な人間のニーズに応える、世界的な現象となったのです。
第1章で議論したように、多くの習慣形成テクノロジーはビタミン剤として始まります。つまり、時が経つにつれて、痒みや痛みを和らげることで、なくてはならない鎮痛剤になる、あれば嬉しい製品です。飛行機からAirbnbまで、非常に多くの画期的なテクノロジーや企業が、最初は批評家によっておもちゃやニッチ市場として片付けられたことは、示唆に富んでいます。早期導入者の間の新しい行動を探すことは、しばしば、価値ある新しいビジネスの機会を明らかにすることができます。
おわりに:習慣をデザインすることは、より良い未来をデザインすること
フック・モデルを振り返る:単なるテクニックではない、人間理解のフレームワーク
私たちは、気づけばスマートフォンを手に取り、無意識のうちに特定のサービスへと惹きつけられてしまう現代の魔法の正体を解き明かす旅をしてきました。その核心にあったのが、「トリガー」「アクション」「可変的な報酬」「インベストメント」という4つのステップから成る「フック・モデル」です。
このモデルは、単にユーザーを製品に「ハマらせる」ためのテクニック集ではありません。それは、人間がなぜそのように行動するのかという、より深く、根源的な問いに対する、一つの答えの形です。それは、私たちの心の奥底に潜む痛みや欲求、そして喜びのメカニズムを理解するための、強力なフレームワークなのです。
退屈という「内部トリガー」に突き動かされ、私たちはほんのわずかな「アクション」で、予測不能な「可変的な報酬」の世界へと飛び込みます。そして、その体験に「インベストメント」として時間や労力を注ぎ込むことで、そのプロダクトは私たちのアイデンティティの一部となり、次のループへの扉を自ら開くのです。
このサイクルを理解することは、プロダクトを作る側にとっては、ユーザーの生活に深く、そしてポジティブに関わるための羅針盤となります。もはや、莫大な広告費を投じてユーザーの注意を一時的に買う時代ではありません。ユーザーの心の中に深く根ざした問題を理解し、それを解決する習慣をデザインすることこそが、持続的な成功への唯一の道なのです。
これからの時代を生きる、賢い作り手と消費者であるために
一方で、一人の消費者として、この「しかけ」の存在を知ることは、現代社会を生き抜くための必須のリテラシーと言えるでしょう。なぜ自分がこれほどまでに多くの時間を特定のアプリに費やしてしまうのか。その背景にある心理的なメカニズムを理解することで、私たちはテクノロジーの受動的な受け手から、より主体的で、賢い利用者へと変わることができます。
習慣をデザインする力は、諸刃の剣です。それは、人々をより健康に、より賢く、より生産的にするための強力なツールとなり得ます。運動を習慣化させ、学習を継続させ、人々を社会的な孤独から救い出すことができます。しかし、同時にその力は、人々を有害な中毒へと導き、貴重な時間を奪い、さらには社会を分断するために使われる危険性も孕んでいます。
だからこそ、作り手には、マニピュレーション・マトリクスが問うたように、自らの仕事に対する深い倫理的な洞察が求められます。自分が作っているものは、ファシリテーターとして人々の生活を良くするものなのか、それとも、ディーラーとして搾取するものではないのか。その問いから目を背けてはなりません。
習慣をデザインすることは、未来をデザインすることに他なりません。フック・モデルという地図を手に、私たちは、より良い習慣が、より良い個人を、そしてより良い社会を形成するという信念のもと、歩みを進めていく必要があります。
この長大な解説が、その旅路における、ささやかながらも確かな一助となることを、心から願っています。
【超濃密なまとめ】
これまでの長い旅路で探求してきた「ハマるしかけ」の核心を、いつでも手元で確認できるように、ここに凝縮します。このエッセンスが、あなたの思考を整理し、次の一歩を踏み出すための確かな道標となることを願っています。
すべての始まりは「習慣」にある
現代のビジネスにおいて、最も強力な競争優位性は顧客の「習慣」を形成することにあります。広告に頼らずともユーザーが自発的に戻ってくるプロダクトは、顧客生涯価値を高め、価格競争から脱し、爆発的な成長を遂げることができます。その鍵は、プロダクトをユーザーの生活における「ハビット・ゾーン」に位置付けることです。これは、その行動の「頻度」と、ユーザーが感じる「有用性」という二つの要素が交差する魔法の領域を指します。最初は「あれば嬉しいビタミン剤」のような存在でも、習慣化することで、なくてはならない「鎮痛剤」へとプロダクトは姿を変えるのです。
人を動かす心のエンジン「フック・モデル」
ユーザーの無意識の行動を生み出すエンジンこそが、「フック・モデル」です。このモデルは4つのステップから成る、終わりのないループ構造をしています。
まず、行動の引き金となるのが「トリガー」です。最初はアプリの通知や広告といった「外部トリガー」から始まりますが、真の習慣化とは、退屈や孤独、不安といったユーザー自身の「内部トリガー」、つまり感情とプロダクトが結びついた状態を指します。この内部トリガーこそが、フック・モデルの最終目的地です。
次に、トリガーに促されたユーザーは、報酬を期待して「アクション」を起こします。ここで最も重要なのは、その行動を限りなく「シンプル」にすることです。人を動かす公式は「行動 = モチベーション + 能力 + トリガー」で表せますが、人の意欲を高めるのは困難です。それよりも、行動の障壁を取り除き、能力、つまり「行動のしやすさ」を高める方が、はるかに効果的なのです。
アクションの先には、ユーザーを虜にする「可変的な報酬」が待っています。脳は、報酬そのものよりも、予測不能な「報酬への期待」によって強く活性化します。この報酬には、他者とのつながりを求める「部族の報酬」、情報や資源を探し求める「狩りの報酬」、そして達成感や熟達感を満たす「自己の報酬」という3つのタイプがあります。この予測不能なご褒美が、ユーザーを飽きさせず、再びループへと誘います。
そしてループの最後を締めくくるのが、「インベストメント」です。これは、ユーザーがプロダクトに時間や労力、データといった「ひと手間」をかけるフェーズを指します。人は、自らが労力を費やしたものに価値を感じる(IKEA効果)という心理が働き、プロダクトへの愛着を深めます。さらに、この投資は、次のループを回すための新たなトリガーを仕込む役割も果たし、サイクルは永続的に回り続けるのです。
作り手の羅針盤となる「倫理」と「実践」
この強力なモデルを扱う上で、作り手は自らの立ち位置を問わなければなりません。そのための思考ツールが「マニピュレーション・マトリクス」です。自らもそのプロダクトを使い、かつユーザーの生活を実質的に向上させると信じられる「ファシリテーター(促進者)」こそが、最も成功の確率が高く、倫理的にも健全な作り手の姿です。
そして、アイデアを形にした後も、改善の旅は終わりません。「ハビット・テスティング」という実践的なプロセスを通じて、プロダクトを磨き続ける必要があります。まず、熱心なユーザーを「特定」し、彼らがたどった成功への道のり(ハビット・パス)を「体系化」し、そして、より多くのユーザーがその道をたどれるようにプロダクトを「修正」していく。この反復的なサイクルこそが、偉大な習慣形成プロダクトを生み出すのです。
習慣をデザインすることは、単なる技術論ではありません。それは、人間の心の奥深くにある願望や痛みを理解し、寄り添うことです。そして、より良い習慣を育むことは、人々の生活を、ひいては未来そのものを、より良い方向へとデザインしていくことに他ならないのです。
用語集
フック・モデル (Hook Model)
ユーザーに無意識の習慣を形成させるための、4つのステップから成る心理学的なフレームワークです。トリガー、アクション、可変的な報酬、インベストメントというサイクルを繰り返すことで、プロダクトはユーザーの生活に深く根付いていきます。
ハビット・ゾーン (Habit Zone)
プロダクトが習慣化するかどうかを判断するための概念です。行動の「頻度」と、ユーザーが感じる「有用性」という2つの軸で定義され、この両方が高いレベルで満たされる領域を指します。GoogleやAmazonといったサービスは、このゾーンの代表例です。
トリガー (Trigger)
ユーザーに行動を促す「きっかけ」のことです。すべての習慣は、このトリガーから始まります。外部環境に存在する「外部トリガー」と、ユーザーの心の中に存在する「内部トリガー」の二種類があります。
外部トリガー (External Trigger)
アプリの通知やメール、広告、友人からの口コミなど、ユーザーの外側から行動を促す情報や合図のことです。習慣化の初期段階で、ユーザーをプロダクトに引き込む重要な役割を果たします。
内部トリガー (Internal Trigger)
退屈、孤独、不安といった、ユーザーの心の中に自動的に湧き上がる感情や思考のことです。習慣化の最終目標は、プロダクトがこの内部トリガーと強く結びつき、外部からの働きかけなしに使われるようになることです。
アクション (Action)
トリガーによって促され、報酬を期待して起こす具体的な行動です。フック・モデルでは、このアクションが可能な限り「シンプル」であることが重要視されます。ユーザーが「考える」よりも「行動する」方が簡単でなければなりません。
フォッグの行動モデル (Fogg Behavior Model)
B.J.フォッグ博士が提唱した、行動が発生するための公式「B = MAT」のことです。行動(Behavior)は、十分なモチベーション(Motivation)、能力(Ability)、そしてトリガー(Trigger)が揃ったときにのみ発生すると説明します。
ヒューリスティクス (Heuristics)
人が意思決定をする際に無意識に用いる、経験則に基づいた「精神的な近道(ショートカット)」のことです。合理的ではない判断を導くことがあり、「脳のバグ」とも言えますが、これを理解することでユーザーの行動を効果的に後押しできます。
希少性の効果 (The Scarcity Effect)
「残りわずか」「期間限定」のように、対象が希少であると認識することで、その価値を実際よりも高く評価してしまう心理的な傾向のことです。
フレーミング効果 (The Framing Effect)
同じ情報でも、その提示の仕方や文脈(フレーム)によって、受け手の印象や判断が大きく変わる現象です。例えば、ワインの値段の伝え方一つで、味の感じ方さえも変化します。
アンカリング効果 (The Anchoring Effect)
最初に提示された情報(アンカー)が、その後の判断に強く影響を及ぼす心理効果です。セール価格など、最初に見た数字が基準となり、その後の比較や評価を歪めてしまいます。
授かり効果 (The Endowed Progress Effect)
目標達成への道のりにおいて、たとえ人為的なものであっても、すでにある程度の進捗が「与えられている」と感じると、その後のモチベーションが向上する現象です。ポイントカードの最初のスタンプなどがこれにあたります。
可変的な報酬 (Variable Reward)
ユーザーに与えられる報酬が、毎回変化し、予測不能である状態のことです。脳は報酬そのものよりも「報酬への期待」で活性化するため、この予測不能性がユーザーを強く惹きつけ、渇望を生み出します。
部族の報酬 (Rewards of the Tribe)
他者からの承認や賞賛、連帯感といった社会的なつながりから得られる報酬です。SNSの「いいね!」やコメント、コミュニティ内での評価などが典型例です。
狩りの報酬 (Rewards of the Hunt)
情報や金銭、お得な情報といった、生存や生活に役立つ「資源」を探し求める過程で得られる報酬です。Twitterのタイムラインをスクロールして面白い情報を探す行為などがこれにあたります。
自己の報酬 (Rewards of the Self)
タスクの完了、スキルの習得、障害の克服といった、個人的な達成感や有能感から得られる内的な報酬です。ゲームのレベルアップや、「受信トレイゼロ」の達成感がこれに相当します。
有限の可変性 (Finite Variability)
最初は目新しくても、繰り返し体験するうちに内容が予測可能になってしまい、やがて飽きられてしまう報酬のことです。ストーリーが決まっているゲームや映画などがこれにあたります。
無限の可変性 (Infinite Variability)
ユーザーが体験するたびに新たな発見や驚きがあり、飽きることがない報酬の性質です。他のユーザーとの交流など、人間が介在するサービスは無限の可変性を持ちやすいとされます。
リアクタンス (Reactance)
自分の自由が脅かされたと感じたときに生じる、反発的な心理状態のことです。人に行動を強制しようとすると、このリアクタンスが働き、逆効果になることがあります。
インベストメント (Investment)
ユーザーがプロダクトに対して時間、労力、データ、社会的つながりなどを「投資」する、フック・モデルの最終段階です。この「ひと手間」が、プロダクトへの愛着を育み、次のループへの強力な布石となります。
IKEA効果 (The IKEA Effect)
自分が労力をかけて作り上げたり、関わったりしたものに対して、客観的な価値以上に高い評価を与えてしまう心理現象です。自ら組み立てた家具に愛着が湧くのが典型例です。
認知的不協和 (Cognitive Dissonance)
自分の考えや信念と、実際の行動との間に矛盾が生じたときに感じる不快感のことです。人はこの不快感を解消するために、自分の考えや態度の方を無意識に変えてしまうことがあります。
蓄積された価値 (Stored Value)
ユーザーがインベストメントを通じてプロダクト内に蓄積した、コンテンツ、データ、評判、スキルなどの価値のことです。この価値が大きくなるほど、ユーザーは他のサービスに乗り換えにくくなります。
マニピュレーション・マトリクス (Manipulation Matrix)
作り手が自らのプロダクトの倫理性を判断するための思考ツールです。「作り手自身が使うか」と「ユーザーの生活を良くするか」という2つの軸で、仕事をファシリテーター、ペドラー、エンターテイナー、ディーラーの4つに分類します。
ファシリテーター (Facilitator)
マニピュレーション・マトリクスにおいて、作り手自身もそのプロダクトを使い、かつユーザーの生活を実質的に向上させると信じている、最も理想的な作り手のタイプです。
ハビット・テスティング (Habit Testing)
プロダクトの習慣化のポテンシャルを測定し、改善していくための実践的なプロセスです。「特定」「体系化」「修正」という3つのステップを繰り返すことで、プロダクトをより習慣性の高いものへと進化させます。
ハビット・パス (Habit Path)
熱心なユーザー(習慣化したユーザー)が、プロダクトを使い始める際に共通して通る一連の行動パターンのことです。この「成功への道筋」を特定し、すべてのユーザーをそこへ導くことがハビット・テスティングの目標です。