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「悉」と「全機現」について

先日、或る記事を書いていたときに、或る一文を読んでいて思うところがあった。

悉是吾子は、子也全機現の道理なり。
    『正法眼蔵』「三界唯心」巻


これは、『妙法蓮華経』「譬喩品第三」の一節を、道元禅師が提唱されたものだが、本来の「悉く是れ吾が子なり」を、「子也全機現」としている。ここでいう「悉」とは、ただの「ことごとく」という意味ではなくて、その内容は、「機(仏法の働き)」が全てに及び、それが現れていることをいう。つまり、「悉」が「全機現」に言い換えられていることになる。

その上で、「悉」について、余りに有名な一節がある。

悉有の言は、衆生なり、群有なり。すなはち悉有は仏性なり、悉有の一悉を衆生といふ。正当恁麼時は、衆生の内外すなはち仏性の悉有なり。単伝する皮肉骨髄のみにあらず、汝得吾皮肉骨髄なるがゆえに。しるべし、いま仏性に悉有せらるる有は、有無の有にあらず。悉有は仏語なり、仏舌なり、仏祖眼睛なり、衲僧鼻孔なり。悉有の言、さらに始有にあらず、本有にあらず、妙有等にあらず。いはんや縁有・妄有ならんや。心境・性相等にかかはれず。
    『正法眼蔵』「仏性」巻


道元禅師が「全機」をどの段階で、自らの道得(仏法の表現)に組み入れたかは、慎重な検討が必要だが、『正法眼蔵』で考えると仁治3年(1242)9月9日に興聖寺で示衆された「身心学道」巻になると思われる。そして、同年の解夏(7月15日)の上堂でも「今夏全機現、古夏全機現」(『永平広録』巻1-102上堂)と表現しておられるので、その上堂を最初と見なし、その後は『正法眼蔵』に組み込んだ、と見ていくのが自然であろう。無論、『正法眼蔵』はその日一日でいきなり書いたわけでは無いだろうし、その前から着想はあったのかもしれないが、一応、上記の状況を結論として見ておきたい(参考までに、『真字正法眼蔵』には圜悟克勤の「全機現」は収録されず)。

さて、上記の考察によって何を明らかにしようとしているかというと、「仏性」巻は仁治2年(1241)10月14日に興聖寺で示衆されたという。道元禅師が「全機現」を説法に組み込まれる前年の示衆である(なお、同巻はその後もかなり書き換えられたことが、懐奘禅師の写本奥書から知られるが、本論には余り関係が無い)。そして、おそらく先に挙げた一節で、道元禅師が「正当恁麼時は、衆生の内外すなはち仏性の悉有なり。単伝する皮肉骨髄のみにあらず、汝得吾皮肉骨髄なるがゆえに」と道得された箇所については、一言、「衆生也全機現」で済む気がするのだ。いわば、「仏性の悉有」を「全機現」で言い換え出来るのでは、という話である。

よって、「悉有」を「全機現」と重ねていけば、「悉有」について、「さらに始有にあらず、本有にあらず、妙有等にあらず。いはんや縁有・妄有ならんや。心境・性相等にかかはれず」とされているのも、容易に理解出来る。何故ならば、「全機現」という時、この「全」や「現」とは道元禅師に於いて普遍的な、現象そのものを指す。普遍的な、現象そのものという時、「始本」の分別は適用出来ない。ただ、絶対的に現れている現象だからであり、その安定はまさしく、「実在」になり得る。

悉有は百雑砕にあらず、悉有は一条鉄にあらず。拈拳頭なるがゆえに大小にあらず。
    同上


悉有は粉々でもないし、無限の長さを持つ鉄板でも無い。その都度に、取り上げる拳頭そのものだから、大小という大きさも適用出来ない。先に挙げた全機現もまた、以下のように提唱されている。

この機関の現成する正当恁麼時、かならずしも大にあらず、かならずしも小にあらず、遍界にあらず、局量にあらず、長遠にあらず、短促にあらず。
    『正法眼蔵』「全機」巻


これは、「全現成」から「全機現」へと展開されていく文脈で組み入れられた一節であり、いわば、表現されようとしている「全」について、大きさや、場所的な限界/無限界が一切適用されない、という否定を通して、「その都度」性が道得されようとしている文脈である。その都度という経験は、その内に於いて初めて観取されるため、外からそれを眺める観察者の位置を獲得出来ない。よって、大きさなどの外形の一切が規定出来ず、規定出来るのは、その内に於いて働いている、その働きのみ。よって、それを道元禅師は「機関の現成する」といい、まさにその時に於いて道得されている。

そして、その内に於いて働き、同時に外部を持たない。想定される外部があっても、それはその内に於いて想定される事である。また、これは視界的事実とは関係がない。関係があれば、「現成公案」巻に見える「四方」の定義と相反する。よって、内外を想定されない「内」の様子をもって「悉」とはいい、それを「全機現」とも言い換えられるのである。

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