二十三
りか。
かをるの声がする。
噛み締めた口唇を綻ばせて。
そんな辛そうな顔をしないで。
りか。
わたしは呼び続ける。
あがりそうになる喘ぎ。
気取られないように。
「り か 」
戸惑うような、切ないような、
その声は耳を優しく擽っていく。
助けを求めるように伸ばされる手が、
触れるところから燃え上がっていく。
あなたの昂まりが指先から伝わって、
求めるあたしはあなたに深く潜っていく。
あなたは知る必要なんてない。
どうやって客を喜ばせるかなんて。
あなたはただ、、
あなた自身の悦びを知ればいいの。
そんなに辛そうに、呼ばないで。
強張りが抜けた途端、又強張るあなた。
柔らかな灯りが落とす影に、隠れようとでもするように小さくなって。
あたしと同じように、あなたも溶かしてしまいたい。
ぴったりと身体を重ね合わせて、耳元で囁いてみる。
「苦しい、の?」
わたしにできるのは、首をふることだけ。
濡れたような吐息が、耳にかかる。
背中に走る疼きは、身体の内を浚ってゆくようで。
重なり合う曲線に、肌が張りついてしまいそう。
太夫の身体が、ゆっくりと下がってゆく。
とうに襦袢の解けた鳩尾を、舌が擽る。
剥き出しになった胸に、ひやりと空気が触る。
下肢から炎が立ち昇るようで。
その熱さに崩されてゆく均衡、
わたしはもう耐えられない。
もう、忘れましょう。
故郷のことも。
この町のことも。
なにもかも忘れて、そしてあたしのことだけ刻みこんで。
我侭なあたしは無理やりに、あわせた膝を割る。
あなたの息を呑む音がする。
滲んでいる涙、すぐに忘れるわ。
身体の奥から蕩けはじめる、かをる。
甘くあがる、声。
指が、舌が、身体の奥を揺さぶりだす。
突き上げる熱は、背を駆け上り頭を狂わせていくよう。
ぐらつきながら、わたしの口が開いてゆく。
胸の奥底から、競りあがる吐息。
止められぬままに漏れていくのは、
いままでの全てが消えてゆくほどの、忘我の声。
なにもかも散らしてしまうほどの、悦楽の叫び。
例えようもない快感の波間を、
流されていくわたしが遠くから聞こえる。
開かれる口唇に、捩れるような身体。
押し寄せる波に、もう抗えない。
乱れる黒髪と、上気した肌。
あたしだけに、縋りつく。
とても綺麗よ、かをる。
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