「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。

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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。

母の心・父の心

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 私は子どもの頃、父と母が全く正反対のことを言うので悩んだ事があった。

 それは「苦労」についてであった。

 母は「若か時の苦労は買うてでもせえというけん、苦労はした方がよかとよ」と言った。
 父は「ミンコよい、せんでもよか苦労はすんなよ。あんまり苦労ばすると人間が悪うなることがあるけん」と言った。
 また母は「おなごん子は将来どげんな家に嫁に行くかわからんとよ。貧乏な家に行ったら苦労ばするとよ。じゃけん、若か時から苦労ばしとけば、それに負けんと強く生きていけるとよ」と言った。
 父は「ミンコよい、お金や物の心配ばせんでもよかとこへ嫁に行けよ」と言った。

 私は母に訊いた。「かあちゃん、私は苦労は好かん、苦労ばいっぱい背負(から)わされたら私は心も身体も弱かけん、とても辛抱しきれんと思うばってん」

 母は答えた。「なんの、神さまはさ、あがの背負(から)い切らん苦労はさせんとたいね。神さまはその人その人に応じて、背負(から)い切れる十字架ば背負(せお)わすけん、安心したらよかとよ」

 その母の答えを聞いて、私はホッとした。

 私は夫と結婚した時、夫の家族と同居した。そこには、夫の父母、父の母である大姑、夫の弟がいた。

 若か時の苦労は買うてでもせえといった母であったが、家族構成を聞いて絶句した。

 「あらよー、お父さんにお母さん、おばあさん、弟さんまでおるとかあーー」。

 その後私は30年余り、夫の家族と同居し、それぞれを見送った。

 母の言っていた通り、その間、神さまは私の背負える苦労しか与えなかった。