学生に些細な弱みでも握られてはいけない
久しぶりに中国に行ってきた。一見したところ、コロナ禍前の2019年頃と比較して街並みに大きな変化はないようだ。しかし、長引く不況、政治的な締めつけなどにより、人々の心は少しずつ変わっている。大学で教鞭をとる複数の知人に会ってみると、彼らは研究とは別の業務でひどく悩み疲弊していた。
また、それが原因である教授の知人は退職を余儀なくされてしまったという。
数年ぶりに会った中国人の教授は筆者を温かく迎えてくれた。研究テーマや家族の話などを聞かせてくれ、旧交を温めたが、ふと、現在の大学生たちの“生態”について話が及んだ。話していくうちに、その教授が「中国に住んでいない筆者」に聞いてもらいたかったのは、最初からこの話だったのではないかと感じた。
国内ではなかなか安心して本心を打ち明けられない事情があるからだ。それは、今の中国の大学生たちによる教授への逆パワハラ、嫌がらせなどだ。
「しばらく前の話ですが、別の大学に勤務する、ある教授A氏が退職を余儀なくされました。きっかけはある学生の告発です。A氏は学生の論文の中に参考文献が少ないと感じ、学生にVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使って海外の文献を調べてみたらどうか、とアドバイスしたのです。
よく知られていますが、中国では情報が統制されており、VPNを使わなければ、海外のサイトやSNSにはアクセスできません。日本語のサイトも同様で、中国にいると、得られる情報がかなり限られています。研究者に限らず、大都市の大手企業の社員、留学経験者などはほとんどVPNを使うのが当たり前で、情報統制をかいくぐることは『暗黙の了解』になっています。A氏も、学生に幅広い情報にアクセスしてほしいという気持ちから、気軽にそうアドバイスしてしまったそうです」