幹部殺害に爆撃…停戦に傾いたイラン イスラエルは「目標達成」か
米国のトランプ大統領は24日、イスラエルとイランが「完全かつ全面的な停戦」に合意したと発表した。発表は、イランが米軍による核施設への攻撃に報復してカタールの米空軍基地を攻撃した直後に出された。背景に何があるのか。
イランのアラグチ外相は24日早朝、自身のSNSに投稿し、現時点で停戦の合意は存在しないとしたうえで、「イスラエル側がテヘラン時間の(24日)午前4時(日本時間午前9時半)までに侵略行為を停止すれば、我々もこれ以上の反撃はしない。停戦に関する最終的な決定は後に下される」と述べた。
イスラエル政府は24日早朝の時点で停戦について正式な声明を出していないが、地元メディアはネタニヤフ首相がトランプ氏との電話協議で、停戦を受け入れる意向を伝えた模様だと報じている。
姿見せなくなったハメネイ師
イランは中東地域でも強大な軍事力を持つ国と目されてきたが、昨年のイスラエルとの直接攻撃の応酬で防空システムに大きな打撃を受け、その再構築を急ぐなか、今月13日にイスラエルによる攻撃が開始された。
交戦状態になってみると、予想以上の劣勢を強いられた。精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」の最高幹部や軍事部門トップの参謀総長らが次々と殺害され、首都テヘランをはじめ各地の軍関係施設が破壊された。
弾道ミサイルやドローンでイスラエルの都市部を標的にして反撃したが、相当数が迎撃されてイスラエルに深刻な打撃を与えるまでには至っていないとみられている。保有数2千発とも3千発とも言われる弾道ミサイルは減っていき、長期間の戦闘には耐えられないのではないかとの見方も出ていた。
そんななかで米国が22日に参戦し、フォルドゥやナタンズ、イスファハンの核施設が大規模な爆撃を受け、さらに追い詰められた。
23日に米国への報復としてカタールの米空軍基地をミサイルで攻撃したが、米側に事前に通告したうえで死傷者が出ないよう配慮した攻撃にとどめた。米国との全面的な軍事対決には耐えられないという計算が働いた可能性がある。
トランプ氏はイランの最高指導者ハメネイ師について「居場所はわかっている」などとして、いつでも標的にできることを示唆したほか、イランの革命体制の転覆もほのめかしていた。ハメネイ師は攻撃を逃れるために姿を見せなくなっていた。
軍事的対決で展望を開くことは難しく、停戦に応じて体制を維持することを優先するという判断に傾いた可能性があるとの見方が出ている。
イスラエル側は「ベストシナリオ」
一方のイスラエルは、核と弾道ミサイルの脅威を取り除くことを目的に掲げて、イランへの攻撃を始めた。一連のイランとの交戦で、「ベストシナリオ」とも言える戦果をあげたと受け止められている。
イスラエルはイランの核施設や弾道ミサイルの発射拠点に対する大規模な空爆を続け、ミサイル発射施設の半数以上を破壊。さらに、米軍も参戦し、米軍しか保有しないB2爆撃機と地中貫通弾「バンカーバスター」、巡航ミサイル「トマホーク」などで核施設を攻撃した。
イランを地域最大の脅威で「敵」と位置づけるイスラエルにとって、米軍の直接攻撃による支援は長年の念願だった。
ネタニヤフ氏は22日の演説で、米国による行動を称賛。「目標に達する前に終えることもない」としつつ、「我々は目標達成に非常に近づいている」と述べた。戦果の到達度に応じて終戦を判断する姿勢を示していた。
イスラエルと米国による攻撃で、最大の懸案とされていた地下深くにあるフォルドゥの核関連施設が完全に破壊されたかどうかは明らかではない。ただ、イスラエル政府関係者は地元メディアに対し、「仮に完全には破壊できていなくとも、イランの核開発を数年は遅らせることができたのは確実だ」と語った。
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- 【視点】
イスラエル・イラン武力紛争は、イスラエルの圧勝で終わりそうです。中東でのイスラエル絡みの係争は、当面、力によって解決されるというゲームのルールが適用されることになります。 懸念されるのはガザの状況です。後ろ盾であるイランが急速に弱体化したことで、ハマスが自暴自棄になってテロ活動を強める可能性があります。ハマスは一般住民を「人間の盾」にするでしょう。その状況でもイスラエルが力によってハマスの完全な中立化を行います。 これまでにないレベルの死傷者が生じることが懸念されます。 ヨーロッパを中心とする西側民主主義諸国がイスラエルをどれだけ非難しても、イスラエルは無視して、中立化作戦を遂行すると私は見ています。
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- #中東緊迫
- 【視点】
今回のイスラエルのイラン攻撃でネタニヤフ首相は、「イランの核能力の破壊」と、「イランの体制転換」の二つの目的に言及したが、12日間の”圧倒的”な軍事攻勢で、そのどちらも達成したとは言えない。何を持って「ベストシナリオ」と言っているか理解に苦しむ。 イスラエル軍による大規模の空爆で、軍や革命防衛隊の両トップや多くの軍幹部を殺害したが、米軍による核施設攻撃を経ても、イランの核能力がどの程度、打撃を受けたかは不明で、米国が求めていたイランの核開発の放棄をイランが受け入れた訳でもない。 核濃縮のノウハウを蓄積しているイランが、核兵器開発の意思があれば、数年で核兵器製造は可能とされている。今春の米情報機関の評価でも、ハメネイ師は核兵器所有を認めていないとされていたが、今回のイスラエルと米国による攻撃によって、ハメネイ師が核兵器所有を認める宗教見解を出すことになれば、今回のイスラエルの攻撃は、逆にイスラエルに重大な脅威をもたらすことになる。 イランの体制転換についても、ネタニヤフ首相は、イランの市民やイランの少数民族にハメネイ師を最高指導者とするイスラム革命体制に対して蜂起するように訴えたが、そのような動きは起こっていない。 ネタニヤフ首相としてはここで停戦となるならば、「ベストシナリオ」というよりも、大きな不満が残った軍事行動であったと考えるべきだろう。それは米国の参戦を求めて、トランプ大統領が応じたものの、米国で批判が出て、それも自身の支持層からの批判も上がったことで、早々に「再攻撃はしない」「イランの体制転換はない」と宣言した。当初、トランプ氏がイランに求めていた「核開発の放棄」にも触れず、停戦を仲介し、イスラエルにも停戦を求めることになって、ネタニヤフ首相も受け入れざるをえなくなったと考えるべきだろう。 イスラエルが攻撃を始めて12日間で、イランで死者606人、負傷者5000人以上、一方、イスラエルでは死者28人、負傷者1000人以上ということで、イランのミサイル報復によるイスラエル側の損害も小さくはなかった。 イランの死者606人のうち、107人が停戦前の24時間の死者で、さらに23日にはイスラエル軍は米軍が攻撃したフォロドウ核濃縮施設を再攻撃している。これはイスラエルがトランプ大統領から停戦合意を求められ、慌てて軍事行動を行ったことを示しており、イスラエル軍にとってもネタニヤフ首相にとっても、満足できる軍事的成果がえられないままの停戦を受け入れざるを得なかったことをうかがわせる。 イスラエルの空軍力の圧倒的な優勢は当然とはいえ、空爆するだけでは何ら政治目的を達成できないことも明らかになった。それは、イスラエルのガザ攻撃で、「ハマス壊滅」を唱えて、延々と空爆を続け、ハマスの幹部を軒並みに殺害しつつも、いたずらに民間地を破壊し、市民の死者数を増しているだけで、国民が求める「人質の解放」も達成できず、ガザ市民がハマス支配に蜂起するするわけでもなく、現在に至っても、ネタニヤフ政権が、ガザの戦後構想を打ち出すことができない。そのようなガザ攻撃の不毛さと似たものを、今回のイラン攻撃にも感じざるを得ない。
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- #中東緊迫
イスラエル・イラン情勢
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