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十六
食い込む縄がぎりぎりと引き上げられ、
頭を上げてあたしは喜んで吊られよう。
こんなこと、何でも無い。
身体の疵なんか、忘れてしまえる。
心に刻み込まれたそれは、消えてはくれないけれど。
外される縄に、崩れそうなかをる。
何が起こるのか分かった途端、戻ろうともがく。
羽交い締めにされて、大きな瞳からぽろぽろと泪を流す。
声にならない声をあげ続けて。
とても綺麗ね、あなた。
そんなに、暴れないで。
悲しそうにしないで。
心に溜まり過ぎた熱が、出口を求めているだけなの。
もう、自分では吐き出せない。
燻るような熱が疵を焦がす。
もしかしたら、逃れられるのかもしれない。
この痛みで。
「かをる、静かに。」
固まったように、それでもかをるはこちらを見つめる。
「よく見とけよ。
今度逃げようとしたら、もっとひでえことになる。」
「下んない能書き垂れてないで、さっさと始めな。」
しなやかな身体が吊るされていく。
どうしてわたしじゃないの。
どうしてあの人は微笑んでいるの。
こんなこと望んでない。
わたしはなんて事をしてしまったのだろう。
こちらを向く背中の線が、ぴんと張る。
薄い皮膚の下、骨が浮き上がる
竹の撓る音が、部屋の空気を裂く。
真っ白なあの人の肌が、薄紅を刷くように染まり出す。
紅が増える度ごとに、反り返る背をわたしは見つめ続ける。
それでも細い首はうな垂れることはなく、
長い腕は滑らかに伸ばされたまま。
艶やかな黒髪が一房落ちる。
肌が緋に裂ける。
振り下ろされた苦痛に、息が止まる。
こればっかりは遠慮なしということね。
ならば、あたしは酔ってしまおう。
この痛みの中に、全てを吐き出してしまえるのかしら。
空気を裂く音が重なり、あたしは受け入れる。
焼けるような痛みが走り、顎が上がる。
うな垂れたりしない、頭をあげる。
声などあげない、口唇を噛み締める。
細くひび割れていくような痛みの上を、また痛みが覆う。
気が遠くなるように、首の後ろが痺れてくる。
容赦無く身体を包み込む、緋の色の痛みが。
遠く近く、波打つような意識は、
閨の其れのように、灯篭のようにあたしのまわりを回り出す。
かをるが、いる。
あたしを飲み込みまわり続ける、灯篭の向う。
苦しさとか寂しさとか忘れたい思い全ての、渦の向うで。
凛とした瞳で、あたしを見ている。
身を捩ってもがきながら、睫に一杯涙を溜めながら。
二重写しのあなたの瞳は、とても綺麗。
苦痛で弾けそうな身体、心の痛みは押し潰されて。
あなたの瞳があたしを満たしてゆく。
背中がべとつき始める、伝う血の感触に洗われていく。
耳鳴りはあなたの声に重なって。
それは夜半の吐息、桜の下のさざめき。
視線に縛られ、声に溺れていく。
かをるにあたしは包まれる。
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