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三
村も畑も霜に覆われる。
今年の冬は、もう越せない。
続く凶作と大飢饉。
重ねて今年は流行りの病。
関が原でその運命が分けられた。
敗れた外様にに与えられたのは、
村といってもいいような、痩せた貧しい小さな領地。
下級武士の俸禄なんて、とっくに底をついている。
そんな時にやってきたのが、都からの人買い。
女衒、っていうのだって。
都では働き手が足りないらしい。
だから、こんな田舎まではるばる娘を探しに来た。
「娘さんは綺麗なべべきて、おなか一杯食べられて、
あんたたちもあと三年位は越せるだけの金払おうってんですぜ。」
いつもは穏やかなお母様が、戸口で声を荒げる。
「わかった、わかったよ。
じゃあね、明後日まではこっちにいるから。」
「かをるっ!塩、持っといでっ!」
歯を食い縛って涙をぽろぽろ流しながら、お母様は戸口に塩を撒く。
「お金、もらえるの?」
「なんでもないよ、お前には関係無いことだから。」
障子の陰で聞こえてしまった。
お江戸に奉公するならば、お金を沢山払ってもらえる。
お父様もお母様もなにもいわない、でも米びつは空っぽだ。
お金さえあればお兄様も藩校に行くことができるはず。
綺麗なべべなんかどうでもいい。
お腹が空くのも慣れてしまった。
だけど、この冬が越せる。
明け烏の目覚める頃に、娘は村外れの旅篭に向かう。
「本当に・・・本当に、それだけのお給金がもらえるの?」
真っ直ぐな瞳で問うてみた。
「嬢ちゃんくらいの器量なら、幾らだって稼げるよ。」
「じゃあ、今、頂戴。」
そして見たことも無いほどの小判の包みを抱え、
白い息を吐き、道をひた走った
誰も起こさないように、静かに勝手口をくぐる。
神棚に包みを供え、手をあわせる。
燈明を上げて、拙い手紙を横に添え。
急がなければ、もうお母様が起きてくる。
まだ明けきらぬ峠を越える
悴む手を合わせる。
山越えの風に、今年最初の風花が運ばれた。
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