「アンタ、教師じゃないでしょ?」部活指導員の苦悩。生徒に好かれても学校から「異物扱い」される理不尽【専門家解説】
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2025年4月、文部科学省が公表した「教員勤務実態調査(速報値)」によると、公立中学校の教員のうち、週60時間以上勤務している割合は32.4%にのぼり、特に部活動を担当している教員ではその傾向が顕著だった。また、「週1日も休めない」と答えた教員は41.7%と、過労状態にある教員が依然として多数を占めている。 この記事の他の画像を見る こうした状況を改善しようと、2017年頃から導入されたのが「部活動指導員(外部指導員)」制度だ。これは、教員以外の専門人材を学校に招き、部活動の技術的な指導や大会引率などを担ってもらうというもの。文科省は、教員の負担を減らしつつ、競技レベルの高い指導が可能になる「Win-Winの仕組み」として制度を推進してきた。 部活動指導員は、校長の監督のもとに活動し、給与も支給される。場合によっては会計管理や大会の引率も任され、学校職員に近い立場で部活運営に関わることもある。外部ボランティアとは異なり、「職務」として明確に責任が定義されているのが特徴だ。 だが、現実にはこの制度がうまく機能していない例も少なくない。 2025年1月、関東地方のある高校では、外部指導員が生徒と親しくなりすぎたことが原因で、担任や教科担当との間で問題が生じた。指導員が生徒の進路相談にまで関与したことで、「外部指導員の職務領域を越えている」と学校側から指摘され、契約解除に至った。このように「現場での温度差」や「役割の境界の曖昧さ」が、トラブルの火種になることが多い。 教育評論家の井上文子氏は、こう語る。
「部活動指導員は“専門家”という顔と、“教員ではない”という立場のはざまで難しい舵取りを迫られます。学校という閉鎖的な空間では、信頼関係や序列がすでに築かれており、そこに“外の人”が入ること自体が、摩擦の原因になるんです」 実際、東京都内の高校で新体操部の部活動指導員として働いていた八巻律子さん(仮名・24歳)も、こんな経験をしている。 「大会前の週、どうしても部員の演技に不安があって、土曜日に追加練習を入れたんです。学校にも許可を取って、私の責任で開けてもらった体育館で、自主練のつもりで見守っていました。でも翌週、担任の先生から“勝手に生徒を呼び出している”って校長経由で叱られて……。子どもたちは自主的に来ただけなのに。教育の場で“善意”が通じないんだって、正直ショックでした」 制度導入から7年が経ち、形式的なルールは整ったものの、学校現場での理解や運用の成熟度はまだ低い。教員の多忙は軽減されず、外部指導員は「学校文化への不適応」や「部活動内での浮いた存在」になりがちだ。 制度そのものが悪いわけではない。だが、制度を活かすには、学校側と指導員側の相互理解や継続的な対話の機会、そして明確な役割分担のすり合わせが不可欠なのだ。 「『アンタ、教師じゃないでしょ? 外部の人なんだから』なんて言われて。そんな異物のような扱いを受けるなんて想定外でした...その理不尽さは今でも許せません」 【関連記事】「外部の人は外部ですから」学校に歓迎されなかった「外部指導員」が語る現場の温度差、 では実際に高校で部活動指導員として活動していた八巻律子さん(仮名・24歳)の実例とともに「制度の理想と現実」のギャップを追う。 取材・文/伊東克美 写真/Getty Images 出典/文部科学省2025年4月「教員勤務実態調査(速報値)」
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