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カーテンの隙間から、洩れる陽に瞼が微かに動く。
訝しげに眉根が寄り、そして瞳が開かれ。
傍らの腕が無かったことに、気付いていたのかいないのか。
陽の光を封じ込めたような瞳が背中に刺さるのを感じながら。
瞼が開ききる前に、おれは寝室を後にした。
身体は戻ったらしい。
昨日までの頭が嘘のように軽くなり、身体のだるさも抜けていた。
深い眠りから引き揚げられたその刹那、
気が付いたのは広い寝台、傍らの温もりはすでに無く。
焦点が合ったころには、もうあいつは後姿で。
いきなり思い立つ。
いや、ずっと思っていたことなんだけど。
どうして急にそんな気になったのか。
俺は寝台を飛び出して、続き部屋の扉を開ける。
ネクタイを調えながら、
少し驚いた風に眉を上げ、りかがこちらを見た。
「あ、あのさ。」
「何だ。」
「頼みが、あるんだけど。」
「・・・・言ってみろ。」
なんでだか、こいつに頼もうなんて気になったのか。
あの時轟にでも言っておくべきだったと、頭に過ぎる。
でももう引っ込みがつかない。
「墓参り ・・・行きたいんだ。」
いきなり飛び出して、何事かと思うだろう。
今時人身御供じゃあるまいし、何を言ってやがる。
そこまで思ったとき、その必死な顔に気がついた。
今のこいつにとっては、
こんな当たり前のことも、余程の覚悟がいるってわけか。
人身御供、似たようなもんだったな、お前。
「わかった、何とかしておこう。」
一段落などつける気もないように、仕事を抱え込む。
分刻みで動くようなスケジュールならば、身を任せられる。
上着をひっかけて、出かけようとする時に轟が部屋に入ってくる。
「ああ、ゆうひ、先に行っててくれ。」
軽く会釈してゆうひが扉を閉める。
「昨日は、すみませんでした。」
とりあえず俺は、頭を下げる。
「なんだ、一体。」
「いえ、あいつを見舞って下さったそうで。」
「ああ。」
そんなことかというように頷かれる。
デスクに座り、書類に目を通し始める。
「なんだ、まだ何かあるのか?」
何故か言いあぐねている俺を、訝しげに見上げる。
「いえ。」
「何だ?」
「あいつが、
・・・・たにですけど。」
「ああ。」
「墓参りに行きたいそうで。」
少し瞳が見開かれ、そして考え込むように人差し指がデスクを叩く。
「・・・・・・あいつが、言ったのか。」
「ええ、今朝急に言われたんで。
まずいようなら、俺から・・・。」
「ああ、いや、そういうわけじゃない。」
考えが纏まったらしく、指が止まる。
「そう言うのなら、行かせてやれ。」
「わかりました。」
「誰に連れて行かせる?」
そこまでは考えていなかった。
今朝の瞳が蘇る。
何故あんな顔で、俺に言おうと言う気になったのか。
誰かに頼んでくれという意味ではないのだろう。
恐らくは。
「俺が連れて行きます。」
「お前が?
そんな時間あるのか?」
「なんとかします。
皆を煩わせる程の事じゃあありません。」
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