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何処から来たのか
何処へ行くのか。
不協和音のような眠りの中で、
溺れた犬みたいにもがき続けて。
しばし眠りの淵から浮かび上がる。
頬に触る腕の感触に、なぜか安心したように又眠りに落ちてゆく。
どこに掴まればよいか、どこに流れつくのか、
本能はもう嗅ぎ分け始めていたのかもしれない。
次に気が付いた時には、もう傍らの腕はなく、
身体中を縛り付けるような熱で、身動きが取れなくなっていた。
程なく扉が叩かれ、医者がやつに言われたといって俺をみる。
こんなになるまで気付かないのかと、呆れた様に言われてしまう。
なんとなく熱っぽくて、だからそれで、とかなんとかもごもご呟きながら注射を受ける。
そして又広いベッドに眠る。
熱に浮かされた頭で見る夢は、取り止めが無くてけれど優しい。
浮かぶ其々は確かに懐かしいなにものかのはずなのだけれど、
意味を持つその前に、それらは形を次々と変えてゆく。
両手から零れてゆく砂のように、さらさらと滑らかに。
そして繰り返し残るのは茜のライト、染まる横顔。
深海に眠る、瞳。
「あんたさ、りか。」
俺は繰り返し問いかける。
気泡に包まれるようにして、顔が揺らぐ。
それは頷いているかのように。
そして、俺は安堵にも似た思いに包まれ、
緩やかな寝息を立てる。
懐かしいものたちは、無数の泡に包まれて、
徐々に手の届かぬところへと、昇っては消えてゆく。
消えることのない泡が、一つ。
又病人に、逆戻りだ。
とりあえず薬飲んで、汗出して。
取り替えのパジャマだけ枕元に置かれ、
放っておかれる。
風邪なんかひくだけで、あの頃は大騒ぎだった。
誰かがかならず付いていてくれて、
入れ替わり立ち代り、誰かが顔を出す。
口は悪くても、上げ膳据え膳で構ってくれた。
なんで、あんなに大事にしてくれたのだろう。
俺は後継ぎだということ以外、何もなかったのに。
大きな窓を見つめながら、考える。
あたりまえはあたりまえでなくなるから、尊いのかもしれない。
そして見えてきたことに、向かい合う勇気が持てるのならば。
今見えているもの。
圧倒的な、力。
なんにもない、自分。
木立の隅に、離れてぽつりと立っている、
丸裸の小さな木より、所在無さげな。
戸が叩かれる。
あんまり情けないのもなんなので、
なんとか半身を起こして、応える。
「どうぞ。」
トレイを手にして、轟が入ってくる。
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