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  17










時が回り出す。






りかの腕で目覚める。


仕事場に飛びこむ。
言われた事は何でもやる
軽口が掛かり、笑って返す。
合間に急いで食事する。
あの頃を思い出す。



必死で飲みこむ、味なんか分からない。
仕事が無くなるまで働く。
よろける様に部屋に戻る。



逃げる、もがく、叫ぶ、噛みつく、蹴り上げる。
掴む、捻る、覆う、押し入る。
苦い、痛い、苦しい。
そして、熱い。
空になる。



りかの腕で眠る。


日々が、積み重なる。
少しずつ、路を覚える。
少しずつ、匂いに慣れる。
時折、誰かを思い出す。



そして、引き摺り戻される。
















アポロンに、食い物を運ぶ。
屈託は無いけれど、かなり偉い人らしい。
頭を撫でて、子供扱いされる。
あんまり話せないけど、ワタルさんは嫌いじゃない。


レダに、紅茶を運ぶ。
優しげな物腰で、さり気なく人を動かす。
なんとなく、同情してくれる。
掴み処が無さ過ぎて、ぶんさんはちょっと苦手だ。


ゼウスに、酒を運ぶ。
こうするしかなかった事は、分かってる。
殆ど言葉は、交わさない。
自分がどうなるのか、聞きたい衝動に駆られる。



でも、聞かない。





















「でさ、いいんすか、あれ?」


珍しく手が空いた昼下がりの応接室。
コーヒーを啜りながら、ワタルが呟いた


大和組の一件以来、りか抜きで話す機会が無かったからな。
さり気なさを装おうとか考えもつかない。
だから、奴とやっていけるんだろう。
「どう考えても、合わないっすよ、あいつら。」
カップを荒っぽく置く。
「なにが。」
「だから。 りかと、大和組の、」
つい大きくなる声を、慌てて抑える。



「いや、ほら、今日もあの調子だし・・・」
執務室に親指を向ける。
「仕事してるんだ、文句言う筋合いじゃねえだろう。」
葉巻を取る俺に慌てて火を差し出しながら。
「でもさ、粗いんすよ、この頃。」
「お前に言われちゃ、世話ねえな。」
香りを味わいながら、轟が面白そうに笑う。
「笑い事じゃ、ないっすよ。」
「いや、悪かった。」
「ともかくさ、なんか、倒れるまでやっちまおうって位、仕事してて。」
ふんぞり返るようにソファに寄りかかり、煙草に火をつける。



「ねえ、なんで、あいつらなんすか?」
「文句でも、あるのか。」
「いや、でもさ。」
心底不思議そうに、こちらを覗くように見る。
「あいつ、たに、ですけど。
 あれっくらいマトモだったら、誰の下でもやっていけますよ。」


「あいつは、な。」
「え。」
「あいつは、どこでもやっていけるだろうよ。」
吸い駆けの葉巻をもみ消して、轟は考え込むような顔をする。



「でもな、あいつを背負えるか?」













「だから、奴なんだよ。」
謎かけのような言葉を残し、轟は出ていった。















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