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  16














凍りついた夜の底で、
俺たちは一対の彫像のように。









戒める手に力が入る。
食いしばる歯に、錆びた匂いがこびりつく。
痙攣するよう、食道が上下する。
行き場の無い嗚咽を、噛み砕く。


それでも闇雲に蹴り上げる。
膝が押え込まれる、腕を返される。
気が遠くなるほどの痛みに、息が漏れる。
パジャマが引き剥がされる。
床の上、釦が転がってゆく。










交わすものもないままに、俺たちは闇の底で絡み合う。











纏わりつく服に腕が縛り上げられる。
上下する首筋、競り上がる胸元を
唇が這ってゆく。
一枚ずつ皮膚を剥してゆくように。
ひりつくような痛み。
身体を剥き出しにされてゆく。



昨日まで他人だった。
俺の全てを剥ぎ取って、なにもかもを見透かして。
顔を背けようが、目を瞑ろうが、
容赦無く眼差しは蹂躙する。



冷たい汗が背中を伝う。









拒み続ける全身を、力だけで抑えつけながら、
俺は飢えたけだもののように、こいつに喰らいつく。
それでも光が宿る、その瞳に縛られたように。
漏れる吐息、撓る肢体に、
俺は絡め取られる。
這わす唇も、抱き締める腕も、
責苦にしかなり得ないと知りながら。











お前の声が、聞きたい。





「なんとか、言ったらどうだ。」







驚いたように、目が見開かれる。
顎を掴む手に力が入る。


唾が飛ぶ。











押し潰すように身体を返される。
床に叩きつけられた頭、意識が飛びかける。
腰を掴みあげられ、背骨に重みがかかる。
そして、引き裂かれる。








叫びが上がる。














俺は這いつくばって、引き裂かれるままに。
泣き喚き、涎を垂れ流す。
その奥に浅ましい疼き。


惨めな犬みたいだ。




全て剥がされ、剥き出しにされる。
全ての尊厳を踏みにじられるまで。




























白い月明かりの下、
踏みにじられ捻れた、肢体が横たわる。
疾うに意識の飛んだそれを、静かに抱き上げる。
仰け反る咽喉が、浅く呼吸する。
薄く赤く唇が開く。
零れ落ちる吐息、あの日のように届かずに消える。



柔らかく唇で触れる。









それは、厳かに。














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