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     14

















昂まるティンパニー。
叫びが、こびりつく。









コートを引っかけて、車を降りる。
日付が翌日に変わる頃、
いつもの様に廊下を進む。
白々とした明かりの中を、階段を上がる。
扉が、重い。




寝室の気配が、ここまで漂う。
テーブルの片隅の皿は綺麗に平らげられて、
カトラリーはきちんと寄せられて。
手のつけられていない室内に、気詰まりな思いが伝わってくる。
ウォーマーを開けて、冷えきった食事を摘む。
焼けそうに熱いシャワーを浴びる。
タオルが減っていることに、気付く。





ボトルは殆ど空になる。
酔いは一向にやってこない。
諦めにも似た思いで、寝室の扉に手を掛ける。














繰り返される断続的な眠り。
扉の軋む音で、引き戻された。
続き部屋で、人の気配。
頭とお腹がかわりばんこに痛くなる。




倒れこんだ刹那焼きついたものは、
霧矢の悲痛な瞳でもなく、幸さんの穏やかな瞳でもなく。
俺を見下ろす、あの眼差し。
軽蔑ならば、それでいい。
嘲笑ならば、もっといい。
諦めだって、構わない。


そんな甘えなど、許してはくれない、
冷たい弧絶の宿る瞳。


焼きついて、離れない。



ブランケットを引寄せて、窓に向かい寝返りを打つ。







軽い足音、シャワーを浴びる音、
食器の音、グラスの音。
珍しくも無い音の一つ一つに、
俺はいちいち耳を済ませる。
目を固く瞑って、息を押し殺すようにして。
それでも眠りはやってこない。







寝室の扉が開く。
ベッドの向こうに滑り込む身体。
それは密やかに、忍びやかに。
俺の身体にまで、入りこむように。


思わず身体がびくりと震える。











「起きてたのか。」





夜に溶ける声がする。







背を向けて、丸まる身体。
なぜだか目を背けながら、ブランケットに滑りこんだ。
ベッドの隅で強張る気配。
思わず声をかけてしまった。
一層深く潜りこむ身体。







寄せてかえすのは、お前の声。








ブランケットを引き剥がす。


真っ直ぐに瞳が、突き刺さる。
それは一点の媚びも無く、
一筋の曇りも無く。
引き結ばれた唇だけが、その心を垣間見せる。










お前の声が、聞きたい。














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