TOP
13
時は緩慢に、じらすように進まない。
時計の針は動いているはずなのに。
今日一日、俺は病人扱いしてもらえるらしい。
同い年位の子が、食事を運んでくれた。
あの時みたいなサンドイッチ。
食欲が涌かない、紅茶だけ手をつける。
馴染んだものなど何一つない、
TVでも眺めるように俺は首を回す。
大きな飴色のクロゼット、落ち着いたライティングデスク。
部屋のあちこちに染みついているのは、
煙草の香りとコロンの匂い。
俺の知らない、大人の匂いが色濃い部屋で、
息が詰まりそうになる。
部屋の片隅の小さなチェスト。
その不釣合いさ加減が、どうも俺のものらしい。
手触りだけで上質と分かるシャツ、カシミアのセーター、
誰が選んだか知らないけれど、選りすぐりのもんばっかってのは、
俺にだってわかった。
用意されていた服に着替えてみる。
シャツは誂えたようにぴったりで、仕立てのいいパンツ、
頭を覚まさなきゃ、鏡の前に行く。
隈の浮いた童顔、ぼさぼさの寝癖、
俺は迷子の餓鬼みたいだ。
余りのみっともなさに、バスルームに入る。
コロンと同じ香りのする石鹸で、がしがしと顔を洗う。
綿飴みたいなふわふわのタオルが気持ちいい。
脚元の籐篭に、まだ湿ったタオルが捨ててあった。
太陽の位置を確かめたり、過ぎる鳥を数えたり、
記憶を探すように、俺は窓ばかり見ていた。
日がゆっくりと傾いて、階下のざわめきが活気を帯びる。
夕食らしきワゴンが運ばれる。
「食べなきゃ、治らないよ。」
人の良さそうな笑顔で言われる。
「りかさん遅いから、先食べちゃいな。」
純白のクロス、ぴかぴかのカトラリー。
かなり上等のワイン、名前だけ知っていた。
ご丁寧に花まで添えてあって、かなり気を遣わなきゃならない、
そういうランクの奴なんだな。
こっちの小さなリゾット皿が、多分病人用だろう。
ナプキンを膝にかける。
蓋を開くと湯気がふわりと顔にかかる。
暖かいご飯が、こんなに美味しかったなんて。
それでも、お腹は空いて、
それでも、身体は軋んで。
それでも、心は痛んで。
だから、生きてゆける。
くしゃくしゃの顔のままで、どうにかこうにか俺は食事を終えた。
柔らかなパジャマに袖を通し、隠れるようにブランケットに潜りこむ。
← Back Next →