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葉巻の匂いが、鼻腔を刺す。





空気は重く、押し潰す。
彷徨う迷宮の、幕が上がる。


澱む洞窟に、足を踏み入れた。











皮張りの玉座に、ゼウスが寛ぐ。
しなだれかかる、レダが目を上げる。
後陣を、アポロンが守る。
翼をもがれた、イカロスが二人横たわる。



背中で扉が閉まる。



時が埋没した空間に足を踏み出す。
合わない焦点を、合わせる。
支えるものの無い身体は萎たように。


贄のように立ち尽くす。












イカロスは息があるようだ。
重なる白い胸が薄く、上下する。
剥き出しの憎悪を込めた瞳が、重なる。
縋りついた若者の瞳に、重なった


虚ろに瞳を巡らせる。


レダが柔らかく口の端を上げる。
赤い唇を薄く、舐める。
憐れむような影が唇を、過る。
名も知らぬ青年の溜息が、過った。


アポロンが玉座に耳を打つ。
こちらに向かい手を招く。






りか、という男が進み出る。
背が無性に懐かしい。
繋がれたように、俺は後を追って。
誰かに触れたのは、いつの事だったろう。
求める温もりは今は、無い。











「大和組の、息子です。」










玉座が厳かに立ち上がる。
圧倒するような、影が落ちる。
俺に向かい手を差し出す。




「轟だ。」




凍えた指が、強張る。
繋ぎ止める拳に、力が入る。
そして、何かを思い出す。




帰り着くことの無い、何処か。








ゼウスが傾ぐ。
「轟さんっ。」
レダが駆け寄る。
「てめえ。」
顔色を変え、アポロンが飛び出す。


身体が動かない。
腕に締めつけられる。
耳に息がかかる。
身体を羽交い締めにされる。
誰かに触れたのは、いつの事だったろう。
りかの体温が流れ込んだ。



温かい。









全てが途切れ、そして、崩れ落ちた。
















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