「奴隷のように働かされた」、万博のマルタ館工事の下請け業者が代金未払いで元請け会社を提訴
大阪・関西万博の海外パビリオン建設を下請けで実施した関西の建設会社が、工事代金が支払われないとして、元請けの外資系イベント会社を相手取り、約1億2000万円の支払いを求めて6月5日、東京地裁に提訴した。原告の会社社長は「工事内容の変更、やり直しが多い異常な現場だった。家にも帰れず、食事も睡眠も満足に取れずに働き、何とか4月13日の開幕に間に合わせた」と言い、「元請け会社には再三にわたり工事代金を請求したが、工事代金を支払うどころか『こちらの負担分を請求する』とメールが来た。まともな会社のやることではない」と怒りをあらわにした。
多額の未払いによって会社も生活も窮地に追い込まれており、「パビリオン建設の管理ができていないのは、国や大阪府、万博協会(2025年日本国際博覧会協会)の問題だ」と救済措置を求めている。
元請けが下請けに1億2000万円の支払いを拒否
工事代金の未払いで、下請けと元請けの間で訴訟になったのは、地中海の島国「マルタ」のパビリオン。各国がデザインに趣向を凝らす1国1館の「タイプA」のパビリオンで、マルタ館はタイプAの中で最も遅い昨年12月に着工した。
訴訟原告の会社社長によると、元請けのイベント会社と消費税を含め2億5300万円で契約し、今年2月末までに計1億4900万円が支払われた。その後、突然、支払い条件を変更した契約書が郵送されてきて、決まった期日での支払いから、「電気工事終了時点」「内装工事終了時点」など一定の工事終了後に代金を支払う方法になっていた。原告の会社社長は、「2月末時点で既に約3000万円の未払いがあり、資金繰りは切迫していたが、この条件でなければ支払えないとのことなので、仕方なく変更をのんだ」と話す。
しかし、パビリオンが完成した後も元請け会社は、「今、精査中」「工程が契約より遅れた」などとして支払いを引き延ばし、5月半ばに「支払う金はない。こちらで負担している分が多くあるので、それを請求する」というメールが来たという。原告の会社社長は「支払いが遅れるのはこれまでも経験したが、引き延ばした挙句に支払い拒否とは悪質だ」と訴訟に踏み切った理由を述べた。
「変更とやり直しだらけの異常な現場」
また、原告の会社社長は、パビリオン建設現場を「工期が短いにもかかわらず、頻繁に設計変更があり、何度もやり直しがあった」と混乱ぶりを話す。元請けのイベント会社の指示通りに行った工事に対し、マルタがOKせずやり直しになるという。一方、開幕まで時間がないにもかかわらず、工事用図面がなかなか渡されず作業できないこともあり、「信じられない異常な現場だった。一番ひどかったのは、壁と天井のペンキが全部、塗り直しになったこと。元請け会社がきちんとマルタの意向に沿った指示を出しているとは思えなかった」と振り返る。
変更ややり直しをすればするほど新たな経費が発生し、下請け側からの請求額は膨らむ。パビリオン建設現場には、元請け会社の担当者らが入れ代わり立ち代わりやって来たが、すべて外国人で、工事内容も外国人通訳を介してのやりとりだった。
元請けのイベント会社からは、自社の現地事務所の設置や、重機の手配など契約外の依頼があり、指示通りにこなしたが、こうした「追加分」も支払われていない。開幕日が迫る中、原告の会社社長は自宅に帰る時間もなく、仮設の現場事務所でうとうとする程度の仮眠しか取れない状況で働いた。「まるで奴隷のような扱いだった。しかし、工事終了時点に代金を支払う契約に変更していたので、最後までやるしかなかった。開幕直前にすべて終わらせて、元請けの担当者は『OK、精算に入る』と言っていたのに……」
万博協会は会場工事を管理できていたのか
万博の海外パビリオンでは、マルタ以外にもネパール、アンゴラなどでも代金未払いが発覚している。ネパールはネパール国内の事情で工事代金が払われていないケースだが、アンゴラやマルタについて万博協会は「民民の問題」だとして、当事者間で解決すべきとの方針を示している。しかし、訴訟原告の会社社長は「万博協会の関係ないという姿勢はおかしい。パビリオン建設現場が夜間も突貫工事を強いられたのは、万博協会が工程を管理できていないからだ」と言う。
万博協会が実施する道路工事のためにパビリオンの建設現場に行けなかったり、セキュリティ上の措置で工具が持ち込めないこともあり、工期はますます厳しくなった。「万博協会は海外パビリオン建設の実態に真剣に向き合ってもらいたい。本当に過酷な労働だった。国家プロジェクトでこんなひどいことになったのは、『民間同士の問題』ではないはずだ」と万博協会の責任に言及した。