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「大和組を、潰す。」
轟の口唇が、ゆっくりと息を吐く。
日が傾く会議室の空気は、重く澱んだまま。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。」
紅潮したワタルが、椅子を蹴って立ちあがる。
「そこまでやる必要、あるんすか。」
「あるから、言ってるんだ。」
轟が疲れたように目を上げる。
「どうしても、うちの傘下には入らんと言ってきた。」
吐き出すように言葉を返し、手元の書類に目を落す。
「でもさ、あそこの組長、ともみさんだっけ。」
珍しくぶんが口を出す。
「結構世話になったしさ、なんとか穏便にすまないの。」
上目遣いに、おずおずと問いかける。
「放っておけば他の組に示しがつかん。」
澱んだ空気の温度は粘つくような、不快感を醸し出す。
来るべき時が来たのかもしれない。
俺は冷めたコーヒーに手を伸ばす。
時代遅れの義理人情を、背中に背負ってるような人だった。
今時仁義でもないだろうと、斜に眺めていた、
何処かで感じていたのは、羨望だったのかもしれない。
足が遠のいて、もうどのくらいになったろう。
コーヒーが不味いのは、冷めているからばかりではなかった。
「仕方ないんじゃない、弱きゃ食われるしかないよ。」
アサコがうんざりしたかのように、ぶんを笑う。
「実行部隊でもないくせに、口出すなよ。」
ゆうひがアサコの肘を打つ。
「ふうん、ゆうひでも口きくんだ。」
かしげが面白そうに身を乗り出す。
「ま、義兄さんが決めたんなら、いいんじゃない。」
睨むゆうひを無視してしれっと、言い放つ。
こいつらから見れば、そんなもんだ。
琥珀の液体が、咽喉でざらついた。
「お前ら、真面目に言ってるのか。」
ワタルが激昂し、怒鳴りつける。
怒鳴ってどうなるものでもない、それはこいつも分かっている。
それでも怒鳴れるお目出度さに、俺は敵わない。
皮肉な思いに、知らずに口の端が上がる。
コーヒーから顔を上げると、ゆうひと視線が交差した。
ゆるりとゆうひの目が逸れる。
「いいかげんにしろ。」
轟が一喝する。
「ガキの遊びじゃない事位、分かっているはずだ。」
ワタルが言葉に詰まり、ぶんが肩を竦める。
「で、誰がやる。」
「俺は、絶対嫌ですよ。」
椅子でワタルが憮然と言う。
「俺が。」
西日が凍る会議室で、俺は立ち上がった。
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