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「いいのか?今夜。」
「何が?」
「だってクリスマスだぜ。」
「だから、何が。」
「いや、あの精神科の先生。」
「・・ナタリーとは、別れた。」
「もう、駄目なのか?」
「こっぴどく、振られたからな。
 いいかげんにしろって、さ。」
「うーん、その位言いそうだよな。」
「言われても、仕方ないだろ。」
「まあ、な。」




「じゃ、じゃあ、あの弁護士は?」
「どの?」
「ほら、あの、背の高い・・」
「フロ-レンスは、まだそんな仲じゃない。」
「その気はさ、あるんだろ。」
「相手の出方次第ってとこだ。」
「そんなもんか。」
「そんなもんだ。
 なに?お前、興味あるのか?」
「よせよ、俺の趣味じゃない。」
「でも、美人だぜ。」
「うーん、そりゃ、認めるけどさ。」
「けど。」
「ああいう、強そうなタイプは、どうも・・な。」
「弱そうなタイプが、好きなのか?」
「いや、そういうんじゃなくてさ。
 何て言うか、一緒にいて、その ・・・寄り添える、みたいな。」
「ふうん。」


「笑えばいいだろ。
 俺、案外保守的なんだ。」

俺は知ってる。
人を傷つけたくないんだ、ステファンは。
だから、女を選ぶ。
徹底的に傷つけられる前に、逃げ出してくれるような。
賢い大人の女だけを。


相手についた傷痕に、彼の胸は抉られる。
そういう、厄介な人種なんだ。






「寄り添う・・・か。」
「そういうの、厭か?」
「ん、余り近過ぎると、きついかもな。」




自分の鋭敏な感性のメスが届かない処に、人を置きたがるんだよな。
懐に飛びこんじまって、それからどうしようとか、
絶対に思いもつかないんだろう。
見え過ぎる瞳は、その果てまでも見通そうと眇められる。








眩い街の安っぽい煌きで、
誰か、俺の目を潰してくれないか。

「あるんだろ、本当は。」

レジメンタルを掴み上げる。
お前、嘘が下手なんだよ。

「ないってば。」

胸ポケットの底、無け無しの札を引っ張り出す。
セヴィル・ローに捻りこむ。

「代金だ。」





瞳が歪む。
それは、怒りでも憐れみでも、月並みな同情でもなくて。
だから、どんなメスよりも鋭くて。
瞬時に俺は引き裂かれ。



くしゃくしゃの札を、俺のポケットに押し返す。
歪んだ瞳はそれでも充分理性的な色を帯び、
見透かしながらも、あえて背けているようで。





首を締め上げるように、タイを引き寄せる。


「 っ ・・・ 
 ステ・・・フ ァ   !」

溺れかけた動物が空気を求めて喘ぐように、重ねる口唇。
一夜限りの相手にはしたこともない、剥き出しの。
瞬いた目の中に、なにを捕らえたのか俺はわからぬままに。
飲んだ言葉のなかに、なにを埋めたのかわかろうとはしないままに。



倒れるテーブル、グラスが転がる。
散らばる氷が、深海に堕ちた星のように。




わかるのは、凍えてしまいそうな自分。
温かい掌。
沈みゆくぬかるみの中、縋りつく。
流れこむこの温かさは、一時ではあるけれど。

この遣る瀬ないまでの、虚無と絶望。
澄んだ瞳。
聖なる夜空の下、救いを乞う。
絡めあう腕は、偽りかもしれないけれど。




深い海の底、渇え求める天上の、
星が宿るのは、お前の瞳。








聖夜はいまだ、偽りの光に満ち。
水面は遥か、俺の手はもう届かない。






今は、この、深い澱みの底にたゆたおう。
密やかな吐息だけに、耳を澄ませながら。











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