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ぬかるみに脚を取られる。


「人工心肺装置に、異常です。」
「電気ショックだ。」



ずぶずぶと沈んでゆく。
腐った闇の底へと。



「 ・・・・・・・・・ 午前三時四十五分 。」


濁った水が、眼に、鼻に、耳に、
そして腐臭が、身体を満たす。

俺はもう、息が詰まりそうだ。











「・・・・ ファン 。」

シモーヌ ・・・・・・・・・・・!

「ステファン!!」







額の上で、心配そうなはしばみ色の瞳。
「ん・・あ、 ブリス。」
「まーた悪酔いかよ。
 ロクでもない酒ばっか飲んでるからだ、ほら。」
憎まれ口を叩きながら、グラスの水を差し出した。
俺は手を伸ばし、起きあがる。
ソファに固まった身体は、軋むような音を立てる。

「 パーティーは?」
「とっくにお開きだよ。
 ぐでんぐでんに酔っ払って、俺が担いでこなけりゃ行き倒れてた。」

今夜はクリスマス、クラブをこいつと梯子して、
撒けるだけの金を撒いて、飲めるだけの酒を飲む。
それでも、まだこびりつく。
汚物のような、原罪の澱。



「スキットル、あるか?」
「とっくに、空だよ。」
「じゃあ、取っておきのを出してやる。」
「いいから、水、飲めってば。」


眉間に皺を寄せながら、俺の顔をまともに見つめる。
こういうとこ、いかにも英国人だよな、お前。
セヴィル・ローにレジメンタル・タイ。
フランスのエスプリなんか、解そうともしやしない。
よくここで仕事してられるよな。

そんなことを考えて、皮肉に笑おうとしたその途端、
吐き気が咽喉もとにこみ上げる。












俺は便器に突っ伏して。、
それでも、腐った内臓は、まだ泥で一杯だ。

背中をさする手が、温かい。








天窓には、クリスマスの夜空。
賑やかなイルミネーション、星の瞬きもここまでは届かない。

「ったく、クリスマスっくらい、吐くなよ。」
「そんな都合よく、いくもんか。」
「幾ら、使った?」
「有り金、全部。」

あの夜から、俺はクリスタルの壁に囲まれて。
もう、息が詰まりそうだ。
病院の同僚も、クラブの女どもも、
命は水槽の彼方に、遠く歪む。





揺ぐ乱反射、像は焦点を結ばない。















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