死選ばせたSNSの密室 知人夫妻、暴力団になりすまし金銭要求 札幌の男性「生きるのすら疲れた」
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「そろそろ生きるのすら 疲れたわ」-。スマートフォンのメモに書き残し、札幌市の男性=当時(28)=は2023年5月、命を絶った。スマホの無料通信アプリからは、幼なじみの男(30)とその妻(38)、暴力団員を名乗る男から、執拗(しつよう)に金銭の支払いや行動の報告を求められていたことが判明。交流サイト(SNS)が「密室」になり、男性は追い込まれていった。夫妻は恐喝未遂などの罪で今春、有罪判決を受けた。遺族は「殺人に等しい行為」と、やり場のない思いに向き合う。 男性の命日だった5月20日、母親(58)は札幌近郊の墓地で静かに手を合わせた。「あの子が好きだったから」と墓前にはシュークリームを供えた。「メッセージのやりとりだけで、相手をコントロールし、死に追いやれる。私たちは一生、悲しみを背負って生きていくしかない」 男性は札幌市出身で、高校卒業後、派遣社員などとして勤務。金銭的に困っていた男性のためにと、幼なじみの男の提案で男の妻と3人で同居を始めたのは22年秋のことだった。無料通信アプリ「ライン」で3人のグループチャットを作り、買い物など日々の連絡に使っていた。 同居から約3カ月後には、夫妻の知人で暴力団員の「神咲」と名乗る男との間で、ツイッター(現在のX)のダイレクトメッセージ(DM)を通じたやりとりが始まった。神咲はバーの出店計画を持ちかけ、男性はバーテンダーとして働くため、カクテル作りなどを練習。写真付きで成果を神咲に報告していた。 男性が持病を理由にバーテンダーを断った23年4月5日以降、関係は一変した。 夫は「神咲さんからも来てるだろうけど」「迷惑料込みで150(万円)借りれるなら借りて返しな」などと送信。夫妻と神咲は派遣先や日払いの報酬の内訳を詳細に尋ね、男性に位置情報を発信するアプリを入れるよう求めた。 「申し訳ありません」。5月18日午後8時すぎを最後に、男性の返信は途絶えた。 「さっさと返信返せや」(夫)、「早くかえってこないと物捨てられるよ」(妻)、「お前がシカトしてるなら家族諸々無くすぞ」(神咲)-。チャットとDMには矢継ぎ早にメッセージが並んだ。 「毎日金融とか誰かに金借りろの連絡 行動全ての報告しろ無理」「闇金より闇だわ」。男性の死後、スマホに残された記録を遺族がまとめ、事件が発覚した。 捜査の過程で、神咲は妻がなりすました架空の人物だと判明。公判で妻は、男性が家賃を払わず、支払いは「当然だと思った」と述べ、「やめどころがわからず続けてしまった」と釈明した。 夫は神咲が妻のなりすましだと気づかなかったとし、「神咲に言われたから(文言を)送った」と主張。ただ、家賃を滞納する男性には不満があり、「生活が苦しく、家賃だけ払ってほしかった」とした。 夫妻は男性から150万円を脅し取ろうとした恐喝未遂などの罪に問われ、札幌地裁と同地裁岩見沢支部で今年4月と5月、それぞれ懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を受けた。 判決は「被害者を精神的に追い詰めた犯行様態は悪質」などと指摘した。男性の死に関して、夫妻は刑事責任を問われていない。 北翔大の飯田昭人教授(犯罪心理学)は「男性は大量のメッセージを送りつけられ、正常な判断ができない状態に追い込まれた。内容を外から知ることができないSNSの中で『密室』ができた」と指摘。文面上で繰り返し責められたことで「身体的な接触が無くても、支配される状態に置かれた」とし「文字情報の受け取り方は心の状態で異なる。同種のトラブルは誰にでも起きうる」とする。 判決を受け、男性の父親(77)は声を振り絞った。「SNSで誰でもいろんな人に化けられる。そんな時代が生んだひずみの被害者だ」 ◇ 悩みを抱えている人は、以下の相談窓口へ。 北海道いのちの電話011・231・4343(24時間)、「#いのちSNS」電話0120・061・338(24時間)、LINEアプリから相談できる「北海道こころの健康SNS相談窓口」。
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