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   【第十八場】








穏やかに優しく眼差しを交わしながら、二つの冬が過ぎた。
氷の底に澱みは静かに息を潜め、二人の日々を見守りつづけた。



そして、次の冬が訪れる前に娘は逝った。




戦場から遂に帰ってこなかった恋人を、待ち続けたような微笑で。











雪は吹雪となり、じきに嵐となる。


若者は、ベロゴールスクへ馬を駆った。
この世の誰よりも娘を愛した両親の元へ、その髪を届けるために。
切ないほどに細い髪が、あの瞳に重なる。
木洩れ日の下で若者を突き刺した、あの日の瞳に。


弔いを済ませ、雪が激しいのでと止める声を振切る。
吹雪の中、逃げるように馬を出す。









何処へ帰るのか。








手綱に途を任せ、ただ走り続ける。
息を切らせた馬は、やがて立ち止まる。
薄く泡を漏らし、やがて崩折れる


若者は雪原に足をおろす。


あの日の吹雪に迷い込む。








何処へ続くのか。








果てない時を、ただ歩き続ける。


息も出来ぬ程巻き上がる嵐の只中。
舞い上がる雪煙にもう何も見えない。
荒れ狂う風の音にもう何も聞こえない。














時は大きく螺旋を描く。







雪原の彼方、今、煉獄の扉が開く。
厚く世界を覆う氷は、崩れ去り。
白く世界に極光は、満ち溢れる。
彼方から迫り来る、燃え盛る炎。



その果てに、大きく翳が躍る。
心を抉る声が響く。
身体が蒼く燃え上がる。
その刹那、二対の瞳は結ばれる。
















若者の黒い瞳はもう何も映さない。



















ただ、無限の闇に絢爛の雪が降る。
































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