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     【第十五場】










モスクワの大伽藍が霞む。


全勢力を挙げた政府軍の前に、反乱軍は瀕死の雄叫びを上げていた。


砲弾が飛び交い、土煙が噴き上がる。
銃弾が空を裂き、空気がじりじりと焼ける。
刀は舞い上がり、血飛沫が大地を染める。


敵も味方も分からない。






貧しい村を思い出す。
生き延びられるなら、それでいい。
踏み潰されるなら、それもいい。




乱れる髪に、倒れた者達の手が掴む。
薙る腕に、横たわる者達の血が絡む。
萎える脚に、息絶えた者達の息が残る。

それでも、青年はマチェテを振い続ける。














走り続け、息絶える。
その時を待ち侘びているのかもしれない。
野晒しとなった身体は、いつか腐り大地にいだかれる。
その時を夢見ているのかもしれない。
いだかれた魂は、全てから解き放たれ。
復活も再生も望まない。
無となれる、その時が至福なのかもしれない。















手当たり次第、刀を振るう。
りかの操る橇が揺れる。
りかの行く手だけに顔を向ける。
りかの瞳だけに自らを重ねる。



渦を巻く絶叫も爆音も、もう聞えはしない。
津波のような人の群れも、もう見えはしない。


戦い続ける自分だけを、湖の瞳は静かに見つめ続ける。





コサックの兵士が手で招く。




りか様、は、どこだ。




行方を。






思わずマチェテをおろす。
銃口が黒く、光を弾く。
毛皮が飛び散り、頬が粘つく。



裏切り。



そんなものだろうと、遠い日を思い出す。
へばりつく大地に、赤い血が染みる。
その鮮やかさが、瞳に滲む。




瞬間、褐色の世界が煌く。
仰ぎ見るように、首を回す。
縋るように手を差し伸べる。














「来るか。」


逆光の馬上で声がした。








湖を光が、渡った。























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