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 【第十四場】









冬の頼りない陽は、木々の間にまばらに零れ。
それは、揺れて万華鏡のように瞬く。



花嫁のように頬を上気させ、大尉の娘は若者に寄り添う。
微笑み返し肩を抱き、若者は歩みを速める。
萎えた脚を引き摺るように、地を這う炎から逃げる。
燻る炎は、無意識の深い底に息を潜める。
湧き上がる痛みに、魂は未だ縛られる。


全てを封印した、ここまで辿り着いた。
あの頃の自分に逢いたい、シンビールスクはもう近い。








吹雪の果てで巡りあった、脱獄囚。
蒼い炎よりもなお蒼い、偽皇帝。
跪きながら俺を磔けた、殉教者。
炎が溶けて混ざりあう、幻惑の夜。


渇望する心を映す、幻の極光。








「コサック軍の追撃に出る、時間の問題だ。」




昨夜の宿の士官の声が、脚に纏わりつく。
知らず知らずに肩を抱く手に、力が入る。
仰ぎ見て不安げに、娘はそれでも歩を進める。
逸らす瞳に、淡く天は広がり。
背ける心を、極光の幕が掴む。

光は手招くように揺らぎ、消えた。





「僕は、オレンブルグの連隊に戻る。」




微笑む娘の歩みが止まる。

「僕は、彼の敗北を見届けたい。」


永劫を弔うために。
刹那を葬るために。
そして、蒼く焼き尽くされるために。




娘の瞳が大きく開かれる。
「嫌です。
 もう、戦いに出て行くあなたを見るのは、嫌です。」


千切れるような叫び、それは遠い故郷を呼ぶように。
とめどなく流れる涙、眺める俺を見つめているのは、俺。
縋り泣き叫ぶ娘に、慈しみを込めた抱擁を。
短い春の陽射し、そんな香りを微笑で噛み締める。



それは、償いではなく。
それは、別離でもなく。
恐らくは、愛とでも呼ぶものなのだろう。




肩を落し、痺れたように。
そして娘が顔を上げる。
「必ず、帰る。」
突き刺さるような瞳で、娘はただ頷いた。 








何処へ続くのか。

何処へ帰るのか。





木漏れ日は遠く、脚は早まる。





荒れ狂う、吹雪が見える。

彼方を駆ける、橇を追う。


















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