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【第十一場】
遥かに過ぎる夜を背に、遠く天を仰ぎ見る。
大地と天の只中を、俺達はひたすらに抜けていく。
平原を駆ける俺は、狂った馬のように。
お前は決して乗ることは叶わない、蒼醒めた馬。
問うことも無ければ答えることも無い悔恨は、胸深く残る。
いつか、違う時代に生きていたのなら。
いつか、違う人間として出会っていたのなら。
繋ぐ言葉を持てたのだろうか。
繋がる思いが生まれたのだろうか。
心の呻きを押し潰し、この世の果てに鞭を振るう。
雲間から緩やかに、光は大地に波を打つ。
雪原は冴え冴えと、畝る光に覆われる。
光の溢れるこの一時、止まらぬ時に足を留める。
煌く地平線の彼方遠く、忠誠を誓う帝国が横たわる。
遥かに霞むあの森の向う、恋人が待つ砦が聳え立つ。
真の未来に目を背ける男、偽りの未来を見据える自分。
求めることも無く差し伸べることも無い腕は、胸深く強張る。
そして、問うことが出来たなら。
そして、答えることが出来たなら。
この手は重なっていたのだろうか。
この思いは繋がっていたのだろうか。
叫ぶ記憶は熱を帯び、突き刺す風も冷ましはしない。
揺れに身体を任せ、燻る熱を一番深い処に抱き締める。
橇を駆る肩に、そっと凭れかかる。
かじかむ指を、指に重ねる。
凍えた唇を、唇に重ねる。
炎の名残をいとおしむ様な、優しく静かな吐息が洩れる。
思いに目を瞑り、思いをかき抱く。
其れは、時を越えた柔らかい慟哭となるのだろう。
道が大きく二つに分かれる。
「ベロゴールスクまで、もう幾らも無い。」
燃え尽きる明日に向かい、鞭が一閃する。

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