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  【第五場】








天は粛々と闇に侵される。



帳は重く垂れこめる。


天幕の牢に二人閉じ込められる。
どちらが、捕らえたのか。
どちらが、捕らわれたのか。
鍵はどちらの、手の中か。


名残る陽は火焔となり、天幕は夕闇に波を打つ。
あの日の吹雪が螺旋を描き、心を、身体を、粟立てる。
逃げるように杯に、酒を注ぐ。
追うようにランプに、火をともす。


息を潜めた翳に、仄白い明りがあてどなく漂う。
息を詰めた俺は、倒れるように椅子に沈む。


視線は絡み合い、心で探り合う。
思いは遡り、言葉は埋もれる。
沈黙は暗合となり、俺達を縛り付ける。





薄く低く風の音が、舐めるように忍び込む。





思いつめたように、若者の口が歪む。
「殺したければ、殺せよ。」
思いきったように、俺の口は綻ぶ。
「今度会ったときは、必ず礼をすると言ったはずだ。」



止まる息が、木霊する。
驚く瞳が、透過する。
鍵は俺の手の中か。
ざわめく胸を抑えようと、ひたすらに声を継ぐ。


「つれねえじゃねえか、先生。」
鍵を手にするのは、虜囚。
「俺は一目で分かったぜ。」
此れは、告解だ。


「僕は軍人だ、吊せ。」

全く、これだからお坊ちゃんは始末におえん。





睥睨する青年は、俺を吊り上げる。
「俺は礼がしたいんだ。」
吊られた心は、瞳に捩じ上げられる。
「お前だって心残りがあるんじゃないのか。」


みずかの顔が不意に浮ぶ。
砦の、大尉の娘。
愛しい、安らぎの娘。
恋に落ちた二人。
陵辱された砦の何処にいる。
守られるべき野の花。
恋人の事を狂ったように思い。
大尉は、もういない。
この世に頼れるのは俺だけ。
そして、決意が空に浮く。



「おやおや、図星か。」



男は嬉し気に笑い出す。
悔しさに上気する顔。
生娘のそれに戻る。
いつかのように立ち上がり。
いつかのように頬を寄せる。
「必ず俺が助けてやる。」
迷いを纏わせながら、緩く翼が撓垂れる。
抗いを見納めるように、ゆっくりと目が落ちる。
よほどの心残りがあるのだろう、坊や。


天使は地上に崩折れて。





ランプの火が捩れるように、揺れる。
映す影は歪み曲がり、揺れる。



「たが、お前をこのまま帰すわけにはいかん。」
戸惑ったように瞳が上がる。
「今帰ったら、おまえは間違いなく軍法会議送りだ。」
瞳が俺の体温を上げる。
「裏切り者の張本人としてな。」


軍法会議に送られたなら、彼女に会うことは叶わない。


縋る瞳は、俺の何を狂わせる。
「そうだな、俺がお前に目をつけて油断した挙句逃げられた。」
狂う言葉は止処無く流れる。
「俺の面目丸潰れだが、それでどうだ。」
言葉を噛み潰し、軋むように頭が傾ぐ。





分かっているのか、この坊やは。
まあいい、選んだのはお前だ。




椅子に戻り視線を這わせる。
抜けるような白い肌、噛み締める赤い唇。
青年期のとば口に差掛かった、伸びやかな四肢。


そして、黒い瞳。







「じゃあ、脱いでもらおうか。」










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