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【第四場】






荒振る音を立て、歯車は軋み続ける。




大地に虫螻が渦をなす。
蠢く大地に俺は狩りたてられる。


怒りの波動が増幅する。
見果てぬ希望が俺に誘いかける。


波動は密やかに帝国を揺らし。
波打つ群衆は俺の足元へ。




理想でもなく義憤でもない。
競りくる熱情だけに背中を押され。


そして、俺は皇帝と名乗ろう。
博打はハッタリがモノを言う。




目を晦ます血も、耳を聾する叫びも。
俺は、気にも止めず。
駆け抜ける大地の土煙も、燃え上がる戦場の劫火も。
ひたすらに、駆け抜ける。







天使の顔は、思い出せない。







ベロゴールスクの砦が陥ちる。
モスクワはもう目と鼻の先だ。


沈む陽が幕に翳を張る。



天幕を払い、埃と生臭さが鼻につく。
次々とうな垂れた軍服が、引き出される。
奴達は裁かれるのでなく、ただ狩られてゆく。
急拵えの絞首台に、次々獲物が吊るされる。
百姓上がりと砦の獲物達に、違う処などありはしない。
俺の目の前に、引き返す途などありはしない。
たとえそれが、何処へ続くとしても。


「次――!」
又一人、柔な軍人が引き出される。
俯いて引かれていく者達の中、俺の目は吸い寄せられる。


青年は、沈む陽に向かい頭を上げていた。





「待て。」




吹雪の幻が、浮かぶ。
思わず腰を、浮かす。
神はまだ、悪ふざけに興じる。
「お前、名前は?」







「タニ」







俺の目は吸いつくように。
若者の顔に戸惑いの翳がさす。
厳かに右の手を差し伸べる。
黒い瞳が睨み返す。


「陛下の御手に、口付けの礼をとれ」


背中から尖った声が飛ぶ。
言葉と意味が初めて繋がったように、
逃れる先を手探るように、若者は顔を背ける。
唇を噛む横顔が、陽を受ける。
幻を捕まえようと、顎を掴む。
夕陽に唾が、飛ぶ。


「貴様。」


激昂したゆうひが、殴りかかる。
「よせ。」
驚き張り付かせ、砦が静まりかえる。
「俺はこの先生と、しばらく二人で話をする。」
驚きと好奇の、視線が疎ましい。






若者をテントに入れる。














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